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白い生き物  作者: 七
1/3

前話 こんにちは異世界

プロローグ的な

「フン、フン、フフンフン♪」


無表情で楽しげな鼻歌でを奏でながら祠を磨いているのは1人の女。静かな森の中で中々シュールな絵面ではあるが女は気にしない。だって自分以外に誰もいないのだから。


女――鹿川(かがわ) (きり)、多分今20代前半くらい。ただいま異世界生活5年目のよく晴れた昼下がりである。


生まれ育ちは日本。ごく普通の家庭の一人娘だ。


鉄壁の無表情を誇る霧は産まれた時からはあまり泣かない赤ん坊だった。


あまりに泣かなかったからホッペをつついたりムニーと伸ばしたりしたそうだ。母よ、それはどうだろうと霧は父から聞いた時に思った。ちなみに結局泣かなかったそうだ。


成長しても泣くどころか表情すら滅多に変えず、一人で黙々と遊ぶ子供となった。両親は何とか表情を付けさせようと、顔マッサージをしたり夫婦漫才をしてみたりと色々頑張ったが無理だった。


しかし、彼等はめげなかった。無表情な霧に沢山笑いかけ、沢山話しかけた。


その甲斐あってかある日、母親が笑いかけた時に娘がうっすらと笑い返したではないか。事件である。母は速攻で父に電話したそうだ。


その日父は汗だくになりながら定時で帰宅し寝るまで霧の側でカメラを構えていたが、残念ながら霧が笑うことはなく、ママだけズルい!と泣きながら寝たのだとのちに母から聞いた。父よ、子供か。


それから霧はたまに喜怒哀楽を見せるようになった。


感情が無いわけではいようだ。ならばいいかと両親は無理に笑わせようとすることを止め、心が健やかであれと愛情を持って霧を育てていった。勿論極たまに、極々たまーに見せる霧の表情の変化を両親が放置すわけもなく、隙あらばとカメラを構えていたお陰で意外にアルバムの中身は彩り豊かだったりする。両親の努力と愛情の賜物である。


そんな感じで両親に愛されつつ本人の好きに育った為、中学校にあがる頃には見事に基本無表情なボッチ大好き人間が出来上がっていた。ただし、孤立しているわけではない。自由時間に個人行動を取ることが多いだけで必要な時にはクラスの輪に入り、話し掛けられれば会話するくらいには社交性が育っていた。お陰でクラスメートからは1人でいることが好きなチョット変わった人という認識でイジメに合うことはなかった。


1人が好きだからと人間関係を拒否するなんて寧ろ本末転倒。霧はそれを幼い頃に学んだ。


幼いながらも子供が2人以上いればそこは立派な小社会だった。派閥や上下の関係はしっかりある。そしてソコからはみ出した者を社会はどうするだろうか?異物として攻撃するのである。


「きりちゃん、一緒に遊ぼー」

「いい。きり絵本よみたいから」

「…」


いや、あの時はビックリした。1人でいたいから断ったのに結果1人になれなくなったのだから。


聞こえるように悪口を言いにわざわざ近くに来て煩いし、叩いたり引っ張ったりしてくるから痛いし、読もうと思っていた絵本を隠されて読めなったり探すのに時間をとられたりと全く1人の時間を過ごせなくなるという状況に陥り社会の厳しさを知った。子供って怖い。


他人を寄せ付けずに好き勝手するのは逆に浮くし、悪目立ちは排除対象になるようだ。最低ラインは守らなくてはいけない。しかし、逆にそれさえ守ればそれは個性と認識されて社会の許容範囲となるわけだ。


霧は1人でいることを大変好む人間である。そには下準備が必用なのだと学んだ。その為の努力なら全く惜しむつもりもない。





「いや~人生何が役に立つかわかんないよね」


霧は著書【漢シリーズ 手ぶらで野宿編】に載っていたやり方でおこした焚き火で小枝に刺したキノコ(青)を焼きながらシミジミと呟いた。もう焼けたかと一口パクリ。あ、旨ーい。満天の星空の下で食べるベジタブルBBQは最近のマイブームである。


現在霧がいる場所は日本ではない。地球ですらない。異世界である。


高校3年生になり1人で生きていこう計画も着々と進んでいたある日のことだった。いつものように学校の図書室で本を読んでいたら突然窓から突風が吹いた。咄嗟に目をつむり、開けたら森にいた。


森 に い た。


「…はぁ?」


見渡す限り森である。どう見ても学校の図書室ではない。制服のまま、片手には読んでいた本をもって一人で立っていた。取り敢えず頬を抓ってみる。


「っ、痛ったー!!……まさかの現実」


チョット強く抓りすぎた頬を撫でながら霧はため息を付いた。あまり表情は変わってないが結構混乱していたようだ。


「え~っと、可能性としては誘拐、記憶喪失、夢遊病、神隠し…あと異世界トリップとか?」


生涯趣味にあげている霧の読書はジャンルを問わない雑食だ。確か最近読んだ小説がそんな内容だった。


「出来れば夢遊病あたりがいいなぁ」


夢遊病なら徒歩圏内だろう。まだ図書室の本を全て読み終えていないのだ。あと少しだからどうせならコンプリートしたい。


霧は文庫本をポッケにしまうと、代わりにスマホをを取り出す。チッ圏外か。日時は突風が吹く前に確認してから数分しか経ってなかった。スマホをポッケにしまい、なるべく先端が尖った小石を拾い手近な木に印を付ける。木の苔の生え具合で方角を確認して取り敢えず北に進んでみることにした。


見上げるほどの木々が生い茂っている割に空気は澄んでいて視界は明るい。移動がしやすそうでなにより。何て言ったって上履きだしね。


1人で生きていく上で何が起こるかわからないからと学んでおいてよかった。著書【これで明日からでも遭難できる!】を思い出しながら霧は森を進んでいった。






取り敢えず割りと早い段階で日本じゃないってのは確定した。


しばらく歩いてたどり着いた景色が有り得ないことになっていたからだ。


「…アンビリーバボー」


今歩いてきた普通の森から一転、見事に足元を境に前と後ろで生態系が変化していた。目の前に広がるは目に優しくない極彩色だった。


霧は黄色と青のスプライト柄の実がなる木や幹自体がショッキングピンクという色とりどりの草木に絶句。今までの静寂さが嘘のように色に溢れていた。カラフルにも程がある。あの七色のブドウ(仮)は1つ1つ味が違うのだろうか。


セオリーとはしては引き返すのだがもしここが異世界だった場合、ただの遭難という常識内(・・・)の非常時のつもりで行動していいものか。


【怖がるな!その一歩が貴方を変える】の著者(一代で財を成した某大企業の社長)が頭の中で行けー!っと叫んでいたのでじゃあちょっとだけ…と、足を踏み入れて――早々に後悔した。


ガサリと前方の赤い葉の茂みが揺れ、霧は目を見開く。


現れたのは30㎝はありそうな大きな牙が天を突き、 赤い瞳で霧を睨みながらポタポタと大きな口から唾液が滴り落としてノソリと向かってくる猪っぽい何か。落ちた地面がジューと煙を上げて溶けているから普通の唾液ではないようだ。


ここまでなら少~し変わった空腹中の猪かしら?と思えなくもない、かもしれない――が、しかし。下地赤の黒いドット柄の猪はないだろう。てんとう虫の親戚か。


取り敢えず現在地の選択肢から日本が消えた。さすがにコレが国内産とかありえない。だがまだ地球上なのは否定できない。も~~しかしたらアマゾン未開の地の未確認生物かもしれないし?新種の猪とか。超リアルに葉っぱに擬態する虫がいるくらいだし。


このカラフルーな森ならあら不思議、ドット柄の猪も超自然!なくはない。もっとも、その場合は何故自分がそんな所にいるんだよ!というツッコミをしなければならないが。






「いや、あの時はガチで死んだと思ったよね」


霧は猪(仮)との初対面の時を思い出しながら焼きキノコ(緑)をパクり。


何故だかわからないが猪(仮)は例の境目からこっちに来れなかった――本人は紅い目を更に血走らせて凄っっっごく来たそうだったけど。境目の向こうで鼻息荒く地面を蹴って威嚇てきたがこちら側に入っては来なかった。それに気づくと固まった身体を叱咤して猪(仮)が見えない場所まで即退避したのは言うまでもない。緑ばかりの普通の森にどれほど癒されたことか。ダメ ショッキングピンクの木。


警戒しながら調べてみると今霧がいる(見た目)普通の森は円形だと気付いた。半径200m程の小さな円で、その周りをあのカラフリーな森が囲んでいるようだ。おかしな動植物は円の内側では全く見当たらず一先ず安堵した。


中心には小さな祠が静かに鎮座していた


この円形の(見た目)普通の森は神の領域かもしれない。小学生の時神話とかにハマって構関連本を読み漁った事もあり、割りと神は信じている。霧は祠に積もった葉っぱを払うと突然お邪魔した非礼と命が助かった感謝としばらく厄介になる挨拶を込めて一礼した。


その後神域で小川と小さな小屋を見つけられたのは僥幸。屋根はあるにこしたことないし、小川はなければ干からびるか、それこそ外に死ぬ気で特攻するところだった。神様ありがとうございます。


中学生の時に身体一つで無人島サバイバル体験をした身としては屋根も川もあるなんてイージーモードである。え?何でそんなのに参加してるのかって?何かの時のためのボッチの嗜みです。霧のボッチ学は『いついかなる時も1人で生きていけるべし!』である。


まぁ小屋に入った段階で一気に張り詰めていたモノが崩れて号泣してしまったのはちょっと恥ずかしい過去だけど。あんなに号泣したのは庭で火を起こす練習をしていたのを母に見つかってしこたま怒られた小学生以来か。


一晩泣いてスッキリした霧はまずは最低限のライフラインを整える為に動いた。


食べ物はキノコや木の実、果物が豊富にあったため問題ない。たまに小動物を生け捕りにしたりしてタンパク質をゲットしている。捕まえるのも捌くのもなめすのも燻製にするのもドンとこい。サバイバル体験のために半年間学校を休んだかいがあってなによりだ。本気と書いてマジと読ませた教官(その道30年の大ベテラン傭兵員)にも感謝である。当時は殺してやろうかと何度思ったか。


黄色や緑のキノコや木の実を口にするのは大分勇気を振り絞ったけれども問題もなく結構美味だった。


ちなみに既に家事は完璧だ。以前ふろふき大根を夕飯に作ったら、娘に負けたー!と打ちひしがれる母を父が一生懸命慰めていた。母の料理が好きだと言ったら機嫌がよくなったから我が母ながら明るい人だと思う。

 

あとはもうアレだよ。ガチもガチなサバイバル。っと言っても神域からは一回も出ていないけれど。何度か境目に行ったけどその度に例の猪(仮)やパンダ模様の狼(仮)やら超巨大鶏(仮)やらが涎を垂らしながら熱烈的に出迎えてくれるから出るのを断念した。


最低限の生活が出来そうな現状への感謝と出来るだけ元の世界に帰れますようにと祈願の意味も込めて見つけた日から毎日掃除とお祈りをしている。こういうの大事だよね。最終的に人が縋るのは神様でしょう。


有り難かったのは、小屋にあった本を読めたこと。補正設定万歳。本によると文化はそこそこな異世界トリップによくありそうな世界観のようだ。大きな大陸に沢山の国々がありほとんどが王政。身分制度や魔法が生活に溶け込んでいるようで、魔物やそれを倒す冒険者という生業も身近にあるみたいだから日本と常識がかなり異なっている可能性が高い。古い本しかなくてどこまで今と同じかわからず、想像は出来るが確認がとれないのが残念だ。こんな時は便利なサポーター役が欲しい。


ちなみに魔法の本も何冊かあったから初級の水魔法ーー効果:コップ一杯分の水を出すーーを唱えてみたけど何も起こらず、一応他の初級魔法を唱えてみたが結果は同じだった。使えなくても生活には困らないがせっかくだから使ってみたかった。ガッカリだ。


本を読んで困ったこともわかった。なんと日本人特有の黒髪黒瞳がこの世界では忌色とされているようだ。マジが。


黒を有するのは全て魔の生物であり、人は有さないーーそう言えは猪(仮)も黒色水玉だった。黒を持つ生き物はいわゆる魔物というモノにカテゴリーされ、総じて攻撃性が高い。その上位に魔族と言われる知性を持つモノもおり、知性と能力が高いほど高位となる。後はーー


「ーーは?」


霧は魔族に関する本を読みながら思わず声を出した。霧が目を留めたのは高位魔族の特徴ーー高位魔族ほど人型をとり言語を有するーーと書かれた文だ。


霧は生まれも育ちも純国産品。…詰んだ?


つまり、霧は見た目が高位魔族ということになるのだろうか。数が少なく滅多に表に出てこないが一度姿を現すと一国が滅びるとされる魔族は第一級の討伐対象である。


護身は出来るが一国の軍を相手どるなど当然無理。むしろ魔法も使えないから一般人にも適わないだろう。異世界の観念が果たしてこの世界にあるのか。あったとしても大衆にまで浸透しているのか。異世界から来ましたと言って信じてもらえるかわからないし、そもそも説明を聞いてくれるかもわからないし。


魔はすべからく討伐対象。見つかったら問答無用で捕まるか、最悪殺される。


「――よし、引きこもろう」


霧が森に引きこもる事を決意した瞬間である。





あの決意の日からどれ位時間が過ぎたのかわからない。一応昼と夜があるから日数を記録していたが幹に刻んだ印がソロソロ3桁を越えそうだ。


霧はキノコをかじりながら夜空を見上げて元の世界を思う。


両親は今頃どうしているだろうか。常日頃から「一人暮らしは最低でも高校を卒業してから」「居場所と現状報告は必須!」「健康第一!」と言われていた。霧をよく理解している彼等は霧がボッチ大好き人間であり、その為にしてきた努力を知っているだけに霧がフラリと居なくなることを警戒していたのだろうーー実際割と元気に異世界生活を送れている。だから「やりやがったあの馬鹿娘ー!!」と叫ばれている気がする。すまぬ父母よ。せめて「健康第一」は守るから許して下さい。


鹿川 霧、異世界(森オンリー)ボッチ生活満喫してます。 


今一番の懸念は一緒に持って来てしまった図書室の文庫本。パクったと思われたらどうしよう。





霧が最初に歌っていた鼻歌の某野球アニメ大好きです(笑)


誤字脱字がありましたら申し訳ありません

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