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「条件って、何でオレ達が一方的に突きつけられなくちゃならないんだよ。立場は対等なはずだろうが」

 微笑する優美に向かって、克実は不服を申したてた。しかもオレに対して? この上なく嫌な予感しかしないのだがと、克実は疑念をあらわにした。

「そもそも条件って、分け前のことか? 一番多く貰い受けようって腹じゃねえだろうな?」

 優美に限ってそんな業突く張りな提案は有り得ないだろうと思いつつも、克実は問いただした。期待を裏切ることなく、優美は「いいえ」と否定の返事を返す。


「それは、山分けでいいですよ。そんなことよりも、これから一緒に活動していく上で、把握していきたい事柄が幾つかあるんです。克実さんにとっても悪くはない条件だと思うんですけどね」

「だから、その条件ってのは、何なんだよ」

「簡単なことなんですけど、とりあえず私以外の女性と口を利かないでください」

「な、ななななに?」

 克実は動揺のあまり、言葉を詰まらせた。

 まさか、そんなことを言い出されるとは夢にも思わなかった。可愛らしい女の子ではなく、こんな薄気味悪い女としか会話が出来ないなんて、人生という純白の用紙に、絶望という烙印のハンコを押されるようなものだ。一体、何のジョークのつもりなのだろうか、このアマは。


「そんなの、嫌に決まってるだろうが。大体、計画と何の関係もねえだろ」

「関係はあります。一致団結して事に当たる以上、お互いに不平不満の要因は解消していくべきだと思うんです。私にとっては、先ほどの条件がそれなんです」

 優美は至極当然といった憮然な素振りで返事をした。しかし、克実にとってはたまったものではない。

「いやいや、なんでオレが他の女と喋ったら不満なんだよ。そんなこと容認したら、この先デートもできないじゃないか」

「デートなら、私が幾らでもお付き合いさせて頂きます」

「お前みたいな不気味な女と付き合う趣味はねえの」

「ヴァージンを差し上げてもいいですから」

「は、はあ? お、お前、処女だったのかよ……」

「以前もそう申し上げましたとおりです。こう見えても私、人見知りですから。ちなみに、異性との交際関係も、克実さんが初めてです」

「初めて彼氏出来た女からいきなり処女奪うほど、オレは鬼畜じゃねえよ」

「でしたら、素股にしてみます?」

「早紀……なんとか、してくれ……」

  

 言葉を返すのも無駄だと思い、早紀に話の矛先を向けてみた。早紀は急に名指しされるとは思ってなかったようで、ビクッと肩を震わせた。その後おずおずと克実に視線を向ける。

「あの~、ボス。考えてみたでありますけど、ここは大人しく森園優美の提案を受け入れた方がいいような気がするであります」

「な、何言い出すんだお前!」

 まさか早紀が優美側に付くとは想定外だった。

 克実は不機嫌そうに早紀を見据えながら言った。

「ふざけんな。そういうことなら、オレは降りさせてもらうぜ。お前らだけで仲良くやってろよ」

 そっぽを向きながら、優美と早紀に対して言葉を投げかける。早紀は克実の視線を追うように上目遣いで答えた。


「ボス、少しわがままが過ぎるでありますよ。ここはもうちょっと冷静になるべきであります」

「あー、オレはどうせ冷静じゃありませんよ。ていうかよりにもよって、お前みたいなアホンダラにそんなこと言われるとは思いもしなかったけどな」

 皮肉をたっぷり込めながら、克実は顎を天井に向けて、上から早紀を見下ろす。早紀はそんな克実の視線を意に介さずに主張を返した。


「だいたいでありますね。他の女の子と口を利かないだけでいいんでありますよ。それも計画実行までの話であります。特に難しい条件ではないであります。それに、分配は山分けでいいと言ってるでありますよ。本来なら計画発案者の森園優美が、一番取り分が多いはずであります。それなら、その程度の条件は呑み込んでしかるべきのはずであります。しかも、ボスは女の子にモテないから、大して負担のある条件ではないであります」


「誰がモテないだ! 誰が!」

 克実は反論したが、早紀はおろか、優美まで克実に冷ややかな視線を向けている。その居心地の悪さに克実は投げやりに叫ぶ。

「あー! わかった、わかった! 一億のためだからな。オレは今後一切お前以外の女と口を利かねえよ。それでいいんだろ糞が。ただし、一億とるまでだからな」


「まあ! 本当ですか!?」

「本当だっつってんだろ! お前以外の女とはもう一言も喋らねえよ、もう!」

「あぁ……。私嬉しくてもう昇天しそうです。ますます克実さんのこと好きになっちゃいました」

 優美は大仰なリアクションで克実への行為を露わにした。早紀も何故か嬉しそうに「うんうん」と頷いている。

「ボスも隅におけないでありますねえ。羨ましいかぎりであります」

 明らかにハメられたようなものだが、一応早紀の言うことも正論なので、一様に怒るわけにはいかなかった。ムラムラと言葉は行き場を失い、優美に精一杯の反抗を示した。


「……なあ、そういえば早紀はどうなるんだ? こいつも一応女だけど、オレはこいつとも口を利いちゃいけないのかい」

「早紀さん、ですか。そうですね、早紀さんも一応女性ですし……」

「ふ、ふたりとも、一応はひどいでありますよ~」


 と、言って割り込む早紀の声は実に情けなかった。何億もの壮大な計画を目論む結婚詐欺師が、女性と口を利く利かないで揉め事を起こすとは、前代未聞ではないだろうか。はあ、所詮オレ達は三枚目の悪役にしかなれないのかと、克実は自身の現状を憂いた。

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