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隣の石田くん(仮)  作者: 北海
序話:季節外れの引っ越し
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 車のエンジン音が近づいて来たことに気づき、うたは手元に落としていた視線を上げた。

 ゴールデンウイーク中に済ませるようにと出された宿題は、昨日今日で大分終わらせることができた。それで集中力も切れかけていたのだろう。ちょうどマンション前で止まった音に、どれどれと窓から地上を覗く。

 止まっていたのは引っ越し会社のトラックだった。テレビのコマーシャルでお馴染みのマスコットキャラクターが、にんまり顔でこちらを見上げている。

 三月の終わりから四月の初めにかけては、このマンションの前もそれなりに慌ただしかったものだが、ゴールデンウイーク真っ最中のこの時期、季節外れの入居者は珍しい。

 うたの住むマンションは市の中心部から少し離れた住宅街の中にあり、近隣住民との兼ね合いで地上三階までのこじんまりとしたマンションである。敷地面積自体も広くはなく、従って部屋数も少ない。十世帯ほどしか入居していないので、うたはすぐにその季節外れの入居者が自分の新しい隣人になる相手だとわかった。

 二階の部屋は全部で四つ。二部屋ずつ向かい合うようになっていて、このマンションで空き部屋だったのはうたの真向いの部屋だけなのだ。

「正確にはお向かいさん、かな?」

 こうしてはいられない。うたはやりかけの宿題を放り出し、いそいそと着替え始めた。

 元々、両親の躾けのおかげで、たとえ自室であっても寝間着のままでいることはなく、きちんと部屋着に着替える習慣がついているうたである。だが、その服装が必ずしも初対面の見知らぬ相手と会うのに適切であるとは限らない。なにせ、両親が旅行で不在だからと気を抜いて、下着を着けていないのだ。

 少しサイズが大き目のルームワンピースを脱ぎ、きちんと下着を着けてから外行き用のシャツワンピースに着替える。さっとブラシで髪を梳かしたところで、タイミングよく玄関のチャイムが鳴った。

 はーい。聞こえないとわかっていながら、クセで間延びした返事をする。

 ぺたぺたとフローリングの床を歩いて行くと、音に反応したのかリビングから飼っている猫がひょこりと顔を出した。

 するりと足下に擦り寄られて、うたはほにゃりと相好を崩す。

「みいちゃん、ちょっとごめんね」

 みゃおにゃごと鳴きながら、体を摺り寄せて来る猫は可愛い。可愛いが、このまま足下にいられてはうっかり蹴っ飛ばしてしまいかねない。踏みつけてしまうのも嫌だ。

 抱き上げようとすれば、体をよじって嫌がられる。

 するりとすり抜けて、猫のみいが向かったのは玄関のドアだった。

 もう一度、チャイムが鳴る。うたは小走りで近づき、今度こそドアを開けた。

「はいはい、どなたですかー……って、あれ?」

 ぱちくり。玄関ドアの向こうにいた相手に、うたは驚きに目を瞬く。

「石田くん?}

「……藤峰?」

 鏡映しにしたように、こちらもまた驚きに目を見開いて。

 見慣れたクラスメートの姿に、二人は暫し、呆然と玄関先に突っ立っていた。


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