一話~正義と悪の境目~
○○県某町この町にはある噂があった。
なんでも願いごとを聞いてくれる男が住む廃墟がある、という噂だ。
しかし、実際行くと誰も住んでいる気配はなく(廃墟なので当然と言えば当然だが)その噂は都市伝説のようなものとなっていた
「ここか…」そんな中、噂を聞きつけ一人の男が廃墟の前にやってきた。
彼の名は哀川一平。24歳の会社員である。
「噂の時間か…」そう呟くと彼は廃墟へと入っていった。なんでも彼が聞いた噂によると0時ジャストに一人で廃墟に入ると会えるという話を聞いたらしい。
彼は中へ入るなり無造作に辺りを見回す。もちろん人影はなく、あるのは無限に広がる暗闇と荒らされた形跡、たまにひっかかる蜘蛛の巣くらいなものである。
「どちらかというと人より幽霊が出てきそうだな」そんな一人ごとを言いながら奥へ進むと居間があり、そこで行き止まりとなっていた。
彼は周りを見渡し「所詮噂か。明日も早いし早く帰ろ」といいその場を去ろうと出口に向かったその時後ろから声が聞こえた。
「もう帰っちゃうのかい」と。
声がした瞬間彼は振り返った。そこには一人の男が細く微笑みボロい机の上に座っていた。
確かに、確かにさっきまでは誰もいないはずであった。しかし、現実にその男は自分の前にいる。動揺している哀川に男が口を開いた。「僕は黒田悠。人を救う救い屋をやってるよ。」
哀川はまだ状況を把握出来ていないが訪ねてみた。「あなたが噂の…」すると黒田は「噂ねえ、でもまあ僕が見えるってことは大方予想はついているよ」とヘラヘラした口調で答えた。
「まさか、本当にいるなんて…というか見えるってどういう意味なんですか!?」それに対し黒田は「強い願いがないと僕は見えないからねえ、まあ細かいことはなしでさっそく本題に入ろうか。」哀川は言葉に詰まる。すると黒田は「君が聞いた噂は大方正しいよ。まあこんな30代の胡散臭いおっさんでいいなら話位聞くさ。」哀川は半信半疑のままではあるが語りだした。
~三年前~
哀川一平は裕福な家庭に長男として生まれ両親と妹と幸せな日々を送っていた。
「お父さんの仕事も落ち着いたし久々に家族で旅行でも行くか」父親の言葉に僕ははしゃいだ。「僕外国に行きたい」すると妹の由芽が「えー、私家族でゆっくり観光したいなあ」すると母親は「旅行の話もいいけど頼んだおつかい早く行ってきてね」「はーい、由芽行くぞー。」
30分後買い物を終え「ただいまー」といい部屋に入るとそこには変わり果てた両親が倒れていた。「母さん!!父さん!!」
…その後犯人はすぐに捕まりお金目的の異国の人だとわかった。
しかし、彼らの試練は終わらなかった。
異国の人間のため哀川達の国の法では裁けず犯人は実刑一年という異例の違法とも言える判決が下った。
裁判所から出てくると異国の女性が車からヘラヘラと笑い彼らに「正義は我らにあり」と言い捨て去っていった。
両親を亡くし親戚の家に預けられたが親戚の人とはうまくいかず、妹は学校でいじめにあい、事件の一年後自殺をした。
~そして現在~
「なるほどねえ、んで君は僕に何をお願いしたいんだい。」その質問に哀川は「犯人を両親と同じ目にあわせ、僕らを嘲笑ったあの女も僕らと同じ同じ苦しみを与えたい」と答えた。すると黒田はにやっと笑い「依頼承りました。救いの手を差しのべます」と言った
「お願いします」哀川がそう言うと「明日には仕事を終わらせるよ、君が確認したら報酬はそうだな、10万でどうだい!?」それに対し哀川は 「わかりました」といい廃墟を去った。
~次の日~
朝早く廃墟にやってきた青年がいた。彼の名は本田彰、異界の住人黒田悠を普通に見ることの出来る唯一の人間である。「おーい悠、昨日の依頼受けた話って本当かよ」すると黒田は「昨日メールした通りだよ」と言った。「助手の俺になんの相談もなしで決めるなよな」ボサボサ頭を書きながら黒田は「朝から元気だねえ」とヘラヘラ笑いながらいった。そして「さあて、仕事に行きますか、本田君留守番頼んだよ。」そう言いながら黒田は廃墟をふらっと出ていった。
~その日の夕方~
「たった今は入ったニュースです。異国人が多く住む○○町で一家殺傷事件がおきました。一命をとりとめたミーナさんを重要参考人として…」ニュースを見ていた哀川は背筋が凍った。「あの時の女だ。」心の中でそう呟くと「また同時刻に同じ異国人の遺体も発見され警察は事件の関連性がないかを…」哀川は言葉を失った。
~同日の0時~
哀川は再び廃墟に足を運び居間へ訪れた。
「お仕事ご苦労様。君のお願いは叶えたよ」と黒田は言った。「どんな手口を使ったんだ!?」哀川の質問に黒田は「僕は人間じゃないからね。特殊な力があるのさ。まあ百聞は一見にしかず、見せてあげるよ」その瞬間突如めまいを起こし頭に映像が入ってきた。
~夕方ミーナ家~
「なっ、お前どこから入って…ぎゃああ」父親の断末魔と共に部屋が赤に染まった。「人を殺すのは心が痛むね」黒田は無表情でそう呟くとゆっくりミーナのもとに近づく。「君が哀川君を嘲笑った人だね」と言うとミーナは「なんの話!?」と聞き返した。すると黒田は「まあ覚えてなくてもいいけどとりあえず今から君が大事そうに抱えている娘を殺すね」と冷たく言った。「アンナは関係ない!!だからどうかアンナの…娘の命は奪わないで…」と涙声で命乞いしたその時、刀がアンナの右腕を切り落とした。「ぎゃああ痛いよ!!ママ助けて…」それが娘の最後の言葉となり、アンナの首が宙を舞った。「アンナー!!」ミーナは叫び、黒田を睨み付け「この人殺し!!私達が何をしたっていうの!?お前なんか死ねぇぇー!!」と罵声をあびせた。それに対し黒田は眉一つ動かさず「寝ぼけたこと言ってんじゃねーよ。これがお前らの正義なんだろ」といい放った。するとミーナは「まさかあの時の…」瞬間残酷な刃がミーナから永遠に光と右腕を奪った。「命はとらない安心しな。君には生地獄を味わってもらうからね…」
気がつくと哀川は横になっていることに気付き、周りを見渡した。「まあどんな末路をたどったのかは見ての通り、あーそれとミーナは精神崩壊してるからその点も安心しな」と黒田は言った。「ありがとうございます」哀川はお金の入った封筒を渡しながらお礼を言った。「犯人の末路も見るかい!?」黒田が尋ねると哀川は首をゆっくり横に振り廃墟をあとにした。
~数日後~
「哀川さん、自宅で首を吊って死んでたって…」本田が黒田に報告すると興味なさそうに「へーそうなんだ」と言った。「哀川さんにはまだ未来があったのに」本田が悔しそうに言うと黒田は「彼にとっては悪に正義の鉄槌を下すことがすべてだったのさ」と言った。「正義ってなんだよ。仕返ししたら結局同じ穴のむじなだし家族だってそんなこと望んでなんて…」と言う本田の言葉を遮り「彼だってそんなことはわかっていたさ。でも彼がどんな地獄で生きてきたか君に想像がつくかい!?」その言葉に本田はうつむいた。「哀川君の願いは確かに人の道からは外れていたのかもしれない。でも絶対正しい人間なんているのかな!?正義には決まった定義がないからこそ時に人は過ちを犯すのさ。」
「でも、その心を救ってあげられるのもまた人僕らだけですから」本田がそう呟くと黒田は笑いながら「そうだね。」と言った。