スタバ編②
バタークッキーにたっぷりのはちみつとシナモンをかけて食べる時間は最高に幸せ。
カロリーは高いし、お皿がべとべとになるから洗うのは大変なんだろうと思うんだけど、友達に教えてもらってから毎回この食べ方をしてしまう。
でも今日はそんなにおいしいと思わない。やっぱり風邪を引いていて舌が可笑しくなってしまっているのか、それともさっきのイケメン店員の渋い顔がショックで気分が塞いでいるのか。おそらくどっちもだ。私はちょっとの事でしょげてしまう人間なので、おそらく後者の影響が大きいんだろう。
人の目を気にしたり、言動に一喜一憂したりするのは誰にもあることなのだろうけれど、その落ち込むふり幅が私は大きいようだ。
以前、仲のいい友達に喜ばないくせによく落ち込むねと言われた。その通りだと思った。私はなかなか緊張して物事を楽しめないし、疑って喜べない。それでいて過剰に人の言葉で傷ついて、悩んで、前を見るのが怖くなってしまう。自分の悪いところで、治したいのだけれど、こればかりはこれまでに築いてきた私の性格なので治せない。面倒な私の性格。嫌気がさす。
だが、その指摘をしてくれた友達の前では緊張しないで物事を楽しめた。心から友達だと信じることも出来た。多少の言動には振り回されないし、私も友達には良きも悪しきも、ずばずばとものを伝えていた。そんな友達はそれまで私にはいなくて、きっとこれからもそうそう出会うことなんてないんだろうと思う。
その友達はずっと私のそばにいてくれた。今はお互いの仕事の関係でなかなか会うことはできないけれど、彼女に何かあったら全力で支えよう。そんなことを密かに心に決めている。
紅茶を飲みながらうとうとしていると、「あっ。」という声が頭の後ろの方で不意に聞こえ、思わず振り向いた。するとそこには見知らぬ男性が立っており、こちらを見ている。
いや、どこかで見た
あっ
その男性は先ほどのレジのイケメン店員であった。私の顔を見分ける能力は母親譲りの悪さだが、今回は致し方ない。だって相手は制服ではなく私服になっている。おそらく仕事を終えて、帰るところなのだろう。
「なんでしょう。」
私が尋ねると、男性はばつの悪そうな顔をした。それからすぐに申し訳なさそうな顔になった。表情の変化が大きくて分かりやすい人。
「いえ、先ほどお客様がバタークッキーをご注文された後、温めるかお伺いするのを忘れてしまいまして、それを今やっと気が付きました。申し訳ございません。」
そういうと、男性は深々と頭を下げた。
「え、あぁ。」
だからあまりおいしいと思わなかったのか。いつもは温めてもらい、そこにはちみつをかけている。今回は温めていないから、はちみつの染み込み具合が普段より悪かったのだ。
でも、この人はずっとそんなことを気にしていたのだろうか。それとも不意に思い出したのか。どちらにせよ、今更謝るようなことでもないだろう。
「あの、お気になさらないでください。温めなくてもおいしかったです。」
店員だった男性はほっとした顔をした。しかしその後また変な間があった。私の顔をじっと見て、それから我に返ったように再度、私に謝った。
私は思い切って先ほどの男性店員の表情の理由を聞いてみた。
「あの、だからさっきレジで一瞬怪訝な顔をされてたんですか?それとも私、何か変でした?」
男性は驚いた表情で答えた。
「え、そんな顔していましたか?すみません、多分何か言い忘れていることに気が付いて、でも思い出そせなくて、俺、変な顔してたんだと思います。不快な思いをさせてしまって本当にすみません。」
男性は本当に申し訳なさそうに縮こまりながら、また頭を下げた。
「俺、気持ちがすぐ表情に出ちゃって。友達にも言われるんです。わかりやすいって。」
「そうなんですか。私は逆に表情に気持ちがなかなか出なくて、、もともと感情の起伏が乏しいんですけど、、だからちょっとうらやましいです。」
私は率直な感想を述べてみた。それと同時にこの人とは話しやすいということに気が付く。なぜだろう。
「俺、思うんですけど、感情の起伏が乏しいんじゃなくて、自分の気持ちに気が付かないってことじゃないですか。感情の起伏が乏しい人って、実は自分の感情の変化に自分自身が気が付いてなかったりするんだと思います。で、表情に気持ちがなかなか出ないのは、自分の気持ちを相手に伝える気があまりないからだと思うんですよ。逆に隠そうとしてるのかな。とか思ったり、、よくします。すいません。またしゃべりすぎた。」
男性は勢いよくしゃべった後に、喋ったことを後悔するように顔をしかめて、頭を後ろ手にぽりぽりと掻いた。変な人だ。私は思わず笑ってしまった。すると男性もはにかむように笑った。
あ
心の中で小さな光がともったことに私は気づかぬふりをした。