スタバ編①
結局、ケーキを三つも買ってしまった。
店員に勧められたフランボワーズ何とかと、450円のケーキ二つ。
父は毎晩仕事で帰りが遅いし、今日に限っては母も友人と会っているから遅くまで帰って来ない。だから私の分のケーキだけでも良かったのだ。しかし、高いケーキを一人分だけ買うという何とも寂しいシチュエーションを避けたくて、三つも買ってしまった。
気にしなければ良いことを、ぐじぐじ考えてしまう年頃なの。
そういう事にしておくの。
店を出ると、すっかり辺りは暗くなっていた。秋の夜は冷える。昼間はまだ夏の陽気を思わせても、夜になると途端に刺すような木枯らしが吹き、冬の訪れを予感させるのだ。
冷たい風は、今の私には非常にきつかった。熱でぼーっとする頭。ひりひりする喉。
仕事で疲れているし、家に帰っても誰もいないし。チャッピーはいるけど…。
夕飯を作って食べるほどの気力もわかないし、そこのスタバでスコーンかビスケットでも食べて済ませてしまおう。
よくよく考えれば、ケーキを購入しているのだから早く家に帰って、ケーキを冷やすべきだし、ケーキを食べるのだからスコーンやビスケットといったカロリー高めの甘いメニューは避けるべきだった。しかし、その時の私には暖かい場所で飲む紅茶と、フカフカのソファでまどろむ時間が欲しくてたまらなくて、細かい事を考える余裕もなく、スタバに直行してしまった。
店内に入るとほっとする暖かさに包まれた。混み合ってはいたが、運良くソファの席は空いていたため荷物を置いて確保する。財布だけを持ってレジへと向かった。
「バタービスケットとホットティーをお願いします。」
薄暗い店内は私の眠気をさらに助長する。けだるさと眠気に押され気味の意識の中で、決めてきたメニューを店員に告げた。
「ホットティーの種類は何になさいますか?」
「えーっと…」
紅茶とビスケットという事しか決めていなかったため、一瞬言いよどむ。すると店員が紅茶の種類の説明をしてくれた。その説明がやけに詳しいので、思わず店員の顔をみる。
あ、思ったよりイケメンだ。
細面で、整った顔立ち。年齢は二十代前半くらいだろう。大学生かフリーターといったところか。などと考えていたら、説明を聞き逃してしまった。
「えっと、アールグレイで。」
よく頼む種類の紅茶を無難に選択した。まあ、もともと私の中ではダージリンかアールグレイという二択でしか実はないのだ。
「かしこまりました。」
店員の笑顔が素敵だったので、こちらも思わず微笑み、お願いしますと付け加えた。
私の笑顔はあまり可愛らしくない事は重々承知しているが、感謝の位くらいは伝わるだろう。でも、できればかちょっとわいい子だな、くらい思われたい。一度でいいから、かわいいなって振り向かれるような子になってみたい。
そんな叶わぬ願いをめぐらすくらい、店員におかしな間があった。こちらを見て少し険しい顔をしたので、何か自分が変な事をしたのかと不安になる。だが、店員はそのままあちらでお待ちください案内した。