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82話

 どうやら火の玉は、ショタの野郎が来てからの領民の変化があまりにおかしかったので、教会を通じて調査を依頼しようと思ったらしいけどね。


 その願いは聞き届けられず、寧ろあたしに魅了され協力する異端者とされて、支部長の座を追われるばかりか、聖騎士達に命を狙われるまでになったとか。


「なんでもこの地をチヨダーク侯爵領と併合する話で今は纏まりつつあるようなのです。何せコマゴメフ大司教までもそれを推しておりますからな。メルセルク夫妻も私と同じように、マリヤ様に加担する異端者扱いで――」


 捲し立てるように話して来るけどね。ようはこの領地は、あのショタの手中に収まったって事みたいだねぇ。


 全く何か裏があるんだろうなぁとは思ってたけど、早速だね。

 それは犬も同じように思ってたみたいでね。

 で、更に続く火の玉の長話を制して、口を挟んだ。


「イメクラ様。何度かお会いしてるかと思いますが、ロリン様とクラウン様について何かご存知ではありませんか? このような状態で……ご無事だと良いのですが――」


 確かにそれは馬鹿も気にしてたしね。

 で、犬がそう尋ねたら、あ、いや、って口篭り始めたね。これ絶対火の玉は何か知ってんだろ。


「あ、あの実は、私が身を隠している時なのですが、お二人が屋敷から出てくるのをお見受けしました。様子を見るに恐らく屋敷の変化に気づき、抜け出たのかと思われたのですが……」


「なんと! それで! お二人は今どこに!?」


 犬が血相を変えて火の玉に詰め寄ったね。馬鹿の専属騎士あたしのでもあるけどだけに相当気掛かりだったってとこかな。


「そ、それが、私は声をかけようとしたのですが、そう思った直後、何者かにお二人は、その、攫われてしまいまして……」


 な、なんと! と犬が驚愕の表情を見せて、そのまま項垂れたね。


「てか、あんた二人が攫われるのを黙ってみてたのかい?」


「い、いや! それはもう助けようとは思いましたが、距離もありましたし、一瞬で馬車に無理やり詰め込まれて行ってしまったので、詠唱する暇すらなかったのですよ」


 全く普段から魔法なんかに頼ってるから、いざって時に動けないんだよ。


「ただですね。攫っていった奴等はなんとなく判りますよ! あれは間違いなくタイトウ領の盗賊たちです! なぜここに来てたかは判りませんが……」


 犬の眉がピクリと跳ねたね。てか、タイトウ領ってあたし達が今身を寄せてるとこじゃないか。


「でも、なんでそのタイトウ領の盗賊ってのがわざわざ二人を攫っていったんだい?」


「……恐らくチヨダーク侯爵の差金かと。領地を併合するのにロリン様とクラウン様の存在が邪魔だったのでしょう。かといって侯爵自らが手を出すわけにもいかない。しかしタイトウ領から仕向けられた盗賊な――」


 そこで犬が、あ、と口を手で覆ったね。視線の先には顔を落とすマセコの姿があるよ。

 そういえばマセコはチヨダーク領の人間だしね。

 まぁ聞いててあまりいい気分じゃ無いのかもしれないけど、だからってね。

 

「カグラはどうするんだい?」


 あたしはこの際だからとマセコに問う。

 すると、え? と顔を上げて大きな瞳を更に拡大させたけど、直後に真顔になってあたしの顔をじっと見てきた。


「……マリヤおねぇ様! そのような事聞くまでもありません! 確かに私はチヨダーク領で生まれ育ちましたが、今はマリヤおねぇ様一筋でございます! こうなったら私! 侯爵様を裏切ります!」


 うん。まぁ実際いまやっぱり帰りますって言われてもユニコーン馬車の事があるからね。 だからあたしも自信があったから聞いたってのもあるけどね。

 処女を奪ってないとはいえ伊達にベッドを共にしてないって事。


 まぁここまではっきり言うとも思わなかったけど。

 

「いやはや流石マリヤ様でございます! 素晴らしい信頼度でございます! こうなったらこのイメクラも一生マリヤ様に付き従わせてもらいますぞ!」


 鼻息荒くして随分張り切りだしたねこいつも。

 まぁ魔法使えるから役に立つか。


「でもタイトウ領の盗賊ねぇ。随分と物騒な事だね」


「はい。そもそもタイトウ領は治安の悪さでは有名です。貧富の差も激しく、盗賊、山賊の類が跋扈しておりまして……領主が屋敷を構える街ですらも、怪しい薬が出回り、盗賊を牛耳る組織が地下賭博場(カジノ)などを作り――」


 成る程ね。元々が悪の巣窟みたいなとこだから、人攫いぐらいどうって事ないってわけね。

 

 それにしてもカジ、え? え?


「ちょ! カジノって! あのカジノかい!?」


「え? あ、あの、と言うと?」


「だ・か・ら! 金を掛けてブラックジャックとか! ルーレットがあったりとかのアレかいって事だよ!」

「グェ! マ、マリヤ様、落ち――」


 あたしは思わず犬の襟首を掴んで、前後に揺らしてしまってた。

 ちょっと興奮しすぎたかな。


「ゲホッ、ゲホッ、た、確かにマリヤ様の言うとおりですが、そ、それがどうかしましたか? て、あの――」


「マリヤおねぇ様、顔が綻んでます……」


 え? あぁつい顔に出ちまってたかなぁ。

 でもなぁ、いやぁカジノかあ~。そっかぁ~ウフッ、いいじゃん! いいじゃんソレ!


「犬! 急いで馬鹿の元に戻るよ! そして! 攫われた二人をさっさと助けないとね!」


「え? あ、ワン! 確かにお二人はできるだけ急いで助けるようにしなければいけませんな。……でもどうされましたか? 急にやる気になられたような――」


「え? いやだなぁ~何を言ってるんだよ~。あんな可愛らしい子供を放っては置けないだろう? あたしも良くしてもらったしねぇ~」


 まぁ勿論たてまえだけどね。いや助けるには助けようとは思うけど。


「素晴らしい! 流石マリヤ様でございます!」


「マリヤおねぇ様は勇敢です! 私尊敬いたします!」


 うんうん。ふたりともあたしの為にしっかり働いてよねぇ~。


「ところでマリヤ様。これから戻るとしてゴブリンの事はどうされますか?」


「うん? 後回しにしたら?」


 あたしがそう言うと、犬がちょっと眉を落としたね。


「ですが帰りの道程でいけば隠れてる場所はそう遠くありません。今後の事を考えれば一緒に連れて行ったほうがいいかとは思います。ただ、馬車にはやはり乗りませんので――」


「はて? ゴブリンとは一体何のことでしょうかな?」


 て、火の玉が不思議そうな顔で聞いてきたよ。てかそりゃそっか、どうすんだ犬。


「……マリヤ様。どちらにしても判ることです。イメクラ様にも説明しておきましょう」


 マジかよ。なんかさっきの話を聞く限りだと、大丈夫かな? て気もするけどねぇ。





「……成る程そうでしたか――」


 火の玉は腕を組みながら納得したように頷いてるね。てか、どう思ったかな? 表情だとよくわからないけど……。


「ふむ! いや! 流石マリヤ様だ! 素晴らしい!」


 ……いや、なんか凄い笑顔見せてきたけどね。


「……それはつまり、ご納得して頂けたということで?」

 

 犬もどこか不安気に聞いてるね。


「勿論です! それはつまりゴブリンもオークもマリヤ様のお力で配下に加わったと言う事ですよね? 手を結んで何かをしようというならともかく、それであれば寧ろ流石マリヤ様といったところです!」


 ……そういうもんなのかい? まぁ納得してるならいっか。


「しかしそれならば私にもいい考えがございます! ゴブリンを運ぶのに脚が必要ですよね? 支部に立ち寄っていきましょう! 丁度いいものがあるのです!」


 興奮したように火の玉が言ってくるんだけどね。


「イメクラ様。いい物とは一体?」


 犬がそう聞くと、はい! と火の玉が拳を握りしめ口を開く。


「それは、【ユリコーン馬車】でございます!」


 その応えに、あたしも犬もマセコも眼を丸くさせた。


「……え? ユニコーンですか?」


 マセコが改めて聞く。

 あたしも聞き間違えたかと思っちゃったけどね。


「いえ! ユリコーンでございます!」


 ……どうやら聞き間違いじゃ無さそうだね。

 てか、何だよユリコーンって――

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