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7話

※2014/09/19 修正版と差し替えしました

 まぁなんちゅうかアレだ。長すぎだこの馬鹿。どんだけ時間かけるんだよ。妙にねちっこいし、あの女はこれをやられ続けていたのか? ちょっと同情しちゃうレベルだねこれは。


 というわけでだ。身も心も捧げますなんて言ってあげたあたしなわけだが。


「あぁマリヤ。最高だ! もう私は君以外の女性なんて考えられない。マリヤに比べたら妻のなんて豚の股座だ」


 正直、例えが悪すぎて気持ち的には腹が立つ。豚の股に勝ったって何も嬉しくねぇよ。


 まぁそんなわけで、あれから数回身体をまじわえたわけだが、そのおかげかこいつもすっかりあたしの虜だ。

 

 なんだかなぁ。せっかく異世界に来ても男が馬鹿なのは変わらないね。本当にチョロすぎるわ。


 で、とりあえず今日も無事、事を終わらせたわけだけどね。


「それじゃあまた――」

「嫌だマリヤ! もっと! もっと私と一緒にいてくれ!」

「駄目ですよメルセルク。これ以上いては誰かに見つかってしまいます」


 情事は、夜は誰も使わない離れの小屋で行っていた。流石にあたしも一々こんなとこに来るのも面倒な気がしている。更にこいつもすっかり性に溺れてしまった。

 毎日とか求められると流石にウザイ。


「マリヤ――あぁマリヤ、マリヤ……私は、私は――」


 一人ぶつぶつと呟き続ける馬鹿を尻目にあたしは小屋を出た。しかしそろそろ次の手を考え始めないとな。

 あの馬鹿もまだ昼間は平静を装っているが、それでも隙あればあたしに迫ってくる。だが屋敷で堂々とできる事じゃないだろう。

 立場としてはあたしはまだ只のメイドなわけだし。


 そんな事を考えながらもあたしは宿舎へ続く道を歩いていく。夜風が中々気持ちいいな。


「随分とお楽しみだったようだな」


 ふと背後から聞き覚えのある声が届き、あたしはぎょっとした。振り返ると庭木の影からがっちりとした体格の男が姿を現す。


 月明かりで照らされた顔は見に覚えのあるものだ。ほくそ笑むその表情にどこか嫌らしさも感じられる。


「貴方――アレックス……」

 そう。こいつはアレックス。あたしが最初に伯爵にあったときに騎士として側に仕えていた男。


 この男はメルセルクの専属騎士だ。その腕はあの盗賊の一件でよく知っている。あの頃から油断のならない奴だとは思っていたが……。


「覗き見してたのですか? あまりいい趣味とは言えないと思いますが……」


「似合わない喋り方はやめるんだな。聞いてるだけで鼻につく」


 こいつ……何か感づいているのか? チッ、だったら。


「全く。本当いい趣味してるぜ」

 あたしはとりあえず軽く素をみせてみることにした。相手の反応をみてみる。


「ふむ。なるほど本来はそんな喋り方なのか。確かにそっちの方がしっくりくるようだな」


「……出歯亀に褒められても嬉しくないねぇ」


「悪いな。こっちは一応護衛も仕事の一つなものでね。怪しいとなれば覗き見ぐらいするのさ」


 全く悪いと思ってないなこいつ……。


「で? 何だい? もうあたしは旦那様には近づくなとでも?」


「そうだなそれで従って貰えるならそれが一番だが……とりあえず貴様の目的を色々と聞き出す必要があると思ってな」


 急に顔を険しくさせやがったこいつ。何かいやな感じがする。


「お前の事はこちらも色々と調べさせてもらったんだがな。教会の戸籍にもその名は記されてなかったんだよ。ついでに言えばお前は手癖も悪そうだな? あの洞窟も調べさせてもらったぞ。まぁそれはいいとしても……名を誤魔化しさらに身体を使ってまで主に近づこうとは、貴様どこの手のものだ? 大方最近の厄介事も貴様の雇い主あたりが仕組んだ事なのだろう」


 仕組んだ? 雇い主? ……どうやらあたしは壮大な勘違いをされているようだね。参ったなこりゃ。


 それにしても教会とはね。確かにこの世界じゃ戸籍は教会で管理されてるって聞いたけど、こんな早く知られるなんてね。

 まぁでもよく考えたら偽名ぐらいすぐばれてもおかしくなかったか。

 異世界だからって高をくくりすぎたかな。


「お前がもし素直に認め、全てを告白するなら多少の温情は与えてもいい。さぁどうする?」


 と言われてもなぁ……まぁ折角だから試しに。


「判った。告白するよ。あたしはこことは別の世界で死んでしまい、天界で神様を虜にした結果、豚となりはてたドングリ爺ぃの力でこの異世界にやってきた転生者だ」


 ほれ、正直に話してやったぞ。満足か?

 てか眼つき鋭いな。なんか黙ってるし。

 

「ク……ククッ――」


 ん?


「あ、あーはっはっはっはっはっはっはぁああ!」


 おお! なんか大口開けて笑い出したぞ。何だこれ? まぁいいやあたしも笑っとこう。あっはっはっと。


「フザケるなぁああぁあ!」

 何かキレたよ!


 て、まぁ当然ちゃあ当然か。あんな話、信じろって方がどうかしてる。


「この私を愚弄するとは。どうやらどうあってもしらばっくれるつもりのようだな」


 いえしらばっくれてなんかいません。


 て、うん? なんか歩き出したぞ? 怒って帰っちゃったのか? なんか木の前まで歩いてその影から大剣だしてっと……。


 え、えええぇええぇええ!


「もういい。とりあえず手足の二、三本ぶった斬ってから屋敷で話を聞こう」


 それなら普通に屋敷に連れて行って欲しいところなんだけど……何さ斬るって。パネェよ。極道かよ! Vシネかよ! 


「覚悟!」


 嫌だよ! て、うわっ! 振り上げて! く、くる! ちょんわ!


「むぅ!」


 はぁはぁ。た、助かった。何とか躱したけど。こんなの流石にずっとは……て、うわぁあ振り返ってめっちゃ睨んでるよ。額の血管野太すぎだよ、カルシウム足りてないんじゃないのかい?


「中々やるな」


 いや、こんなの偶々だと思うし。なのにそんなマジになってちょっと大人気なくない? 腰あたりで構えまでとって、もう殺る気満々じゃねぇか。


「次は外さん!」


 そんな宣言されても……てヤバイなこれ。まじでピンチじゃ……。


「ふん!」


 うわっ! また来た!


「はぁ! むん! どりゃぁあぁ!」


 て、あれ? 何だろう? 確かに凄い剣撃なんだけど、何故か判るっていうか――


 で、全部躱せちゃったわけだコレが。


「……貴様、何者だ?」

 

 だから転生者だっつの。さっきも言っただろうが。こいつわりとボケてんのか?


「その脚さばき。かなりの手練れ。しかも王宮剣術のもの……そうメルセルク伯の動きにどこか似ている」


 そうなの? いやさっぱり意味がわからないけど。てか脚さばきって……あ、そういえば何か勝手に身体が動いてるかんじだ。


 まぁよくわかんねぇけどこれならいける――


「しかし!」


 ウワッびびった! 急に大声出すなよ。ビクッとすんだろ! てまた来た! でも今回は大振りだし、へへんっとこんなの避けるのは。


 サッっとほらいけた。何だこのおっさん意外と大した事……痛! イタタタタってちょ! いたぁああいいぃい!


「ふふ。やはりなお前は動きが素直すぎる」


 ち、畜生、こいつ髪つかみやがった。マジかよ! 髪は女の命って言葉あるの知らねぇのか!


「フンッ!」

 

 痛ゥ! こいつ思いっきり地面に投げつけやがって……


「ざけんな! 髪が抜けたらどうすんだぼけぇ!」

 

「フン。その口調と言い、やはり下品な女だな。まぁいい。もう観念しろ。その状態からじゃ何も出来ないだろう」


 く、畜生……確かにこのままじゃ。て、もう振り上げてやがる……


「どこを斬られてほしい?」


「だ、だったら髪でいいや。ちょっと長いかなと思ってたんだよね」

「よし判った! 脚を一本もらおう。自由に動けぬようにな!」

 

 聞けよ! ざけんな! お前がどこがいい? って聞いてきたんだろうが!


 て言ってる場合じゃないな……これはまずいな。こうなったら……


「……何のつもりだ?」


 あたしは即効で下を脱いで股を開いた。そしておっさんは目を丸くさせ質問してくる。


「ね、ねぇ? もうさ。大人しくするし。あたしの事好きにしていいから……だから見逃して、ねっ?」


 これは掛けだ。上手くいくかは判らないけど……もうこれしか手はない。


「ククッ、あっはっはっは!」


 顔を手で覆い、空を仰ぎながら本日二度目の大笑いだ。全く何がおかしいんだか。


「ふっ、まさかそこまでするとはな。判った気が変わった」


 マジか! 


「この剣はお前のその男を惑わす醜悪なモノに突き立ててやろう! 勿論死なない程度にな!」


 いやいやいやいや! 普通死ぬだろうそれ!


「成敗!」


 て、あたしは妖怪か何かかよ! いや、まぁ近いかもしれないけどね。でもまぁこれで、後は掛けだ!


 あたしはアレックスが突き出してきた刃を、しっかり視界に捉えながら念じた。そう、ここに来てからも色々試してきたつもりだ。


 流石にこんな物は初めてだが……やるしかない!


「むぅ! な、なにぃいいい!」


 アレックスの顔色が変わった。そしてあたしの股にどこかひんやりとした感覚が訪れ――


「ば、馬鹿な! 剣が、す、吸い込まれていくだとぉおおおお!」


 アレックスは歯噛みして柄を強く握り、大剣を必死に引き抜こうとするが無駄な事。一度吸い込んだら完全にあたしの中に入るまでは勢いは落ちない! あの吸引力ナンバーワンの掃除機だって裸足で逃げ出す程なんだよ!


「くぅ、く、くそぉおおお!」


 声が枯れるのではないかってぐらい叫びあげるが、その思い虚しく、アレックスの手から剣がすっぽ抜けた。勢いに任せて彼は地面を転がり、そして刃も柄もあたしの中に完全に飲み込まれていった。


「はぁ、はぁ――」


 た、助かったぁあ。いやぁ上手く言ってよかったわマジで。


 あたしは安堵し、そして星の煌めく夜空を仰ぎ見た――


 

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