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65話

 ギルドの管理を任されてるっていうノムビットが言うには、馬車は荷を乗せてタイトウ領に向かう途中で消息を断ったらしいね。


 道程の途中にはちょっとした山道を抜ける必要があったみたいで、恐らくはそこで何かがあったのではないかという話だった。


 ちなみに現地に着いていないというのは、教会どうしの連絡で判ったらしいね。

 魔法の力を使った鐘の音でこういった連絡を取り合うことはよくあるそうだよ。


「それで困ったことに、今ウチのギルドにはその調査に迎えるほどの手練がおりません。護衛の方で随分回してしまってもので……その護衛ごといなくなったとなると……で、困り果てていたところに、そういえばと神の使いと名高いマリヤ様の事を思い出しまして、なんとか手を貸して頂けないかと……」


 あぁやっぱりだね。予想的中だよ。ゴブリンが終わったと思ったら消息不明の馬車の捜索? これじゃあ本当に冒険者みたいだよ。


「ちなみに今回の件。試練の一つとして評価させてもらうからそのつもりでな」


 は? はぁ! とあたしは思わず素っ頓狂な声上げてしまったよ。

 てか何だよそれ! 


「いや、あのゴブリンの件は解決しましたのに、更に試練を続けると言うことですか?」


「そうだ。それぐらい決める権限は私にもある」


 腕を組んで、ペチャはさも当然って感じに言ってきやがるね。


「ちょっとまってくれ。ならばまさか今回もマリヤ一人に任せようという話なのか? 流石にそれは……」


 馬鹿が心配げに口を挟んできた。でも、いや、とペチャが言い。


「今回は緊急事態だから出来れば皆様の手もお貸しいただきたい。突然の事で申し訳ないのだが――」


 ペチャがそう言って馬鹿に深々と頭を下げた。あたしに対する態度と大違いだ。


「成る程! いやそういう事であれば当然強力させてもらおう! アキバ兄には普段からお世話になってるからな」


 出たよ……そうだよ。馬鹿はこういう奴だよ。


「勿論このアレックスも同道いたしますぞ」


 犬、お前もか!


「マリヤ様ばかり苦労は掛けられませんわ!」


「勿論私もメイドとしてお付き合いさせて頂きます」


 ……いや、あたしまだやるとは言ってなかったんだけど――


「では馬車の手配を急ぐとしよう。ノムビット、今、手の空いている馬車は――」


 ……もう嫌だと言える雰囲気でもないねぇ。


「馬車なら私の馬車も使えますです! マリヤおねぇ様と~ふふ~ん。また旅に~」


 マセコは鼻歌交じりにそんな事を言い出したね。まぁ確かにユニコーン馬車なら早そうだけど。


「その前にカグラ」


 うん? なんか随分厳しい目つきで、ペチャがマセコを見つめ出したね。


「お前、その馬車、ちゃんと許可を貰ってから乗ってきたんだろうな?」


 うん? 許可? て、マセコがギクッ! て顔してるよ。


「その顔……やっぱりか。ユニコーンの馬車がそう簡単に貸し出されるわけがないからな」


「で、でもこのユニコーンは私に一番懐いてますし――」

「馬鹿者!」


 ペチャの怒鳴りにマセコがビクリッ! て肩を震わせたね。てか無断で乗ってきたのかよ。意外と行動力あるんだな。


「ユニコーンも馬車もチヨダーク侯爵殿下の持ち物ではないか! それを勝手に拝借など! 本来牢に入れられてもおかしくない行為だぞ!」


 マセコがシュン、と縮こまっちゃったよ。てかそこまで問題かね。


「レイダン殿、もうそれぐらいで……カグラちゃんもマリヤに会いたい気持ちが強くてつい魔が差してしまったのだろう。アキバ兄には私の方からも何とか穏便に済むよう頼んでみるので――」


 馬鹿がそういって仲裁に入ったね。ペチャも納得はしていないって感じだけど。


「とにかくこの件はメルセルク伯爵の顔を立てて留保にするが、旅には連れていけない。カグラお前はこの町で待機だ」


 え!? と目を見開いてマセコが驚いているけどね。でも――


「ですがレイダン様。ユニコーンの引く馬車があれば道程もかなり早くなりますわよね? でしたら確かにカグラちゃんの行為には反省すべき点もあるかもしれませんが、利用された方が宜しいのでは?」


 助け舟ってわけじゃないけどね。実際ユニコーンの方が早いだろう。


「き……その提案は受け入れがたいな。それにどっちにしろ意味がない」

 

 ペチャも皆の前では言葉遣いをちょっと抑えてるか。昨日の夕食の時は素も出てた感じもあったけど。

 で、意味が無いってどういう事だろうね?


「今回の任務では馬車が二台は必要になるからな。そうでなければ向こうで馬車を見つけた際に荷を回収できない。また生存者がいる場合に一緒に運ぶ必要があるだろう。勿論馬車が無事ならその心配は無いが、それを期待するわけにもいかない」


 あぁ、そういう事か――


「確かにそうなると例えユニコーンが早くても速度はもう一台の馬車に合わせる必要がありますな」


 犬があたしが思っていたことをそのまま口にしたね。


「そういう事だ。だからカグラはここに残していく。どちらにせよユニコーンが使えないとなると、カグラは寧ろ足手まといに成る可能性が高いからな」


 その言葉でマセコも半べそ状態だ。スラパイとメイド長が慰めてるけどね。

 まぁでもそうなると確かに仕方ないね。

 例え正式にマセコが借りた馬車であったとしても、条件は同じなわけだし。


「マ、マリヤおねぇ様ぁぁあ」


 あ~あ。涙を溜めてこっちを縋るように見上げてきてるよ。でもこればっかりは仕方ないしね。


「仕方ないのですよカグラちゃん。でも大丈夫です。きっとすぐ解決して戻ってきますから。そしたらまた――」


 あたしがそう言ったら何を勘違いしたのか頬を紅くさせてきたね……。


「はい! 判りました! マリヤおねぇ様のご帰還お待ちしてます。そしたらふふ~ん。マリヤおねぇ様とふふ~ん」


 ……まぁ立ち直れたならいいか……。





◇◆◇


 馬車の手配は迅速に行われて、結局はあたし達の乗る馬車と、多くの荷物を積むことの出来る大型の幌馬車と二台での出発となった。


 先頭はあたし達の乗る馬車が走ることになって、車体に四人、御者台には御者の他にもう一人乗る事ができるので、そこにはスラパイが乗った。

 本当は犬が最初そっちに乗ろうとしてたんだけど、眼は私の方がいいですので、とスラパイが買って出た感じだ。


 確かにあの弓の腕を見る限りそうとう眼はよさそうだけどね。

 そして幌馬車の方には、ペチャが御者台の隣に乗った形だ。

 つまりそっちの馬車は後ろが空って形だけどね。


 今回の捜索の旅では山道に付くまではそれほど時間もかからなくて……と言っても日が傾くぐらいまでにはなったんだけどね。

 異世界にいると時間の間隔がずれてくるよ。


 で、山道に入るとまともな宿場なんかは無いから、基本野宿になる。

 その日も山道に入り、完全に暗くなってから馬車の中で一夜を明かした。


 山間を進む道は確かに長い。更に一日を費やして、ヨーツヤの町を出てから三日目――夕刻が訪れ始めた頃。


「何か見えますわ!」


 と、御者台の上からスラパイが叫んだ。両脇が岩の斜面になってるところで、道としては馬車一台と半分ぐらいの幅だ。


 で、大分ソレがはっきり視えるとこまできたところで一旦馬車を止めて、あたし達も降りた。


 ペチャの馬車もあたし達の乗る馬車から少し離れたところで止まって、近づいてくる。


 そして馬鹿とアレックスが見えてる人物……いや、恐らくは死体に向かって駆け寄っていった。





「こっちも駄目ですね……」


「こちらもだ――なんと酷いことを……」


 冒険者は全部で四人護衛についていたようだった。その冒険者の乗っていた馬車は少し先で横倒しになっていて、馬も事切れているね。


 犬の話だと、恐らく全員剣で斬られたのだろうという話だったね。

 死体の位置が離れていたことから、護衛達は襲撃者に気づいて抵抗したんじゃないかと。


 ただ相手の腕が相当高いのか、全員一撃の下に斬り殺されていたようだね。


 苦しまなかっただけまだマシかもしれないと、哀しい顔して馬鹿が言っているよ。


「みなさんあちらにも馬車が!」


 うん? スラパイが少し先を指さしていってるね。で、確かに馬車が一台同じように倒れている。護衛の馬車と別って事は、あれが荷を積んでいた馬車かもしれないね。


「!? 生きてる! この馬車の者が一人まだ生きているぞ!」


 スラパイの声で真っ先に馬車に駆けていった馬鹿が振り返って叫んだ。

 どうやら生存者がいたようだね……。





 倒れてる馬車の中には荷は一つとして残っていなかったけど、中に若い女が一人取り残されていた。


 で、馬車から馬鹿と犬が引き出して、地面に寝かせた。

 どうやら気を失ってるらしいね。息は確かにあるみたいで胸はしっかり上下している。


 服装から見るに神官のようだと犬が言った。着衣の乱れもなく乱暴された様子もない。


「旅には神官も同行してると聞いている。教会同士のやりとりが早かったのもソレがあったからかもしれない」


 ペチャがそう言うと皆納得して頷いた。でもなんで一人だけ無事なんだろう? と思ってたら、これもペチャの話で、襲った奴等は信仰深い者だったかもしれないと言うことだった。


 なんか妙な感じもあるけど、盗賊なんかをやっていても信仰を捨ててないという奴等も多いらしいね。


 で、そうこうしてるうちに、その神官の女が、う~ん、と短く唸って眼を開けた。


「ここは……?」


 そう聞いてくる女に、もう大丈夫ですよ、と微笑む馬鹿。

 そして事情を説明すると、女はゆっくりと上半身を起こして一つ息を付いた。


「う、うああぁあぁあ!」


 て、かと思えば急に眼を押さえて苦しみだしたよ!


「ど、どうかなされましたか!」


 馬鹿が慌てて声をかける。すると、眼がぁ、眼がぁ! と苦しそうに声を上げて。


「わ、私の眼、一体どうなって、痛い! 一体、どうなってますかぁ!」

 

 そう叫んで押さえてる手を放した。周りにいた馬鹿やスラパイ、犬、メイド長もソレを覗きこむ。


 あたしもなんだか興味本位でみてみるけど――


「あ、あの別に特におかしいところは――」

 

 馬鹿が困惑した調子で言う。確かに特に何も感じないけど……。


「本当に……そうですか?」

 

 え? なんだこいつ。急に口調が……そして、眼がひか――何これ――急に意識が……。

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