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62話

 ゴブボンの話だと、洞窟の入口近くの壁に、彼らの言語で、

『まもなくこの場所に災いが訪れる。愚かなる人間共が、我が一族を滅ぼそうと企てているのだ。今こそ一族の誇りを保つために、神の与えしこの武器を手に取り、奴等を捕らえ神への生贄として捧げるのだ。さすれば我が一族に必ずや希望の光が差し込むことであろう』

というような内容が掘られていたらしいんだけどね。


「あれ? おかしいですな。この場所に間違いなかったと思うのですが……」


 長の案内してくれたのは、確かに洞窟の入口からそれほどはなれていない、膨らんだ風船のように幅の広がった場所だった。


 どうやらここに突如として啓示とやらが壁に掘られ、クロスボウと杖が置かれていたらしいね。

 まぁ槍は自前だったらしいけど。


 ただ、今はもう、その啓示も綺麗さっぱり消え去ってしまっているようだ。


「神様本当なのです! ここに確かに!」


「あぁ、大丈夫だよ信じるから」


 必死に事実だと訴えてくる長に、柔らかく返す。まぁ今のこいつらが嘘を付くとは思えないしね。


 で、なんかペチャがその啓示があったと思われる壁を擦りながら、なんだか難しい顔をしてる。


「なんかあったのかい?」


 あたしは一応聞くが、別になんでもない、と静かな感じに応えてきた。

 なんか思うところがあったのかね? まぁどうでもいいけど。


「神様! もし神様が望むのであれば、我々はこの武器は全て処分致しますが……」


「そうか。だったら全てこちらに」

「いや。そのまま持ってなよ」


 長の言葉にペチャが何かを言いかけたけどね。あたしが返すと、おい! とかまた目つきを尖らせて騒いできたよ。


「貴様は何を考えてるんだ! 今さっきこの私がいった事を忘れたのか? 本当に鶏頭だな! 貴様は!」


 握りこぶし作って振り回しながら、必死だねこいつも。


「このゴブリンはあたしとしてもこのまま無事でいて欲しいしね。だからあたし達はともかく、他にも不審な考えをもった奴がいるかもしれないなら、護身用として武器は持たせておいた方がいいって話さ」


「ふざけるな! もしそれでこいつらが、人々を襲ったりしたならどう責任を取るつもりだ!」


 また腕を振り回しながら、もってのほかだ! て感じの勢いで突っかかってくるね。


「なぁ? お前たちは人間を襲ったりはしないだろ?」


「神様がそう望むのであれば勿論! ここで大人しくお迎えを待ち続ける所存でございます」


「だ、そうだ」


 これで安心だね、と笑顔で言ってやる。


「馬鹿か貴様は! そんな魔物の言うことを信用しろというのがどうかしてる!」


 あたしからしてみれば、一々うるさいあんたの方がどうかしてるよ。


「大体こんな事、チヨダーク侯爵殿下が認めるわけがないだろう!」


 それを今更いうかね。


「だからその辺はほら。あんたの方から上手く言っておいてよ」


 はぁああぁあ? とペチャが顔を歪めてきた。


「ふざけるな! なんで私が貴様のためにそのような事を――」

「私チヨダーク侯爵様の事だ~いすき。キャッ!」


 あたしがちょっと戯けた感じに言うと、ペチャが眼を丸くさせた。


「な、なんだそれは?」

「いや、あんたの真似」


 あ、ボッ! て一気に顔が真っ赤に燃え上がったね。


「ふ、ふざ! だ、誰がその、そのような!」


「言ってたよなぁ?」


 あたしはゴブリン達の方に顔を向けて同意を求めた。

 そしたら察してくれたようでね。


「は、はい神様! このゴブボン! 確かにそこの奴隷がそのような事を言っていたのを聞いておりました!」


「な!? デタラメ言うな貴様! それと私は奴隷ではない!」


 必死に抗ってるとこ悪いけどね。まぁとりあえず両目に手を当ててっと。


「え~んえ~ん。いやだよ~チヨダーク様に捧げる前にこんなのいやだよ~え~ん、え~ん」


 泣き真似泣き真似っと。おや? 肩がプルプル震えてるね?

 で、ゴブリンに目配せすると、こいつら意外と察しがよくて、え~んえ~んと一斉に合唱し始めた。


「な、ななな!」


 お? 絶句って感じだねっと。


「隊長! 隊長は泣き虫でありますか?」

「……」


 あたしは敬礼のポーズを取って、ペチャに言う。で、俯いて何もいわないね。肩震えてっけど。


「……やっぱこれも後でちゃんと報告しないとねぇ~」

「判った! とりあえず言うだけは言ってやるわよ!」

 

「よろしい」


 あたしは笑顔でペチャの肩を叩いた。


「卑怯者ぉぉ」


 恨めしそうな瞳で見上げてくるけどね。まぁ卑怯結構、結構てね。





◇◆◇


 ゴブリンとペチャとを交えた話しも終わり、あたし達二人は帰路に付くこととなった。

 もうすぐ日も沈むし、ゴブリンの長も今夜は泊まっていかれては? と提案してくれたんだけどね。

 でも、それはペチャがとにかく嫌がった。


 体全体でとにかく絶対断固として帰る! と表現して譲る気なしって感じだったしね。

 こんな状態で泊まっても余計なイザコザが増えるだけっぽいから、まぁあたしも仕方ないかってとこだよ。


 ゴブリン達は一旦の別れを惜しんでいたけど、まぁ準備ができたらまたくる事になるだろうさ。言語理解できるのがいないと仕方ないしね。


 そんで帰る直前はそっと長に一つ指示もしておいた。まぁ大丈夫だとは思うけど。


 で、ゴブリンの見送りを受けながら洞窟を出て、山を下ってるとわりとすぐに夜の帳が貼られた。ただ月が出ていたから多少はマシで、月明かりを頼りに来た道を引き返すといったところだ。


「ところで帰りの馬車はどうなってんの?」


 よく考えたら馬車は夜になると基本走ることはないんだよね。

 そうなると、どうする気なのかがきになるわけだけど。


「馬車? 何を言っているんだ貴様は。帰りの馬車など最初から用意していない。帰りは徒歩だ」


 マジかよ! え? 冗談ですよね? どんだけ距離あると思ってんだよ!


 で、ちょっと横顔を覗きこんだけど……マジっぽいねこれ。どうやらペチャの奴、夜通し歩き続けるつもりらしい。


 あ~あ、んだよそれぇ。そりゃあんたは騎士だから慣れてんのかもしれないけど、こっちはかよわい女だっての。

 こんなん歩き続けたら脚とか絶対やべぇよ。

 はぁ、考えるだけでもシンドい――





 まぁそんなわけで山を下りていって、うん。しんど、そうだねペチャの奴。

 それにしてもどれぐらい進んだかな? 既に太陽はとっくに昇ってて、それでも頑張ってぺちゃはあたしの後ろを付いてきている。


 まぁつまるところ、なんだかよくわかんないけどね。あれからずっと歩いているんだけど、どういうわけかあたしの脚はさっぱり疲れない。


 寧ろ太陽が昇り始めた頃には、ペチャの方が肩で息を切らし始めてね。

 ゼェゼェハァハァって感じだから、逆に気を使って、休む? とか聞いてみたぐらいなんだけど、向こうも妙に意固地になってるとこがあって、あたしが音を上げない限りは休む気がないって感じみたいなんだよねぇ。


 まぁ、でも本当、脚に関してはさっぱり疲れないわ。喉がちょっと乾いたりはしたけど、一応水筒系はもってきていて、途中の川の水とか汲んだり飲んだりしてたからそこまで問題はない。

 

 腹が減ってるてのはあるけどね。まぁでもやっぱ脚が疲れないとだいぶ違う。

 でも、なんでだろう? とか歩いてる間ちょっと考察してみたりもしたんだけどね。

 

 まぁそんな難しい話でもなかったわけで。

 そういえばゴブリンが歩いても我々は疲れないとか言ってたのを思い出したわけさね。


 つまり今のあたしは、どんなに歩き続けても疲れないし脚も傷まないってわけ。

 なんだろうねこれ? 思いがけない副産物? 


「お~い、本当に大丈夫かい?」


 後ろを振り返って聞いてみる。


「だ、大丈夫に、決まってる、だろ。きさ、まが、平気なのに、私が、私が……」


 無理すんなって。大体いまあたしそうとう抑えて歩いてるからね? 完全にペチャに合わせてやってるわけだし。


 てか、本当なら夜になって変身すればそっちのほうが早かったんだけどね。

 まぁ何も問題ないのにソレやってもね。ややっこしくなるだけだからやめておいた。


 で、ペチャもわりとフラフラっぽくなってるなか、道は緩急も緩くなってきて、平坦に近い感じの街道が続き――日が西に傾いて、夕刻の空が茜色に染まった頃、まぁペチャにとってはようやくとも言えるだろうけど、ヨーツヤの町が見えてきた……んだけど、あれ? 何か見たことのあるようなのが街道をこっちに向かって走ってくるね――

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