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6話

※2014/09/19 修正版と差し替えしました

「相談って……一体どうかしたのかな?」


 ある日あたしは掃除中にそっと伯爵の部屋に手紙を置きその時を待っていた。

 手紙は他の者には知られないよう、本棚の蔵書の中に忍ばせた。偶然目にするのを期待したのではない。

 しばらく屋敷で真面目に働くふりをし部屋に入るたびに確認した。

 その中で何冊かは毎日読まれているであろうことがわかった。


 伯爵の蔵書を他の者が触れることはない。それは妻も一緒だ。


 手紙にはふたりきりで大事な話があると書いた。詳しくは敢えて書かない。

 まぁ書けるわけもないのだが、その方がより真剣なものに感じるだろう。


 場所は屋敷の離れにある小さな小屋を指定した。物置としても使われているところで、夜もふければ他にやってくるものもいないだろう。


 不安があるとすれは本当に一人でくるのか? というところだが、これに関してはあまり心配していない。


 ここに仕えてメルセルク伯爵もずっと観察し続けたが、あれは本当に人のよい馬鹿だ。

 だからふたりきりで会いたいと書けばノコノコ一人でやってくるのは間違いないはずだ。


 まぁ最悪誰かと来たりしたら、その場は涙の一つでも浮かべて黙って立ち去るつもりだった。

 

 だがそんな心配は杞憂だった。案の定バカ伯爵は一人でやってきやがったんだ。


 さてここからが重要だが……まぁ取り敢えず押し黙ってみる。


「どうしたんだい? 大事な話があるというから来たのだが――」

 伯爵が怪訝な表情を覗かせる。

 そこであたしは一旦顔を伏せ、メイド服の裾をぎゅっと握る。


「ご、ごめんなさい……私どうしてもメルセルク様にお伝えしたいことがございまして――でも、私は駄目な女です……メルセルク様を前にすると――」


 そこまで言ってあたしはボロボロと涙を零した。普段のあたしじゃ考えられないことだけどな。


「お、おいどうしたんだマリヤ。そんな急に――」

 言ってバカ伯爵が労るようにあたしの肩に手をおいた。そこで一気にその胸に飛び込み腕を回す。


「なっ!?」

 伯爵の野郎が驚きで目を丸くさせる。が、あたしは涙で喉を詰まらせる振りをしながら言葉を続けていく。


「私はいけない召使でございます。旦那様の事を――お慕いしてしまいました……」

 ここは敢えて旦那様と呼んでおくことにする。

 メイド服の女が涙を浮かべて抱きつくなんてアキバのオタクが見たら羨ましがりそうなシチュだぜ。

 本当これだけでも本来なら三万円ぐらい取りたいぐらいだ。


 まぁそもそも金の価値が違うだろうけど。


「マ、マリヤ。君だって知っているだろう? 私は妻の事を愛して――」

「構いません!」

 ここは必死さをアピールするために声を荒らげておく。


「私は……私はただ旦那様の側にいられたらいいのです。ただ時折――愛して頂ければ……」

 ほれほれあたしみたいないい女が、身体だけの関係でいいって言ってやってんだぜ? 上等なセフレ登場だぜ? さっさと手を出してこいよっと。


 まぁとりあえず、そっと瞳を閉じた。向こうから口づけの一つでも重ねてくれれば楽だが。


「……悪いが君の期待には応えられない。私は妻を裏切るような真似はしたくないんだ」

 チッ、やっぱとんだフニャチンやろうだな。

 まぁ妻としかやってないって時点でお察しってとこか。

 

 こいつはまわりからみたら奥さん思いのいい旦那ってとこなんだろうが領地を収める長としては精力に欠ける。


 色々と噂を聞く限りだと、この伯爵の領地はこいつの立場から考えたら決して広くはなく弱小と言われてもおかしくないレベルらしい。

 それもこいつの人の良さが招いた種だと思える。

 

 側には腕のいい騎士もいて、こいつ自身の腕も立つからそれなりの武勇伝は誇ってるようだが領主としては色々と考えが甘すぎる。


 まぁだからあたしみたいなものにも付け入る隙を与えてるとも言えるけどね。


 さて。まぁこいつがフニャチンで女に関しては草食やろうなのはなんとなく判ってたからね。だったらそうなるよう持っていくだけだ。


「さぁ。もうお帰り。そして今日の事はお互いわす、うぐぅ1?」


 なんとか背伸びすれば届く距離でよかった。唇を重ねて相手の反応をみることにする。

 が、予想以上に驚いたのか、伯爵の馬鹿が脚をもつれさせてあたしを掴んだまま後ろに倒れた。


 結果伯爵の上にあたしが乗る形になった。よしこれは偶然だけどしっかり利用させてもらうとするか。


 とりあえずメイド服の胸の前を晒してみる。しかし改めてみるとデカイな。こんなにデカかったかな? こっちきて成長したんだろうか? まぁ形は崩れてないからよしとするが。


「旦那様――」

 あたしは瞳を潤ませて呼びかける。

 ゴクリと喉を鳴らす音が聞こえた。

 視線は明らかにあたしの胸に向けられているし頬も紅い。


 ほら、もう観念して素直になりなっての。


「やっぱり駄目だ!」

「きゃっ!」


 くそ! 思いっきり身体を起こしやがるからバランス崩しちまったじゃねぇか。

 やっぱりあたしは女だな。いざとなったら男の腕力には勝てないだろう。


「す、済まない! で、でもやはり駄目だ! 諦めてくれ!」


 バカ伯爵は寧ろ自分が悪いような言い方だ。まったくもってお人好しだな。

 まぁでもこのまま押し続けても駄目だろうから……。


「判りました。メルセルク伯爵様の事は諦めます」

「す、すまない」


 だから何を謝ってんだかこいつは。まぁその気持を利用させてもらいますが。


「いえ、いいのです。私も最後に自分の気持ちを伝えることが出来てよかった……」


「何だと? 最後とはどういう意味だ?」


「言葉のとおりでございます。私は旦那様に抱いてはいけない気持ちを持ってしまいました。このままメルセルク伯爵様のもとにいるわけにはいきません。私はこのまま黙ってこの屋敷から立ち去ります……旦那様は、どうか奥方様とお幸せに……」


「ちょ! ちょっとまて! いくらなんでも出て行くことは無いだろう。私も今日の事は忘れる。だから……」


「いえ旦那様。私このような醜態をさらしておまけに旦那様にも嫌われおめおめと居座るわけにはいきません。折角助けて頂いた御恩もわすれご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありませんでした。大丈夫です。本来なら私のような人間は奴隷商人にでも売られていても仕方の無い身。私はなんとか生きていきます……」


「お、落ち着けマリヤ!」


「……そもそも私が身の程知らずだったのです。このような醜女な女が旦那様に恋心を抱くなど――」

「馬鹿を言うな!」


 お人好しな伯爵が声を荒らげた。


「前にも言ったであろう。自分のことを卑下するなと。マ、マリヤは美しい。正直逆に私には勿体無いぐらい……」

「嬉しい旦那様!」


 あたしは再びこの馬鹿の胸に飛び込んだ。たく、めんどうな奴だぜ。


「ま、待て! だから確かに美しいと思う。だがそれとこれとは……」


「せめて一度だけでも良いのです。旦那様の愛を一度だけ――」


「しかし――」


「でしたら……せめてもう一度口づけを――」


 まぁと言っても最初のはあたしが無理矢理奪ったんだが。


「……それで納得してくれるか?」


 やっと食い付きやがったなこの野郎!


「はい――」

 あたしはこくりと一つ頷いた。

 するとこの馬鹿やっとあたしの両肩をしっかり掴んで……てか震えてやがる。普通逆だろこら。


 まぁとりあえずそんなわけでいよいよこの馬鹿あたしに唇を重ねてきた。


 それでもう勝負は決まりだ。あとはあたしが得意の舌技を披露してちょっと挑発すれば――


「マリヤ……私は、私は――」

 ふむ。予想通り効果が出たな。

 当然だ流石にここまでやって何もしなかったらインポを疑うレベルだ。


「……いいのですよ伯爵様。私の身も心も、全て伯爵様に捧げます」


 そう言った事で、漸く馬鹿草食系ふにゃちん伯爵があたしに覆いかぶさってきた――







 


 

 

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