54話
――い……っい!
う~ん、あと五分……。
「何馬鹿なこと言ってるんだ貴様は! とっとと起きろ!」
……あふっ。あ~あ耳元でうっさいなぁ。て、眼を開けたらBLの顔があった。
朝からあまり見たくなかったね……仕方ないけど。
「貴様は本当にどうしようもないな! 今日! これから! ゴブリンの巣窟にいこうというのに! 自覚が足りないのではないのか! そんな事で何が――」
あ~はいはいっと。朝から耳元でうっさいねぇマジで。あぁでも昨日よりはマシになった気がする。慣れたんだね多分。
てか、ここ……あ、そっか。あの後もずっと酒場で飲み続けてて、気づいたらあたし以外全員酔いつぶれちまったから、そのままあたしも寝たんだった。
てかすごい状況だね。人が絨毯みたいに広がってるよ。う~んマスターも最後には一緒になって飲んでたからね。
終始渋かったけど、最後には潰れちゃって、そのままカウンターで突っ伏してるよ。
てかウェイトレスの娘は半裸じゃん! え? どうなってんのこれ? て、あぁそうか、なんだかよくわかんねぇけど、野球拳を教える事になったんだっけ。
おさげを解くのも一枚の内にいれてやったのに、結局はこの有り様か。まぁ結構ノリノリだったからいっかぁ。
「――おい! 貴様聞いてるのか!」
「はい。聞いております。判りましたわ。それではすぐ準備してまいりますわね」
正直全く聞いてなかったけど、こういっておけば問題ないだろって。
で、待て! とか言ってるけど無視して宿に戻る……て、外暗いじゃん! いや、確かに太陽は多少は昇ってきてると思うけど! 何時だよこれ! 元の世界でいったら朝の4時とかじゃねぇの? 早すぎだろ全く。
……ま、いっか。仕方ないね。で宿の部屋に戻ってと――でも、結局部屋使わなかったな……。
まぁいいや。顔とか洗って髪の乱れぐらいはチェックしてっと――
◇◆◇
結局まだ外も薄暗いうちから馬車に乗っての出発になった。こんな時間からとは御者も大変だよね。
なんかちょいちょい欠伸とかしてたし。
「ところで、そのゴブリンのいるという山道まではどのくらい掛かるのでしょうか?」
「…………」
……いや無視かよ! てかなんだこいつ? もしかして寝てんのか?
「あの……」
「うるさいやつだ! そんなものは黙ってればそのうち着く! 大体貴様は事前にそんな事も調べていないのか! 全く温室育ちの神の使い様はお気楽だな。それならそれで永遠に温室で永眠でもしておけばいいだろうに、無理して外に出たりするから恥をかく事になるんだ!」
あいかわらず返ってくる言葉が多いね。てか、恥って別にかいた覚えはないんだけどねぇ。
「大体貴様は節操というものがないのか? 昨晩の件だってそうだ。あんなゴロツキ連中にちょっとチヤホヤされたからって調子にのってるようだが、あんなものは何の自慢にもならないからな!」
……それって逆に羨ましがってないか?
あぁ、まぁ確かにこの性格じゃ少なくとも慕われたりとかすることはないのかねぇ。
「寂しい方なのですねぇ……」
「な、何を言ってるんだ貴様は!」
あ、結構ムキになりだした。図星かコレ?
で、沈黙……なんだかなぁっと。
◇◆◇
BLのいうところの山道に付いたのは、太陽が真上近くに昇った頃だ。
早朝から出てることを考えれば、やっぱりかなりの距離があるんだなって思う。
てか、山道の入り口で降りるのな。どうせなら近くまでいきゃぁいいのに。
それともこの辺なのか?
なんでちょっとBLに聞いてみたんだけどね。
「馬鹿は馬鹿ゆえの馬鹿らしい馬鹿としか思えない馬鹿くさい質問をしてくるな。お前はこれからゴブリンを退治に向かうのだぞ? そんなところに一般の民を連れていけるわけ無いだろ。何が起きるかわからない以上巻き添えにするわけにもいかない。神の使いとやらはそんな事もいちいち言われないと分からない程低脳なのか?」
……まぁ、うん、そうですかって感じだね。しかしまぁよりいっそう激しいね。
もしかして昨日の酒場の事でも根に持ってんのか? だとしたら根暗な奴だよ。
てか、こいつここから先もこの調子でいく気なのかね?
で、腕組みしたまま動かないし……。
「あの?」
「どうした? さっさと行け。私は貴様の事を見極めるために来てるに過ぎない。まさか私が親切に前を歩いて姫様どうぞこちらへ、とでも言うと思ったのか? そんな甘い事で貴様は本当に――」
あぁ判った判った。だったらとっとと歩いてやるよ。
まぁ道しんねぇけど一本道ぽいしな。
で、まぁ暫く無言で歩いていたんだけどねぇ。
「おい! どこへ行く気だ!」
はぁ? 前を行けって言うから言うとおりにしてるんだろうが。ボケてんのか?
「何だその顔は? 全くどうしようもないやつだな。ゴブリンの住処はこっちだ。さっさと進め」
そう言ってBLが斜面を指さしてきたんだけど……はぁ? ここ? これ道じゃねぇじゃん。
「どうした? まさかこのまま山道を歩いていればゴブリンが、いらっしゃいませ、と頭でも下げて出迎えてくれると思ったのか? 神の使いっていうのは頭がお花畑な人間でも出来るのだな。普通はそんな甘いはずが無いと警戒心ぐらい抱くだろうが、アホが!」
「……あの、ずっと思っていたのですが。私の事が嫌いならそれはそれで構いませんが。一応イザとなったら協力しあう必要もあるわけですし、ずっとその口調というのも……それに、疲れませんか?」
「はぁ? 協力? 何を言っているんだ貴様は。協力などするはずがないだろう。私は自分の身は自分で守るが貴様がどうなろうと知った事ではないからな。そもそもお前はいざとなったら私が助けるとか期待してこの試練に挑んだのか? とんだアマちゃんだな! 言っておくが今の発言でお前に対するわたしの評価は著しく低下したからな。よっぽどの事がない限り、私が貴様の事を認めることなどないということだけ肝に命じておけ!」
あのショタ野郎――話からして違うだろうが! まぁこいつがきた時点で怪しかったけどな。
でも、……うん。決めた。そのイザという時はやっちゃおう。てか素直に聞いてるほうがそもそもおかしいんだっつの。
どっちにしろ認める気がないってなら、こっちも遠慮する必要ないしね。
て、そんな事考えてたら自然と顔が――
「……なんだ? 何を笑っている。気持ち悪いやつだ。試練が辛くなって現実逃避でもし始めたか? ふん。だろうな。所詮貴様は」
「いいから早く行きましょう。時間が勿体無いですわ」
ふぅ! 何とか表情戻してっと。
とにかくもうこいつのことはいい。でもゴブリンだけは何とかしておこうか。その後は、もうどうとでもなるし――
◇◆◇
BLの罵倒はちょいちょい後ろから聞こえてきたけど、そんな事いいながらも一応道は教えてくれている。
まぁだからって実は良い奴だったのか? なんて思うわけがないけどね。
こいつも仕事だからそのへんは仕方なくってとこなんだろ。
でも。本当になんて道だい。下は柔らかめな土で、油断したら足が取られそうだし、木々も乱立してる。斜面も比較的急だから、本格的に山登りって感じもしてきたよ。
でもそういう意味では、BLもナヨっとしてそうだけど体力はあるんだな。革装備のあたしと違って、BLは鋼とかそんなの使った鎧っぽいし。
まぁ全身ガチガチってのじゃなくて、部位ごとにパーツが分かれてるみたいだから、動きを鎧で邪魔されることは無いみたいだけどね。
まぁそんなBLを後ろに付けたまま、さらに暫く登山を続けると……見えてきたねソレっぽいのが。
丁度木々の途切れたあたりから前方の小高い位置に洞穴っぽいのが見えた。穴の先は少し足場がせり出しているね。
あたしからみて穴の左に向かって細い筋が曲線を描くようにして続いてる。
アレを辿れば中に入れそうだけどね――て、何か出てきたよ。見つからないように木の影に隠れて……っと。
てかアレがゴブリンかな? ……て、間違いないか。少なくとも人間じゃないし。
肌は土色で、顔は横に伸びてるような……なんか菱型って感じだね。
で、鼻は長くて、眼はまん丸で大きめ、でも黒目は小さい。
口も……そんなに大きくは無いかな。牙とか生えてそうなイメージだったけど。
てか全体的にはわりと可愛らしい顔してるかもしれない。
あまり凶暴って感じはしないねぇ。
で、なんか肌と同じ色のローブを身にまとって杖を持ってるんだけど、だからなんか魔法使いとかそれっぽくも見える。
「馬鹿な――」
うん? て、ちか! なんだこのBL。わりとすぐ後ろにいるし。
てか、なんか目を丸くさせて、驚いてるっぽいけど、どうかしたのか?
「あれは……アーティファクトか? なんでゴブリンがあんなものを……」
アーティファクト? 視線の方を見るに、あの杖がそれかな? 見た目ただの石で出来た杖っぽいけど……あぁでも顔ぽっい彫刻が先端にされてるね。
「ΔδαΑ※!」
て、なんだ! 急に声が! え? どこから……て! ローブの奴こっちみてるし! 気づかれた!
「ちょっとマズそうですわね……」
あたしはBLに声を掛けてみる。けど、なんかキョロキョロして何かを探してるぽいね。
「……まさか、地面か!?」
はぁ? 地面? て、また何か奇声が……これは、あのローブの方からで、視線をそっちに移したら、杖を掲げてやがる。
よくわかんねぇけど、なんかここは一旦引いたほうがいいのかも……て! なんだ? 足が急に泥濘んで――
「クッ! しまったこれでは動けん!」
おまえもかよBL! なんだこれ? どうすんだよ! て、今度は周りの土が盛り上がって、中から大量に……ゴブリンが出てきた。
手には、確かクロスボウって言うんだっけ? そんなのを持っていて……一斉にあたし達に向けてきて――あ、やべ、これ詰んだわ。




