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51話

 あたしがその試練というのをあっさり受けたのは、まぁ勿論雰囲気的にそれしかないかなって思ったのもあったけど、暇つぶしに丁度いいかなって部分もある。


 何せ屋敷の生活も暫くすると退屈に感じてくる。元々ギルドがあれば退屈しのぎに丁度いいかなって思った事もあるぐらいだしね。


 後はゴブリンという魔物にそれほど怖いという印象がなかったというのも大きいかな。

 確かオタゲーやオタラノなんかでも弱い部類だったし、話を聞くにも大した事ないかな? て思いも強い。


 おまけに今のあたしは犬や馬鹿と同じ実力がある上、夜になればワーウルフにも変身できる。

 そう考えると無理な話ではないかなって、わりとあっさり決心がついた、


 で、あたしがその試練というのを承諾してからは、その後の話も大分スムーズに進んだ。


 日程等を決め、ショタ、エロジジィ、火の玉がそれぞれ納得を示したところで、エロジジィ側の目的はほぼ達成されたようだった。


 話が終わると、それぞれ腰を上げ、折角だからと、馬鹿の案内で屋敷や町を見て回る。

 ここまでくると正直あたしはいなくてもいいだろうとか思わなくは無かったけど、エロジジィはやっぱりエロジジィで、あたしだけでなく、スラパイやメイド長も一緒に来て欲しいような空気をまき散らす。


 結局エロジジィが帰るまであたし達は付き合わされる事になった。

 その途中でスラパイもちゃっかりケツを揉まれた。


「もう、イヤですわコマゴメフ大司教たら」


 スラパイはそんな感じに軽く返してたね。親しみのこもった感じがナイスだと思った。

 あたしやメイド長とはまたちょっと違うね。


 で、まぁそれはいいんだけど。このエロジジィ、馬鹿が案内してる間は終始、あたしのケツを揉んできやがる。

 飲み放題揉み放題みたいな店じゃねぇんだからいい加減にしろやとも思ったけどね。

 

 まぁ仕方ないから揉まれといたけど。

 そんな事されてる間に時間も過ぎて、神官の一人が、そろそろ……、と耳打ちしたところでエロジジィの見学は終わった。


 どうやら今日はこのまま教会支部の視察に向かうらしいね。

 もしこのまま泊まっていくようなら、夜伽でもさせられんじゃねぇか、とか思ったけどそんな事は無かったみたいだ。





◇◆◇


「マリヤ・メルセルクの件は後は任せるよ。終わったら報告を入れてくれれば良いからのう」


「はい。承知いたしました。お任せくださいませ」


 帰り際、エロジジィがそう述べて、ショタが頭を下げて返事する。

 どうやらショタは今日一日は馬鹿の屋敷に泊まっていくようだね。

 まぁ二人共一応は仲がいいみたいだからな。


 で、ショタと帰りの挨拶をすましたエロジジィはそのまま、馬鹿、スラパイ、メイド長と言葉を交わし、最後にあたしの前に立つ。


「マリヤ・メルセルク。試練はまぁ頑張ってな」


「はい。ご期待に添えるよう努めますわ」


 あたしは口元に薄い笑みを浮かべ、声には自信を覗かせる。

 すると、ほっほ、と笑い声を辺りに撒き散らし。


「本当にお主は中々の女じゃな。ところで――」


 エロジジィは顎鬚をさすりつつ、片目をこじあけて、あたしを見つめる。そして――


「折角じゃから、帰る前におっぱい揉ませてもらってもいいかのう?」

「大司教!」


 後方からキツイ声が飛んできた。神官と聖騎士が声を揃えてエロジジィの背中に否を叩きつけたわけだ。


「全く、最後のチャンスだったというのに、融通のきかん奴らじゃのう」


 エロジジィは後ろを伺いながら、ぶつぶつと文句を言う。

 まぁあたしは別にいいけど、結局ソレは諦めたみたいだね。


 エロジジィは来た時と同じ、フェンリルの引く馬車に揺られながら帰っていった。

 ……てか、引くのがフェンリルなら馬車ってのも変な話か。

 フェンリル車? 長いね。神獣だから神獣車……てか獣車でいいか。





「やれやれ、やっと帰ったか」


 遠くはなれていく、獣車を眺めながら、ショタがそんな事を口にした。

 で、振り返るなり、これみよがしにため息を吐き出す。


「あの爺さんに付き合うのは中々骨だな」


 中々の毒だね。まぁあんなエロジジィ、相手すんのが疲れるってのは同意だけど。


「アキバ兄? いや、びっくりだな。中々親しげにも思えたのだが」


 馬鹿が馬鹿らしい、馬鹿な台詞を吐いた。


「ふぅ。お前は本当に素直すぎるぞ。まぁそこがいいとこなのかもしれないが」


 にっこりと微笑む、このショタも裏表はありそうだけどね。

 まぁでも一応。


「チヨダーク侯爵殿下。此度は色々とご足労頂いたようで――」


 そう言ってあたしが頭を下げると、いやいや、とショタが口にして。


「こっちもかなりお布施や奉納など協力しているのだからな。これぐらいは聞いてもらわないと」


 後頭部を擦りながら、口元を緩めた。普段から行ってる根回しの御蔭ってとこなのかね。


「いやしかし、それでもマリヤ一人でゴブリンを何とかするなど……やはり不安が」


 馬鹿が腕を組み眉間に皺を寄せた。まぁ心配してくれてるってとこなんだろうけど。


「あっはっは。それなら大丈夫だ。確かにマリヤにも頑張って貰う必要はあるが、此度の試練には私に使える騎士の一人が同行する事になっている」


 うん? なんだ、そうなのかい?


「え? アキバ兄の? 本当かいそれは?」


 馬鹿も同じ事を思ったみたいだね。


「あぁ。勿論教会との絡みもあるから、建前はマリヤの監視兼見極めの為の同行だ。マリヤの実力を証明するものが必要だからな。まぁ、とは言え、もし危険が及ぶようなら助けに入る手筈だ」


 なんだそうだったのか。まぁあたしとしてはどっちでも良かったんだけどね。


「それならそうと早く言ってくれればよかったのに」


 馬鹿が拗ねたような口調で言う。


「あの爺さんがいる前でそんな事は言えないだろう? それにその話だってあくまでいざとなったらで、基本的にはマリヤ一人に頑張ってもらわないといけない。まぁとはいえ――」


 馬鹿と会話していたショタが、あたしに顔を向けてくる。


「正直あまり心配はしてないけどな。いやいやしかし、マリヤがそれほどの腕前を持っているとは私も実は少々驚いているよ」


「腕前でございますか?」


 あたしは首を傾げるようにして聞いた。よく考えたらこのショタは、あたしの力もみてないはずなのに、なぜそう思ったのかちょっと疑問だった。


「ワーウルフの件だよ。いやギルドとカグラから聞いて驚いたよ。大活躍だったそうじゃないか」


 あぁそういう事か。納得だ。どうやらギルドからの報告とやらはしっかりこのショタの耳に届いていたようだね。

 あたしに関してはマセコの話のほうが大きいのかもしれないけど。


「まぁだから私としてはあまり心配はしていない。ゴブリンはワーウルフに比べれば大したことのない相手だしな」


 そう言ってショタが肩を揺らした。


「横から失礼いたします」


 お? 犬が出てきたね。


「チヨダーク侯爵殿下。そのワーウルフの件なのですが、犯人の詳細はお判りになりましたでしょうか?」


 あぁそういえば結局アレはそれっきりだったな。相手の事は何も判らなかったんだっけ。


「うむ。ギルド側の報告によると、どうやらギルドに所属する冒険者では無かったようだ。それどころか盗賊紛いのことまでやっていたような連中だったようだな。まったく私の領地でこのような事件が起きるとは嘆かわしく思うよ」


 ショタが溜息混じりに言って、頭を振った。

 まぁつまり犬が前に言ってたみたいに相手は自称冒険者だったって事なのかなっと。


「そうですか……」

 

 うん? 犬はどうもはっきりしない顔をしてるね。


「……ちなみにその止めを刺したという者についてはまだ調査中ということでな。ただ盗賊家業にも手を出してたとなると、同じ仲間による手と考えた方がいいであろう。奴らは素性やアジト(隠れ家)を知られるのを最も恐れているからな。情報が漏れるぐらいならと口封じぐらいはお手のものだろう」


 ショタの説明に犬が頷いて。


「不躾な質問だったにも関わらず、丁重な御回答恐れいります」


 犬がそう言って深々と頭を下げた。どうやらあの犯人について気になっていたようだね。

 まぁでも一応納得したってとこなのかな。


 で、それから馬鹿も少しショタと話した後、立ち話も何だからという事で屋敷に戻ろうと促すけど。


「おっと。その前にマリヤに持ってきたものがあるのだよ」


 ショタがあたしに顔を向けて笑顔を浮かべた。て、なんだろう?

 そんな疑問を他所にショタが自分の乗ってきた馬車を呼びつける。


 そして、目の前までやってきた馬車の扉を開けて、荷物をみせてくれた。

 て、これは――


「マリヤ、私の街で色々と買い物をしてくれたのであろう? その中で持ち帰れなかった分を私の方で引き受けた」


 そうだそうだ。あたしもどうなったのかな? とは思っていたけどね。異世界は届くまでに一ヶ月とか平気でかかるみたいだから、仕方ないかなって待っていたんだけど。


 まぁそんなわけで荷物は屋敷の前からメイド達に運んでもらう。


「品物には新しい服もあるのだろう? 良かったら私もみてみたいものだな」

 

 そう言ってショタが笑った。つまり後で着替えて見せろって事か。まぁ別にいいけどねっと。





◇◆◇


「マリヤ様! そのお召し物……とても素敵ですわ! このようなデザイン、私みた事がありません」


 結局新調した衣服のお披露目は、夕食時に行う事となった。ま、皆が集まるったらやっぱこういう場だしね。

 

 で、メイド長がやたら興奮してるけど正直自分ではあまりそうは思っていない。寧ろこれでやっと元通りって感じだ、


「マリヤ様素敵なの! これぞビッチ! て感じなの!」


 うん。まぁ多分こいつはただビッチって言いたいだけなんだろうけどね。間違ってないけど。


「マ、マリヤ様、マリャ、さ、ま」


 モジオはよりいっそうもじもじして目も合わせられないって感じだね。そこまでか? 一応ショタがいるからって抑えてるつもりなんだけどね。


 まぁスカートは確かに超ミニか。でもへそ出しルックはやめておいたけどね。

 だから上は袖なしで脇の大きく開いたトップスで済ましておいた。当然胸も強調。

 

 あぁやっべぇすっげぇ開放感。久しぶりかもこの感じ。

 て、ショタが目を瞬かせているね。でも目線はあきらかに谷間に向いてる。

 やっぱおっぱい星人だなこいつ。


「いや、しかしこれはまた、奇抜な、だが、これは中々ありかもしれぬな。動きやすそうであるし、私の街でも広めてみようか」


 暫くは呆けていたショタだけど、表情を戻して笑みを浮かべるなり、そんな事を言ってきた。

 で、そのまま視線をスラパイに移して。


「うむ。婦人もよく似合っている」

と顎を引いてみせる。


「いや本当にマリヤもアリスも変わってはいるが、とてもよく似合っていると思うよ」


 馬鹿も後に続いて褒めてきた。まぁあたしはともかく、スラパイはまだ照れがあるっぽいね。


「なんだか、お恥ずかしいです」


 両頬に手をあてて、ポッと赤面してるけどね。でもまぁスラパイはあたしほど露出の高い格好はしていない。


 あたしとはタイプが違うからね。仕立ての時に興味をもっていたから、色々話して決めたんだけどね。

 裾の広がったフレアータイプのスカートに、リボン付きのブラウスって感じだ。袖は二の腕が隠れるぐらいまで。

 

 あたしからしたら全然大人しめだけどね。

 胸の部分はチラッと空けてるけど。やっぱり良さは生かさないとね~っと。


 まぁそんな感じにファッションの事もちらほらと話しつつ。


「ところでカグラ様はお元気でしょうか?」


 と、これはスラパイの言葉。そういえばショタの乗ってきた馬車には別の御者が付いてたな。


「えぇ元気です。今は暇を与えていた為、今回の旅には同行しなかったが、いずれまた来ることもあるだろう。本人もとても会いたがっていたようだしな。随分皆様の事を気に入ったようだ」


 ふ~ん。まぁ元気でやってるんだねっと。


「私も気になっておりましたので、それを聞けて安心いたしました」


 一応ショタにはそう返しておく。そしたら、特にマリヤの事を実の姉のように慕っているようだ、って笑って言ってきたけどね。

 まだ、おねぇ様ふふ~んとか言ってんのかねぇっと。





◇◆◇


「それじゃあ試練の件は期待してるよ」


 次の日にはあたしにそう言い残して、ショタは領地に戻っていった。

 話だと騎士とはヨーツヤの町で合流し、それからゴブリンの巣食う山道に向かって欲しいとの事だった。


 で、それからは結構慌ただしかったね。何せまるで冒険者のような事をしてくれと言うわけで、当然それなりの装備品が必要になる、と犬も馬鹿も方々を駆けまわったようだ。


 勿論装備に関してはあたしからも色々注文はしたけどね。でもこれに関しては犬が良く汲みとってくれて――


「どうでしょうかマリヤ様?」


 あたしは自室の姿見で今の格好を確認する。

 正直ショタが荷物を運んできてくれたのは助かったかなっと。


 だってミニのスカートはそのまま使うことが出来るからね。何せこれ、動きやすいし。

 馬鹿は短すぎなのを心配してたみたいで、パンツの方を薦めてきたけど、その選択肢はあたしにはなかった。


 理由は簡単で、いざとなったら股を開けるものがいいって事。

 で、動きやすいようにと脚には膝下までカバーされた革のブーツとシャツの上からは同じく革製の鎧。

 

 犬が護衛の時に身につけるようなゴツイのは勘弁してほしかったし、股の件もあるからね。それにワーウルフに変身するときは革のほうが着たままでもオッケーみたいだし、何より動きやすい。


 まぁ犬からしたらこれは鎧というより胸当てにあたる部類らしいけどね。

 まぁ見た目もビュスチェって感じで胸元もしっかり開いてるし。

 

 武器に関しては迷ったけど、大剣はやっぱゴツイし持ち歩くのに不便だから、片手でも扱える長剣にしてもらった。

 股にしまっておけばいい話っぽいけど、出す時間も考えると、やっぱ腰に吊るしてたほうが良さそうだし。

 で、こっちの腕は馬鹿のを知ってるし、問題ないだろうしね。


 さて、これで装備も整ったねと。

 

 そして次の日の朝には色々確認をとって、で、外の馬車に乗り込んでいよいよ出発となるわけだけど。


「マリヤ。やはり私は心配だ君に何かあっては……」


「大丈夫ですよメルセルク。向こうにはチヨダーク様に手配して頂いた騎士もいるようですし」


 馬鹿の心配は収まらないね。大丈夫だっつの。


「あのマリヤ様。これを――」


 スラパイが瞳を潤わせながら差し出してきたのは、首にかけるタイプのクロス(十字架)だ。


「どうか神のおぼしめしを……」

 

 スラパイって結構信心深いのかな? でもあのドングリにそこまで期待するのは酷な気がするよ。


「マリヤ様。このアレックス! ピンチの際には必ず駆けつけますので!」


「そうですか。絶対ですね?」


「え?」


 て、戸惑うぐらいなら言うなや! 大体隣近所に行ってきますって話じゃないんだからムリだろって。


「マリヤ様……私、私、やっぱり耐えられません! こんな離れ離れになるなんて、こんな……」


 いやメイド長。今生の別れってわけじゃないんだし逆に不吉だからやめてくれ。

 付いていきますわ! 付いていきますわ! って駄々っ子じゃねぇんだから。


「マリヤ様頑張ってなの! ビッチは無敵なの!」


 うん。ロリパイ。お前は色々ビッチを勘違いしてるぞ。


「マ…………」


 いや! 何か言えよ! モジオはいつも以上にモジオだな!


 まぁそんな感じで、他にも多数のメイドに見送られながらあたしは馬車に乗り込んだ。

 それなりに日数もかかるし、まぁ少しの間はこの屋敷ともお別れかな。


 でも一人は随分久しぶりかもね。それはそれで気が楽かなっと――

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