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45話

 あたしを呼ぶ声が聞こえたから振り向いてみると、スラパイとメイド長が馬に乗ってこっちに向かってくる。

 そういえばスラパイは、あのペガサスの一件以来、乗馬にハマったって話だったな。

 

 メイド長に関しては元々乗れたのかな? ユニコーンの時も馬の扱いには慣れてそうだったし。まぁ、もうメイド長もユニコーンには近づくことが出来ないだろうけどね。


 で、二人とも見事な馬さばきで近くまでやってきて、手綱を引いた。

 軽く馬が嘶いて脚を止める。


「良かったですわ。まだ狩りの途中でしたのね」


 そう言いながらスラパイが馬を降りた。て、うん? なんか背中に矢筒と弓が見えるね。


「まぁね。と言っても目的の一つは達成したけど」


「目的でございますか?」


 メイド長が疑問気に言ってきたから、あたしは簡単に説明する。


「そうでしたか。ですが流石は愛しのマリヤ様! そのような力をお持ちとは、やはり神の使いですわね」


 胸の前で手を組み合わせて、なんかウットリとした感じにメイド長が言うんだけどね。


「いや、だから神の使いは違うっての」


 苦笑いを浮かべながらそう返した。メイド長にも例の件は説明はしてるからね。


「でも、それでしたらもう戻られてしまいますか?」


「う~ん。いやまだかな。折角だしもうちょいウロチョロしてみようかなって」


 あたしがそう言うと、スラパイが、良かったですわ、と喜ぶ。そういえばこいつとも最近はずっと素で話してるな、

 メイド長と一緒に相手したとき、つい素がでちまって、それからはスラパイも、その口調で接してくれた方が私も嬉しいですわ! なんて言うから、そうするようになったわけだけどね。


 てか、こうなると本格的に知らないのは馬鹿だけになったな。なんか除け者みたいになってるけど……ま、別にいっか。


「私、折角ですのでマリヤ様に特技を披露しようと思って参りましたの」


 特技? てかまぁ背中のソレみりゃ、何かは何となく判るけど。そういえば前も弓がどうとかって話もあったしね。


「それでしたら私も昨日の晩から用意しておいたものがございますので、そちらから如何でしょうか?」

 

 メイド長がニッコリと微笑みながら言ってきた。なんでまぁ折角だからそっちから見にいってみることにする。


 二人は馬をその辺の適当な木に繋いで、その後はあたしとスラパイ、そして犬がメイド長の後ろについて歩いて行く。なんか変なのも目につくけど、まぁそれはどうでもいいかなっと。


「あ、ありましたわ! 良かった! 掛かっております」


 そう言ってメイド長が何かに駆け寄るからあたし達も後に続く。

 するとそこには、四肢をロープのようなもので括られた、耳の長いウサギが捕らえられていた。てかこれって?


「昨晩のうちから私がトラップを仕掛けておきましたの」


 マジかよ。


「それから更にメイド長と歩き、小さな猪みたいのや、首の長いガチョウみたいな鳥がトラップに捕らえられているのを見つけた。


「うん。中々の収穫ですわね」


「てか、これ全部メイド長が仕掛けたのかい?」


 あたしが思わず目を丸くして聞くと、彼女はあたしを振り返って笑みを浮かべる。


「これぐらいはメイドの嗜みですわ」


 凄いなメイド!


「これはメイド長ばかりにいいところは見せて置けないですわね」


 スラパイが無駄に対抗心をもやした。仲はよくなったんだけど、こういうところは気にするんだね。


 で、スラパイが弓を取り出して、身体の向きを変える。

 そして弦に矢をあてギリギリと引き始めた。


 て、どこ狙ってんだ? 何も見えないけど――と、思ってたらスラパイが矢を射った。心地よい風切音を奏で、あっというまえに矢が視界から消える。


「……やった! やりましたわ!」


 マジか! てかどこ!?


 というわけであたし達は、獲物を仕留めて鼻歌まじりに歩くスラパイの後を追う。


「これですわ!」


 声を弾ませて指をさすスラパイ。で、確かに渦巻状の角をもった鹿みたいのが倒れている。


「ほうスパイラルホーンですか。しかもこの大きさ。いやいや奥様、大したものです」


 言いながら犬が身体を揺らして笑うけど、まぁたしかに大きいね。

 クリスマスにプレゼントを配って回るっていう、偽善おっさんの操るトナカイぐらいあんじゃないのかな。


 う~んでも……。


「これって矢はどこに刺さったんだ?」


 見たところ、どこにも刺さった様子がないんだよねぇ。


「刺さったというよりは、抉って入り込んだというのが正しいかもしれませんわね」


 抉る? 入り込む?


「て、一体どこから?」

「肛門ですわ」


 すげぇなスラパイ!


 おいおい、そもそも射った場所からここまで百メートル以上はなれてんぞ! おまけにそこらに木が生えまくってるのに、その間を通してって……超人か! オリンピック出れんだろ!


「どうですメイド長? 私も中々のものでしょう?」

 

 うん、勝ち誇った目をして大人げないなスラパイ。


「確かに……奥様の弓矢の腕は素晴らしい物と思います。ですが私には――」


 そう言って、突如メイド長が自らのスカートをバサッと捲り上げる。て、マジで何やってんだ! 犬の目が釘付けだぞ!


 しかも身につけてる下着も中々エロいのな。まぁ流石にノーパンって事はないか。

 とか思ってたらまた風切音。そして、カツッ! カツッ! カツッ! と三回、何かの刺さった音が鳴り響く。


「ウフッ」

 

 となんか弾んだ声を発して、メイド長がソレに近づいていく。で、木に刺さったソレを抜いてまた戻ってきた。


「捕れましたわ」


 笑顔を浮かべながら見せてくれたのは三本のナイフ。

 その先には、赤黒い斑模様の入った蛇、丸々と太ったトカゲ、そして何か肉の塊で周りからウネウネと動く触手の生えた……て、何これ! キモ!


「メイド長、ナ、ナイフなんて持ち歩いていたのかい?」


 正直ウネウネ動くソレが気持ち悪くて仕方ないけど聞いてみる。


「はい。外出時、太ももに投げナイフ仕込んでおくぐらい、メイドの嗜みですわ」


 パネェな! てかそれメイドの嗜み関係あんのかよ!


「てか、それ食えんの?」

「珍味ですわよ」

  

 そんな笑顔で言われてもなぁ。


「むぅ。流石メイド長ですわ。以前は冒険者だった事もあるだけありますわね」


 へぇそうだったんだ。て、はい!?


「え、何メイド長って冒険者だったの?」


「お恥ずかしながら」


「メイド長は元々の生まれはこちらではありませんからな。メルセルク様の下で仕えるようになって十年ぐらいになりますか」


 て、事は二十歳になるまでは冒険者なんかもやってたってわけかなるほどね。


「あら? マリヤ様お怪我を――」


 うん? あぁそういえば手の辺りがちょっと切れてるね。歩いてる時に葉っぱか何かで切ったかな?


「大変ですわ。早く治療しませんと」


「いや大した事ないよ。舐めてりゃなおんだろ」


 ほんとかすり傷みたいなもんだしね。


「駄目ですわ! マリヤ様の綺麗なお肌がそのような……私堪えられません!」


 そう言ってメイド長があたしの手を取った。つってもな、こんなとこで何をする気だ?


「すぐ済みますので」


 そう言ってメイド長があたしの傷口に手をかざすと、何か暖かくなって……て、これって確か――。


「はい、これでもう大丈夫ですわ」


 ニッコリと微笑むメイド長。で完全に傷がきえたあたしの手。って!


「凄いじゃん! 何これ! 治療魔法ってやつだろ!」


「メイドの嗜みとして治療魔法ぐらい――」

「いや! もうそれはいいよ! てか最早たしなみとか言ってる次元じゃねぇだろ!」


「そういえば私も治療魔法が使えるなどとは存じておりませんでしたわ。でも凄いですわね」


「うむ。このアレックスも初耳ですな。いやしかし、これは凄い」


 スラパイと犬も感心したように言う。二人も知らなかったのかよ。


「そ、そんな! 私の治療魔法など大した事はございませんわ!」


 何か急に恥ずかしがり始めたな。顔赤くして両手を振って。


「いやマジ凄いだろ。これで怪我しても何の問題もないって事だろ?」


「あ、いえ流石に私程度の治療魔法ではそこまでは……」


 うん? そうなんだ。あぁでもまぁそんなに万能な力があったらこんなとこでメイドしてないか~。


「じゃあどれぐらいの事は出来んの?」


 ちょっと興味本位で聞いてみる。


「そうですわね。擦り傷、虫さされ、歯痛、腹痛ぐらいでしたらなんとか――」


 頬に手を当て応えてきたな。

 うん確かに地味だ。地味だけど微妙に万能だ。


「それにしてもナイフ投げ、トラップ、それに治療魔法って確かに冒険者向きっぽいなぁ。なのになんでやめたの?」

とつい言葉に出てしまったんだけどね。


「……やはりそこはマリヤ様も気になりますか――」


 うん。なんだこのデジャヴュ。


「あ、ごめんやっぱナシ。今のナシ。興味なっし~」


「えぇええぇええぇえぇ!」


 反応まで似てんなおい。いやほんと人の過去話とかどうでもいいんだわ。だったら振るなって話だけどね。


「だってどうせアレだろ? 仲間の冒険者がなんか死んだとかどうせそんなんだろ?」


 定番だしね。騎士だろうが冒険者だろうが万国共通。


「そのようなことでは……」


 ショボーンとした感じに応える辺りが、犬よりは可愛らしいけどね。


「だったらアレかい? メイド長も好きだった男に振られたとかそんなん?」

 

 て、流石にそれはないか。いくらなんでもそこまで――


「…………」


 うん、顔そむけて黙ってしまって……て、お前もかよ! なんだこいつら! なんで経験の無かった奴に限って原因が恋愛関係なんだよ!


 で、犬がなんか判る判るって頷いてるね。


「犬。良かったな仲間がいたじゃん」


 あたしがそう言うと、マリヤ様! と犬が叫ぶ。うん? どうかしたか?


「あのマリヤ様、犬、というのは?」


 ……あ!? そうか。しまった。あ~あ、まぁいっか。


「うん。あたし普段はそう呼んでるんだよね」

と言って笑って誤魔化してみる。


 けどマリヤは、まぁ、と口元に手を当てて驚いてるみたいだね。

 まぁそれもそうか、仮にも専属騎士に流石に犬は……なんか言われっかね。


 て、なんかスラパイが犬にツカツカと歩み寄っていくね。笑顔で。


「犬、お手」

「奥様ぁあぁあぁあ!」


 ……スラパイの順応性をちょっと舐めてたね。


 で、今度はメイド長が近づいていって。


「犬。あたしの脚をお舐め」

「メイド長ぅうううううぅ!」


 やるなメイド長。意外と才能があるかもしれない。


「犬」


 あたしが呼ぶと、ワン! マリヤ様! と振り向いた。いいねもう遠慮がいらないし。


「二人の命令を聞いてやれ」

「えぇぇ~~~~」





 二人の命令を実行した犬は、その後ふらふらと奥の木々の近くに歩いて行って座り込んでしまった。

 しかも体育座りだ。こっちでもあぁいう座り方するんだな。

 ……てかいじけちゃったのか?


「ちょっとやりすぎてしまったかしら」

「私も少しからかうぐらいのつもりだったのですが」


 いや、スラパイはともかく、ちょっとからかうで脚を舐めろは無いだろう。


 まぁとはいえ、全くウザったいね。仕方ないから犬の側まで行く。何かブツブツ言ってるね。


「――主の奥様にお手を、さらにそのメイド長の脚まで、いやしかし、これはこれで中々興奮して……」





「よしあいつは放っておいて帰ろう」

「え!? いいのですの!」


 いいんだよ。てか、あいつが変態はいってたの忘れてたよ。


 ……と、言いたいところだけどね。まだやっておきたいこともある。流石に一人では残してはくれないだろうしね。


「とも思ったけどやっぱり二人共先に戻ってもらってていいかな?」


「え? それでしたら私達も……」


「いや、全員遅くなったら、ば……メルセルクも心配するだろう? メイド長も夕食の準備があるだろうし」


 スラパイが、そうですか、とちょっと寂しそうな顔を見せるけど。


「わかりました。確かにこれだけ食材が増えたなら、そろそろ準備も始めねばいけませんしね」


 メイド長が納得を示し、そうですわね、とスラパイも笑みを浮かべた。

 

 ただ問題は、この狩ったものをどうするかだね。あたしはここにまだ残るし。


「馬で運ぶにはちょっと大きいですね……」


 メイド長も少し悩んでる。

 まぁだったら仕方ないね。


「おい二十秒!」


 あたしがそう叫ぶと奥の草の一部が揺れた。


「いるんだろ? さっさと出てくるんだね」


「…………」

「早く!」

「は、はいぃい!」


 て、わけで二十秒が影から出てきた。


「尾けてきてたのはあんた方でしたの」


 うん? メイド長も気づいていたんだね。流石。てか声が尖ってるな。あぁ、まぁそれはそうか。


「でもどうして私達を尾けてなど?」


「そ、それは違います! 我らは教会の人間として監視は必要ですので、屋敷の外に出られると耳にしてそれで……」


 あぁなるほど、メイド長が逃げないようにって事なのかい。無駄な心配なのにねぇ。


「そういう事かい。ふ~ん。まぁ丁度いいや。あんたら二十秒でこれ全部運んでよ」


 二十秒がそろって、え!? て顔をした。いいだろうが、もう何の役にもたってないんだからそれぐらいしろ。


「ところでどうして二十秒ですの?」


 スラパイが疑問符の付いた顔で言う。説明がメンドイね。てかメイド長が笑ってる。

 あ、そうか、あの時近くにいたしな。


「さてと……それでは二十秒。この荷物、さっさと運んでもらえますかしら?」

 

 メイド長がかなり強気な発言で、二十秒に命じ出したね。


「ふ、ふざけるな! なぜ我らが貴様のような下女の命令など!」


「いいからさっさとしろ。股間にナイフぶっ刺すよ!」


 ……もしかしてアレがメイド長の素か? てかやっぱ大分腹が立ってたんだね。


「おい二十秒。メイド長は今はあたしのメイド長でもあるからね。いうことはちゃんと聞けよ」


 また、え!? て顔してるけど、ちょっと睨み聞かせたら素直に作業に入り出したね。


「それではマリヤ様~また後で~ですわ~」


「腕を振るって夕食を作っておきますので~」


 あたしに手を振りながら二人は馬に乗って屋敷へと戻っていった。そのあとを荷物を持った二十秒が追っていってる。ほら急げよっと。


 で、皆が見えなくなって、暫くは犬とちょっと手合わせみたいのをしてみた。

 ずっと屋敷にいると身体も鈍っちゃうしね。で、いよいよ日も完全に落ちたねっと。


「ところでマリヤ様。これから何を?」

 

 犬が聞いてきた。まぁ確かに気にはなるだろうね。


 でもまぁそれもすぐわかるだろうしっと、さて始めるとしますか――

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