40話
当然あたしがここでいくら魔女じゃないって言い張ったところで、この険悪な雰囲気が変わることはなかったわけだけど――
「私達も当然納得が出来ません! この身にかえてもマリヤは守りぬきます!」
そんなあたしの前に立って馬鹿とスラパイが支部長に言い放った。
そしたら支部長がまた一つ息を吐いて何か言い始める。
「ならば仕方ありませんな。多少強引になりますが……お前たち! そこの魔女を捕らえよ! 暴れるようなら腕や脚の一、二本斬ってしまっても構わん!」
構うわ! 何言ってんだこいつ! て、そのために後ろのなんか鎧来た奴らいたのかよ!
てか、命令されるなり一斉にこっちに向かってきてるし! ちょまっ!
「おねぇ様は私が守ります! ユニコーン!」
と、そこで、ヒヒィイン、とユニコーンが嘶きマセコの前にやってきた。
あたしを捕らえようと動き出した騎士達の前に立ちふさがらせたってわけだ。
ナイスだマセコ!
「メルセルク様!」
「おう! アレックス!」
いつの間にか大剣を持ちだしてた犬が、馬鹿にも剣を渡して、一緒に相手の騎士を食い止めにかかっている。
やるね。皆。うん、そうだね。こうなったら!
「さぁマリヤ様! はやくお逃げに……て、はや!」
犬の声を背中に受けながらあたしはとっくのとうに駆けていた。言われるまでもないってのマジで! 魔女裁判とか嫌なイメージしかねぇし!
「むぅ脇目もふらず逃げに走るとは! やはりあやつは魔女だ!」
へへ~んだ、なんぼでも言ってろ! ば~かば~か。逃げるが勝ちって言葉もあんだよ!
「フッ、だがそれぐらい想定の範囲内よ!」
どこの社長だよテメェは! て、うん? なんか空中からヒュルル~、って何かが落下してきてる音が。
で、顔を上げると……炎の――弾? て! マジかよ!
「うわ、ちょっ!」
思わず変な声を出しちゃったじゃん! てか、炎の塊みたいのが上から何発も落ちてきて、すげぇうるせぃし、土埃が舞い上がるし、衝撃とかで髪が乱れるし何だコレ! 最悪だ!
て、おいおい、なんとか避けたけど、着弾したとこ、めっちゃ穴あいてんじゃん! 何コレ!? クレーター!?
「あっはっはっは。愚か者が! こんなこともあろうかと我がトーゲン教屈指の魔術師たちを後方に待機させておいたのだ!」
魔術師? あぁそういえば魔法とかもあんだったね……てかこいつらトーゲン教て言うのかよ! 何それダッサ! ギャグかよ!
「ふふっ。どうやら驚いて声も出ないといったところか。だがそれで驚くのはまだ早いぞ! 今度は私自ら魔法の力を見せてくれようぞ! むふふ、久しぶりで胸が高鳴るぞ。さぁどうする? 観念するか?」
……参ったね。もし日が落ちていたなら、なんとかなったかもしれないけど、この状況で魔法とか見せられたら……だったらここは素直に一度……そうだね。そして隙を見て――
「判りましたわ。わた――」
「そうか! 観念せぬか! 強情な奴め! ならば仕方あるまい!」
て、聞けよ! なめんなテメェ! て、なんかブツブツ一人でつぶやいてるよ。怖いなこいつ!
「さぁ恐怖に戦くが良い!」
うん? なんか突然両手を前に付きだして……て! なんか巨大な火の玉が手から放たれたよ! 冗談だろ!? さっきのアレでもヤバイのに、こんなん喰らったら死ぬだろう!
捕まえる気ゼロじゃん!
「さぁ! どうする魔女め! わが最高の魔法! 対向する手段などあるまい!」
くそ……馬鹿とかがあたしを呼ぶ声が聞こえるけど、あっちも手一杯って感じでアテには出来そうもない。けど――
なんだこれ? 確かにデカイけど、そんなに早くない! これなら!
ヒョイッと! よし避けた! へへ~んだ。でかくてもあたらなければ。
「愚か者が」
て、支部長ってのがニヤリと笑って、何だボケたの、かぁ!?
な、なんだよこれ! また戻ってきた! お、追いかけてくる!?
「馬鹿め! 我が魔法によって生成された炎弾は、目標を捕らえるまでは追いかけ続ける! おまけに速度も上がっていくぞ!」
マジかよ! てかマジだ! なんだこのファンタジー! 冗談だろ! と、とにかく逃げ……って。
「キャッ!」
いてぇ、てかまた変な声出ちまうし。てかなんでこんなとこでコケ、って草が脚に絡みついてる! まさかこれも魔法かよ……。
「万事休すといったところだな。まぁ安心しろ、地獄の業火に焼かれるほどの苦しみは味わうだろうが、死ぬまでには開放してやる!」
何いってんだコイツ! くそ、絶対S野郎だこいつ。なんか楽しそうだし……でも流石にヤバイか。もう目の前に迫ってるし。
あ~あ。意外と早かったなぁ……あたしもいよいよこれまでか――て! そんな筈ないじゃん! 諦めてたまるかって! でも、どう、どう、て、そうだね。もうこれに掛けるしか無い!
「な、何だと! き、貴様気でも触れたか!」
触れてないね。こっちは大真面目さ!
「クッ! このような状況で! やはりとんだ淫売だな! だが、それもいいだろう! ならば我が魔法でその醜悪なものを浄化してくれよう!」
顔を歪めてがなりだす支部長以外にも、ざわざわした声が聴こえてくるねぇ。でもそれも仕方ないか。
けれどね! もうあたしにはコレに掛けるしかないのさ! さぁ来な! 魔法だろうとなんだろうとこの広げた股で乗り切ってみせる!
さぁ! 吸込めぇえええぇええぇえ!
◇◆◇
迫り来る炎! 倒れるあたし! そして広げた股!
と、いうわけで。いやぁまぁ本当一か八かって感じもあったんだけどね。
うん。現状。皆なんかポカーンって顔して、シーンと鎮まり返ってるね。
馬鹿や犬とやりあってた騎士たちもすっかり動きを止めてるよ。
まぁそれもそっか……結論で言うと炎の玉は見事に吸い込めた。そりゃもうスポッとね。
まぁ某掃除機が千台掛かって来ても勝てないこの吸引力は伊達じゃないって事だね。
うん、まぁ勿論たとえだけど、でも流石に自分で目が点な部分もあるよ。
だってあの大きさの炎がね……まぁ玉の状態で吸い込まれたわけじゃなくて、股に近づいた瞬間、炎がキュッと絞られたみたいになって吸い込まれていったんだけどね。
いやぁすげぇすげぇ。こんなもんまで吸い込むなんてマジでブラックホールって感じだわ。てか今この中どうなってんだろ? ちょっと気になる……。
うん。しかし皆沈黙だね。あの司祭みたいな支部長って奴に関しては出目金みたいに瞳を見開いてるよ。うけんなマジで。
自信のあった魔法がこんな事になって驚きを隠せないってか? ざまぁねぇなあ。
てかスラパイと馬鹿もちょっとあんぐりって感じだな。マセコはなんか頬が赤いがここは突っ込まんどこ……。
で犬はまぁ、普通、というか頭抱えてんな。あいつはこの能力知ってけど、人前では晒さないほうがいいとも言ってたからね。
でもしょうがないじゃん! やんなかったらマジ黒焦げだぜ! 使いもんにならなくなってたよマジで。
てか……今なにげにチャンス? 皆呆然としてるし、逃げるなら今のうちに――
「お、おま、な、なな、なん。おま、おま……」
あちゃ~。遅かったかな。なんか支部長が指さしてきてわなわな震えてるし。てかこの状況で、おまおま、って卑猥以外の何物でもねぇな。
「お前は一旦なんなんだぁああぁあ!」
ビッチです。
とも言えないしなやっぱ。
「マリヤ・メルセルクでございます」
とりあえずにっこりと微笑んでおいた。
「そんな事を聞いとるのではないわぁあぁあ!」
あ、やっぱり?
「というか、下着をはけぇえええぇえ!」
地面に脱ぎ去ったあたしのパンティー指さして何言ってんだこいつ?
「ご遠慮いたしますわ」
満面の笑みで返す。
「いや、何いってんのあんた!」
だって脱いでないと能力発揮できないじゃん。
「落ち着いてください支部長!」
チッ。またメイド長が出しゃばってきたよ。てかしっかりガキ達の目を塞いでる辺りは流石だな。
「よ、よくお考えください! どう考えてもこの妙な力こそが! この女が魔女である証明ではございませんか!」
余計なことを言うなよマジで――
「そ、そうよ! こんな如何わしい真似をするのは魔女以外考えられないわ!」
ホウキ持つ代わりに、股ひらく魔女なんて嫌だろ。
「その通りよ! きっとこの力で男どもも意のままに操っているのよ! 魔女よ! こいつは魔女なのよ!」
なんか周りが騒がしくなってきたね。てかこれ状況悪化してきてるような……やべぇやっぱ逃げるしかねぇかな。
「マリヤ・メルセルク! 確かに貴様のその力、魔女以外の何物でもなし! ましてや、そ、そのような醜悪なもので我が魔法を……神を冒涜する愚劣な行為である!」
ざけんな! てめぇの顔のほうが醜悪だろうが! あたしのは名器とも言われるぐらい立派なもんだよ!
「よって教会の名を持って――」
「お待ちくだされ!」
おっとここで口を挟んできたのは……犬ぅううぅう! おお、なんか真剣な顔だし! いいぞ犬! 主がピンチなんだからここで名犬ぶりを発揮してくれ!
「騎士のアレックスか。なんだ突然叫びだしおって。まさかこの状況においてもまだこの女を匿おうというのか!」
「勿論でございます。なぜなら、そこのメイド長は先ほどマリヤ様がみせた力こそが魔女の証明と申しておりましたが、それは大きな間違い! むしろ真逆でございます」
犬の発言に支部長は目を丸くさせた。てか犬、何をいうつもりなんだ?
「真逆とは……また妙な事を。ならば貴様はこの女は一体何者だというつもりなのだ!」
「はい……実はこれはマリヤ様からは固く口止めされていたことなのですが……マリヤ様は……」
「マリヤ……」「様は?」「私のおねぇ様ふふ~ん、です~」
馬鹿とスラパイとマセコも興味深げに声を出した。てかマセコは何か違う気もするが。
「か、神の使いなのでございます!」
「…………」
犬……それは迷犬すぎるだろ。そんなバーン! て効果音が付きそうな勢いで言われても……なんかすごくシラ~っとした雰囲気になってるし……。
「……お前、言いたいことはそれだけか?」
「いや! 本当でございます! 私は確かにマリヤ様から聞きました! 彼女は神に選ばれ他の世界よりこの世界に送られた使者なのです!」
――ま、まぁ、ものはいいようとも言えるか……確かに神の力で(無理やり調教して)送られたと言えなくもないからね……。
「大体よくお考えください! いくら魔女だからとあのような力をつかえると思えますか? あのような力、魔法でも考えられない未知のもの! 正しく神の神秘と言える力であり――」
「戯言ですわ!」
ここでメイド長が口を挟んできた。目を尖らして唇をわなわなさせてる。
「この女が神の使いだなんてそれこそ神を冒涜する話です! 大体神の使いが人前で股を開くなど……そのようなはしたない真似をするわけがありません!」
と言われても能力がそうなんだから仕方ねぇだろ。
「……確かにメイド長の言うとおり! 貴様のその発言! よりによって教会を前にして……アレックス! そこの女と同じく罪にとわれても……」
「お待ちください!」
くそ! なんかまた嫌な方向に進んでるし……かなり無茶な気がするけど、もう乗っかってみるしかないね!
「……アレックスのいっている事は全て事実でございます。事情があり隠し通すつもりではありましたが仕方ありません」
支部長の瞳が再び尖ったね。眉間になんか皺もよってるし。
「つまりマリヤ・メルセルク。貴様は魔女ではなく神の使いであると申されるのだな?」
「さようでございます」
あたしはこれでもかってぐらい真剣な眼差しで支部長を見た。はったりも大事だしね!
「……面白い! だが! そこまでいうからには何か証明できるものがあるのであろうな! まさか先ほどの妙な力だけで証明などと――」
「勿論ございます」
あたしは支部長が全てを言い終える前に言葉を重ねる。
「これから私が皆様にそれを――証明してみせますわ!」
周囲が再びざわめき始めた。
まさか、そんな、なんていう声も聞こえてくる。
でもね、もうこうなったら一か八かだ! 正直自信もてるほどじゃないけど……今は犬を信じるしか無い。
「そこまで言うなら見せてみよマリヤ・メルセルク! しかしもしそれが証明に足るものでなければ……判っておるな?」
「勿論でございます……」
そう言ってあたしは支部長の顔を見据える。てかこれが駄目だったらもうマジで全力で逃げるけどね。
「では……」
あたしはその位置で腰を屈めて地面にお尻を付けた。そして……スカートをまくり上げてみせる。
「き、きききき、貴様! またもや一体何を! そ、そのような不埒な――」
支部長が慌てだして周りの声も更に大きくなる。だけど、あたしは全員に聞こえるよう声を張り上げた。
「さぁ皆様これを御覧ください!」
あたしはコレまで以上に股を大きく広げてみせる。周囲の者全てに見えるよう。そうM字開脚でぐいっ! とね。何か既に鼻血の出てるのもいるけど、勿論ここからが肝心だ。
あたしは、私の中にあるアレのある現象だけが皆に見えるようイメージした。こんなのやったことなかったから本当に一か八かだけどね。
で、瞳を瞑りそれをイメージした瞬間――あたしの股から七色の光が放出され始め――
さぁ、魅せるよ!
「な、なんと! これはぁあああ!」
支部長は再び出目金のような見開いた目であたしのソレを凝視している。てか周囲の奴らもだ。
股から溢れる七色の光りに完全に目を奪われているという感じかな。
口をパクパクさせたりしてるのもいるけどね。で、暫くは意識がどっかに飛んでんじゃないか? てぐらい皆動きを固めていたのだけど。
「あ、ああぁ、あぁ、あぁああぁあ……」
うん?
「――様」「これは、奇跡だわ――」「なんて、なんて神々しい光」
と周囲からポツポツとそんな声が漏れ始めて……一人また一人と地面に両膝を付き始めていく。
そして、ついに支部長もガクッと両膝を折り、終いには……ぼろぼろと涙まで浮かべ始めやがった。
「まさか、本当に神の使いが……これは、奇跡だ! あなたは、女神様だ!」
「そうだ! 女神様だ!」
うん。まぁ神の使いから妙にレベルアップしてる気もするけどね。
「なんと美しい……これぞ奇跡!」
まぁ綺麗なのは知ってのとおりだし。
「女神様ばんざ~い!」
あぁなんか万歳三唱まで始まっちゃったよ。
てかあたしの目の前では、なんか支部長も、ご無礼を、ご無礼をお許しください、とか土下座まで見せてるし。
領民達も揃いも揃って涙浮かべて拝みだしてるし。
うん、まぁこれはなんとか成功したんだろうけど……てか、いつまでこのM字開脚を続けていればいいだろうか……それに。
七色に光る股を一斉に拝む光景って、なんかシュールだな――




