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4話

「な! なんだこりゃ! どうなってやがんだ!」


 あ、奥からボス猿が現れたよ。今更って感じだな。いつまで寝てたんだこいつ。てか全裸で剣ってとんだ変態だな。


「お前がここの頭か!」


 金パツイケメンが叫んだ。相当おこってんな。逆に言えば冷静さが足りない。若いな。まぁあたしも若いんだけど。


「て、てめぇメルセルク! なんでこんなとこに!?」


 目を一度見開き、ボスがあたしの方を見た。そしてみるみる顔色が変わっていく。青くではなく真っ赤に。


「てめぇか! てめぇがこいつらを……さてはてめぇ! 最初からそれが目的で――」


 怒り心頭に発するってとこか、しかし余計な事を言われたくないな。


「伯爵様! こいつは私の両親も! その手で……」


 唇を強くかんで悔しそうな表情を浮かべて。まぁ勿論両親なんて嘘だしこっちにそんなのいるわけないし。


 まぁでも今後の身の上を語るうえでは殺されたってことにしておいた方が都合がいいだろう。脚色は大事よね。


「はぁ? 両親? てめぇ何を――」


「この! 鬼畜がぁああぁあ!」


 あぁ猿の話を全て聞く前に行っちゃったよ。すげぇすげぇまじで単純だわこいつ。

 転生前のオタクも単純でちょろかったけどそれにまけず劣らずだな。


 て! おわ、騎士がこっちみてた。やべぇやべぇこいつはあまり油断できないな。泣いとこ泣いとこ。


「く! 舐めるな!」


 メルセルクの振り下ろした剣をボスが随分ごつい剣で受け止めた。ところどころ錆びてて手入れとかしてなさそうだから斬るっていうか殴るってタイプだな。

 

 だけど伯爵は騎士に比べたら着ているのは軽装だ。一発くらったらやばそうだけど――取り越し苦労だったみたいだわ。


 あたしは剣術とかさっぱりだけど、それでもどっちの方が腕が立つかは明らかだ。

 伯爵は受け止められた刃を瞬時にすべらせて、構えをかえた。


 そして相手の反応よりはやく横に振るう。これでもう決まりだ。


「ぎ、がぁ! ち、ちっくしょおおおぅうう!」


 どっかの芸人みたいな叫び声を残してボス猿は絶命した。まあしゃあないよね。それでも最後にあたしを抱けたんだからいいってことで。勿論この場に転がるキモい肉片の持ち主もな。


「ふん!」


 メルセルス伯爵は鼻を一つ鳴らして、剣を数回振った。血糊を飛ばしてるようだ。


「お見事です。メルセルク様」


 騎士のアレックスが恭しく頭を下げた。とりあえずあたしもそれに倣う。


「君の……」


 妙に細い声が伯爵から聞こえた。ちらっとその顔を覗き見る。


「君の両親がこれで少しでも報われるといいんだが――」


 うっわぁあ。やっべぇえええぇ。なんかめっちゃ悲しそうな顔してるよ。泣きそうだよこのひと! どんだけ感情豊かなんだよ!


 まずいまずいまずいこれじゃあ、あたし――笑っちゃいそうだよ! やばいよ! こいつチョロすぎぃいぃいい!


「は、はひっ、ひっ、う、うぅう。き、きっと私の父も母も天国で喜んでくれてると思います」


 あっぶねぇぇええ。なんとかこみ上げた笑いを悲しそうな嗚咽に切り替えたよ!


「ところで君の名はなんというのかな?」


 と、名前か名前は大事だよな。どうすっかな。クリって変そうだし。


「ま、マリヤと申します」


「……マリヤか。いい名前だ」


 せぇえええっふ! せぇええええっふ!

 適当に並び替えてみたらうまくいったわ。

 てかマリヤとか自分でいっておいてうけるわ。聖母マリヤかっての、あたしに尤も似合ってないじゃん。


 あぁでも向こうはヤじゃなくてアか。

 だったらあたしは精勃マリヤってとこか。

 うん、こっちならしっくりくるわね。


「ところでマリヤよ。お前はこれからどうするつもりだ?」


 意外にもあたしに興味をもってくれたな。とはいえまぁ無難に。


「はい。私はもう両親も存在しません。ですのでなんとか一人で生きていける道を模索していこうと思います」


「……そうか。しかし女性が一人で行きていけるほど甘くはないだろう――」

 

 メルセルク伯爵はそういった後、顎に指を添えて、何かを考える仕草をみせる。


「アレックス」

「はい」


 言下に頭を下げやがった。よく飼い慣らされてるなこいつ。


「確かうちのが、メイドの手が足りないと言っていたな? 調度良い。このマリヤという娘を迎えいれようではないか」


「……しかし素性もわからぬ物をメイドとして仕えるなど奥方さまがなんと申されるか――」


「構わん! 私がそれでいいと言っているのだ! マリヤよ君はどうだ? このまま一人であてもなく彷徨って奴隷商人などに捕まるよりはいいと思うが?」


 なんかもう決めちゃいましたって感じだな。わりと自分勝手なやつなのか? まぁとはいえ言ってることもわかる。

 

 確かにあたしはこの世界のことはまだ良く知らない。前もって手に入れた財宝をうればもしかしたらいい暮らしも出来るのかもしれないけど肝心のつてがない。


 知り合いもいない、しかも見知らぬ異世界の地では売却するのも一苦労だと思う。そうなると――


「勿論そう言っていただければこれほど光栄なことはございません。ただ――本当に宜しいのでしょうか? 私のような汚れた醜女がそのような」


「馬鹿なことをいうな。そのように自分を卑下するものではない。もっと自身を持て。それにそなたは美しい顔をしている」


 うわぁ~ドサクサに紛れて何いってんだこいつ? やべぇな。まじでチョロインじゃね?


「そのような事を言われたのは初めてでございます……凄い嬉しい、です。もし、私などでお役に立てるのであれば――」

「よし決まりだ! アレックス、この者を一緒に屋敷へ。そしてメイドとしての準備を頼む」


「……畏まりました」


 アレックスはあまり納得してない感じがするな。まぁ主君の命令は絶対だろうから問題は無いとおもうけど気をつけてはおくか。


 まぁとりあえずそんなわけであたしは、このメルセルク伯爵の下で奉公させてもらうことになったわけで。





◇◆◇


「ほらマリヤここがまだ汚れてるよ」


「はいただいま~」


 じゃねぇっての。全く人使いのあらい雌だな。なんかここのメイドのまとめ役? メイド長らしいけどうっせぇっての。

 

 大体三十代で独身ってこの世界じゃもう適齢期過ぎてんだろうが。噂によると一度も男と付き合った事ないらしいしマジかって感じだよ。


 別にブスってわけでもねぇのにな。何を大切に守ってんだか。アソコも蜘蛛の巣とかはられてんじゃねぇの? 男は三十まで童貞だと妖精だか魔法使いだかになるって言われてるらしいけど女は何になるんだろうな。て決まってんなこうるせぇお局さんだ。


「ほら早く掃除ぐらい終わらせないと今日の仕事進まないわよ。貴方ももうここに来て大分立つんだからもう少しテキパキやってもらわないと」


 うるせぃよクソババァ。てか大分たってまだ一週間とかそこらだろ多分。カレンダーとかねぇからわからねぇけど多分七回は寝たからな。

 

 てかあたしは元々こういう労働は嫌いなんだよ。苦手とかじゃなくて嫌い。男騙して金巻き上げて悠々自適に暮らしていくのが夢なんだ。

 こんなお局に文句いわれるなんてまっぴらごめんなんだよ。たく。


 てかこの屋敷はなんか無駄にでかい。あたしが生前住んでたのも億ション(貢がせた)で一人で暮らすには広すぎだったけど、ここはそのマンションがニ、三個収まるぐらいだ。


 地方の領主かと思って舐めてたけどな。

 まぁ流石に異世界は土地だけはあまってそうだからな。北海道とかで無駄に土地持ってる小金持ちみたいなもんか。


 そういえば昔、地方の金持ちから牧場譲るから結婚してくれっていわれたっけな。牛とか豚とかいらねぇから全部売り飛ばさせて金だけもらったけど、あのいかにも田舎者ですって感じのじゃがいもみたいな奴どうしたっけな?


 う~ん。あぁそうだあたしに貢ぐためにヤミ金にまで手を出して最後首くくって死んだんだっけ。なんだかなぁ~死ぬぐらいなら死ぬ気でやり直せってかんじだね、まぁあたしが言うなってとこだけど。

 

 てそんな事はどうでもいいか。

 そんなわけで無駄に広いから掃除も馬鹿みたいに時間が掛かる。


 まぁあたしは適当にやってるけどね。


「頑張ってるみたいだね」


「はい。これもメルセルク様のお力添えの賜物です。メルセルク様の寛容な御心にはどれだけ沢山の感謝の言葉を持ってしてもしつくせません」


 あたしは相手を敬いそれでいて遠慮がちな笑顔を彼に向けた。当然こいつの前ではしっかり仕事をこなしている。

 みていないところで手を抜き、みているところでは一生懸命やってるようにみせるのは仕事の基本だ。


「頑張ってな」

 メルセルクはそう言い残してやたら長い廊下を進んでいく。すると途中、金髪でくるくるとした巻き毛が特徴の女と笑顔で話し始めた。


 そして今度は女のほうがこっちに近づいてくる。


「マリヤもここにきて一週間ね。どうかしら少しは慣れた?」

 人の良さそうな笑みを浮かべて話しかけてきた彼女は、メルセルクの正妻、アリス・メルセルクだ。


「はい。皆さんこんな私にもとても優しくしてくれて感謝の言葉もありません」


「あらあら。こんな私だなんてそんなご自分を卑しめたらいけませんよ。私はここに仕えて頂ける皆様も家族だと思っております。ですからマリヤもそのおつもりで――」


 彼女は指を口に添え、優しい笑顔を浮かべた。かなり器量が良いのはみてすぐにわかる。


 年は二十五で男女の子を一人ずつ授かっているが、身体のラインに崩れもみられない。まぁあたしほどではないけど綺麗な部類だろう。


「それではお仕事の方に――」


 キリの良い所でとりあえずあたしは、愛想よく振る舞い彼女と判れ仕事に戻った。


 しかしここの家の者はそろって性格がいい。八歳になる娘と五歳になる息子とも顔を合わすが、まぁ二人共餓鬼らしくない餓鬼だった。


 八歳になる娘は発育がよく見た目には中学生ぐらいにも思える。だからしっかりしていてもそれほど違和感は無いが、五歳の息子は見た目にも歳相応だから妙に不自然だ。


 挨拶もしっかり交わしてくるし生意気な事も言わない。あたしが思い描く餓鬼とは違うタイプだがいかにも優等生って感じなのが鼻につくのだ。顔がかなり可愛らしいのは少しそそられる物もあるが。


 とはいえ結局あたしは相手がどんなであれ餓鬼は嫌いってことだな。





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