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39話

 どうやらあたしは魔女だったらしい。いや確かに美魔女だって言われれば判らなくもないけど、年でいったらそんな年じゃないし。


 かといって、じゃあホウキを股ではさんで飛び回ってるのか? と言われればそんな能力もっちゃいない。ホウキなんて精々突っ込まれた事があるぐらいだ。

 マニアックだったなアイツ。そういえば魔法少女好きだったっけ。


 というわけで、あたしには自分が魔女だという理由はそれほどは見つからないのだが、これに関しては、あたしと一緒に旅をしてきた皆も一緒のようで。


「全く納得が出来ん! 何故マリヤが魔女だなどといういわれをうけねばならぬのだ!」


「そうですわ! マリヤは私にとって大事な方ですの! そのような言いがかりで連れていかれてはたまったものじゃありません!」


「マリヤ様は今やメルセルク家にとってなくてはならないかた。そのような者を魔女呼ばわりとは少々言葉が過ぎるのではないのでしょうか?」


「マリヤおねぇ様はふふん、魔女じゃなくて私のおねぇ様なのれす~」

 

 ……気のせいか一人妙な視点で喋ってるのがいる感じもあるけど、とにかく! ここは頑張って潔白を証明してもらいたいものだね。


「ふむ。納得ができないと? ならばここの皆の話を聞いてみるとしよう」


 そういって偉そうな顔した司祭が後ろを振り向いた。そしたら何人かの女が前に出て口を開きだす。なんだこいつら? 


「この女はあたしの主人を誘惑して金品を要求したんです! おかげで家計は火の車……」


 いや! そんな事かよ! 知らねぇよ! 主人が誰か覚えてねぇけど、こっちから要求したことねぇし! 向こうから持ってくるから貰ってやったんだよ。


「うちのも、この女のせいで骨抜きにされて勝手に畑まで売り飛ばすし! 全くとんでもない魔女だよ!」


 知るか! 別にあたしが売れって命令したわけでもねぇし、てか妻なら自分できっちり管理しとけ!


「うちの主人なんて、タダでさえ税金が上がって大変なのに三倍でもいいなんて言い出すものだから……うぅ、それもこの魔女のせいです! こいつはとんでも無い女です! 至急裁きを!」


 だからあたしから何か言ったわけじゃねっつの。理解力ねぇのかこいつら? 三倍でもいいっていうからそうしたんだろうがって。


「うちなんて。ちょっと困らせようと家出しただけなのに……帰ったらもう戻ってこなくていいって……この女がいるから、あの人は天使だって、うぅ」


 いや、それはお前に魅力がないからだろ! どう考えても言いがかりだろう! てかミミズクみたいな顔してんな。そりゃ見限られるわ!


「というわけだ。この者達の夫だけではない。何故かマリヤ・メルセルクと交渉に至った男たちは皆骨抜きになったように戻ってくるというのだ。この事をおまえはどう説明するつもりだ?」


 と支部長の爺ィが言ってきてるけどね。なるほど、魔女ってそっちの意味でね。てかそれ罪なのかよ。美しいは罪よねってか? 言ってる場合じゃないな。

 でも参ったね。交渉を性交渉で済ましましたとも言えないしねぇ。


「……此度は私の軽率な行動で皆様に御迷惑をおかけしてしまったようですね。ただ、私は皆様にメルセルク伯爵の現状を知っていただこうとご説明を差し上げたままです。その結果皆様は納得を示して頂き、少しでも協力したいと申され、私もその好意につい甘えてしまいました。それが皆様の負担になったのであれば、申し訳なく思います」


 とりあえず男たちがどこまで話したかが判らないけど、まさか、はっきりヤっちゃいましたとは言わないだろ。あたしもそういう風には持っていってるつもりだし。


「そ、そのとおりだぞ! お前。私はただマリヤ様のお考えに賛同したまでで……」

 

 お! ほらみろやっぱりだ! いいぞ! がんば……。


「あんたは黙ってな!」

「は……はい……」


 はや! てめぇもっとがんばれよ! ザケンな! 確かにゴリラみたいな女だけど!


「支部長! そもそもそのようなことだけで……勿論それも言われのない話とはおもうのですが、それを原因としてマリヤを魔女と決めつけるのは流石に乱暴すぎますぞ!」


 よし馬鹿! お前は馬鹿だけど無駄に熱い! ドラマとかならその熱さでなんだかよくわかんないけど納得出来ますってタイプだ! 頑張れ!


「ふむ。なるほど。しかし、肝心のメルセルク卿、あなたは如何なのかな?

 

 え? と馬鹿が眼を丸くして返した。てか馬鹿がどうしたってんだい。


「メイド長」

「はい」


 てか、お前本当に名前がメイド長なのか? この状況でどうでもいいけど。


「旦那様はその女、マリヤが来てからというもの少々行動に変化をきたすように……例えばこれまでは領民の皆様にとてもお優しい政策を取られている御方でしたのに、突然税を倍にするなど……こんな事は、そこのマリヤがメイドとしてやってくるまでは考えられなかった事です」


「メイド長。それは違いますよ。確かにマリヤの助言がきっかけではありますが、この領地の財政が良い方向に向かっていないのは事実でした。だからこそ決断をしたのです。領民を思う気持ちは代わりがありません」


 よし! スラパイの後押しもきた! まぁ税金に関しては確かにあたしがそうさせたんだけど、本人が納得してるのに文句を言われる筋合いはないね。


「支部長、可笑しいことといえばこのアリス様に関してもそうです。元々アリス様はマリヤがメイドから側室に迎えられることに反対を示しておりました。それなのに……いつのまにかマリヤに懐柔され……大体、旦那様にしてもこれまで奥様一筋でしたのにマリヤが来てからというものまるで別人のよう――これが私がマリヤ、この女を魔女だと思う理由であります。お二人はこの女の持つ奇妙な力によって心を奪われてしまったのです!」


「それは違うぞメイド長!」

「そうですマリヤおねぇ様は私のおねぇ様なのです! 魔女とは違うのです!」

「そうですわ! 私はただマリヤの魅力に――」


 勘弁しろスラパイ! あとマセコはとりあえず黙っとけ! いや、てか参ったね。奇妙な力はともかくとしても、心を、というか身体を奪ったといったほうがいいかもしれないけど、概ね事実だ!


「目を覚ましてほしいなの! お母様なの! お父様なの!」


 うん? なんだ? 妙に高い声が――


「ロリン! あなたまで、どうして――」

 驚いた声を上げてるのはスラパイ。で、その視線の先にいるのは……そうだ、この馬鹿とスラパイの娘、確かロリン・メルセルクって名前だったな。

 屋敷でも顔は合わせてたけどね、あんまあたしは話したことはない。


 ただまぁ見た目には中々のインパクトだからね。覚えてはいるよ。

 この世界ではあまりみない金髪のツインテールに、楕円形のクリクリっとした碧眼。

 馬鹿とスラパイのいいとこを合わせた感じかな? 将来的にもあたし程じゃなくてもかなりの美人になるだろうね。

 

 てかね。この娘に関しては何よりも驚きなのは……その強烈な膨らみだね。うん。これはスラパイの遺伝か? 勿論垂れてはいないけど、八歳でこれは末恐ろしいよ。推定でGカップはあるね。


 全く金髪のツインテールで碧眼の巨乳ロリなんて、オタラノ好きな野郎どもが眼にしたら、興奮のあまり、そのまま天に召されそうなぐらいだね。

 あたしからしたら、この娘の方が断然魔女の素質があると思うよ。


「申し訳ありません。お二人も旦那様と奥様の変化に戸惑っていたらしく、是非証人として立ち会いたいともうされたので」


「そんな……娘が」


「お母様は最近変なの!」

 

 ロリパイが叫んだ。


「お母様はそこのマリヤが来てからずっと変なの。いつもマリヤの事ばかりなの!」


 てか一応あたしは年上なんだから呼び捨てすんなや。ガキのくせに! てか改めて聞くと変な口癖もってんなおい!


「ロリン。それは貴方の勘違いですよ。それに私はしっかり貴方とも――」


「違うなの! 違うなの! 違うなの!」


 ロリパイは首をブンブンと左右に振って、ついでにツインテールもフルフルさせておっぱいもプルンプルンさせている。

 気のせいかそれを見ている支部長の顔がほわんともなっていた。キモいなこいつ! 


「お母様は最近わたしと話しててもマリヤの事ばっかりなの! お父様の事もあまり話さなくなったなの! マリヤが可愛いなの、マリヤといると楽しいなの、マリヤがすごく上手いなの、そんな話ばかりなの!」


 スラパイお前は一体何をガキに語ってるんだ! くっ、さすがに日常何を話してるかなんて知ったこっちゃないから油断していたよ! なんだよ上手いって! 子供に話す内容じゃねぇだろ!


「そ、それは――」


 スラパイが困った表情になっちまった。てかおい、顔を赤らめるな!


「ロ、ロリン! それはいいのです! 事実なのですから!」


 認めんなや!


「ロリン。よく聞くんだ。いいかい? お母さんは別に私を嫌いになったわけじゃないんだ。ただマリヤが好きすぎるだけなんだよ。私と一緒でね」

  

 ドサクサに紛れて何いってんのこいつ!?


「お母様。お父様。クラウンもなの」


 馬鹿とスラパイがそろって、うん? と眼を丸くさせる。そしたらなんかもう一人ちっこいのが横から現れたね。


「さぁなの。クラウンも話して聞かせるなの」


 ロリパイに促されるように前に出てきたのは、やたらとモジモジした男児。

 まぁあれだね。確か、クラウン・メルセデス、というスラパイと馬鹿の息子だよ。

 

 巨乳って事もあって見た目的には実年齢より上っぽく見える姉のロリパイと違って、こっちは歳相応といった感じの幼さだ。クリクリっとした瞳はスラパイ譲りか。

 背は低くて、髪はまぁ当然だけど金髪でキノコみたいな髪型をしている。


「あ、あの、ぼ、ぼく、ぼく、ぼく」


 はっきりしないなおい! これでマジで領地任せられてたのか? あぁでもなんかちらっと聞いた話しだと頭はいいって話だったかな。コミュ症って奴か? いや年でいったら只の人見知りとも言えるかな。


「ほらなの! 男の子なんだからはっきり話すなの!」

 

 完全に姉に頭が上がらないタイプだなコイツは……。

 まぁ、で、モジオはやっぱどこかモジモジしながらも、上目遣いに何かを言い出すんだけどね。


「ぼ、ぼく! ぼく! みちゃったんです! マ、マリヤ、マリヤと、お、お父様、お母様と、よ、夜中ちょく、ち、ちょく、部屋で、何か、何か」


 そこで、もうこれでもかってぐらい顔を真赤にさせて口をつぐんじゃったんだけどね……。


 参ったね。妙にシーンとなっちゃったよ。これはもう言わずもがなって空気だね。


「……これではっきりしましたな」


 溜息混じりに支部長が言う。呆れた目付きであたしを見てきて……て腹立つなこいつマジで!


「マリヤ・メルセルク! お前は夜な夜なメルセルク夫妻双方と邪淫な行いに更け、そしてその術を持って二人を拐かし、そればかりか領民達も己の色を利用し自らの欲を満たすための道具とした! これが魔女でなくてなんというか!」


 ……やべぇ。言い方はともかく、基本その通りって部分が大きいからね。いや、でもだからって魔女はねぇだろ魔女は。

 てかメイド長がほくそ笑んでるよ。

 くそ、多分この二人のガキもコイツが色々と言って引き込んだんだろうなぁ。


「さぁ理解したならおとなしく我々に従うが良い」


「……それは、ごめんですわ」


「何?」


「私は魔女などではございません。そのようないわれをうける覚えもありません」


 どっちにしろ、それをハイそうですかと認めるわけにもいかないからね。

 なんか外側からフザケルなやら、この淫売な魔女! とか聞こえてくるけど知ったこっちゃない。


 そんな事で魔女だなんて扱いされて捕まるなんて、マジで冗談じゃないんだからね!

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