38話
※2014/09/19 修正版と差し替えました
あれから旅路は順調に進んで、ふた晩ほど宿で寝泊まりした。、で、この馬とか牛っぽい生き物の鳴き声が響くのどかな感じの村を明日出れば、ようやく屋敷に辿り着くってわけだけどね。
「は~、そこそこ、すっごく気持ちいい~」
ふぅ、何せあの三人ときたら三日連続で遠慮がないからね~。
毎回ペロッと喰っちゃてたけど、流石にこう多いと、もたれるというか疲れるというかそんな感じ。
「あん、そう、そこもっと強く……」
というわけで、まぁ犬のマッサージを受けてるってわけだなこれが。うん、てか指圧の心得もあったのなこいつ。マジ優秀だな~。
「あ~~さいこう~~でもさ~やっぱこう三人を連続では結構たいへんだよね~」
「…………」
いや! 無言かよ!
「犬! 少しはしゃべれよ! 何だいさっきから渋面で!」
「マリヤ様……」
お、喋った。
「やはりカグラ様の事をずっと狙っておいでだったのですね」
「だからそれは違うって言ってんだろ!」
くっ! やっぱこいつずっとそんな目でみてやがったんだな!
「大体あれは、あの子の方があたしを好きだって言ってきたんだよ。その気持に応えてやっただけだって。第一アレ、あのまま何もしなかったら帰りの旅に支障をきたしてたかもしんねぇんだから」
「はぁ……」
「…………なんかお前むかつくから、今からすっぱになって村一周してこい」
「えぇえぇええぇえええ!」
犬はマジですっぱになって、そのまま部屋を飛び出していった。
「――マジでいくとかすげぇな犬……正直ちょっとひくわ」
「びどい!」
とかいいながら息を荒くして、ついでに頬も紅くなってるんだが。
「いやしかし、もしかしたら誰かに見られているかもしれないという中での全裸というのはまた……」
変な壁突破しやがったなこいつ。
……まぁこいつは優秀だけど、ちょっと変態が入ってるぽいのは承知の事だしね。
「あぁそうだ。犬に言っとこうと思ったんだけど、なんだあのチヨダークってショタ」
「ショタ?」
あぁ、説明めんどいな。
「そこは流しとけ! とにかくあの侯爵ってのにギルドの事それとなく馬鹿に薦めておいて欲しいって頼まれてんだよ」
犬は、え? て顔して。
「それはまた何故、マリヤ様に……」
「あたしがいい女だからだろ?」
「…………」
黙んなよ犬! てか。
「いい女だろうが! ざけんな犬!」
「いや! それは重々承知ではありますが、そこまではっきり言われると!」
あたしは自分に自信があんだよ。
「まぁいいや。でさ、なんか侯爵から聞いたらあいつ金出してくれるって言ってんだろ? だったらなんで断ってんの? 建ててもらえばいいじゃん」
あたしは思ったままを犬に言う。くれるってもんはもらっとけはあたしの鉄則でもあるからね。
「まぁそう言われてしまうと……ただば、メルセルク様は兄と慕っているチヨダーク様にあまりそういった面で世話にはなりたくないとお考えで……」
「そんな事? いいじゃん。タダでくれるってならありがたく甘えておけば」
「はぁ。あ、いやただタダというのは少し……さすがに侯爵といえど無条件でポンっと出すわけにもいかないということで、一応は貸付という形での話になってます」
うん? なんだタダってわけじゃないのか。うん、まぁやっぱ見た目と違って、そのへんはしたたかっぽいよな。
「てか利息とかとられんの?」
「建前は……ただそれは非常に少ない率ですのでその条件が問題になることは無さそうなのですが。まぁあとはそうですね、設置場所を決めさせて欲しいとかそういった条件もあったりします」
「ふ~ん。じゃあ馬鹿としては借りるってのもちょっと抵抗があるって感じなの?」
「それもあるやもしれませんが……もう一つどうしてもギルド設置に抵抗があるというのも少しはあるのかもしれませんね」
「そこが分からないんだよね。治安とかよくなるんだろ?」
「えぇ。ただチョット前までは私の指揮する自警団だけでも事たりてましたしな。それにギルドを設置すると良い面もありますが――」
うん? 少し口ごもったな。
「何だよ。なんか問題あんの?」
「はぁまぁ。王国の正式な制度にそこまで大きな声で文句も言えないのですが、例えばギルドが設置されると当然ですが冒険者がやってくるようになります」
そりゃそうだろうね。
「そこで問題になるのは、冒険者はギルドの管理下にある土地ではある程度の採取・探索の自由が認められておりまして。例えば古代遺跡の発掘、まだ誰も脚を踏み入れていない洞窟の探索、植物の採取や生態系の調査その他諸々の名目が土地を荒らすことに繋がる場合もあるのです。……とは言え今はギルドが無いことの方が珍しいぐらいですからな。王国管理のギルドでこのような事を気にする事自体が無意味という話もあります」
成る程ね。ギルドがなければ冒険者だからって管轄外なわけだから、そこまで勝手気ままな行いは出来ないって事か。
「それと、ギルドが出来ると民の中にも冒険者に憧れを抱くものも多くなります。勿論それ自体が悪いということはないのですが、そういった気持を利用して言葉巧みに、例えば冒険者には修行が必要だ、等とそそのかし体の良い手伝いとして使う事例もありましてな。勿論本当に育てるという目的であれば問題ないのですが大抵の場合は……」
犬はそこで口を濁したけど、まぁようはパシリ扱いされたりとかそんなとこなんだろうな。
「メルセルク様はその辺りの事も気にされて、二の足を踏んでいる部分もあるようですな」
成る程ね。とは言えあたしとしてはそれでも、ふ~ん、って感じではあるんだけどね。まぁただ。
「てか、なんであの侯爵はそこまで馬鹿のギルドの件にこだわってんの?」
それもよくわかんないだよねぇ~。あたしはなんのメリットもなく施すなんてありえないと思ってるからね。人間絶対何か得になることがないと只の親切なんてありえないっしょ。
「はぁ。まぁメルセルク様としては、最近の問題事を少しでも早く解決できるよう気にかけてもらっていると考えているようですが」
そうだった。あの馬鹿はそんな感じだね。お人好しなとこがある感じだし。
「で、犬はどう思ってるの?」
「私でございますか?」
「そう。まさかお前も只の親切でやってると思ってるとか?」
「私としてはそう思いたいとこです。ただ、いまいち判らないというのは確かにあります。……あえて理由を見出すとしたらギルド設置に積極的に取り組み、それによって問題が解決できたとなると、次期王を継ぐ為の実績の一つとして認められるかもしれませんが……」
次期? あぁそうか王国だから当然、世継ぎって問題は出てくるわけだな。
「世継ぎって他にも候補とかいるの?」
「勿論です。シンジュルク王国では……」
あぁそういえばここってそんな名前だっけ。ニ、三回しか聞いたことないからすっかり忘れてたけど。
「大きくわけて、まずここチヨダーク領、そしてここから東に……メルセルク様の領地からみれば北東ですな、に位置するタイトウ領、そしてメルセルク様の領地の南西に位置するネリマドルク領と南東に位置するブンキョー領。これらは四大領地と呼ばれていてそれぞれの領主が次期国王候補でありますな」
「ふ~ん。てか馬鹿も小さいと言っても一応領地持ちだよな? その権利はないの?」
「それに関してはないとは言えませんが、可能性は低いかと。そもそもメルセルク様は王位にあまり頓着がなく、血筋などの面では一切関係がありませんから。ただ名目上はシンジュルク王が与えた領地の主全員に可能性はあるとされてます」
なるほどね。で、あのショタからすれば積極的にギルド設置を促してそれを実績に繋げたいってことなのかね? なるほどね、あ~あ、でもだったら。
「やっぱあのショタ、喰っておいた方がいいのかなぁ」
はぁ!? と犬が素っ頓狂な声を上げたね。ショタって言ったけど前後の感じから意味が判っちゃったか。
「マ、ママ、マリャ様一体何を!」
「何をって言ったまんまだけどね。それにユニコーンとかペガサスもあいつ持ってるしさ。ぶっちゃけ今回の滞在中も隙あらばとか思ってたんだけどね」
犬の戸惑いようがすごいな。てかあたしの性格ぐらいわかってそうなもんだろ。
「まぁでもね色々邪魔もあったし……それになんかちょっと違うんだよねぇ~「
そこでようやく落ち着いた感じで、違う? て眉を上げながら犬が聞いてきた。
「なんかあいつこれでもか! てぐらい臭いセリフであたしに好意があります、みたいにアピってきてたんだけどさぁ」
そこで、アピ? とまたまた犬が疑問顔。どうでもいいことに食いつくなおい。
「アピールしてくるって意味だよ。覚えとけ犬!」
「ワン! ……しかしマリヤ様のいた世界というところには変わった言葉が多いですな……」
そうか? う~んまぁそうか。特にあたしのいた国はそんな感じかも。
「で、なるほどチヨダーク侯爵殿下がアピってきたわけですな」
…………なんかキモ! てかいって赤くなるぐらいなら無理して使うな!
「お前キモ!」
「酷い!」
全く、てかどこまで話したっけな? あぁそうだね。
「だからアピってきたんだけどね。なんかよく見てるとワザとらしいってか、好意があるように思わせてきてるようなそんな気がしたんだよねぇ。正直アイツのことで間違いないって思えたのはおっぱい星人だってことぐらいだし」
「おっぱ――」
犬の視線が確実にあたしの谷間に落ちてきてるな。全くしょうがねぇな雄は!
「で、いつまでみてんの?」
「オ、オホン――」
なんか咳払いして視線を上げたけど頬は紅いよ。たく。
「し、しかしまた何故でしょうな? 好意を持ってる振りなど」
「うん? だからそのギルドってのをどうしても建てたいんじゃないのかなって思ったんだけどね」
「あぁなるほど」
犬が何となく納得した感じだね。まぁあたしもそんな感じだからね。
「てわけで、結局あたしも喰うにいたらずってとこかな」
「いや! そんな喰われてもこまります!」
「えぇ。いいじゃん。うまくすれば犬だって、もっと上の地位目指せるかもよ?」
「私はそのような事は望んでおりません。メルセルク様の騎士として……勿論! マリヤ様の騎士としても仕えさせて頂ければ十分でございます!」
調子がいいね。あたしがじ~っとみてなかったら絶対あたしの事は言わなかっただろうこの野郎。
「てか、そういえば犬も前は王国騎士だったんだっけ? 何でやめたの?」
て、犬が妙に真剣な顔になったね。
「やはり……そこは気になりますか――」
……うん、そうだね。そう言われると……。
「ごめんやっぱいいや。どうでもいいし、興味ないし、聞きたくもないし」
「えぇええええぇええぇええ!」
無駄に大声出してウルサイねぇ。大体人の過去話とかマジでどうでもいいんだわ。
どうせ無駄に長いだけだし。
それに――
「どうせアレだろ? 部下を失ったとか無駄にお涙頂戴な話だったりすんだろ?」
「いや、そのような事は! むしろもっと深い……」
「ふ~ん。だったら惚れてた女に振られたとか? て流石にこれはないか」
「…………」
……マジかよ。
「お前そんなんだから、ずっと童貞だったんだぞ……」
「な、何を! て、その哀れんだような瞳は止めてください! 認めてませんから! そうだって認めてませんから!」
それは認めると言ってるようなものだぞ犬。
「まぁいいや。じゃあもう大体聞きたいこともきけたし部屋戻るね」
え!? と犬が言う。
「何? 何かあんの?」
「あ、いや、その」
そういえばあたしの胸見始めてから、ちょっとそわそわしてる感じもあんな。
「何? したいの?」
「いや! それは、その」
「はっきりして欲しいんだけど」
もじもじされてもキモいだけだしね。
「も、勿論です! が、やはり隣にはメルセルク様もいらっしゃいますし……」
「じゃあやめといたほうがいいね。じゃあね」
「いや! でも!」
「男の癖にウジウジいってないではっきりしろよ!」
「ワ、ワン! メルセルク様にばれないように、静かにそれでいて気持よくなりたいワン!」
……確かにはっきりいったね。面倒な事を……。
まぁ、いっか、こいつも旅の間はずっとお預けだったし、マッサージも良かったからね。
だからふたつの果実で上手いことやってやって終わらせた。
◇◆◇
次の日も早朝から出発して何の問題もなく馬車は走り続けた。
そして太陽が真上を過ぎ、時間で言ったら多分午後の3時ぐらいかな? に達した時、いよいよ馬鹿の屋敷に到着したってわけ。
いやぁ、妙に懐かしい気がするね。改めてみるとショタの街より確かに田舎っぽいけど、旅行にいって自宅に帰ってきた時の感覚?
やっぱ家はいいなぁとかそんな気分になってね。
ただ、メルセルクが妙な顔して、何か町が静かな気が? とか言ってるのが気になるけどね。
まぁでもそんな日もあんじゃない? 田舎だし。
で、もうすぐ屋敷ってとこで一人見慣れた顔が立っている。
う~ん、あれは?
「お帰りなさいませ旦那様。ご無事で何よりです」
一旦馬車を止めてあたしたちは外にでた。で、そこに立っていたのは、あぁやっぱりメイド長かってわけだけどね。
「あぁメイド長。留守の間世話を掛けたな。ところで、出迎えはいいのだが、なぜこのようなところで?」
確かにね。屋敷までもうちょっとあるし、民家からもちょっと離れた殺風景な場所だよここは。
「はい。実は旦那様がお疲れのところ申し訳もなく思いますが、どうしてもお会いしたいというお客様が参られてまして……」
「お客? 今からか? しかしなぜこのような……」
馬鹿は疑問の言葉を口にしてるけど、メイド長は構うこと無く後ろを振り返る。
「皆様、マリヤ・メルセルクがお戻りになりました!」
はぁ? なんだ? なんであたし? とか思ってるとメイド長の後ろからぞろぞろと、多分客というのが姿を見せる。
それは殆どが女で、あと男もちらほらいる。てか男にはなんとなく見覚えがある。確か村の件できてた……て事は女のほうも格好からすると領民ぽいかも……でもそれよりも何よりも目立ってるのは……帰りに立ち寄った教会ってのにいた司祭の格好に似たやつと、そしてその後ろで妙に立派な鎧を来た奴らだ。
「こ、これは一体何事だメイド長! そ、それにその者達は……」
「お久しぶりですなメルセルク卿」
司祭服っての? ちょっと豪華な感じのローブを身にまとった奴がメルセルクに挨拶する。けど、立ち振舞とかなんか偉そうだ。
「こ、これはご無沙汰しております支部長。しかし、本日はまた随分と仰々しくもありますが一体どのようなご用件で?」
全くだね。名指しされてるからあたしが何か関係あるのかもしれないけど……。
「用件か。そうだな。まどろっこしい話はこのさい抜きにして――」
そういったかと思えば、支部長とやらが瞳をカッ! と見開いてあたしをみた。そして。
「今日きたのは他でもない! マリヤ・メルセルク! ここにいるメイド長並びに領民たちの申告によりお前を捕らえにきた!」
…………は? はぁあぁあ?
「ちょ、ちょっとお待ちください! と、捕らえとは一体……メイド長! 一体どういう事だこれは!?」
「……旦那様。勝手な行為に及び申し訳ございません。しかし、私は申し上げた事をどうしても実行したく、そう、皆様が過ごしやすく成るよう……」
くっ! そういえばそんなような事をいってたっけなこいつ!
て、なんか領民の女の視線が突き刺さってる気がするよ。
で、支部長とやらが再度あたしを見て睨みつけてきた。意味分からないしムカつくね!
「さぁマリヤ・メルセルク観念するが良い。お前はこれから……」
「ちょ、ちょっとお待ちになってください! 一体なぜ? なぜマリヤが捕まらねばならないのですか?」
スラパイが偉そうな支部長に食らいついた。そうだ! こっちもわけがわかんねぇよ!
「そんなもの決まっておる! いいかマリヤ・メルセルク。お前はここにいる者達の進言により魔女の疑いが掛かっておるのだ! だからこそお前をこれから教会に連行する。神妙にするがよい!」
あぁなるほどね。うん……て! 魔女って、マジかよ――




