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33話

「ところで、マリヤ様。お背中の方は大丈夫ですか?」


 うん? 背中? あ! そうだ、確かこの畜生に……チッ、忘れてたけど――


「なぁ、今どうなってる? 結構酷いのかな?」


 あたしは犬に背中を見せて聞いた。身体には自信があるだけに傷が残るのはマジで勘弁して欲しいんだけど。


「そうですね。そこまで深くは無いですが、結構くっきり爪痕が残ってますな……」


 マジかよ……。


「ただ、これであれば治療魔法を施せば傷は癒えると思います。地図を見る限りだと森を抜けた先に小さいながらも町があります。そこであれば教会があるかもしれませんな。そこで診てもらうといいかもしれません」


 マジか! 治療魔法があるなんて流石異世界! 便利だな。じゃあとりあえず傷の事は何とかなりそうか。


「ただ傷はこのまま放っておくと化膿しかねません。馬車に戻ったら簡単にでも処置はしておきましょう」


 化膿か……確かに異世界だとどんな菌があるかもわからないしね。


「さて、とりあえずこの不貞な輩をどうするか……色々話を聞かねばいけないですしな」

 

 犬があたしの前に歩いてきて、ワーウルフを見ながら言う。て――


「うん? 話?」


「はい。なぜ我らを狙ったのか……その理由を吐かせねばいけますまい」


 理由か……そういえば。


「こいつら、結構あたし達の事を知ってそうだったな。メルセルクとか、犬の事も多分知ってる奴だぞ」


 本当ですか? と犬があたしを振り返った。


「あぁ、確か犬の事を元王国騎士とか言ってたしね」


 あたしの言葉に、そんな事を、とか呟いて、再びワーウルフを見る。


「とにかく目覚める前に何とかしましょうか。いつ気がつくかわかりませんしな」


「う~ん。まぁ暫くは起きないと思うけどね。結構マジでヤったから」


 あたしがそう言うと、犬が顔を紅らめて、あたしを見てくる。全く。


「何考えてんだよ犬!」


「あ、いやその、目のやり場に困りますな」


 たく、今更あたしの裸ぐらいで何を言ってんだか。


 とは言え、何とかってどうすんのかな? 縄でもあるんだろうか。

 そう思いながらも、狼野郎達に目を向け、たその瞬間。あたしの側を風が裂けるような音が通り過ぎた。

 そしてワーウルフ三匹に命中――てマジか!


「何者だ!」


 犬が慌てたように身体を反転させて駆け出す。その様子にあたしも振り返るけど、犬の背中以外何も見えない。


 おいおいマジかよ。誰かいたのか? 全然気づかなかったぞ――





◇◆◇


「駄目です。完全に死んでしまってますな」


 暫くして戻ってきた犬がワーウルフの側で屈みこみながら言って首を振った。

 首や、頭に矢が突き刺さってしまってるしね。即死って感じだったのだろう。


 この三匹をやった何者かに関しては、犬が追いかけたものの洞窟の外で見失ったみたいだね。結局正体は判らずじまいって事か……。


「とにかく、こうなっては仕方ありません。死体だけでも運ぶとしましょう。どちらにしても朝までは動けませんし。太陽が昇ればこいつらの正体ぐらいはわかりますからな」


 はぁ? わざわざ死体を運ぶのか? まぁそれは犬がやるんだろうけど……てか正体?


「犬。なんだよ正体って?」


「は、ワン! ワーウルフは普段は人と全く同じ姿で、夜のみこのような形に変身の出来る種族ですからな。なので太陽が昇れば自然と変身が解けるのです」


「それって満月の夜は狼男になるって奴なのかい?」


「え? いえいえ、月の形は関係がないですな。あくまで夜、まぁ言い換えれば太陽が沈んだ時のみ変身が出来る種族って事です」


 ふ~ん。映画とかとはちょっと違うみたいだね。でも、夜限定で変身かぁ。

 うん? て事はもしかして……。


「さて、とにかく死体を運んでしまいますか。少々手間ですが――」


「お! 出来た! マジか! すげぇなコレ!」


 あたしが思わず歓喜の声を上げると、犬のやつが振り返って――目を瞬かせた。


「え? え? あ、ま、マリヤ様?」


 毛むくじゃらのあたしをみて相当驚いてるみたいだね。まぁそりゃそうか。あたしもびっくりだよ。まさかと思ったけど、狼男――じゃなくて狼女か、になれるようになるなんてね。

 まぁ殺される前にしっかり逝かせといたから、その影響だろうけど。


「こ、これは流石に驚きですな。いや、でもマリヤ様なら納得です」


 ……何か腹立つ言い方だな。人を化け物みたいに……いや、まぁ十分そうか。これ完全に人間離れしてるもんな。


 いやぁ、でもなんかこの姿だと血が沸くというか、力が漲ってくるてかそんな感じだね。

 精力が何倍もってのも判る気がするよ。


「よっし。何か気分がいいから、あたしも死体を運んでやるよ」


 そう言いつつ、ワーウルフの死体二匹分を両肩に担ぐ。んだけど、うわ、めっちゃ軽い! 力とかそうとう上がってんな。


 因みに一体は、犬が背負うようにして持ち上げた。三匹とも持てそうな気もするけど、甘やかしちゃいけないしね。


 で、二人で洞窟を出た後、帰路に付く。森の中であたしは試しにジャンプしてみたけど、肩にこいつら乗せた状態でも、かなり飛べたよ。すげぇすげぇ!


「あの、マリヤ様。馬車に近づいたら……」


「判ってる。変身は解くよ」


 洞窟を出る前に、試してみたら自由に変身を解いたり出来たしね。


「てか犬。今度この姿で相手してやろうか?」

 相手ってのは勿論夜のね。犬と狼ってなんかすごいけどな。


「いえ、それは、流石に……」


 何だよ遠慮すんなって~連れないやつだなぁ~。

 まぁあたしが狼の姿で腰振る姿を想像するとちょっと笑えるけどね。


 しかし犬、死体を運びながらもちょいちょい草とか木とか見てんだよな。


「おい犬、どうかしたのかい?」


「いえ、このあたりには傷に効く草花もありますから――」


 そう言いながら、何種類か摘んできたね。でも薬草の知識もあるなんて本当万能だな犬。





◇◆◇


 とりあえず馬車の直前で変身は解いて、その後は死体を犬に運ばせたけどね。


 で、戻ったら馬鹿とスラパイが随分と驚いた表情で迎えてくれた。

 まぁ殆ど裸だったしな。スラパイが速攻で馬車の中から服を見繕って持ってきてくれたんだけどね。


 なんか涙まで浮かべてくるから参っちゃったよ。とりあえず平気だとは言っておいたけどね。でも服を着る前に背中の傷を心配されてね。


 まぁ治療魔法の事は二人共しってたみたいだけどね。

 犬が心配したように、化膿でもしたら大変ってなもので、それで犬が摘んできた薬草をあたしの傷口にあてて、服を破いて包帯代わりにして巻いてくれたよ。


「ありがとうアリス」


 まぁここまでやってくれたなら、お礼は言っておかないとね。ちょっと大げさな気もしないでもないけど。


「マリヤ様。もうあまり無茶はされないでくださいね……」


 そしたら、なんか潤んだ瞳でそんな事をいいつつ……スラパイが自分の胸にあたしの顔を抱き寄せてきた。


 で、耳元で言う。

「もう、お一人だけのお身体ではないのですから……」


 ――なんだろうね全く。子供じゃないんだから。


「そうだぞマリヤ! 君の身に何かあっては私とてどうしたらよいか」


 馬鹿も心配そうに声をかけてきたから、スラパイの胸から顔を上げてみる。


「でも無事でよかった――」

とちょっと瞳を伏せて溜めるようにしてから。


「さぁ――」

て、両手を広げてきたよ……いや、で? どうしろと? 飛び込む? いやいや、それはないわ~流石にそれはないわ~。


「メルセルク様。ちょっとそれは――」


「貴方、流石にズレ過ぎですわ」


 二人の呆れ顔の突っ込みに、なんで! とか一丁前にショック受けてるみたいだけど、馬鹿だなぁ……お前は本当に、馬鹿だなぁ……。


 まぁそんな馬鹿のおかげでちょっと空気が変わりつつ、運んできた死体についての話となった。


 とは言え、ヤったとかは敢えては言わなかったけどね。何物かよにって殺害されたってのは犬がそのまま説明してるけど。


「とりあえずは朝になるまでは置いておくしかないか――」


 三体並べたワーウルフの死体を見下ろしながら、馬鹿が呟く。

 まぁ死体が近くにあるってのも、落ち着かないだろうけどね。


「ところでカグラちゃんは、どうですか?」


 あたしは一応確認の為に聞いてみる。無事なのは犬から聞いて判ってはいるんだけどね。


「えぇ。馬車の中で眠ってる……というよりは気を失ってるといった方が良いのかもしれませんが――」


 スラパイはどこか哀しげな瞳で言った。マセコもあたしみたいに殆ど裸同然で逃げたはずだからね。そのことから色々思いを巡らせてるのかも。


「身体の傷はそうでもないのですが、酷く憔悴しきっているようにも思えましたわ。よっぽど怖い思いをされたのですね……」


「……あの娘には死体とは言え、コレの姿は見せないほうが良さそうだな」


 馬鹿はそう言って、犬と一緒に馬車の中から姿を隠せそうなのものを取り出して、死体に被せた。


 まぁ、そういったことに慣れてるあたしとは違うだろうしね――。


 その後はとりあえず明日の予定の話をする。ただこれはマセコの状態に左右されそうな雰囲気もあった。


 とにかく朝にならないと何もはっきりしないね。で、ある程度話して、犬と馬鹿が外の見張りに立つからということで、あたしとスラパイは馬車の中に戻った。


 まぁこんな事があったからね。それにワーウルフに止めをさした人物の事もあるし、二人で見張ってないと安心できないっていうのはあるのだろうね。


 馬車の中ではマセコが横にして寝かされていたから、あたしとスラパイが隣り合う形だ。


 だけど、まぁスラパイも流石に眠れないって感じだね。あたしも色々あって目が冴えちゃってるから、外に出たりしてちょいちょい様子を聞いたりしてね――で、そんな事を繰り返してる内に朝がやってきたってわけだけど――

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