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32話

※2014/09/19 修正版と差し替えました

 パン屑を追った先は、例の湖側から見えた、低い山に面していた。その途中でパンくずは完全に途切れたけど、少し進んだ先に、もうこれみよがしに怪しい洞窟が口を開いている。


「やっぱこん中かな――」


 思わず呟きつつ洞窟の奥に脚を進めていく。


「おい! 早くやっちまえよ!」


「ちょっと待てって。とりあえず脱がして……て、ほら暴れんな」


「いやぁああぁあ! 止めてください! こんなの、こんなのいやあぁあ!」


「ちっ! 黙れよ! 別に殺そうとか喰っちまおうとか言ってんじゃねぇんだから」


「いや、ある意味喰うのは間違いないだろ?」


 そんな中々ゲスい会話が聞こえてきたね……ビンゴって奴だ。洞窟は途中で右にカーブする形になってて、その先からユラユラとした灯りが漏れている。

 炎の灯りっぽい。松明か何かかね。

 

 とりあえずあたしは、端に背中を付けて、声の聞こえてきたカーブの先を覗き見る事にする。


 そしたら案の定マセコが三人に囲まれてやがった。


「お前らいいかげんにしろって! さっさと済ませろよ!」


「慌てんなって。折角なんだから楽しもうぜ。ただやって終わりじゃつまんねぇだろ?」


「ヒック、やるって、ヒック、何をする気なんですかぁ、もう、こんな、ヒック、事――」


 ……おいおいマジかよ。あの三人、というか、匹? て、顔が狼で毛むくじゃらで……狼男じゃん! マジでいんのな……まぁ異世界じゃそれもアリか……人語話してあれは革の鎧かな? そんなん着て……確かオタラノだと獣人って奴になんのか?


 ――てか、なんでソレが人間の雌に発情してんだよ……幼女好きってか? まさかこんなに早くマセコを好むのが出てくるとはね。


「おい! うるせぇから黙らせとけ!」


「はいよっと」


「ングゥ!」


 口になんか押し込まれて塞がれたね。あぁ服もビリビリだな。半裸状態だ。

 幼女好きの獣人集団ってキモすぎだろ。


「て、おい! もういいだろ! さっさと――」


 なんか一人だけさっきから慌ててる感じのがいるね。……てかこのままってわけにもいかないけど――


「チッ。うるせぇな。わ~たよ」


 一人が動きをとめたね。で、これで終わらせる――わけはないか……。


「お前、本当はやりたいんだろ? 仕方ねぇから譲ってやんよ。ほらもういけると思うぜ」


「……俺がか?」


「そうだよ。初物だぜ? ほれ」


「……べ、別に俺は仕事だから仕方なくだぞ! そんな趣味じゃ」


「て、いいから早くやれよ」


「し、仕方ねぇな」


 チッ、そんな事いってやる気満々じゃねぇか。てか仕事?


「んぅう、そうぇはふぁめ――」


「悪いな嬢ちゃん。寧ろソレが俺達の狙いなんだよ。まぁ痛いのは一瞬だけだから我慢しな」


 て! ヤバ! マジでマセコやられちまう! そんな事になったら例え助けても馬車動かせないじゃん! くそ! 仕方ないねぇ!


 あたしは速攻で下着に手をかけ、そして飛び出して叫んだ。


「貴方達! こっちを見なさい!」


 何だ? と予想通り三匹の視線がこっちに向けられて……一瞬固まった。目を丸くして……そりゃそうだ。突然飛び出してきた女が、脚を広げて中を晒してんだからね。

 お店ならお捻りがほしいとこだよ。


 でもね――


 あたしは中から力を込め、そしてソレをいきおいよく発射させる。


「ぎ、ぎやぁあぁあああぁあ!」


 直後に獣の絶叫が洞窟内に響き渡った。よし! 狙い通り!


「な、なんだ、杖? なんでそんなもんが刺さって!」


 マセコに貫通させようとした変態は地面に倒れて、呻き声を上げている。その手前にはあたしが矢代わりに利用した、水晶の杖。先端が尖ってるから中々効いただろうね! 中々の大きさだったから狙いやすかったよ。


「カグラちゃん!」

 

「おわ! こいつ!」


 あたしは一気に距離を詰めて剣を振るった。マセコの身体が狼男から離れる。

 それを確認して、あたしは彼女の腕を取った。


「マ、マリヤ、さ、ん」


「走るよ!」


 茫然自失って感じだけどノンビリしてる暇はない。あたしは小さな腕を引きずるようにして出口を目指して掛ける。

 このカーブを抜けて走り抜ければ――


「あ――痛ぅ!」


 突然背中に熱を感じた。やば! 何かに切られた? チラッと後ろを見ると獣の爪が見える。くそ! 脚が縺れて――地面が迫る。


「カグラ! 早く逃げて!」


 倒れたまま声を張り上げた。逃すかよ! と一匹が追いかけようとするけど、獣人の脚に必至に喰らいついてやって。よし! コケた! 

 

 あたしは起き上がって、狭い通路を塞ぐように両手を広げた。チッ、我ながら何をやってんだか。


「てめぇ! どけねぇとぶっころ――」

「待て!」


 二体の獣人があたしに睨みを効かせてくる中、今まで奥で蹲っていった野郎が鬼の形相で近づいてくる。

 やべぇな相当キレてんだろ。


「無理して追わなくてもいい。それよりもその女。あの伯爵の妾とか言うやつだろ。だったらそいつを捕まえとけば、ほっときやしないさ。何せそうとう大事にされてるみたいだからな……」

 

 何だコイツ。あたしらを、知ってる?


「なるほどね。こいつを人質にして取引に使うのか。でも俺らの目的はあくまであのカグラって女だぜ?」


「んなの、この森にいるうちならどうにでもなる。あの頭の悪そうな伯爵が納得しない限りどっちにしろ馬車は出れねぇしな。それによぉ……」


「それに?」


 こいつら勝手に話を進めやがって……でも参ったね、とてもにげきれそうに無い――


「この女は俺の大事なモンをこんな目に合わせたな! 許せねぇ! 危なく使い物にならなくなるところだったんだからな!」


 素直に使い物にならなくなっとけよクソ狼!


「お前、性格変わってね?」

「フン!」


「……私をどうするおつもりで? 人質として扱うなら少しは敬意をはらって欲しいわね」


 無駄かもしんねぇけど、一応そんな台詞を吐き捨てた。けど、チッ、きたねぇ舌出して、舌なめずりってか……キモいんだよマジで。


「お前は人質だから殺しはしねぇよ。殺しはな。だけどな、コレの礼はしっかりさせてもらうぜ。てめぇが女であった事を後悔するほどにな!」




 

◇◆◇


 参ったね。話の流れでいけば、上手いことたらしこめるなって思ってたんだけど。くそ――こいつら……やたら興奮して盛ってきやがった。

 流石に簡単には開放してくれねぇし、がっちり拘束されてて逃げ出せそうもない。


「へへっ。苦しそうだな。やっぱ俺は獣だな。無理矢理のほうが血が騒ぐぜ……いいか、いいこと教えてやるよ。俺ら夜のワーウルフは精力だって何倍にも跳ね上がってんだ。なんなら朝までだって腰を振り続けるぜ!」


「んぉぅ――」


 クッ、上手く声も出ねぇ。


「くぅ~たまんねぇ。なぁもうあの生意気な女も捕まえてやっちまわねぇ? どうせ一人やるも三人やるもかわんねぇだろ?」


「いいねぇ! それ乗った!」


「確かにこっちも三人いるしな。何だったらあの糞伯爵の前で――」


 ……勝手なことばかりいいやがって。大体気持よくさせろって言いながら、てめぇらが自由を奪ってんだろうが。

 ち、く、しょう、が――


 あたしの脳裏にあることが浮かび上がる。まだ小さくて愚かだった頃の、最悪だった糞親との嫌な――出来事が。


「おらおらおら! 少しはてめぇの身の程をわきまえたか? だまっておとなしくしてればよかったのになぁ、この雌豚が!」


 ……ざけんな――ざけんな、ざけんな、ざけんな! こいつらマジで、嫌な事を思い出させやがって……気持ちよくだと? あぁ、そうかい。そうだね。そうだったよ。それであたしは生きてきたんだ。そうさ生きるために! あたし自身のために! 


 だからこんな奴らに好きになんてさせないよ! この状態でもまだあたしにはできることがある! これまで培ってきた経験! それを利用した技の数々! みせてやんよ!






◇◆◇


「マリヤ様! 大丈夫ですか!」


 あたしが果てた狼野郎の横で勝利の余韻に浸ってると、背後から、まぁよく知ってる声が聞こえてきた。


 だから、とりあえずだらしなく昇天してる畜生を見下ろすのをやめて振り返る。まぁそこには案の定。


「あん? あぁなんだ、やっぱ犬か……」


 全く今更だよな。随分息が荒いし大剣構えてっけど。どんだけKYだよって。

 まぁとりあえず、あたしが乗ってるこいつから腰を浮かせてっと。ん、う、あぁドロッドロだな。まぁやっぱ獣は濃いなマジで。

 てか、いきてっかこいつ? 逝きはてたって感じだしな。まぁどっちでもいいけど。


 で、犬を振り返ったら。なんだ、やけに眼を丸くさせて、きょろきょろと辺りを見回して、落ち着かない奴だな。


「あ、あのマリヤ様。これは全て、マリヤ様が、やったのですか?」

 

 不可思議って顔してんな。うん、まぁヤったっちゃあ、ヤったけどね。


「まぁね」


 右手を振り上げながら言葉を返した。てか服ももうボロッボロだし。殆ど裸とかわんねぇなこれ。


 で、あたしを見つつ、犬はちょっと狼狽えてる感じもあったけど、なんだっけ? あぁワーウルフか。うん、その側に近づいて、生きてるかどうかを確認してるみたいだね。


「息はありますか。しかし、まさかワーウルフだったとは……」


 顎に指を添えて何か考えてるね。でもこの言いぶりだと、ワーウルフについては何か知ってるってとこかな?


「しかし、マリヤ様が無事で何よりです」


 立ち上がってあたしを振り替えつつ、安堵の表情を浮かべてきた。


「あたしがこんな奴らに負けるかよって。腰振るだけしか脳のない獣なんて楽勝」


「え? 腰、ですか? ……な、なるほど流石ですな」


 どうやらあたしの今の姿から何があったか察したみたいだね。てか頬が紅いし何考えてんだか。


「そういえば犬。カグラはどうなった? 先に逃したはずなんだけど」


「はい、カグラ様は」


「お前さ。最近自分が犬だって忘れてない?」

「ワン! カグラ様は」


 そうそう。こういうのはしっかりしつけとか無いとね。まぁ周りが狼だらけのなかで犬ってのもなんだけど。


「私達がマリヤ様を追って森に入った後、カグラ様が逃げてまいりまして……そ、その、ただならぬ状況である事は、その姿で判ったので、メルセルク様にはカグラ様と奥様を連れ馬車に戻ってもらい、話を聞いた私が駆けつけた所存です」


 まぁ確かにあいつも殆ど裸だったはずだしな。でも無事でよかったな。貫通してなきゃユニコーンも問題無いだろうしね。

 とりあえずは一安心ってとこか――




 

 



 

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