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30話

 最初は妙に敵意とか蔑みとかそんな感じの目で見られてたけど、適当に話を合わす内にだんだんと周りのそんな感情も薄れていった。


 てか、気づいたら結構囲まれてるし。まぁよくよく聞いてみれば昼ドラとかで見る井戸端会議ぽくなってたりもするけど。


「でも噂ってあてにならないわ、ほんとう出来た側室で驚いたわ」


 こっちが驚きだよ。何だよ出来た側室って。

 これあたしのいた世界に置き換えたら、出来た愛人って事だろ? 色々とおかしいことになってんだろ。

 

 まぁそんなよくわからないお褒めを頂いていたら、やっと馬鹿とスラパイ、そして犬が会場に現れた。


「マリヤ。すまなったな。でも私はもう大丈夫だ!」


 いばんな馬鹿! ペガサス乗ってからどんだけ経ってると思ってんだ! 


「いえ。全く気にしておりませんわ。ペガサスさえ買っていただければ」


「え?」


「流石マリヤ様ですわ。心が通じてますわね。丁度私も欲しいと思ってましたの」


「え? え?」


「決まりですわね。ではアレックス支給お見積りを」


「御意」


「え? いや、御意って……あの。マリヤ? アリス?」


 こういう時、スラパイも堕としておいてよかったと思うな。


「マリヤ様。そのネックレス素敵ですわね」


 ふとスラパイがあたしのソレに目を向けて言ってきた。

 あぁそういえばしてたっけな。てか、アリスの目がなんか凄い輝いてるな。

 確かこういうの好きそうだったもんなこいつ。


「マリヤ。今日は色々付き合ってもらって悪かったね」

 

 と、スラパイがあたしの宝石やら胸元やらを凝視してる中、ショタが声を掛けてきた。偉そうな連中との話は終わったみたいだね。


「いえそんな。お礼を申し上げないといけないのはこちらの方ですわ。それに、こ――」


「いや、しかしそのネックレスは良く似合っている。よりそなたの美しさが際立っているよ」


 あたしがネックレスに手をやって、一応お礼を言おうとしたら、褒め言葉でストップを掛けてきたね。

 あぁそっか、スラパイがいるから言わない方がいいって意味か。別に気にする事もないんだけどね。

 でも、まぁそういうことなら合わせて起こっかなっと。


 で、適当に酒を飲みながら街での事を話す。これはスラパイモ知ってることだから問題はないね。

 勿論ギルドの事はこの場では話さなかったけど。


 後はペガサスの事は流石に呆れ顔で馬鹿と話してたな。

 なんか馬鹿が注意受けてるみたいな感じだけど、ショタの見た目がアレなせいで違和感がハンパねぇな本当。


 あぁそういえば、昨日はなんか目を光らしてんのがいるなぐらいしか思ってなかったけど、流石に今日あんだけ言われてると、いやでも目につくな。

 

 うん、すげぇ目で見てるよBLのやつが。まるであたしが、これからショタの事を暗殺でもすんじゃないか? てぐらいの警戒心剥き出しな眼だね。

 まぁあたしは気にもしてないけど。


「おっと。用意が出来たようだな」


 ショタが皆と雑談を交してると、ふと何かに気づいたように、後ろを振り向いた。


 あたしもそっちに視線をずらしてみる。奥にはいつの間にかステージのような物ができていて、ギター……じゃなくてバイオリンか、やトロンボーン、フルートを持ったいかにもオーケストラでもやってしまいそうな格好をした連中がその上に乗り出した。


「マリヤ様是非私と!」「マリヤ是非私と!」


 スラパイと馬鹿が二人同時に手を指し抱してきた。なんだこの、ひと目見た時から決めてました! みたいな感じ。

 で、周りをみると思い思いの男女がペアになって、まぁあれだ、つまりダンスを踊りましょうかって雰囲気になっている。


 てか、二人はいい加減立場をわきまえとけよ。なんであたしとなんだよ。そっちで二人踊っとけよ。特にスラパイに関しては周りをみろ。

 どこにも同性同士で踊ってるのなんていないだろうって。

 

 てか……妙にこっちを見てくる男の視線もウザいな。男爵イモはガマガエルと踊っとけよ。お似合いなんだから。

 ミラーボールは鶏冠女とか誘っとけつうの。


「ベンツ。もしよければ私がマリヤ殿をお誘いしてもよいかな? お前は婦人と踊るのだろう? 私も一度ぐらい美女と踊りを共にしたいのでな」


 ショタにこう言われちゃ、馬鹿も何も言えないみたいだね。スラパイも仕方ないかって感じだ。溜息とかはあからさま過ぎだけど。


「私と踊っていただけますか? 姫君」


 見た目と振る舞いがどうにもしっくりこないけど、あたしは畏まりながらショタの手を取った。


 すると場内に静かな音楽が流れ出す。一応は付き合いで社交ダンスを覚えたりしたけど、この世界の踊りはどことなく違う。

 それにショタとは背の差があるから、最初はやり難くも感じたんだけどね。

 でも、こいつは、踊り慣れてるのかリードも上手くて、すぐ慣れちゃったよ。


 そうやって、一緒に踊ってる内に、だんだん好機の目にされされてるのが判った。

 あんまり目立つとまたやっかみとかされそうだなって思ったけど、どうもそんな感じでもないかな。


 中にはウットリとした表情でこっちを見てるのもいる。このショタのリードが上手いからか、それともあたしの美しさからかってとこだけどね。


 て、スラパイも踊りながらこっち見過ぎ……て馬鹿もかよ! 二人揃って顔はこっちに向けて踊ってるよ! ある意味息がぴったりだな。


 あ、ひとりいたな。すっげぇ負の感情丸出しでこっち見てるのが。目合わせないどこ。


「マリヤ。今宵の、いや此度の宴、そなたに巡り会えた事が、私にとって何よりの収穫だ。この出会い本当に嬉しく思うぞ」


 相変わらずの笑顔でショタはそんな事を言ってくる。曲調も情熱的な調べからまたずいぶんまったりとしたものに変わってきたな。


「私も――チヨダーク侯爵殿下とお近づきになれて嬉しく思います」


 ショタがあたしをあたしがショタを、そっと抱きしめるような形となる。まぁチークダンスって感じかな。


「明日には出発されてしまう。それが寂しくもあるな」


 瞼を閉じ、物哀しげな雰囲気を醸し出しつつ言ってきた。


「私はきっとまた会える機会があると信じてますわ」


 だからあたしもそれなりに言葉を返す。


「――あぁ。そうであるな。私とあいつの仲だ。これからも機会は多いであろう」


 こうして、そんな会話を交わしている間に時間が過ぎ、音楽が止み、そして踊りも終え――宴も終焉に向かった。





◇◆◇


 最期の日の午前中はスラパイと一緒に街に繰り出す事となった。馬鹿はショタと何か話をしてるらしい。


 だから犬に荷物運びを任せる形で、昨日から目をつけておいた物の買い物に走る。

 何せ馬鹿の町じゃロクなものがないからね。ある程度買いだめしておかないと。

 勿論お金は馬鹿から捻出。


 で、今はスラパイと洋服店にきている。ここはオーダーメードが出来るのが特徴でね。だから、ここには何があってもこようと思ってたんだよねぇ~。


「で、この辺までカットして頂いて――」


「あ、あの、それだとおヘソが見えてしまわれますが――」


 いいんだよ涼しいし。その方が動きやすいんだって。


「このドレスは肩の部分をもっと細く、紐のようなこんな形の……」


「え? こんなに肩を出してしまわれるのですか? それにこれだとかなり薄く……」


 いいんだよ、男はそういうのが好きなんだから。


「これも、もっと丈を短く」


「えぇええぇえ! こ、これでは、ショ、ショーツが見えて……」


 いいんだって。見えたって減るもんじゃないんだから。てか一々驚くな。


「マリヤ様の考えられるデザインは凄いですわね……とても私などでは思いつきませんわ」


 だろうね。こっちはなんか脚とかはだしたがらないんだよねぇ。もっとバンバンだしゃいいのにってマジ思うわ。


 で、折角だから犬も連れて下着を見て回ってっと。犬は外で待ってますとかいってたけど、あんた荷物持ちなんだけど~ざけんなよっと。

 まぁいつの時代も、男が女の下着売り場に入るのは抵抗があるもんなのかね。

 面白いから少し離れたところから見ててもらうことにする。

 うわ、笑える! ありゃ怪しいわ。職質されてもおかしくないレベルだし。


 しっかしスラパイもこれはどう、あれはどうって、一見女同士キャーキャー言ってる感じだけど、もう目が違うし。確実に夜の妄想膨らましてんなこいつ……まぁいいけど。


 とりあえず持って帰れるものは全て馬車に詰めこんでもらうことにして、オーダーしたものなんかは、ちゃんと行商が運んでくれるらしい。時間はかかるみたいだけどね。


 まぁそれは仕方ないよね。コッチにはセールスドライバーもいないだろうしね。





◇◆◇


 買い物も終わって宮殿に戻ると、馬鹿が少し真剣な顔で出迎えてくれた。隣にはショタもいる。


「いや、実はちょっと厄介な事がおこってしまってな」

とショタが顎を掻きながら説明してくる。


「実はこちらに来るときに通られたと思うのだが、ホウナン山脈を抜ける橋の一部が欠落してしまったようでな――」


 ホウナン山脈というと、あのマウンテンとかいう猪がいたところだな。つまり欠落したってのは景色が綺麗だったらあの橋ってことか。


「それで至急修復の為、手配を進めてるとこなのだが、少々厄介そうだということで、かなり時間が掛かってしまうかも知れなくてな。それでベンツと話していたところだったのだが」


 なるほどね。となるとどうなるんだ? 滞在期間の延長かな?


「私としては橋の修復が終わるまで滞在しておけばどうか? と言っているのだが……」


「いや、アキバ兄にあまり迷惑を掛けるわけにはいかないし、屋敷も心配だからね。だから二人にはちょっと苦労をかけるかもしれないけど……」


 馬鹿はそういって、メイドから受け取った地図を広げてみせた。


「本来なら、ここチヨダルを出て、南西に向かいホウナン山脈を越えるルートの方が近いのだけど、そこがつかえない以上、この東から大回りして、南西の森を抜けて帰るルートで戻ろうと思う、と、私は話をしていてね。これだと山脈超えより二日ほど道程が掛かってしまうが、それでも橋の修復を待つよりは早く戻ることが出来るしね」


 なんだか面倒な話だなとは思うけど、まぁあたしとしてはどっちでもいいかな。


「ただベンツ。さっきも言ったがそこの森は抜けるまでの距離が長い。手前の宿場を早朝から出発したとしても、例えユニコーンであっても一日は野宿が必要となるぞ。それにここにはそれなりに獰猛な獣も多い」


「何。私とアレックスならば大丈夫だ。……とは言え二人には不安もあるかも知れないしな。私の一存だけでは決めかねぬが……どうだろう?」


 馬鹿があたしとスラパイに聞いてくる。するとスラパイは首を少し斜めに傾けながら笑顔で言う。


「私は構いませんわ。子どもたちの事が気になるのは貴方と一緒ですし」


 となると後はあたしだけど。まぁ森とか野宿とかも暇つぶしにはいいかもね。


「私も異論はありませんわ」


 あたしとスラパイの返事に馬鹿はこくりと頷き、大丈夫、と言って。


「二人は例え何かあったとしても私が守ってみせるからな」

「まぁその何もないことが一番なのだがな」


 馬鹿の決意表明にショタが苦笑いで返した。てか馬鹿よ。お前はとりあえず乗り物酔いが酷い事実を受け入れろよ。まぁ揺れなきゃ大丈夫みたいだけど。


 て、わけで急遽別ルートで帰路に付くこととなり、とりあえずあたし達は帰りの身支度を整える運びとなった――

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