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27話

 ショタの治める街ってのは実際かなりでかい。まぁでかいつっても、あたしがいた世界の街のデカさとはちょっとかってが違うのは確かだけどね。


 でも馬鹿のいるのは田舎町って感じで民家と畑しかないような感じだけど、ここは確かに改めて見ると都市って感じかな。


 イメージ的にはハウステンボスなんかに近い。道路は全て石畳だ。

 道は結構入り組んではいるけど、建物も三角屋根や片側に傾いてるようなの、M字っぽいのなんかもあるな。二階建てが多いけど三階建てや四階建てもチラホラ見える。


 石畳の道沿いには馬車を使った屋台が止まってたり、花屋、服屋、宝飾店なんかもあるようだ。前に犬に聞いた時には王都が一番街としてはでかいって話だったけど、ここもかなりのもんだな。


 ショタはそれを時折馬車を止めたりしながら、誇らしげに説明してくる。

 あたしも、凄い、とか、感動した、とかってちょっと大げさ感じに驚きながら、適当に相槌を打って返す。


 そんなあたしをみてニコニコと嬉しそうにしてんだよなこいつ。

 てかそういえばこいつ喋りはあんな感じだけど、わりといつも笑ってる感じだな。

 

 まぁあたしも基本は笑顔だけどね。作りだけど。

 

 それにしてもよっぽど自分の街が自慢なんだろうなぁ。

 いや、まぁ確かに中々のもんではあるんだけどね。

 ただこっちも、ある程度イメージ出来る中世の風景とかぶるし、まぁこんな感じかなってとこはあるんだよねぇ。


 ただ、教会はでかいな。八階建てのビルぐらいの高さはあるかも。

 塔の天辺ちかくには大きな鐘も設置されてるな。

 で、あたしがショタの案内で近くまでついて行くと、丁度その鐘が鳴り出した。


 どうもショタはこれを聞かせたかったみたいだね。

 でも、正直真下にいたおかげで、とにかくやかましい。


 とは言え、ショタも護衛の奴も耳を澄ますようにしてじっくり聞いてやがるから、耳を塞ぐわけにもいかねぇし、中々苦痛だったわマジで。

 音がでかけりやいいってもんじゃないだろう。


 やっと鐘の音が終わった時には、もう頭がガンガンする思いだったよ。

 まぁそれでも微笑みを絶やさず、馬車に戻ろうとしたら、あのBL野郎がすれ違いざまに、

「お前にこの音色の素晴らしさが判るはずもないがな」

とか、あたしにだけ聞こえるように言ってきやがった。


 判るかんなもん。正直耳どうかしてんじゃねえの? て感じだ。

 いい音楽とか聞きたきゃipotでも持っとけ。ま、この世界にゃそんな代物ないんだけどね。

 

 んで、その後は途中何箇所か街の店を巡った。

 まぁめぼしいものをチェックしておく程度に留めたけどね。

 何せ護衛の目があるし、この段階でねだったりする程あたしもガツガツしてないし。

 

 ただ宝飾店でなんとなく綺麗だなってネックレス見てたら。


「君。これを貰えるかな?」

と年増の店員に言って、特にあたしに確認するような事もなくショタが購入しやがった。


 店員も相当驚いてんな。そりゃそうか。何せ侯爵殿下だからな。店に入った時点でめちゃめちゃ緊張してたし。


「マリヤ。これは今日の記念にだ。受け取ってくれ」


 こういうのパッと買って寄越すあたり、流石は侯爵殿下って感じかな。


 でも金貨二千枚ってよくわかんねぇけど相当高いんじゃないのかね。こんなのあっさり買ってみせるんだから、やっぱこいつ金持ってんだなぁ。見た目餓鬼の癖に。


 ちなみに一応、

「こんな高価な物を頂くわけには――」

て、断る振りはしたけどね。きっちり三回。で、四回目に申し訳無さそうに受け取ってやった。


 しかしその間もBLがやたら怖い顔で睨みつけてきていたな。もう勝手に呼び方BLにしてっけど、これはマジでソッチ系で間違いないんかな? まぁ男色家が好みそうな中性的な顔してっけど。


 で、折角もらったこれは、一応今日もある宴ってやつで付けていこうと思う。それぐらいはしておかないとね。


 買い物を終えた後は続くショタの案内で、今度は広場に連れていってもらった。

 噴水を中心に、その周りには石畳と花壇が交互に並んでいて、色とりどりの花々が咲き乱れている。

 爽やかな香りが心地よい。天然のアロマテラピーって感じだね。

 これはまぁ来てよかったかな。

 月次な表現だけど癒されるって感じ。


 ショタの話だと、この広場では中央の噴水も人気スポットらしいね。

 噴水は大小何箇所か設置されているんだけど、それぞれの噴水から放出された水が、噴水から噴水へ移動するという仕組みだ。


 それを見て、あたしはてっきり魔法の力で動いてんのかな? と思ってたんだけどね。

 ショタの話だと落差を上手く利用してるらしい。細かいことは判らないけど、こっちの世界の著名な建築家に依頼して作らせたそうだ。

 随分金が掛かってんだな。


「お前にこの素晴らしい技術が理解できるとは思えないがな」

とは戻り際にこれまたBLが耳打ちしてきた言葉だ。馬鹿にしてるような顔してんな。

 まぁなんかもう慣れたけど。

 嫉妬なんか受けんのは昔っからザラだったしね。

 むしろこんな嫌味しかいえないなんて小さい奴だなって感じだ。





◇◆◇


 ショタの案内で、ある程度街中をみてまわったとこで、遅めの昼食にしようかって話になった。まぁ丁度小腹も空いてきてたしね。


「ところで」

 馬車に揺られながらショタが言った。


「この途中でちょっとマリヤに見せたいところがあるんだ。構わないかな?」

 

 子供っぽい笑顔で確認してきたな。昼食の前に寄っておきたいって感じみたいだね。

 まぁ別に断る理由はないし、勿論ですわ、とこっちも笑顔で返しておいた。

 

 それから暫くして、小刻みに揺れていた馬車がピタリと止まった。

 どうやら付いたみたいだね。

 あたしはそこで、ショタに手を取られながら外に降りた。


 でもなんだろ? 特に目立ったものはないように見えるんだけど。


「見て貰いたいというのはここでね」


 ショタが右手を差し出したソレを見て、ここ? と思わず声が出そうになったよ。

 今までと比べたらなんかあまりに普通の建物だったしね。


 二階建てでそんな大きくもない……まぁぶっちゃけ地味だ。

 正面には木製の扉が一つあって、その上に同じく木製の看板が取り付けられてんな。

 向き合った騎士が剣を交差させるデザインが施されてるし、なんかの店か何かなのかな?





 ショタが先ず戸を開けて中に入る。カランコロンという鈴の音が聞こえてきた。

 誰かが入ってきたら判るように戸に小さな鐘が取り付けられてるようだね。


 外側も地味な印象だったけど、中もまぁ外側からのイメージ通りな広さだ。

 ただ店ってのとはちょっと違うかな。

 

 入って正面にはカウンターが設置されてて、中には髪の長い女と、淋しげな頭をしたおっさんが立っている。僅かにのこった毛髪の色は黒。


 女の方は綺麗というか可愛いって感じかな。あたしよりは年齢は上っぽいけどそこまで差はなさそうだ。

 こっちではわりと普通にみられる布製のドレスを着てる。布地の色は髪と同じ。

 首の部分のリボンがワンポイントってとこかね?


 で、ハゲた方は見た目はブルドックだな。それ以外思いつかんわ。髪薄のブルドックだ。ただ体格は中々逞しい。腕とかぶっといしね。


 勝手なイメージだけど性欲とか強そうだ。むしろありあまってそうだ。なんかモテなさそうで溜まってそうだし。


 あたしは次いでカウンターから視線を右に反らしてみた。

 そっちは広間みたいになっていて、四人程度が囲めそうな木製のテーブルが何セットかおかれているね。

 

 椅子は座りごこちが悪そうな丸いやつ。テーブルと同じで木製だな。どっちにしても質は良さそうじゃない。


 実際座ってる奴の中には、妙に腰を動かしたりしてるのがいるな。ありゃずっと座ってたら尻も痛めそうだ。


 席は結構埋まってる。けど食べ物屋って雰囲気もない。まぁこんなとこでお昼とかいったらショタの神経を疑うとこだけどね。


 話の流れからしたらそれはないだろうけど。てか、見た感じ、たむろってるのは、男が七、女が三ってとこで、ほぼ全員腰に剣を吊るしてる。鎧をきてるやつも多いな。


 この光景って、もしかしてアレかな? と何となく犬との会話や、前に見たりやったりしたものが頭を過る。


「これはこれはチヨダーク侯爵殿下。わざわざこのようなところに参られるとは、いや光栄の極みです」


「うむ。ちょっと顔を出したくなってな。それにギルドを紹介したい賓客も連れてきている」


 ブルドックとショタの声であたしは視線をカウンターに戻した。

 見る限り、雰囲気的には女よりブルドックの方が偉い感じかな。女の方はなんか畏まってる感じだ。まぁショタの立場を考えればそれもそうか。


「こちらの淑女は、私が懇意にしているメルセルク卿が、とても大事にされている御仁でな、この街は初めてということで、私が案内をしていたのだが、折角だからここもみて貰おうと思って付き合ってもらった」


 ショタはさり気なくあたしの腰に手を添えて、ブルドックに紹介した。

 

 まぁ、だから、一応深々とお辞儀して挨拶を返す。


「ご紹介に預かりましたマリヤ・メルセルクと申します」


「いやいや、またご丁寧にどうも」

 

 薄い頭を擦りながらブルドックが軽く頭を下げた。

 その拍子に薄髪が浮き上がってついでに数本飛んでった。

 より薄くなってんぞブルドック。どんだけ毛根よぇ~んだよ。


「しかしこんなところではなんですな。二階に上がりますか? お口にあうかはわかりませんがお茶の一つもだしますぞ」


「いや、この後の事もあるしな。それほど長居する気はないのだ。ただマリヤには雰囲気だけは感じて貰おうと思ってな」


 ショタはそう言うけど、雰囲気と言ってもなぁ。


 まぁとりあえず再度辺りを見回してみる。するとコルク製のボードが目に入った。そこにピンのようなもので、何か書かれた紙が貼られてんな。


「マリヤはここが何をしてる施設かは判るかな?」


 ショタはクイズを思いついた子供みたいな顔で聞いてきた。こういう表情がよく似合うな。


 で、質問の答えについては何となく察しは付いてんだけどね。


「冒険者ギルド――でしょうか?」


 一応ちょっと自信が無さそうに答えておく。こういう感じに言っておいたほうが可愛げあるしね。


「素晴らしい! 正解だよ」


 ブルドックがやたら大げさな身振りでいってきた。なんか逆に馬鹿にされてる気分だ。


 でも、ふ~ん。ここがねぇ。あるとは聞いてたけど馬鹿の領地にはないからね。

 まぁそんなわけで、あたしは初めて冒険者ギルドっていうのに訪れたわけだけど――でも、何でショタは、こんなところにあたしを連れてきたんかね?

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