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23話

「いや、突然悪かったね」


 ショタの元に戻るなり、馬鹿が詫びを入れた。まぁ話の途中でいきなり抜けたんだ。それは当然だろうね。


「いやいや。そんな事は気にしなくてもいいさ」


 しっかしこいつ見た目と喋りがあってなさすぎだろ。なんかマセた餓鬼が大人の真似事しているようにしかみえないって。


「それにしても……うん、まぁ正直先程は驚いたぞ。なんというか、だな」


 あたしと馬鹿とスラパイの並びに目をやってるな。まぁ口調と見た目があってないのはこの際置いといて、ショタが戸惑うのも判るけどね。今は馬鹿がしっかり真ん中にいるけど。


「いや、先程はちょっと間違ってしまってね」


「間違い?」


 馬鹿よ。お前はやっぱり馬鹿だなぁ。一体どこをどうやったらあんな間違いすんだ! もっといい誤魔化し方思いつかないのかよ。


「チヨダーク侯爵殿下。私のような者が殿下に発言など烏滸がましくもありますが、実は先程のはメルセルク伯爵からのメッセージが込められておりまして」


「メッセージ?」


 ショタが小首を傾げた。ますます餓鬼みたいだ。


「はい。何せ伯爵はこれまでずっと奥様一筋を通されてきたお方。しかしここにきて急遽妾を取られるというお話とあいなりまして、その事に驚いている者も多く、中には、マリヤ様はメルセルク家の財産が目的で伯爵を誑かしており、その事を知った正妻であるメルセルク伯爵夫人との仲が非常に悪い――等と下世話な噂を流すものもおる始末です。その為、チヨダーク侯爵殿下に、その仲の良さと、現在とても良い関係を築いている事実を知っていただきたいとお考えになられ、此度初めに、あのような形を取らせて頂いた所存であります」


 犬よくやった! なんか尤もらしく感じるぞ! 今度骨咥えさせてやる。


「なるほど、そうであったか」


 身体を揺らして見た目と似合わない豪快な笑い方だなぁ。ショタだけど親父って感じだ。


「確かに、あのような風変わりな事は、冗談でも仲が良くなければ出来ないな。嫌いな人間と腕を組むなど伯爵夫人ともなればプライドが許さないだろう。ふむ、それは非常によくわかるのだが……」


 顎に手を添えて、何だ? まだ何かあんのかね?


「その、今度は夫人の方が元気がないように思えるのだが、なにかあったのかな?」


「……いえ、別に、何でも……ありませんわ」


 あるだろ絶対! うわぁ~、なんかめっちゃズーン! としてる。背中に相撲取り乗せたみたいにズシーン! って感じだよ……暗くなりすぎだろ! 額に縦線とか入ってる雰囲気だよ、どんだけ馬鹿と腕を組むのが嫌なんだよ!


 あぁ、とにかくこれじゃあ、あまりに不自然だから、スラパイに向けて口パクで、え・が・お、と伝えてみる。

 てか、なんでこんな気を使わないといけないんだ。


 で、おっと、スラパイもこっち見て気づいてくれたな多分。


「……な、何か失礼な事を言ってしまったかな?」



 て、ショタが戸惑うほどスラパイの笑顔が引き攣ってるよ! スラパイの片側の口角だけ異様に吊り上がってるし、コワイよ! 離婚直前に夫婦仲を聞かれた、自称セレブの女医みたいな笑顔してんぞ!


「その……伯爵夫人は長旅で少々疲れが出てしまったようなのです」


 ナイスフォロー犬! お前使えんなぁ、馬鹿とは大違いだ。


「そうであったか。成る程、ならば椅子を用意させようか。おい、伯爵夫人に椅子と、あと何か軽い物と飲み物を――」

「お心遣い痛み入ります。ですが大丈夫ですわ。私とマリヤで取りに行ってまいりますので」


 て、あたしもかよ! いや確かにさっき食べ物欲しいなとは思ったけど……てか手のひらを返したように、明るい笑顔見せだしたな。いいのかそれで?


「そ、そうか……」

 

 ショタもめちゃめちゃ戸惑ってるし、スラパイはスラパイで、さぁ参りましょう、なんて満面の笑みで手を取ってくるしで参ったな本当。


 でも、まぁこの場で暗い顔されてるよりはちょっとはマシか。それに食べ物とか飲み物とか持ってくれば、戻ってきて一緒に食べてても不自然じゃないしな。


「それでは私も失礼して――」


「あぁ、行ってしまうのかマリヤ……」


 お前も落ち込むのかよ! 面倒な夫婦だな!


 とは言え、流石に馬鹿は一人だからってショゲ面続けてるわけには行かないだろうし、一旦犬に任せてスラパイと料理を取りに行く。


 さて、とりあえず飯、飯っと。皿を持って適当に盛っていく。その間スラパイが色々料理の説明をしてきた。ついでに腕も絡ませようとしたが、それはやめておいた方が宜しいですよ、と釘をさしておいた。


 まぁ理由というか、さすがにあまりベタベタしてると色々と怪しいってのもあるしな。まぁ実際にやることはやってんだけど。


 でもまぁ……。


「あの方が例の――」

「身体を使って……」

「――財産狙いとか」

「まぁ怖い……」


 ヒソヒソヒソヒソと、しっかり聞こえてんだよば~か。たく、でも犬はその場の思いつきでいったんじゃなくて知ってたのかもって感じだな。実際にあたしは色々噂されてるみたいだね。


 まぁ知ったこっちゃないけど。


「マリヤ様。気になさらないでね。最初はいつもこんな感じなのですよ」


 そう言ってスラパイがウィンクしてきた。その言い方だと、こいつも何か陰口叩かれたりした事もあったって事か。 


 まぁ女ってのはそういうの好きだからな。ゴシップ好きの主婦みたいなもんだ。

 それに寝とったとか身体を使ってとか別に嘘じゃねぇしな。財産も使えるもんは使うし、今更そんなん言われてもなって感じだ。


 ……てか、よく考えたらスラパイだって堕ちる前は、あたしに、所詮財産狙いやら泥棒猫やら言ってたしな。そう考えたら、隣でベタベタしてくるスラパイが別人のようだ。

 うん、あたしがそうさせたんだけどね。





「おお、これは美味しそうだ。ありがとう」

「マリヤ様。お心遣い感謝いたします」


 一応スラパイには馬鹿の分も料理を持たせて、あたしも犬の分を運んでやった。本当はこんなの犬にやってもらいたかったんだけど、ショタの手前、そうもいかないだろう。


 ちなみにショタには食べ物を持っていくのも変な話だから、酒を注いで持っていた。グラスが空いてたし、何を飲んでたかはチェックしておいたからね。


「いや、ありがとう。貴方のように美しく気の利く方はベンツには勿体無いな」


「まぁ、お上手ですわ」


 マジで言動と容姿があってないんだって。何これどっから声出てんの? 人形とかじゃねぇの?


 で、その後もあたしやスラパイと両手に花で羨ましいやら、こいつは昔から自分の考えを曲げなくてやら、正直どうでもいい話が続いて暫く愛想笑いを返していた。

 

 こういうのってマジで退屈だな。本当疲れる。あぁただ話聞いてるぶんにはこのショタはまだ独身らしいな。


 でもなぁ、見た目がこれかぁ。そりゃ高校生ぐらいの見た目の奴とかは付き合ったり貢がせたりしたことあっけど、小中学生ぽいのとかは流石になかったな。


 まぁ年齢的には問題ないけどな。

 だからってじゃあ喰っちゃおうかって話でもないけどね。





「――ところで、このような席で不躾かもしれないが、――ほど前に盗賊とお前が出くわしたと耳にしたのだけど本当かな?」


 あたしは自分の耳が動くのを感じた。つい話に反応しちまったな。ショタの言ってるのは多分あたしが初めて馬鹿や犬とあった日の事だろう。


「えぇ。それは確かにな。アキバ兄の耳に入ってるなら、もう大体の事は知っていると思うけど、一人の女声に助けを求められてね」


 一人の女性ってのは勿論あたしの事だけどね。でもまぁ、やっぱその事は言わないか、体面とかあるだろうしね。


 う~ん。でもなんか迷ってるみたいに目を伏せてんな。ショタも、まずいことを聞いてしまったかな? みたいな表情をみせてっけど。


 そして少し沈黙、してたんだけど、馬鹿が視線をショタに戻した。妙に真剣な表情だな。


「……アキバ兄には隠し事はしたくないから言うけど、実はその時助けた女性が彼女……マリヤなんだよ」


 て、馬鹿の奴あっさり、あたしの事をバラしちまった――


 


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