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22話

 でけぇ壁があった。


 うん、まぁ街の前で馬車が止まった時の感想ね。一応番兵みたいのがいたよ。


 最初にあった犬みたいな格好していたな。


 で、門をくぐってからはヤケに入り組んだ道を馬車が進んでいった。

 犬の話だとあえてそうしてるそうだ。街を囲む壁も入り組んだ道もまだ戦が頻繁に起こってた時のなごりだそうだ。


 ちなみに城壁都市チヨダクルが正式名称なんだと。知らんよ。街でいいだろんなもん。


 で、門から宮殿まで走らせるだけでもまたえらく時間が掛かったんだけど、その宮殿のある敷地に入ってからも、なんなんだよおい! てっぐらい馬車が走り続けてやがる。


 どんだけ広大なんだよ! 皇居かよ!


 あ~あ。こりゃ駄目だ。馬鹿じゃ勝てんわ。

 不思議なもんで馬鹿の家も敷地も結構広く感じてたんだけど、これをみたらもう駄目だな。


 なんか馬鹿の屋敷とかが、急にせまっこく感じてきたよ。エロマンガ島とユーラシア大陸ぐらい差があるよ。


 金持ち度でいったら零細企業の社長と、やり手のIT企業社長ぐらいの差も感じるな。馬鹿自転車だし。


 そんなわけで馬車にゆられゆられて辿り着いた宮殿は。まぁ~~~~~~~~~~た、てけぇ!


 何これ? 誰住んでんのこれ? 結構な金持ちのお宅拝見してきたつもりだけど、本当比じゃないわ。


 何これ城? ヤケに光沢のある壁が、ぐわっ! と上まで伸びてて、アーチ型の屋根が正面にあんだけど、見上げると首が痛くなりそうだ。

 そのまわりも尖った塔みたいなのが何本も伸びてんな。塔には見張りっぽいのもいる。こんな時間まで大変だね。


 朝からずっとあんなことしてるとしたら、もう軽くブラック企業だな。そんな概念ないんだろうけど。


 てか窓からすげぇ眩しい光が漏れてんだけど、何? もしかして電気とかあるの?


「ここは電気が通ってるのですか?」


「で、ん……マリヤ様それは一体?」


 スラパイが普通に首を傾げてきたな。そりゃそうだ、電気なんてあるわけがない。

 もしこれでそんなのがあったなら、黙ってた犬は千回逝けずの刑にするとこだわ。


「何か股間が……」


 勘いいな犬。





 宮殿の中はまたえらく長い廊下に壁に掛けられた灯りが並んでいた。

 相当に明るい光源の正体は勿論電気などではなくて、犬の話だと増灯晶と呼ばれる特殊な水晶を加工した器に、蝋燭を入れた際に現れる効果らしい。


 炎の灯りを増幅してくれんだと。それでこんなに明るいのか。納得はしたがやっぱりここは異世界なんだなって再び実感した。

 

 てか、そんないい物があるなら、馬鹿の屋敷でも使えよって思うんだけど、希少な物でかなり高価なんだと。


 こんなとこでも侯爵と馬鹿の核の違いを感じたね。なにせ馬鹿の屋敷は灯りは生の蝋燭の光りぐらいだしね。

 だから日が沈んだら比較的早く寝るか、ヤルかだから、なんかもうそう考えるとまるで獣のようだね。





◇◆◇


 一応あたしたちは客としてかなり優遇されてるようだね。いや今回呼ばれてる客は別にあの馬鹿とかに関わらず、そうなのかもしれないけど。


 いや、もうなんつうの? 部屋が広い。荷物運びも犬じゃなくて、この宮殿のメイドやら執事っぽいのやらが運んでくれた。


 相当な待遇のよさだ。クローゼットとかでか! ベッドも広い上、なんか屋根付きでカーテンのシャーみたいなのもついてんだ。異世界にもあんだなコレ。


 で、レースぽい、透過性の高いカーテンがついてんのな。何のためにあんのかはよくわからんけど。


 側室だからか? そういえばお香みたいのもあんな。夜の営みにでも使えってのかな。


 そういえば部屋は、馬鹿もスラパイも犬も一部屋ずつ用意されてんだったな。


 こんなデカイ部屋が全員に用意されてるんだからすげぇよな。格の違いをやっぱ感じる。


 さてっとじゃあ着替えないとね。一応パーティだからってそれようのドレスも持ってきてんだよね。


 しかしここは鏡も、これでもか! てぐらいデカイな。姿見ってレベルじゃない。なんならゴジラの全身も映せるぐらいだ。


 それがベッドから見える位置にあんだから、考えたやつ絶対エロだな。エロカガミストだ。うん、今考えた。


 て、わけで、なんか部屋にメイドみたいなのがきて、そろそろお時間ですのでって着替え手伝ってくれた。

 まぁ至れりつくせりってのはこの事を言うんだねっと。





◇◆◇


 パーティというのは俗にいうビュッフェ形式というやり方で行われてた。一万人は優に入れるらしい巨大な広間に、円卓が何個も並べられ、その上に料理が並べられている。


 その種類も多数で、一流の宮廷料理人というのが腕を振るってるらしい。出汁の風習もないこの世界だが、肉料理、魚料理、サラダ、パンと見た目にはかなり豪華なもんが多く並んでた。


 で、上にはこれまたでっかいシャンデリア。その増灯晶とかいうのが多量に使われてるから、もう眩しいぐらいだ。

 おかげで相当にこの広間も明るい。


 なんか集まってる客の面々も、ザ・貴族! て風で、いかにもってとこだな。本当格好も豪華絢爛? そんな感じだ。


「似合ってますわマリヤ様」


「あぁまるで天使のようだマリヤ」


「このい、アレックス眩しくて目も開けてられません」


 三人が妙に褒めてくれるんだけど、別にいつも見てんじゃんって気もしないでもねぇなぁ。これでも自分が綺麗なのはしってるつもりだかららね。出ないと男だませねぇし。


 中にはブスなのに上手く転がす奴もいっけど、あぁいう相手限定な感じなのは主義じゃないしね。

 どんな相手でも騙せるよう、スタイルや見た目には気を使ってきたつもり。


 因みに、ドレスはスラパイがあたしには白が似合うって薦めてくれたんだけどね。


 で、胸の空いたドレスで、なんかドームみたいなスカートが一体になってるタイプ。

 本当はあたしは下は短いほうが好きなんだけどね動きやすくて。


 そういえばスラパイも中々派手なドレス着てるな。指輪もつけてるし元々そんな感じのが好きなんだろうな。

 色はライトなイエローグリーン。そのせいかあたしからしたらますます、スライム! て感じだ。ナイス選択スラパイ。

 ちなみにしっかりパイは寄せてあげてる。相変わらずレベルのたけぇ矯正だな。


 犬と馬鹿はそろってブラックのタキシード姿だ。犬はやっぱタキシード姿も渋い。

 普段ワン! とか言ってるとはとても思えないな。


 馬鹿もまぁ孫には衣装って感じで様になってる。


「やぁ。よく来てくれたねベンツ」


 さて、折角だし腹もなんか減ってるしで、料理でも犬に持ってきてもらおうかなと思ってたら、馬鹿に声を掛けてきたのがいた。

 

 て? うん? なんでこんなとこに――


「これはチヨダーク侯爵殿下。この度は私共をお招き頂き……」


「おいおいよしてくれよ。私とお前の中じゃないか。そんな固っ苦しい挨拶は抜きでいこう」


「ははっ、確かにそうだなアキバ兄」


「まぁその兄っていうのはそろそろ外してもらってもいいけどな」


 とか言いながら、うん、その侯爵殿下とやらが笑ってる。


 うん、なるほど、これが侯爵殿下ね。


 ……で、今あたしが視線を下ろした先にその殿下様がいらっしゃるんだけどね。


 う~ん確か犬の話だと馬鹿の二歳年上だったはずだな。で、実際馬鹿も兄と呼んでると。


 ……背、低いな。いやまぁ犬も馬鹿もまぁまぁ高いけど、それにしてもこの侯爵、あたしより低いぞ。

 確かあたしで最後測ったのが百六十三センチだから、少なくともそれよりは下だよな? 

 

 そして髪は金。まぁそれはいいな。馬鹿と一緒だし。髪型は……ちょっと外に跳ねた感じ。前髪は眉毛に掛かるぐらいでフワサラって感じだな。柔らかそうだ。


 眼は卵型で大きくてクリクリっとしてる。瞳はブルーっと。鼻がちっこくて、唇がモチッとしてるな。てか全体的にモチモチッて感じだな。肌も白いし。


 うん。つまりだ。総じて何というか……わっか! てか何! 兄? 嘘だろ! 若いってレベルじゃねぇよ! どこの餓鬼かと思っちまったじゃねぇか! 


 あれ? 馬鹿っていくつだっけ? 確かスラパイの二歳うえで二十七歳だったな……て、こいつ二十九!? 嘘つけや! 逆年齢詐称だろ! どう上に見ても十二とか十三にしか見えねぇよ! ゼッタイ義務教育終えてないよ!


「――で、ベンツ。この方が?」


 て、思ってたらこっちを見てきたよ。上目でジーっと見てるよこのショタ! あ、ちなみにあたしの中でこいつはショタに決定。


 と、つぶらな瞳で随分興味深そう……というか不思議な感じにみてるな。


 ……うん。そりゃそうか。


「あ、あのお二人共ちょっとこちらへ」

「え?」

「お、おい! まだアキバ兄と」


「ご、ごめんあそばせ、すぐに戻りますので」


 犬も後ろから付いてきた。そしてちょっと侯爵から離れたところで、とりあえず落ち着くことにする。


「突然どうされたのですか? マリヤ様?」


「マリヤ。話の途中で離れるのはあまり良くないのではないか? 不敬にあたるぞ」


 と、言ってるがこいつらこの状況どうも思ってないのか? ちなみに流石に犬はその辺気づいてるっぽいな。だから何も言わないのかもしれないけど。


「とりあえずお二人共一旦離れましょう」


「うん?」


「こうですかマリヤ様?」

 

 そうそうそれで。


「え~と。そうですわね。ではもう一度……まず私が、メルセルク様の左腕を――」


 とりあえず、馬鹿の腕にあたしの腕をからませた。てか何紅くなってんだ? 今更だろ。どこのウブな高校生だよ。


「で、次はアリスが」


「はい。私がマリヤ様の空いてる腕を――」

「何でだよ!」「何でだよ!」「何でだよ!」


 て、三人一緒にハモッちまったじゃねぇか! 


「そうだ! なんで気づかなかったんだ! これは確かにおかしい!」


 突っ込んで初めて気づいたみたいだけど、馬鹿よ、お前は本当に馬鹿だなぁ……馬鹿なんだなぁ……。


「何かおかしいところがありましたでしょうか?」

 

 スラパイお前はマジでいってるのか? 正妻とその旦那に挟まれる側室ってどういう図式だよ……。


「奥様。流石にこれは色々おかしいかと」


「そうですわ。アレックスの言うとおり、ここはメルセルク様を立てないといけませんし――」


 面倒くせぇなぁ。なんであたしがこんな説明しないといけねぇんだよ。

 

 まぁとにかくスラパイ。お前はいいから馬鹿の腕を取れ……ってなんで、え~……って顔してんだよ! 旦那だろ! 大丈夫かこの夫婦?


 そんなわけで、渋々といった感じにアリスが馬鹿の腕を取り、あたしも逆側でっと、よしこれで正解だ。


 とりあえずこれで変な顔はされないで済むはず……てか、はぁ~、なんか最早疲れてきた――

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