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19話

 食堂のテーブルの席に全員がついた時には、既にだいぶ暗くなっていた。


 ただ灯りがないわけじゃないんだな。屋敷ではキャンドルだったけど、ここには光殻虫という変わった昆虫が、虫かごに入れられて淡い光を発してる。


 ホタルみたいなもんかな? てとこだけど、全身が光るから明るさはソレよりは上だな。見た目はカブトムシっぽい。角はないけどね。


 因みにこの虫は部屋にも一匹づつ置かれてる。夜はずっと発行し続けてるから鬱陶しい時は上から濃いめの黒布を掛けて遮断する形だ。


 電気が無いってのは不便だなと思うけど、こういう優しい光は、まぁまぁ心地いいかな。

 で、テーブルの上には犬が作ってくれた木製の台があって、そこに出汁を波々と注いだバックラーを乗っけた。


 厨房にあった深めの皿も拝借して、スラパイに各席に置いていってもらう。大きめの平皿には切った食材を並べて、それもテーブルの上に置いた。


 結構な量になったから、テーブルは二台横付けにさせてもらった形なんだよね。他に客も居なさそうでほぼ貸切状態だから問題ないっしょ。てか、これでこの宿やってられんのかね? まぁあたしが気にすることじゃないけど。


「ところでマリヤ。これは一体なんという料理なのでしょうか? 私このようなものは初めてなのですが」


「確かに。このアレックスもお恥ずかしながら存じ上げない手法ですな」


「あ、私も初めてみます。でも、ちょっとドキドキです」


 三人が不思議な物を見る目で食材と出汁の入ったバックラーをみてんな。まぁ知らないのも仕方ないとは思うけど。


 ちなみに馬鹿は今は別の作業を頼んでるから厨房だ。仕上げに必要なものだからな。


「これはナベですわ」


 あたしがそう教えてやると、鍋? と繰り返して、同時に眼を丸くさせやがった。瞳をパチクリさせて、ますます奇妙な物をみたって感じの表情だ。


 で、とりあえず食い方も判らないって感じだから、あたしが鍋代わりにしたバックラーに野菜を入れていく。コンロとかはないから、代用鍋は予め火にかけて沸かしておいたけど、それでも火を通すにはちょっと弱い。


「マリヤお待たせしたね! これでいいのかな?」


 おっと。ナイスタイミングで馬鹿の登場。


「はい、大丈夫ですわ。それではこの鍋に入れて貰えますか?」


 あたしが馬鹿にそう告げると、何をするつもりなんだろ? て具合に首を傾げつつも、トレイに乗せてあったそれをナイフで鍋の中に注ぎ込んだ。


 そしたら予定通り、鍋の出汁が一気に熱をもってグツグツと煮立つ。

 馬鹿に入れてもらったのは焼いた石だ。河原でなんとなく拾っておいたのが、上手いこと役に立った感じだな。


 まぁ石焼鍋ってやつなんだけどね。


「おお! これは……」


「凄いですわマリヤ様! まるで魔法を使ったかのようですわ!」


「まさかこんな方法があるとは! 私でもこれは思いつかないぞ!」


「ユニコーンの角でも出来ますかね?」


 ……なんだろう? 褒められてるんだと思うけどそんな嬉しくないな。てかこんなんも思いつかないほどなのか? 

 

 魔法みたいってか、そもそも魔法が普通にある世界みたいだから、こういう単純なのに気づかないもんなのかなぁ? てかマセコだけ何か思考が違うな。ユニコーンの角って……出来ると言ったら折る気なのか? なにこの娘コワイ。


 ちなみに犬には、この鍋を楽しむための道具を木材から色々作ってもらった。箸とかお玉みたいなもんとかね。

 出来はかなりいいし、このまま売ってもいけんじゃね? て思えるほどだね。犬の癖に手先器用すぎんだろ。


 とは言え、なにせ鍋もヤカンもわかんねぇような連中だから、折角の道具も使い方が判らない。作った本人も当然理解していない。


「これはどう使うものなのですか?」

と不思議そうに箸を眺め回してやがるし、馬鹿にかんしてはナイフとフォークに見立てて、こうか? しかしこれでは切れそうも……なんて言ってやがる始末だ。やべぇ腹が捩れそう。


 まぁでもこんなやり取りのんびり見てる場合じゃないね。折角煮えてるのに冷めちまうし。だからとりあえず使い方は教えてやる。

 持ち方と摘み方をね。てか犬は流石に感がいい。一階教えただけで、こうですかな? とあたしよりも上手く使いこなしやがった。何なんだコイツ? 犬のくせに。


「マリヤ~、私わかりませんわぁ。手取り足取り教えてほしぃのです」


 語尾を変に伸ばすな! 手とりって……まぁしゃあねぇから教えるけど。

 て何これ! 指の関節柔らか! タコかよ! で、どうやったらそんな箸に卍固め掛けましたみたいになれんだよ! これ、とりあえず指を解くとこから始めないと行けないじゃん!


「ん、あ、くぅ、ん……」

「いやアリス。変な声は出さないでもらえるかしら?」

「だってぇ。マリヤったら触り方がいやら――」

「こうだよ! こう持つの!」

 

 やべ! 思わず素が出ちまった。てかマセコの頬が紅いし。


「ア、アリスったら本当不器用ね。私ドジなお姉さまを持った気持ちですわ」


 おほほ、っと笑って取り敢えずごまかしてっと。


「イヤですわマリヤったら。私達はどちらかというと愛――」

「私達姉妹のように仲がいいのですわよね! ア・リ・ス」


 そこまで強調して漸くスラパイも、嫌だ私ったらつい、と正気に戻ったよ。全く疲れるったらない。


「しかし、こうやって一つの食事を分けあって食べるなど、斬新な料理だな。しかしマリヤは一体どこでこのようなものを知ったのだ?」


 返答に困る質問すんな馬鹿。黙って食えや! て、お、あの猪の肉は結構いける。確かに柔らかいし、出汁も中々いい感じに味が染みてる。ローションとかちょっと心配だったけど結果オーライだな。


「マリヤは博識ですわね。私ますますマリヤの事を……キャッ!」


 キャッ! じゃねぇよ。てかウナ蛇普通に食ってんな。気になんねぇのか? まぁあたしも食ってけど。


「ウナ蛇も煮たことで柔らかくなり、それでいて脂はしっかり乗ってますな。いやはやこれは精が付きそうですぞ」


 気のせいか犬の言い方が嫌らしい。てかこっちのも精がつくとか言われてんのか。どこもたいして変わんねぇ……て、馬鹿もスラパイも紅くなって何想像してんだ。


「ですが、この箸というのは凄いですね。切る刺すではなく、摘むだなんて私には想像もつかない道具なのです。でもこれはユニコーンの角でも作れるかもしれませんね」


 こいつは一体ユニコーンをどうしたいんだ?


「ですがユニコーンは処女以外には近づけませんし、角を取るのも一苦労だと思いますわ」


 何スラパイまで話に乗っかってんだよ。いいから食えよ。肉とかまだまだ沢山あんだから。


「確かにそうですね。おまけにユニコーンは、そ、その、条件に合わない物が、角に近づくと、ま、股座を貫こうとしますから……」


 マセコも顔真っ赤にさせるぐらいなら言うなよ。てかユニコーンそんな性癖あったのかよ! 犬いなかったら普通に危なかったじゃんあたし! こわ!


「いんやぁあんたがたぁ。随分かわっだもんくってぇなぁ? 美味そうだなぁちょっと摘んでもいいかい?」


「嫌ですわ」

「冗談じゃないですわ」

「お前に分けるぶんなどない!」

「ユニコーンに掘られてろ」


 油ギッシュオヤジがトボトボと去って行った。ブツブツと、折角厨房貸してやったのに、とかほざいてるが知った事か。


「なんだ? 他にも客がいたのか。てかいい匂いしてんな? 何だこれ?」


 なんか食堂に三人組の男が入ってきたな。他にもって事は、こいつらも宿泊客なんだろうか? 貸し切り状態かと思ってたけど。


「あんたらぁ、この時間だと夕食とか用意できないけどえぇがい?」

 

 お気楽ババァが後ろから三人組に声をかけた。なんか聞いてる限りではどうやら今さっきチェックインしたって感じみたいだね。


 てか、この三人、揃って鎧とか着てんのな。前に犬が着てたのとは違って革製みたいだけど、腰には剣も吊るしてるし。異世界なら別に珍しいことではないのかもしんないけど。


 ただソレ以外はそんなに特徴ないかな。全員背格好はにたようなもんだ。髪の色も皆して茶だな。動物とかの毛っぽい色だ。


 んで一人はやけに細い目をしてて大人しそうな感じ。もう一人の方は男にしては後ろ髪が長いかな。骨ばった顔で無精髭を生やしてる。

 最初に声を出して入ってきた方は、吊り上がり気味の尖った瞳で、ガラが悪そうだ。なんかヤンキーっぽい。


「かまわねぇよ。でも酒ぐらいあんだろ? それ出してくれるかい? エールでいいぜ」


 吊り目がババァに酒を注文して、あたし達の近くの席に座った。まぁ別にだからどうってこともないし、こっちはこっちで食事を再開……したんだけど、あいつら運ばれてきた酒を飲みながらチラチラこっちを窺ってきてる。なんだ感じワリィな。


「私、もうお腹がいっぱいですわ」

「あぁ随分食べたしなぁ」

「こんなにごちそうになって申し訳ないのです~」


 皆、満足気にお腹を擦ったりしてるな。まぁ確かにあたしも流石にこれ以上はって感じかな。皿の分も殆ど食べたし。昨日に比べたらかなりいい食事だったなぁ。


 で、それじゃあこれでお開きに、と席をたとうとしたんだけど。


「なんだいもう終わっちゃうのかい? なんなら一人ぐらいこっちで酌してくれよ」

 

 出たよ! 出た出た。なんかあっかなぁと思ったんだよね。これもいわゆるアレかな? テンプレって奴?


 で、ほらこっち来いよ、と吊り目があたしに腕を伸ばしてきた。よりによってあたしってなめてんのコイツ?


「やめたまえ」


 お、馬鹿が間に入った。こういうところは流石だな。


「あん、なんだてめぇ?」


「……お前のような不貞な輩にそのような呼ばれ方をされる覚えはないがな。とにかくこの者達は、私の旅に同道する大切な人達だ。お前らの相手など出来ぬしさせぬ。諦めるんだな」


 馬鹿も言う時は言うもんだな。ただそれで納得するかは微妙だな。なんかしつこそうだし。


「あん? 大切? なんだ、てっきり俺は性奴隷でも侍らかして調子に乗ってるだけかと思ったぜ。ぎゃはははぁ」


 うわぁ。殴りてぇ~。


「貴様! よりによって性奴隷などと下衆な事を許せん!」


 馬鹿はかなり頭に血が上ってんな。前の盗賊の時もそうだけど、こういうところは変わんねぇなぁ。


「お待ちくださいメルセルク様。このような低俗な冒険者連中に関わっては家名が汚れますぞ。相手にせぬのが一番です」


 流石に犬はこういうとき冷静だな。まぁ止めずに、もし今から喧嘩が始まったとしても犬と馬鹿に吊り目が勝てるとは思えないけど。


「しかしアレックス――」


 て、馬鹿はあまり納得してないみたいだな。まぁどっちでもいいけど、やるならやる、やらないならやらないで――


「うん? アレックス? あんたもしかして王国騎士団にいたアレックスか? あの英雄と称された――」


 て、うん? なんか吊り目が犬に指突きつけて妙な事を言い出したんだけど……英雄?








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