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16話

 朝目覚めて二人に軽く挨拶した、なんか頬を紅くして照れくさそうにしてた。

 そういや三人では初めてか。

 でも、今更そんな初めて朝を迎えた青臭いカップルみたいな雰囲気醸し出すのはやめてくれ。コッチが恥ずかしくなる。


 とりあえず着替えて部屋を出ようとしたら犬が迎えに来た。

 流石に早いな。話を聞くにはもう荷物も積み込んだらしい。そういえば荷物全部アレックスの部屋に置いてるんだったな。


「おはようございます!」


 部屋を出たらカグラもまた元気よく挨拶してきた。で、あたしをなんか見つめて頬も紅い。何を想像してるんだか。

 実は結構マセた娘だな。処女なのに。





 宿場を出る前に、用意されてるという朝食を摂っておこうという話になった。

 正直期待は出来ないが食べておかないとお腹は空きそうだし、昨日と違って途中弁当もないだろ。


 で、階段を降りたら、朝食の準備を終えたおばちゃんが近づいてきた。昨日は気にしてなかったが、まぁまぁ膨よかな女だ。


「おはようございます。昨日はお楽しみでしたね」

 

 何言ってんだババァ! いらないんだよそういうのは。てかほら、後ろで夫婦そろってモジモジしてる……月九かよ! 


 カグラもなんか口元ムズムズして、また頬も紅くして何か知りたいけど聞けないって感じだな。うん、こいつはこれからマセコだな。それで決定。


で、まぁ予想通りマズい朝食を摂って、で、全員で出発と。


 犬の話だと、今日はこのまま丘陵地帯を抜け、そのまま山道に入ってくらしい。途中橋も越えるらしいが、そこの景色が絶景と言っていた。うん、今日はそれだけが楽しみだ。





◇◆◇


「大丈夫ですか?」


 犬が心配してる。全く山道に入ってしばらく進んだらこれだ。こんなところで時間を掛けてられないんだろうけど……。


 何か口からキラキラしたものを排出してしまってるし。

 だけど、馬車は確かに揺れが酷い。ある意味でしょうがないのかと納得するしかないかな。


 でも、もう気分は折角の遠足なのに、バス止めて道でエロエロする小学生って感じだ。エロエロっていってもそっちの意味じゃないぞ。


 て、事でまぁ……。


「伯爵様。どうですかな?」


 馬鹿はここに来て、乗り物酔いで、吐き出しまくってるわけだが、てかお前よく考えたらいつも来てんじゃねぇの? 


「心配かけてすまないアレックス」

「大丈夫ですよ。いつものことですから」


 いつもなのかよ! いつも吐いてるなら少しは対策しろよ。てか吐くのわかってるならお前は朝からおかわりとかしてんじゃねぇよ!


「もしマリヤ様が……」

 

 うん?


「もしマリヤ様が、かような目にあったなら私が受け止めて差し上げますので」

 

 何で受け止める気だよ! つうか、だったらお前の旦那の受け止めてやれよ!


 てか、気のせいかスラパイの変態度が日に日に増してる気がする……異世界人ぱねぇな……


「あ、あの皆様ちょっと問題が……」

 

 マセコが困ったような顔して出てきた。でも別に今更いわれなくも困ったことにはなってる。さっきから犬が背中を擦ってるが、馬鹿の口から出ている汚物は止みそうにない。


 本当勘弁してくれって感じだ。今日は昼は抜きになりそうだけど、そもそも食う気も完全にうせる事態だ。だれか正露丸出してやれよ。よくわかんねぇけどあれ万能薬だろ?


「アレックス。正露丸飲ませて差し上げなさい」


「は? せい? なんですかそれは?」


 困った時は正露丸だというのに、不便だな異世界。


「あ、あの……」

 

 あぁそうだ。マセコの事忘れてた。


「えぇ。確かに見ての通り少々困った事になりましたわね。ばか……メルセルクがこれでは先に進めませんし……」


「あ、いえ、それはまぁそのうち良くなるでしょうが……それよりも前の方で問題が……」


 馬鹿の事を心配してたんじゃないんだな。まぁそれもそうか。寧ろ迷惑だし。てか何? 前?


 よくわかんないけど、あたしはスラパイと一緒に振り向いた。て、何だあれ? 猪? にしてもえらくでかいな。あたしの知ってる猪の数倍はある。


「おや? あれは、マウンテンボアではありませんか」


 あたしが首を回すと、馬鹿の背中をさすっていた犬も振り返って、なんかデカイ猪をみるなりそんな事を言った。マウンテン? マウンテンゴリラみたいなもんか。まぁ確かにでかいな。


「えぇ。どうしましょうか? ここは道が狭いのでこのままでは邪魔で進めません。こちらにはユニコーンがいるので、放っておけばそのうち去っていくかとは思いますが」


 てユニコーンがいるからって、ユニコーンそんなに強いのかよ! ぱねぇな! さすがネジネジ角を持ってるだけある。ナカオさんもびっくりな風格だ。


「……いえ、私がなんとかしましょう。伯爵様も随分と落ち着いてきたようだ」


「す、済まないなアレックス」


「いえいえ」

 

 言って犬は馬車に用意してあった大剣を取り出した。こうやってみると改めて騎士って感じがするな。犬だけど。


「マリヤ様。これで今晩の夕食は旨い肉にありつけそうですぞ」


 あたしとすれ違いざまそう言って、ニカっと笑ってきた。こいつ、主の不満も察知して、マジで優秀な犬だな。


 犬はユニコーンより更に前に出て、大剣を肩に担ぐようにして構えた。ユニコーンがいると近づいてこないから、自ら前に出たって感じだな。


 見た目には隙だらけに見える構えだな。なんか不思議とそういうの判るようになってるんだよね。チートのおかげかな。


 まぁでも誘いっぽいかな。なんか空いた方の手で、カモーンってやってるし。でそのマウンテン……名前なげぇな。つまりでっかい猪が興奮して鼻息を荒くさせて、後ろ足で地面を引っ掻き始めた。


 単純だな。まぁ見た目からして馬鹿っぽいけど。


 と、案の定、猪が犬に突撃していった。言葉だけみると犬勇敢すぎだな。

 で、まぁ犬はあたる直前に、なんか闘牛士のようにヒラリと躱して、恐らくは首のあたりに大剣を振り下ろした。鞘には収まってる状態だから、斬ったというよりは叩きつけたって感じだな。ちなみに前に聞いたんだけどあの鞘は青銅製らしい。


 ボキッ! となんか鈍い音が聞こえた。あれは折れてるっぽいね。実際でかい猪は横倒しに倒れて動けなくなった。


「アレックス流石ですわね」


「そうですわね。彼の強さは本物ですわ」


 あたしが一応褒めてやると、スラパイも後に続いて湛えた。犬が照れくさそうに後頭部を擦る。調子のんな!


「でも、よくこんなん一撃で倒したな犬」


 犬に近づいて耳元で囁いた。素の口調でな。


「えぇ。このマウンテンボアは首の後が弱点でして。そこを狙えばそれほど苦もなく倒せます」


 と言ってもなぁ。あんな勢い良く突っ込んできてんのに、そんなあるんだか、ないんだか判んねぇ首を狙うんだから、やっぱ出来るやつなんだろうな。

 

 まぁ犬にも出来るなら恐らく、今のあたしにも出来るんだろうけどね。


「ですが、どうして鞘に収めたまま?」


 スラパイもマセコも近づいてきたから、口調を戻して聞く。


「えぇ。ここで下手に傷つけてしまうと味が落ちますからな」


 あぁ成る程。よく考えてんな。


 その後は、回復した馬鹿と再び馬車に乗り込んだ。そういえば巨大猪はどうやって運ぶのかな? と思ってたら、ロープで四肢を纏めるように縛って、更に逆側の先端を馬車の後ろに括りつけた。


 どうやらこのまま引きずっていくつもりらしい。


「こいつは、こういう風に引きずってやると、身がしまっていい味になるんですよ」


 なるほどね。色々考えてんだな。しかし引っ張ると身がしまるのか。だったらこの馬鹿も引きずってやれば色々引き締まるかもな。

 言わねぇけど。





◇◆◇


 馬車は運転を再開、更に感覚的には一時間ほど走ったところで、犬が言っていた橋に差し掛かった。窓からみてみると眼下に広がる自然と巨大な川がいい感じにマッチして、更に遠くに連なる山々がそれに輪をかけて美しさを際立たせる。

 

 これは確かにいい景色だなぁ。吊り橋ではユニコーンも流石に速度を落とすから、ゆったりと絶景を楽しむ事が出来る。


 これだけでも来てよかったと思えた程だ。都会に連なる高層ビル群も嫌いじゃないけど、自然を楽しむのも乙なもんかも。


「何度見てもここの景色は最高だな」

「そうですわね貴方」


 二人共なんかうっとりしながら窓の外を眺めてる。なんかこれだけ聞くと中慎ましい夫婦って感じもするよね。

 うん、なぜか挟まれてるのがあたしで、二人が握る手もあたしのって事を除けばね――






 

 







 


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