14話
正直あたしがこんなにワクワクしたのはいつぶりだろうか。
いや、ほんとこの日を待ちわびたっていうか、ベターな例えだと遠足前のあの気持ち? みたいな? まぁあたしにはそんな思い出ないけどね。
でもやっぱ興奮するよね。だってユニコーンだもの。マジでみるのなんて初めてだし。
そういえばこの世界きてから、未だ幻想的なもの見てなかったもんなぁ。
そうだよ! 異世界にしてはファンタジーが全然足りなかったんだよねぇ~
でも、これでやっと、あぁ、異世界なんだなぁ、て気になれそうかな。まぁユニコーンがみたいだけなんだけどね。
「マリヤ様。迎えの馬車が到着いたしました」
「ホントか!」
あぁやっべぇ~あたし絶対かおが綻んでるよ~子供みたいだな。あ~でもやっべぇ、心臓ドキドキだわ。もうヤル時より絶対心臓の動き激しいよ。
「マリヤ様、随分と嬉しそうですな」
「な、何を言ってるんだよぉ~。そんな嬉しいなんて~。いつも通りだよぉ。いっつもどおっり~フフン」
あ~やっべぇ、スキップとか踏んじゃってるかも~。
「マリヤ様かわいい……」
「うん? 何かいったか犬?」
「いえ何でも」
◇◆◇
「マジでユニコーン! キタコレ!」
あぁやっべぇ。思わず我を忘れて変な事口走っちゃったよ~。まぁいっか、犬しか見てねぇし。て、なんか笑ってる! 微笑ましいみたいな表情がムカつく!
くぅ、でもしょうがないじゃ~ん。ユニコーンが目の前にいるんだよぉ。あたしも自分でびっくり。こんなに興奮するなんて乙女かよ! て。
いやぁでも結構でかいなぁ。もちろん身体が。あぁなんか離れててもわかるわぁ。めっちゃ毛が綺麗……白くてフサフサで、あぁやっべぇモフモフしてぇ~。
てかまじで角生えてるよ! なんかちょっとネジネジって感じで、イヤラシそうな役者のなんだかわかんねえ首巻きみたいにもみえるけど。
いや失礼だな。あそこまでけったいじゃないし、寧ろ長さとか太さとか、あぁたくましそう……やっべぇアレもちょっと触ってみたい。なんなら舐めたい。
え~い! いいよね? 触ってもいいよね?
「お待ちください!」
な、なんだ? 近づこうとしたら犬に止められた。んだよぉ。なんで止めんだよぉ。モフモフさせろよぉお~~~~!
「マリヤ様。申し訳ありませんが、近づくのだけはやめておいたほうがいいです」
はぁああああぁあああぁあ? え? 何いってんの? 何いってんのこいつ? 何その寸止め! ふざけんな!
「ざけんな犬! あたしはモフモフしたいんだよ! 放せ! 放せ! は~な~~せ~~よぉおおぉお――」
あぁヤッベ、何かガキみたいに腕振り回してすっげぇムキになってるじゃんあたし。でもとめらんない! この気持ち!
「……わ、わかりました。但しそ~っとですよ。それと正面と後ろからは絶対に近づかず、側面からでお願いします」
ムカつく! なんで犬にそんだ命……て、うわ! こわ! 目がこわ! 何これマジ顔で。なんだよぉ。まぁいっかぁ、しゃあねぇなぁ。
「わかったよ。横からな」
「はい。慎重に、慎重にですぞ」
何だよもう! 仕方ねぇなぁ、そ~っと、そ~っと――
「ヒヒヒィイイイン!」
「マリヤ様!」
うわ! びびった! 何だ急に嘶いて角振り回してって! あぶっ! あぶな!
「大丈夫ですかマリヤ様?」
「え、えぇ……て、何ちゃっかり胸もんでんだよ」
失礼と犬がはなれた。全くちゃっかりしてやがる。まぁ抱きかかえてくれなかったら危なかったし、今更胸ぐらいどうって事ないけど。
「あらあら、随分と嫌われたものですわね。マ・リ・ヤ・さ・ま」
あぁ、なんかこの嫌悪感丸出しの声。
「あらメイド長。こんな所までこられるなんて随分お暇そうですわね」
「私は皆様をお見送りに参っただけですわ。旦那様も奥様も、まだご準備をなされてるようなので少し早いかなとも思いましたが」
そこまで言ってメイド長が指を口に添えてうふふと笑った。なんか小馬鹿にされているみたいでムカつく。
「マリヤ様がユニコーンの見学に出てると聞きまして。ちょっとご注意をとも思いましたが間に合いませんでしたわね。でもご無事のようで何よりです」
嘘を付け。ユニコーンにやられれば良かったのにって顔にかいてあるんだよ。
「えぇ。私の側には優秀なアレックスがついてましたから。でも驚きましたわ。まさかユニコーンの気性がこんなに荒いとは知りませんでしたので」
「荒い? あらあらそんな事を言われてはユニコーンが可哀想ではありませんか」
そう言ってメイド長がユニコーンに近づいていった。おいおい危ねぇぞ、なんて言ってあげな~い。びびって泣け!
て、あれ?
「うふふ、可愛い」
……はぁ? おいおいどうなってんだ。メイド長が近づいたら、なんか嬉しそうだぞ。あたしの時はあんなに荒々しかったのに……あ~! 頬ずりまでして!
「ごめんあそばせ。マリヤ様を差し置いて私などが……ただ、ユニコーンは心の綺麗なものにしか懐かないといいますので……」
こ、こいつ、勝ち誇ったような目しやがって! 悔しい! て! 大体自分から心が綺麗とか寒いんだよ! てかそれだとあたしの心が汚いみたいだろうが! 否定しないけど!
「いや、あの、その――」
うん? なんか犬が口ごもってるぞ?
「あら? 何か言いたいことがあるなら、隠し事などせずどうぞ素直に」
つまりあたしに嘘ついたらどうなるかわかってんな? と告げてるわけ。
「はい。そのですな。ユニコーンは破瓜が行われていない女性以外は受け付けない生き物でして……」
破瓜? あぁ処女じゃないと駄目ってことか。なんだそうかよ。て、そういえばなんかでみたことあるな。
「まぁそうとも言いますわね。ふふっ、マリヤ様は数多の男性とのご経験が豊富ですから」
つまりヤリマンっていいたいってわけだな。へん、そんなのどうって事ないもんね。事実だし。
「あらあら、確かにそれでは、私はユニコーンには近づけそうにありませんね。メイド長のように三十になっても未だ骨董品のように大事に守り続ける精神力は私にはございませんから。まぁ私は守り続けて埃を被ってしまうよりは、使える時に使ってしまったほうが幸せと感じてしまうたちなので。本当メイド長のその心の強さ、見習いたいぐらいですわ」
メイド長の目が尖った。へへ~んっだ。悔しいだろう~ざま~。
「マリヤさ、マリヤったらもう出てらしたのですね」
お、スラパイと馬鹿がやってきた。
「どうだいマリヤ? ユニコーンは美しいだろう。ただ絶対に近づいてはいけないよ。ユニコーンは……その特定の人間しか……」
なんか言いにくそうにモゴモゴしてっけど、その情報はもう知ってんだよって。
「あ、あの、本日は宜しくお願い致します」
うん? なんだこの娘?
「マリヤ。この娘がチヨダーク侯爵が手配してくれた、ユニコーンの御者を務める、カグラさんだ」
マジでか! ちっちゃ! 背ちっちゃ! めっちゃロリじゃん! てか髪の毛ピンクだし! 何染めてんの!? てまぁこの世界じゃ珍しくないのか。
「あら、随分と可愛らしい。お幾つなのかしら?」
「は、はい! 十二歳になります。まだ若輩ものではありますが、どうぞ宜しくお願い致します」
十二歳か。それで御者とか若すぎね? とか思えなくもないけど、この国の成人は一五歳だから、そう考えたらまぁおかしくないのかも。それに処女じゃないと乗れないってんなら若くないとしょうがないだろうしな。
「あらあら、やっぱりユニコーンを操れる条件となるとこれぐらい若々しくなるわよね。まさか三十歳にもなってまだユニコーンを操れますという方はいないでしょうし」
「マ、マリヤ様」
犬が苦笑い浮かべているが知った事か。
「え? 三十で、ですか? それは確かに私も聞いたことがありませんね……あの、その、じょ、条件がありますから大体長くても十八ぐらいまでです」
おっと紅くなっちゃって可愛い。目も大きいし碧眼だし。やっべ、悪戯しちゃいたくなるかも。
てか、後ろから殺気がすげぇな。みないどこ、みないどこ。
「それでは、旦那様、奥様、アレックス様、どうぞ道中お気をつけて。皆様がお戻りになられる頃には更に過ごしやすくなられるよう、しっかり業務を努めますので」
うん、しっかりあたしを抜いたなこの野郎。
「あぁ。頼んだよメイド長。といっても君が優秀なのは今更確認するまでもないが」
何が面白いんだかしんねぇけど、馬鹿が空にむかって、あっはっは、と笑いあげた。
て、わけで準備が終わったのであたし達は一台の馬車で出発した。中はすげぇ広い。荷物も結構積んでて重量もありそうなんだが(別にあたしが重いと言ってるわけではない)ユニコーンだとそれでも全く問題としないらしい。さすがだなユニコーン。あのなんとも逞しい角は伊達じゃない。
それにしても、馬鹿が留守の間は子どもたちが代わりを務めるそうだけど、マジかよって思ったね。
まだ八歳と五歳だぜ? どんだけ異世界の餓鬼クォリティーたけぇんだよ。
まぁじいやみたいのが補助するらしいけどねっと。
そんな事を思ってたらカグラの可愛らしい声と鈴の音が響いて、ユニコーンが走りだした。このユニコーン鞭で操るのでなく鈴の音で操るらしい。なんだそれ! 可愛い!
でもあたしは近づけないんだよね……なんか心がショボーンだよ。顔文字でも描きたい気分だよ。
でもまぁそういえば異世界でまともに遠出するのは初だしね。少しは楽しむとしますかっと――




