12話
2014/09/19 修正版と差し替えました
「税を倍にするって……本気ですか旦那様!」
と、キンキン声でがなりたてるてるのメイド長だ。あたしと犬と馬鹿が話を煮詰めてるとこに失礼しますと現れて、ワーワーギャーギャーいっている。メイド長だからってそれいいんかい? て感じもするがこれも伯爵の寛大という名の愚行が招いた弊害だろう。
あの後も犬から色々話を聞き出したが、ここの領主の馬鹿さかげんを更に色々知ることが出来た。
例えばこの地の領民は職業選択の自由も許されている。奴隷という制度も採用していない。いや、寧ろ時折訪れる奴隷商人から奴隷を買い、開放し、奉公先まで探してあげるという偽善活動まで行っている。
もちろんその費用は親の残した財産から捻出してるのだ。
まぁそんなわけでここの領民は実は自転車な領主と違い悠々自適な暮らしを謳歌してるようだ。全くどうしようもねぇ。
ただこの地にも勿論いいところもある。先に聞いたように土壌が肥沃で作物がよく育つ。そのせいか食い物には困らない。
これは中々重要だろう。またそのせいか職業の自由が求められていても領民の殆どは農業を営むそうだ。
元の世界の若者に見習わせたいぐらいだ。食料自給率という点ではここの方がはるかに優秀だね。
まぁつまりね。その点を考慮するとようは取れるものはあるのにバカ領主が自ら取ってないという状態って事だ。だったら話は簡単で税率を増やせばいいって話。
ただこれは犬が難色を示していた。そもそもあの馬鹿がその提案を受け入れるはずがないのでは? とも心配していた。他にも色々と懸念材料を並べていたが、あたしはまぁ問題ないだろうと判断。
そして馬鹿伯爵に尤もらしく進言した。スラパイも隣にいた。が、寧ろ二人は甘露を受けたとばかりにあたしを賞賛し、早速手続きに移ると潔く承諾した。
何だこれ? 大丈夫かこいつら? とも思えるが、まぁあたしがそういう身体にしたわけだからね。文句を言うのも変な話だ。
「旦那様! そのような突然徴収額を倍などにされては領民の不満が爆発致します! どうか再度ご一考を……」
メイド長もしつこいね。もう決定事項だって覆すのは無理だよ。
「メイド長。私はマリヤの言葉で目が覚めたのだ。これまで私は領民に飴ばかり与えていた事に気づいたのだ。しかしそれでは人は駄目になる」
「そうですわメイド長。私もマリヤさ、マリヤの考えに賛同いたします。マリヤの聡明な判断はきっとメルセルク家をより繁栄させる事となるでしょう」
今危なかったな。普段はあたしに様をつけるなっていってあるんだけどね。
てかいいかげんメイド長の名前が気になるような、でもこのままでもいいようなそんなもやっとした気持ちになってきたよ。
「マリヤ……また貴方が――」
おぉ怖えぇ。また睨みつけてきたよ。そのまま刺されそうなぐらいだなまじで。
て、あ、アリスがキレた。呼び捨てにするとは何事ですか! だって。ありゃりゃ俯いちゃったかわいそう。
「も、申し訳ございません。マリヤ様」
「宜しいのですよメイド長。貴方もこの地を思っての事ですものね。その気持ちはとても喜ばしいことです」
や~い。ば~か、ば~か。
と、まぁそんなわけでメイド長(名無し)の説得虚しく、まもなくして税の徴収額を倍とするお触れが領民に配布されていった。
◇◆◇
「納得が出来ん!」
「急に税を倍などメルセルク卿は何をお考えなのですか!」
「妻が夜逃げした!」
「このような事をされては我らの生活が成り立ちません!」
やれやれだな。まぁ事前に犬から可能性は示唆されてたけどね。案の定だよ。
てことで今馬鹿の部屋で偉い剣幕で怒鳴りまくってるのは(一人わけのわからんのがいるけど)各農村の代表者たちだ。
扱い的には村長になんのか? まぁそういったのが数名やってきて直談判に来たってわけだ。
しかしこの馬鹿、わざわざ部屋に通して話まで聞いて本当お人好しだよな。
まぁ放っておくわけにもいかないんだろうが、こんなんはとりあえず犬にでも任せておけばいいのに。
しかし馬鹿もスラパイもニコニコしながら紅茶まで出して話をしてるけど、それが余計怒りを買ってるのか、それとも逆に相手を調子づかせているのか。
まぁとにかくお互い譲らない話し合いが続いていた。あたしはとりあえずその話を黙って聴き続けていたのだが、突如そいつら矛先をあたしに向けてきやがった。
「そもそも今回の案は、そこにいる側室が言い出したとか?」
「おかしな話ですな。たかが側室の意見を聞くなど。大体メルセルク卿はこれまでメルセルク伯夫人ただ一人を大事にされ、決して妾などとらなかったのにどういう風の吹き回しか? よもやその女に唆されまんまと騙されているのではないでしょうな?」
まぁそれに関しては全く否定はしないね。言わないけど。
「お言葉を返すようですが、その物言いは少々不敬ではありませぬか? マリヤはしっかりこの領地の事を考えて進言してくれたのです。私はマリヤのいうことを信じますわ」
スラパイの発言に四人共が目を丸くさせて顔を見合わせた。まぁよもやスラパイがあたしの肩を持つとは思わなかったんだろうな。
「あ、あの夫人は悔しかったりはしないのですかな?」
「悔しい何がでしょう?」
「……いや側室がでしゃばってとか、夫がとられてくやしい~~~~! とか……」
「悔しい? 何故ですか? マリヤのような美しく気高くそして上手い――」
おい!
「――このような素敵な女性はそうはおりません。この人が好きになっても仕方ありませんし……それに――」
とそこまで言って顔を伏せて右手を頬に……て、ちょい! 頬が紅い! 頬が紅い!
誤解……でもないんだけど、なんかややこしい事になるから抑えろよ!
「ま、まさか、マリヤ伯夫人、このお――」
「皆様!」
あ~あ! 言わんこっちゃない! もうしょうがねぇなぁ!
「その、皆様ご不満があるのは判りました。ただ今回の案は私から言い出した物でございます。ですので私自らご説明させて頂きます。別室にて皆様がご納得できるよう資料の準備などもございますので――」
そこまで言ってあたしは立ち上がり、馬鹿にいいかの確認を取る。まぁ勿論反対するわけもないので、どこか不審そうにしてる四人を別室に連れて行った。
犬には誰も近づけないようよく言っておき――
「さぁどうぞこちらへ」
「言っておくが俺達は賄賂とかもらったところで屈しないぞ!」
何を勘違いしてんだが。まぁ別の意味ではあってるか。いいからとっとと入れっての!
「うん? なんだここは資料なんて?」
はいはい。ドア閉めて鍵閉めてっと。
さてちゃっちゃと相手して終わらせるかなっと。
◇◆◇
ふぅ。流石にほぼ毎日やってる後の三人同時は、まぁまぁ大変だったかな。まぁでも――
「いやもう! 税金? 二倍どころか三倍だって払ってあげますよ!」
「領民として領主に従うのはこれ当然!」
「俺と結婚して下さい!」
「な、なんでも買ってあげるから、また、またお願いしますぅうぅうう!」
とまぁ交渉は無事成立したわけで。
「流石マリヤ様ですわ。見事な人心掌握術!」
どっちかという、ちんちん掌握術だけどな。
「いや、しかしこの三倍ってのは……」
「いいんだよ。向こうから良いっていってんだから」
「あっはっは。領主思いの民を持って私は幸せだなぁ~」
本当に幸せだな(頭が)
さてっと、とりあえず色々貢いでくれるっていってた奴には適当に服とか宝飾類とか頼んどいたし、まぁやった分の見返りは貰えそうだなっと。
自分から買い物出るのが面倒な世界だからな。貢ぐくん兼パシリとは便利な奴が出来たもんだ。
「……一体あな、マリヤ様はどうやってあの方々を説得なされたのですか?」
部屋に戻ろうとしたらメイド長に立ちふさがれた。また怖い顔して睨んでるよ。てかなんで一々あたしの行動知ってるんだこいつ。
ひょっとして……。
「ストーカー?」
「何をおっしゃってるのかご理解に苦しみますが」
やべ、声に出ちゃった。たまにやっちゃうなあたし。
「メイド長。皆様とは、ほんの少しだけお互いの解釈に解れがあっただけなのです。誠心誠意ご説明差し上げればしっかりご理解して頂けました」
どっちかという精子誠意とも言えなくもないけどね。
「――貴方がどんな手を使われたかは存じませぬ。が、今回たまたまお人好しの方が多かったようで上手くいったみたいですが、今後もそう上手くいくだなどとお考えにならぬ事ですね」
そう言い残してメイド長。踵を返して去っていったよ。しかし今後てなんだろうなぁ。
……まぁいっかその内わかるっしょ。




