110話
あたしは階段を下りてる途中で、猿野郎三匹に囲まれた。
全くこんなとこにいるなんてね。巡回中だったのかね? 動きも素早いし厄介だよ。
でもね、今は夜。この際だから仕方ないしとりあえず速攻であたしは狼の姿に変身する。
これで速度的にはほぼ互角。猿野郎は、あたしを前後に挟み込んで、手に持った二本のダガーで同時に襲い掛かってくるけど、あたしも爪を伸ばして、それに対抗するよ。
今までの経験で、あたしの動体視力も相当に上がってる。確かに猿野郎の動きは速いけど、見えないほどじゃなかった。
「おら!」
あたしの爪が掠り、一瞬だけ体勢が崩れた猿の一匹に、回転しながらの回し蹴りを喰らわせてやる。
ウキィ! と鳴き声を上げながらそいつは階段を転げ落ちていった。
残りの二匹がムキになって飛びかかってきたけど、あたしも負けじと跳躍して、まず空中で一匹の身体に掴みかかって、そのまま強引に投げてやった。
こういう時は腕力のある方が圧倒的に有利だねっと。
で階段のとこに着地すると最後の一匹がダガーで空中から斬りかかってくる。
でも甘い! あたしはそれを身体を捻って躱して、その勢いを利用して後ろ蹴りを繰り出した。
けど、これは猿にも察せられて、ウキィー! と奇声を上げながら、バックジャンプで距離を離そうとする。
あたしはそれを見逃さず。逃げる猿を追いかけるように階段を踏みつけ、低い弾道で跳躍する。
驚きのあまりか、猿の眼が大きく見開かれた。だけどあたしは容赦なく近づいた猿の首を両手で取って、その顎目掛け右の膝を付きだした。
真空飛び膝蹴りって奴だね。勿論喰らった猿野郎は、他の二匹と同じように階段を転げ落ちて、踊り場で仲良く重なりあった。
さて、どうしようかなっと。
今あたしの目の前には倒れる猿三匹。完全に気を失ってるみたいだけど命に別状はなさそうだ。
で、とりあえずは変身を解いた。まぁ必要なときにまたすればいいしね。
問題はこれからどうするかでね。このまま先を急いでもいいんだけど……なんかこいつら色々知ってそうな気もする。
結構特別な役目とか貰ってたみたいだしなぁ。元は暗殺専門だっけ? いかにもって感じじゃないか。
う~ん……てかこいつら雄かな?
だったらラッキーかな。まぁとりあえず毛に覆われてるけど股間に触れてみる。
「ウキュ――」
あ、うっすらと目が開いた。でも、これ雄だ! しっかり真ん中の脚が付いてるよ!
てかちょっと擦ると眼がトロンとしてるし。これは見た目通りの猿って感じだね!
よし――だったら一気に片を付けて……て、他の二匹も起き上がりだしたよ! やべ……そんな暇与えてくんねぇかな……って、あれ? なんかじ~と興味津々って感じであたしの行為に関心を持ってる感じ?
「もしかして一緒にしたい?」
言葉通じないだろうし、とりあえず身振り手コキも織り交ぜて聞いてみる。
すると、ウキャウキャ! て嬉しそうに飛び跳ねて手をたたき始めたね……これはこいつらもチョロインかもね――。
◇◆◇
「ウキー! マリヤスキ! ダイスキ!」
「マリヤノタメ、ナンデモスル!」
「キモチヨカッタ。マリヤ、オレタチノメガミ」
本当にちょろかったよ。全く猿輪わしでこんなに簡単に堕ちるなんてね。所詮畜生だったよって感じだ。
まぁとりあえずこれで三匹もあたしのモノになったわけでね。
これで色々聞き出せそうだけどねぇ。
「ねぇ、七彩の神玉って知ってるかな?」
先ずはこの質問。すると三匹同時に、ウキッ? て首を傾げた。あれ? 思ったより知らないかな?
「う~ん。七色に光る玉なんだけどね」
するとこの発言で、三匹が頭に電球が浮かんだような顔してウキャウキャ喜びだしたよ。
「オレタチソレナラシッテル!」
「チカニヒトツアル」
「アンナイイルカ?」
三匹がそれぞれ情報を教えてくれた。て、地下? ショタは自分で持ってた気がしたけどしまってしまったのかな?
う~ん、でもだったら先ずソレを手に入れるとしようかなっと。
「じゃあ、案内してもらえる?」
三匹の猿はウキッ! と一つ鳴いて、コッチ、と言いながら先導してくれる。
じゃあとりあえず付いていくとしようかなっと――
◇◆◇
階段を下りて扉を抜けた後は、猿どもが、コッチカラノホウガアンゼン、とか言いながら柱を軽々と上って更に天井に張り付きやがった。
……これをあたしにしろって? いや無理だろ流石に――
そう思ったけどね……やってみたら出来ちゃったんだなこれが。
うん。確かに猿とヤることはヤったけどね。
だからってここまで出来るとはね……まるで忍者だよ。いやあたしの場合はくの一か――身体使って堕としまくってるし、あながち間違ってもいないね……。
そんな事を思いながらも、あたしは猿達と一緒に天井を進む。
巡回してる兵士はいたけど、流石に天井にいるとは思ってないのか、全く気づかれることはなかったね。
で、暫く進んだところで猿が、アノトビラヲヌケタサキ、カイダンアル、て教えてくれたんだけどね。
「ちょっと待って」
あたしは眼下に見えるその姿を捉えながら、猿に待ったをかけた。
あたしの視界には扉の前を守る兵士と、ペチャの姿。
何かを話してるようだね。ここは聞いておきたいかも。
だからあたしは静かに変身をすました。獣化した状態なら聴覚が一気に跳ね上がる。
「――それにしてもなぜチヨダーク侯爵殿下は、こちらを持ち歩かないのでしょうか? ひとつは肌身離さず決して離そうとしないのに……」
「私も詳しくは聞いていない。ただここに保管しているのは何やら呪いを解く効果があるようでな。だからこそいざという時のために大切に保管しているようだ」
呪い? 解く? それにひとつはって――
「とにかく注意を怠らぬようにな」
「はい! 巡回ご苦労さまであります! レイダン騎士隊長殿!」
兵士が敬礼するとペチャの奴はそこから離れていったね――
う~ん。じゃあとりあえず。
あたしと猿達は兵士の横に着地した。
突然現れた事で驚いたのか眼を丸くさせて、更に声を上げようとしたけど、その前に殴りつけて気絶させた。
で、扉を抜けて地下へと向かう。
すると螺旋階段を下りていった先に石造りの広間があった。
一番下までおりて、階段を背にして正面を向くと、あたしの胸ぐらいまで高さがある台座が設置されてたね。その上には確かにあの神宝が置かれているよ。
あたしはその台座に近づいてまじまじとその玉を見つめる。
見た目的にはショタの持っていたのと変わらない。でもペチャの話を思い出すにこれは全く同じ形の、別の物なのだろう。
恐らくは二つ一組って感じなんだろうね……。
まぁいっか。とりあえずこれを貰っていこうかなっと。
あたしはそう思い立つと、七色に光る玉に手を伸ばした。
すると台座のある床が突然光りだして更に魔法陣が浮かび上がり……この展開嫌な予感しかしないね。
で、案の定ブザーみたいな喧しい音が鳴り響き始めた! なんてこったよ!
仕方ないからあたしは即効で獣人化して猿と一緒に階段を駆け上がる。
でも気づいた兵士の何人かが降りてきたね。でも階段狭いし、とりあえずそこは問題にはならなかった――んだけどね。
扉を抜けたら結構な数の騎士と兵士が待ち構えていたよ。参ったね本当。
「馬鹿な! なぜモンジャ族がクセモノと一緒に!」
「て、あれはチヨダーク公爵殿下の連れてきた、マリヤ・メルセルクでは?」
「え? どうしてこんなところに? まさか!? 逃げ出したというのか!」
やれやれこれはちょっと厄介そうだね――って、え? なんだい猿達三匹があいつらに闘劇していったよ。
「マリヤ、ココマカセル」
「マリヤ、オレタチノメガミ」
「イマノウチ、ニゲル」
こいつら――よっしゃ! やっぱりヤっといて良かったね! 勿論利用できるものはしっかり利用させてもらうよ!
あたしは三匹に、任せた! とあっさり後を頼んで、その場から速攻で抜けだした。
よっし! 後はこのまま脱出して――
「マリヤ・メルセルク!」
て! うぉ! 何だよペチャが待ち構えてやがった!
「まさかあそこから逃げ出して来るとはな――だが! これ以上はいかせん!」
両手で剣を構えながら相変わらずの尖った眼で、あたしを睨んでくるよ。
「あんたさぁ、あたしがいないほうが、アイツを独占できるとか思わないわけ?」
「だ、黙れ! 何を!」
あ、顔真っ赤だ。やっぱショタの事をいうと狼狽えだすね。
「あたしの愛しのチヨダーク侯爵殿下……あぁ、こんなに恋焦がれているのにどうして判ってくれないの? あたしがペチャパイだから?」
こうなったら思いっきりペチャを挑発して――
「こ、この! いい加減にし――」
「隙あり!」
あたしはペチャが同様して剣を僅かに下げたその瞬間を狙って、一気に横を通り過ぎた。
今は相手してるほどヒマじゃないしね。
「ま、待て!」
とか言われて待つかよって! あたしは一番近くの窓を見つけると、そこに向かって思いっきり体当たり!
ガラスを破り、庭を転げながらもスチャッと体勢を立てなおして、一気に庭を駆け抜けた。
犬のバケモンみたいのが彷徨いてたけどね。邪魔なやつだけぶっ飛ばして、そしてあたしは、チヨダークの宮殿から逃げることに成功した――




