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11話

※2014/09/15 修正版と差し替えました

「あ、あの、奥様どうなされたのですか?」


 メイド長が目を丸くさせている。一体何があったのか? とでも言いたげだ。

 まぁそれも判らなくもないんだけどね。


「あら、何かおかしな事があったかしらメイド長?」


「お、おかしいも何も……」


 メイド長があたしとアリスの腕を見た。明らかに怪訝な表情だ。キリッと形のよい眉を眇めている。


 まぁ理由は明白だけどね。しかしここの人間は態度が変わりすぎだろ。この女にしてもちょっと前まではプリプリ怒ってビンタまで食らわそうとしたのに。


 ……今はなんか、あたしの腕に自分の腕を絡めて楽しそうにしている。あたしが胸を褒めたのが嬉しかったのか、わざわざ押し付けてもくる。


 と、まぁそんなわけでこの女、あぁあたしの中ではスラパイちゃんは、あの一戦で完全に堕ちてくれた。

 ちなみにスラパイってのはこいつの胸がスライムみたいだったからそう名づけた。

 まぁおかげで今後は馬鹿の件も、ギャーギャー騒ぎ立てられる事もないだろう。


 ただ、いい加減離れて欲しい。まさかずっとこのままってわけにもいかないし、メイド長だけでなく他のメイドも変な目で見てる。あたりまえだが。


「あ、あの奥様。そろそろ私も部屋に戻りますし、う、腕を……」


 一応遠慮がちに言っておく。てかすげぇ苦笑い浮かべてんなあたし。


「あら? 奥様なんてそんな他人行儀な言い方はやめてん。ア・リ・スって呼んで、キャッ!」


 キャッ! じゃねぇよ。おいおい抱きつくな抱きつくな。メイド長の目が凄いことになってるよ。ヤンデレって奴? それに近い目になってるよ。


 まぁ兎にも角にも中々放れたがらないスラパイを何とか説得して、ようやく部屋に戻ってくれた。てかスラパイまじでスライム並みにへばり付いてくんのな。


「マリヤ、様」


 スラパイが去って今度はメイド長が話しかけてきた。どうやらまだ様と付けるのに抵抗があるみたいだな。


「何かしら?」

 とりあえず余裕の笑みで返すと。うわぁめっちゃ睨んでくる。ついこの間まで貴方を立派なメイドに育てます! とかいってた優しいメイド長はいずこへ? ってね、キャハッ。


「貴方、何をしたの? 奥様といい……それに――」


 そこでギュッと瞼とエプロンの裾を掴んで、そして再びキッ! とあたしを睨めつけてっと。


「旦那様だって――これまで一切側室を取ろうなどしなかった! 奥様ただ一人を愛し続けた優しい方だったのに……だったのに! 貴方がきてからめちゃくちゃよ!」


 いや、あいつは優しいというか只の馬鹿だ。まぁとはいえこのメイド長、特にあの馬鹿に関してはムキになってる節があるな。まぁいいけど。


 これまでの関係をめちゃくちゃにしたのは事実だしね。愛に溢れた家族って何いってんだかってね、そんな家族ゲームはドラマだけで十分だってことさ。


「ベンツ・メルセルクは私の事を愛してるといってくださいました。私はただそのお気持ちに応えたいだけですわ」


 あたしが悠々と話してみせるとメイド長は唇を噛み締め、絶対に……と一つ呟き。


「絶対に私があんたの本性暴いてあげるわ! そして旦那様の目を覚ましてみせます!」

と言い捨てて去っていった。全く相当ムキになってんな。でもあのメイド長、仕事は出来るんだから余計な事考えてないでちゃんと働けって感じだな。でもねぇなんかやたら目の敵にされちゃったよ。仕方ないけどね――





◇◆◇


「てわけで何か暇だから三回回ってワンしろ犬」


 はい、クルクルクルっと回って。

「ワン!」


 うんばっちり飼いならされてるな。まぁその為にしっかりやることはやってんだからな。

 てか犬が犬であるためにやらせるってまるでこいつバター犬みてぇだな。こんなむさいバター犬かわいくもないけど。


あぁしかし参ったな。メルセルク夫妻共に堕として、もう何でも自由に出来そうな雰囲気なんだけど、なにせやることが無い。


 これで贅沢三昧だぁああぁああっと叫びたくても、この世界にはヒルズもザギンも聳え立つビルもクラブもホストも、な~んもない。


 テレビもねぇ! ラジオもねぇ、そもそもここには電気がねぇ! って懐メロかよ!


 あ~あ参ったよマジで。とりあえず最近は暇つぶしにアレックスに手合わせみたいのしてもらってたりするけどね。


 何か力の確認ってやつ? 必要かも知んねぇしちょっとやってたんだけど、よく考えたら何してんだって感じだよ。


 しかし改めてみると不便だぁ異世界! どうやら王城近くの城下町は結構栄えてるらしいんだけど、こっからだと馬車で20日かかるそうなんだよね。ざけんな死ね! エンジン作れ!


 まぁない物ねだりしても仕方ないから、行商ってのが来た時にドレスやら香水やらお風呂に漂わすバラの花やら買ってるけどね。それもいい加減限界。てか種類もあんまないし。


「もうあたし専用の超豪邸でも作ってもらおうかなぁ、プール付きで。なぁ犬。ちょっと見積っといてよ」


「マリヤ様。見積もる必要もありません。それは無理です」


 あっさり言いやがったなこいつ! ムカつく! ムカつく!


「てかなんでだよ! なんで無理なんだよ犬! チンチンしながら答えろ犬語で応えろ!」


「ワン! 伯爵様の資産ではそこまでの余裕がないんだワン! そんな豪邸建てたら没落してしまうワン!」


「いいよ別に、没落しても」


「そんな無茶なワン!」


 てか犬語だと砕けた喋りでもいいと思ってねぇこいつ?


「そう思ってんだろ?」

「意味がわからないワン!」


 まぁでもよく考えたら没落したら家ごと持ってかれるのかも知れねぇのか。それだと意味ないなぁ。あ~あ面倒だなぁ。日本ならいざとなったらさっさと売ってもらって、金だけ貰えば後は自由だけどこっちはそうもいかないから不便だよ。

 

「てか、そもそも何だよ資産がないって。家一つ建てるぐらいでヤバイぐらいなのかよ? 弱小たって貴族の伯爵様だろ? なんとか捻出できんじゃねぇの?」


「ワン! それは……」


「いや。もうなんかウザったいから普通に話してもらっていいや」


「それはメルクセルク伯爵様は領民の為の経営をなされてますからな。あまり負担をおわせないよう税金も他の領地なんかよりずっと少なくしておるのです。その為どうしても徴収出来る金額に限界が……」


「……低いってどんぐらい?」


 こういうの詳しくないけど、まぁそれでも何となく気になった。


「……まぁ平均よりは低いですね」


「だからどんぐらいだって聞いてんじゃん」


「えぇまぁ、三分の二……」


「あたしに隠し事する気はないよね?」

「はい平均の三分の一でございますマリヤ様」


「はぁああああああぁあぁあ?」


 いやいやあたしは別に頭良くないけどそれでも判るよ。なんだよ三分の一って。普通なら百円貰うところを三十円とかそんなんしか貰ってないって事だろ? 安すぎだろ!


「え? 何それ? それでここ回ってんの?」


「えぇまぁギリギリ……」


「本音」


「赤字の時もあります。足りない分はとりあえず先代の残してくれた財産で補います」


 自転車じゃねぇか。しかも回りが悪い方の。


「何それ? なんでそんなんなってんの? 税金低くしないといけない理由でもあんの? 皆生活が苦しいとか?」


「あぁ、いや。ここは小さい領地ですが土壌が肥沃で、農民にとっては天国のような場所だと喜ばれてます。なので税の低さもあって、採れた農作物を自らが売りさばいたりしてちょっとした財産を残す農民もいるぐらいなんですよ。あっはっは」


「笑い事かよ!」


「ワン! すみません!」


 全くどうなってんだここは。大体領主なら生活が出来るか出来ないかのギリギリのところで税を徴収するもんじゃねぇのか? 


「どうしてこうなった? なんであの馬鹿はそんな馬鹿なやり方してんだ?」


「……実は先代の時は税収も今よりはずっと高くしておりました。と言っても他の地からみても馬鹿みたいに高いという事は無かったのですが、それでも文句をいう農民はいたのです。それを幼年時代の伯爵様はよく耳にされていて、幼いながらにこう思ったそうです。びょくはずぇったいにりょうにんにやさしい領主になりゅ! じぇいきんもやすくしゅてしちゃわれるりょうちゅににゃる! と……」


 途中の口調に突っ込もうか迷ったが放っといた。本人はなにか言ってくるのを期待してる眼だ。むかつくから絶対にふれてやんない。


「あのさぁ。それってつまり小さいころもらっていたお小遣いが少なすぎたのが不満で、大人になったら絶対お小遣いを沢山上げるんだ! て張り切ってる子供のような考えだよな?」


「まぁ、そんなとこでしょうか」


「でも普通それって大人になるにつれ、子供のころはそう思ったけど実際は無理なんだよなぁって現実を知るものだよな?」


「……はあ。まぁ」


「で、今の犬の話を聞く限りには、ここの伯爵様はその子供の気持をもったまま何も変わること無く今に至るってことだよな?」


 犬。黙る。答えろやおい。


「なぁ改めて思ったことなんだけどさ。メルセルクって真に、馬鹿! 伯爵なのか?」


「私は伯爵様に忠誠を誓った騎士でございます。こうしてお側に仕えさせて頂けているだけでも幸せ。それなのにそのような事、とてもとても……」


「何? あたしに逆らうの?」


「大馬鹿ですねあの伯爵は」


 というわけで無事伯爵が馬鹿領主であることが判ったわけだ。が、さてどうしたものかねっと――






 





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