10話
※2014/09/19 修正版と差し替えました
すったもんだで正妻の部屋にやってきた。
まぁと言っても部屋の広さは大してあたしの今の部屋と変わらない。
ただなんか高そうな衣装棚やら絵画やらがまぁ置いてある。このへんが違いかな? まぁでも服はともかく、絵画とかは全く興味がないしね。
壺とかに関しては正直おいてある意味が判らない。
まぁというわけで、あたしの部屋にあるのより高級なんだろうなぁって思える宝飾がなんか色々施されたテーブルを挟んで、あたしと正妻のアリスが対面している。
しっかしなんというか、趣味は良くないな。あたしがいうのも何だけどやたらごちゃごちゃしてるものが置いてあるし、どうも宝石が好きらしい。そういえば何個か指輪もしてんな価値とかわかんねぇけど。
「どうぞ」
正妻はあたしの部屋で言っていたとおり、紅茶を用意してくれた。香りがかなりいいな。中々いい葉を使ってるのかもしれない。
あたしはとりあえず、目の前のアリスが一口含むのをみてから、それにならってカップの中身を啜った。うん美味しい。
「マリヤさん」
おや? さっきとは打って変わって落ち着いた口調だ。ここにくるまでに少し気持ちが静まったのか? それとも――
「……さっきはメイド長の手前キツイ言い方してしまったわね。ごめんなさい」
おっと笑みも浮かべてるな。こうしてると普通に美人だけど、ただ、そのわりにビンタとか感情むき出しだっただろうテメェ、って気はするな。言わねぇけど。
「私はね別に貴方に恨みがあるわけじゃないの。だってそうでしょう? 悪いのは全てあの人なんだから」
ほうほう。
「でもね。正直わたし、貴方のことが心配なの。だってそうでしょう? あの人だってつい手を出してしまったから引込みが付かないだけで、いずれは飽きるに決まってるわ」
成る程ね。落ち着いた感じで話しつつ、自分の立場はしっかり示して、言いくるめようってわけね。まぁでも流石に無理があるよなぁ。どう考えたってこっちにはあの馬鹿、暫く求めにいってないはずだからな。
「だからね。貴方のためにももう辞めにしておいた方がいいと思うのよ。大丈夫ここを離れても問題ないぐらいはサポートしてあげるから」
つまり言い方を変えただけで、あたしに求めている要求は変わってないわけだ。やんわりと、で・て・い・け、と言ってるんだなこれが。
「ね? どうかしら?」
首を傾けにっこりと微笑む。人の良さそうな笑顔だと思ってたけどわりと黒いなこいつ。
まぁあたしもこういうのが見たかったってのはあるけどね。家族ゲームよりドロドロ系でしょうやっぱり――と言いたいところだけど。
でも、なんかあまりこの人と揉めてても仕方ないんだよなぁ。
「残念ですが、その申し出をお断りする気持ちは変わりません」
はっきりそういうと、彼女の眉が引き締まった。笑みも消えさり、あたしの事を睨めつけてくる。
「どうして? もしかして貴方の言っていた望みと何か関係があるの?」
あたしは一旦口を噤む。
「答えなさい!」
あ~あ。またヒステリックが始まったよ。さっきまでの落ち着いた態度が台無しだなこりゃ。
「あの。その前にソレ、一口頂いて宜しいでしょうか?」
あたしが彼女のカップを指さしていうと、怪訝な顔を見せた。そりゃそうか。
「何を言っているの? 貴方まだ残ってるじゃない」
「ですが味が違うかもしれません」
「違わないわよ! 同じポットで注いたのだから! 貴方だってみていたでしょう?」
とりあえずあたしは軽くため息を吐く。
「何? 何か不満なの?」
「えぇまぁ。どうしても駄目ですか? 頂けたら私の気が変わるかもしれませんよ」
そう言うと、正妻の眉がピクリと跳ねた。
「判ったわ。一口と言わず好きなだけ飲みなさい」
そう言ってあたしの手元へカップを差し出してきた。それを手に取り、少し回してから口に含む。
「……美味しい」
軽く瞼を閉じて、柔らかい口調でそう言った。アリスはとても不思議そうな顔をしている。
「どう? 満足した? 意味が判らないけど」
その問いに、はい、とだけ応える。
「そう良かった。これで気が変わったのね」
「いえ。寧ろやっぱり出て行くわけにはいかないなと再認識致しました」
「貴方一体何を言ってるのよ!」
再び彼女の声が尖る。が、あたしは徐ろに立ち上がって脚を進める。
「ちょ! どこいくのよ!」
背中に語気の強まった声を受けたけど、構わずあたしはアリス・メルセルクのベッドの前に向かった。ベッドの大きさはあたしの部屋より大きいかもしれない。
「ちょっと! 貴方何勝手に――」
「ここで」
思った通り彼女があたしを追ってきたから、丁度後ろに立ったと思えるタイミングで一声発した。
「え?」
「ここで毎日のように愛しあっているのですね」
あたしがそう言うと若干の間があって、
「そ、そうよ当然じゃない」
とアリスは答えた。
でもその間とちょっとした戸惑いの見え隠れする口調で、あの馬鹿が言っていた事が間違いでない事が判った。
まぁつまりこいつはご無沙汰って事だ。
「正直うらやましいです」
「……何それ、嫌味? あ、貴方だって私からあの人を――」
「違います」
あたしは振り返って眉を引き締めた。真剣に見えるようにだ。
「違うって何がよ」
アリスが眉を顰める。さてっと……。
「……さっき紅茶が美味しいって言いましたよね?」
「……えぇ言ってたわね」
「あれは、奥様が飲んでいた紅茶だからより美味しかったのですよ」
ここは敢えて呼び方を変えてっと。おお、目を丸くさせてる。そりゃそうか。
「ど、どういう意味?」
「判りませんか? 私が彼に近づいたのも……本当は少しでも奥様に近づきたかったから……なの、です」
アリスは眉を顰めた。漸く意味が理解できたのかもしれないな。まぁそういうことにしてるだけだけどな。
「貴方自分が何を言っているか判っているの!?」
「……はい。でもこういった機会じゃないともう想いを告げることは敵わないと想いまして」
そう言ってあたしはアリスの手を取った。
「な、何を――」
「綺麗な手……透き通るようにきめ細かくて……」
あたしはそっとアリスの手の甲に唇を重ねた。
「お、おやめなさい! 汚らわしい!」
中々酷い言い草だねっと。おっと手を引っ込めて顔を強張らせながら後ずさってって……じゃあそこでっと、あたしが少し距離を詰めると更に後ずさりし、そこでドレスの裾を踏んでしまったのか、彼女がバランスを崩す。
「大丈夫ですか?」
いやぁ。我ながら軽やかなステップだわ。反射的に後ろにまわって倒れそうなアリスを支えちゃってたよ。へぇ、結構背中小さいな。
まぁいっか。とりあえずあたしはその細く白い首に手を重ね優しくなでてやる。
「ひゃん!」
お、結構可愛い声出すよねぇ~。
「奥様……」
言ってちょっと胸をもんでみた。おっとやっぱり良い物持ってるねぇ。
「駄目っ!」
あたしを振り向きつつ両手であたしの胸を押して、そのまま後ろに飛び跳ねた。
いや、これだと何かあたしの胸がバネみたいじゃん。……まぁいっか。
あたしは即効でアリスに肉薄した。なにせ彼女はわざわざベッドのある方にいってくれたんだからそのまま利用することにする。
「きゃあ!」
耳に心地よい高音の叫びを上げながら、アリスはベッドに倒れこんだ。というかあたしが押し倒した。
「や、やめなさい! 大声を上げますよ!」
と言ってるけど、あたしは構うこと無くまず自分の上半分をさらけ出す。
「な、何を一体……」
「別に叫んでくれても構いませんよ。ただ……誰もこないように言ってくれてますよね? 誰も近づかないと思いますし、それに例えこの状況をみられたとしても、皆さんどう思われるでしょうか?」
あたしがそう言うと、アリスは、卑怯な、と唇を噛んだ。うん悔しそうだね。あんだけキーキー言ってたのにこうなると只の女じゃね? て、あたしも女か。
まぁとりあえず、あたしはアリスの服も剥いた。ドレスを着ていたが、いってもそこまで仰々しいタイプでないので、肩から外せば意外と簡単にいける。
あ、キャッ! とかまた可愛らしい声だして胸を塞いだよ。別に女同士なのに隠す必要なくね? まぁこんなことやっておいて何だけど。
でも、この流れであたしはもう一つの力に確証が持てた。前のアレックスとのやり取りから考えていたんだけどね。
今も押し倒す時、あたしはほんのちょっと力を入れただけだ。にも関わらずアリスはまるで風船の人形みたいに軽く感じた。
間違いなくこれは、以前のあたしの力では考えられないな。全くあのどんぐりも以外と使えそうなのを与えてくれたもんだ。条件はちょっとめんどいけどね。
「わ、私が貴方の申し出で部屋を変えたのはメイド長が知ってます! 彼女が証明してくれれば貴方が何を言ったって……」
「逆に言えばメイド長しか証明できるのいないじゃないですか? それに正直いってあの人は私にご執心です。私が逆に襲われました! とでも言えば信じてくれますよ」
アリスの目が潤んだ。悔しそうに奥歯を噛み締めている。う~ん。こういうのってちょっとたまらないかも。
「ごめんなさい奥様。でも私の気持ちを受け取って貰うためには、多少は強引にいかないと理解して貰えないと思って……」
「そんな気持ちなんて判るわけないじゃない! 女同士なんて不潔です!」
と言ってもなぁ。まぁあたしだって別にやりたかないけど、今後の事を考えたら堕とした方が楽なんだよね。
ちなみにあたしは別にこういうのが初めてってわけじゃない。まぁ人生いろいろあるしね。それに彼氏を奪われた! ってキーキー騒いでくる奴には包丁持ち出すやつなんかもいて厄介だったからね。
面倒事になるまえに女の方も堕としたりする事もまぁまぁあったわけだ。
というわけで、とりあえずまぁいっきますかっと――




