Dice
細工のされていないサイコロが一つ、フォークの先に置かれていた。銀メッキの上に乗せられたそれを手に取りながら、その人は言った。
「結局は偶然性さ」手の中でコロコロと音を転がす。「いい小話ができあがるのも、意味のない文字列ができあがるのも」
——言い方の問題だろう
「まあそうかもしれないな」相変わらずその人はサイコロを手の中に転がす。
——パスタはまだこないのかな
「厨房も大忙しなんだよ。見ろよ、ウェイターがタマネギ刻んでやがる。人も足りてないのさ」
そう言ったその人は、ほんの少し赤ワインを口に含むと立ち上がった。
——どうした
「トイレだよ」
その人は行ってしまった。僕はフォークを手に取ると、その人が置いていったサイコロに差し込み、上品を気取って口に運んだ。チョコレートの苦味に近かった。
振らなければ問題は起きない。