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シャナと花のバラッド  作者: 藤和葵
第一章・彼方にて
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07.星見


 真夜中の外は少し肌寒い。風は凪いでいるのに、空気が冷えているのだ。けれど大気が澄んでいる分、夜空の星は煌々と輝いている。

 雛菊は屋根に上がり、寒い体を縮めて遠くを見つめていた。真夜中の色のない森。梟のような鳥の鳴声と、虫の声が夜の静寂を彩る。


「ーー……寒っ」


 粟立つ体を擦り寄せ、両腕で自らを包む。暖を取る為に右手に持つカップに温かいお茶を淹れていたが、それももう空だ。仕方ないのでお茶を淹れ直そうと、ロフトへと続く天窓を開けようとしたところで、雛菊は視界の端に人影を捕らえた。


「シャナッ、おかえりなさい!」


 黒いマントを翻す、見慣れた子供姿に向かって雛菊は声を上げる。


「ヒナギク……?」


 呼ばれて驚いたか、思わず足を止めてシャナが声のした方を見上げ、雛菊を見付けた。


「何してるんだよ。こんな所で」

「何って、シャナを待ってたんだよ。高い場所の方が見晴らしが良くて見付けやすいでしょ」


 寒さも忘れ、すっかり高揚した雛菊はその勢いのまま屋根の上から地面へと飛び降り、シャナの元へと駆け寄った。


「それにしても遅い! 子供がこんな夜中まで出歩いて。心配したんだからっ」


 腰に手を当て、まるで我が子を叱り付ける母のように仁王立ち。しかし、睨み付ける雛菊を一瞥し、シャナは悪びれもなく手に持つ物を差し出した。葉脈に淡い光沢を持つ、癖はあるが鼻に通りの良いすっとする匂いのする草だ。


「ーー薬草?」

「此処の精霊は意地が悪い! わざと一番遠くに生えている場所を複雑な道順で教えたんだ」


 機嫌の良いシャナを見ることは少ないが、子供の膨れっ面でいじけて見せるのも珍しい。早口で怒りを捲し立てるのは初めて見た気がする。とりあえず言い分でも聞こうかと、雛菊は緩んでいしまいそうになる頬を引き締めた。


「何があったの?」

「大抵の精霊師はその土地に住む精霊から薬草や調合を教わり、それを町に卸して生計を立てるものなんだ。僕はその必要はないんだけど、この土地の新参者だから挨拶が必要でね。そしたらかわれてこんな時間だ。まったく、この地の主は何をしているんだろう。下位精霊の統率が杜撰過ぎる」

「へぇ、大変だったね」


 吹き出したいのを堪えて雛菊は適当に相槌を打つ。怒ると饒舌になるらしいシャナの話が微笑ましくて仕方ないのだ。


「何? ニヤニヤして」


 訝しむシャナを余所に雛菊は“別に”と含み笑いを浮かべ、玄関の戸を開ける。続いてシャナもマントを取り外し、三和土タタキを跨いだ。


「それアサド君にあげる薬草? その間にお茶、淹れてようか?」

「……アサドと何か話したの?」


 昼間のアサドとの一件を目にしても平然と尋ねる雛菊に、シャナは困惑した色を浮かべた。


「大した話はしてないよ」


 お湯を沸かす為キッチンに向いていた体をシャナの方へと向けて答えるが、雛菊から見たシャナは、心なしか何処か不安を帯びた表情。普段の生意気な態度とは違う、しおらしい姿は妙に雛菊を苛々させた。


「話されたらまずいことでもあるの?」

「そんなんじゃない」

「じゃあ、私がアサド君と何を話しても問題はないよね」

「…………」


 そこで沈黙。雛菊は余計に苛々を募らせる。此処に来て弱気なシャナに腹が立った雛菊は、肩をいからせテーブルを叩いた。


「もう辛気臭いなぁっ! ちょっとシャナ、こっちに来なさい」

「え、へ⁉︎」


 突然腕を引っ張られ、間抜けな声を出すシャナを連れて雛菊はロフトへと上がった。

 ロフトと言えば雛菊の簡易寝室で、そこは基本男子禁制区域である。そこから雛菊は屋根へと繋がる天窓を開け、外へと身を乗り出した。再び体を包む冷気。だけど、少し気が立っている雛菊には寒さなど感じず、なんのお構いもなしにシャナを外へと引きずり出した。シャナが子供の姿だから可能な荒技だ。

 シャナは一体何が起こったのかと目を丸くして、とにかく足場の悪い屋根に膝と手を着いてバランスを取っている。


「なんなんだよ一体!」

「いいから空見るっ! うじうじしてるシャナには丁度いいのっ」


 シャナの怒りをさらっと流してそのまま首根っこを掴むと、雛菊は乱暴に空を仰がせた。


「何がそんなに心配なの。シャナが昔、アサド君にしたことで私が軽蔑するかと思った?」

「た、大した話してるじゃないか! 聞いたんだろ。僕がアサドにしたこと……」

「詳しくは聞いてない。心臓を奪ったって部分だけで、殆ど何も聞いてない。でもアサド君が怒り狂ってないのに私がそれ以上何かを抱くなんてないよ。シャナだってシャナなりの事情があると思ってるもん!」

「君は僕を良く見すぎてる。僕なんてそんな言われるような人柄じゃ……」


 言って、シャナは言葉を反芻するかのように言葉を止め、何かに気付いたように首を傾げた。


「アサドが怒り狂ってないって?」


 心底不思議に思う気持ちは分かる。

 出会い頭で痛い目に合えば納得はいかないだろう。雛菊だってシャナの立場なら、それだけでは済まないだろうと思える。けれど、さっき話したアサドは憑き物が落ちたかのように冷静で、今現在怒りが収まっていると言った言葉は信用出来た。雛菊の想像でしかないが、シャナに反撃を受けたものの、丁寧に隠れ家で介抱されて拍子抜けでもしたのだろう。


「怖がらなくても、ちゃんと向き合えばアサド君は分かってくれると思うよ?」

「ーーだ、誰が怖がってなんか……」


 吃る時点で露呈しているようなものなのに、雛菊は俯くシャナの顎を引き、再び上を向かせる。


「下向かないの。ただでさえ俯きがちなんだから、たまには飽くくらい見なさいよ。すっごい綺麗な星なんだよ?」


 そう言って雛菊が大きく手振りする先には満天の星空。今晩は月が一つで小さいお陰か、星の瞬きがいつになく強い。何億光年と続く白い光の粒はさながら真珠を散りばめたような輝きだ。


「満天の星を見ると気分がが浮上しない?」

「別に……落ち込んでるつもりはないんだけど」


 生意気に反論するシャナを横目に、雛菊は長いスカートに足を畳んで包み蹲る。掴まえた手は解放せず、観念したのかシャナも隣りで膝を抱えて腰を下ろした。

 人心地ついたか落ち着いた様子のシャナを見やると、雛菊は軽く息を吸い込む。


「私は、シャナに会ってまだ一週間ちょっとで、なんにも知らない他人なんだけどね。これだけは言っておきたいから聞いてね?」


 了承を得る形で言葉を切ったが、頷かないシャナを無視して雛菊は続けた。


「私、シャナを信じてる」

「……どうして?」


 唐突に切り出される雛菊の言葉に、シャナはきょとんと見返す。


「どうしてって、シャナが悪いんだよ。何も語らないから。誕生日とか家族とか友達とか気持とか……何も言わないから。シャナが私に何も教えてくれないから」


 早口になったところでフッと息を吐き、雛菊は顎を引いた。


「ーーシャナは初めて会った時、私を迷惑に思っても本気で追い出そうとはしなかった。だから私はシャナが優しい子だと思ってる。アサド君と対峙した時もシャナが私の意識を奪ったのは、これから起こる光景を私に見せない為でしょ? 心配させない為でしょ?」

「それは買い被り過ぎ……と言うより、都合よく捕らえ過ぎじゃない?」

「だったら本意を話してよ。言わなきゃ私はずっとそう思っておく。シャナが何も言わない限り、私はそういことにしておくの。私が描いているシャナの人間像で判断するんだから」


 全く引くつもりのない言葉に、シャナはいくらか戸惑って雛菊を見た。だが、直後肩の力が抜けたように小さく息を漏らしてやがて微笑う。


「僕の気持を勝手に決められるのは、あまり面白くないね」

「でしょ?」


 眉根を寄せるシャナに雛菊は笑った。


「だから、今からシャナのことを聞いてもいい? 答えられる範囲でいいから。言いたくないことは言わなくていいから。頑張って私はシャナのことを知りたいの。不安なことは言って欲しいの。シャナに俯いて欲しくないから」


 掴んだ手に力を入れた。


「私は、シャナを助けに来たんだから」


 具体的にどうするんだと問われれば返答に困っただろうが、シャナは小さく頷いてくれた。

 明るい星々に照らされて、空は濃紺のヴェールを掛けている。こんな星空は雛菊の元いた世界では、育った国ではなかなか見られなかった。

 ラキーアに来て雛菊は流星の数に驚いた。この時期に見られる流星群ではないらしく、単に星が見渡せる分その数が多く見えるだけだと、シャナに教えられて溜息が溢れた。空を見上げれば当然のように流れ星を探せるなんて、おとぎ話のようで胸が高鳴った。

 毎夜、毎日、星の力に引かれて燃える石。

 今もまた一つ、尾を引いて身を焦がしながら誰かの願いを受け止める星を眺め、雛菊はまず最初に引っ掛かる至極当然の質問を口にした。


「今の子供の姿のシャナと、町で見た大人の姿のシャナ。どっちがホントの姿?」


 その質問は織込み済みだつげたのだろう。シャナは難しい顔をすることなくあっさり口を開いた。


「どちらでもない」


 単純明快な答えすぎて釈然としていない雛菊の顔に不満が出る。今にも文句を言いそうな事態を嗅ぎ取ったか、シャナが面倒くさそうに髪を掻き上げた。

 質問に答えると頷いた手前、答えるのが面倒だとは言いにくいのだろう。もし、ここに来て普段のものぐさを発揮して適当に答えようものなら、今後一切プリンは作らないと脅そうかという雛菊の目論見を察知したようでもある。

 このカードがシャナに対していかに有効であるかを雛菊はここ数日で味をしめている。フェアではないが、それでもシャナの地雷を見極めつつ切る意気込みはあった。


「……簡単に詳細は話せないけどいい?」

「話せる範囲でいいからお願い」


 予想より素直な返事に雛菊は顔を綻ばせるが、よもや暗黙の中にプリンが秤に架けられていたなど、表向きでは分からない攻防だった。シャナは幾分口をへの字に曲げ、なるべく雛菊の期待に沿うように答える。


「正直、僕の姿は僕自身よく分かっていないんだ。ただ、高等な術を使うのに適していて、世間であまり知られていない姿は大人の方で、力を使い過ぎず楽なのは今の方ってぐらい」

「子供の方が燃費がいいんだ」


 納得しかけて、雛菊はあっと更に口を開く。


「じゃあ有名なのは子供のシャナなんだよね? 子供の姿で指名手配だと思っていいの?」

「子供姿の方が天才として名が売れるってある御仁に言われてね。より若い姿の方が稀少度も高くて付加価値もついたからね」

「けっこうあざとかったんだ。あ、でもアサド君はおっきいシャナを知ってたよね。それは?」

「そこは付き合いの長さかな……」


 その言葉に苦い顔をするシャナを見て、これ以上はあまり聞けそうにもないと雛菊は判断する。

 シャナへの質問は見極めが大事だ。下手に掘り下げて尋ねると貝のように口を固く閉じると思っている。

 シャナには聞きたい事がまだ色々あるのだ。

 見た目が変わるシャナ自身についてや、家族の存在とか尋ねたくて仕方ない。だが、シャナ自身についての質問でさえいい顔をしないのに、不躾に家族についてなど聞けはしない。事情は何も知らないが、家族が側にいない理由を聞くのは少し怖い気がするのだ。

 かといって何も聞かないままでいるのも雛菊の性分ではない。シャナに沈黙を守られては敵わないので、雛菊は窺うように怖々と口を開いた。


「さっきも言ったけど、アサド君、ホントにシャナを憎んでないよ?」


 取り直すように、雛菊はポツリ零す。隣に座るシャナを見たら、やっぱり腑に落ちない顔になっていて見ていて面白かった。機嫌を良くした雛菊はさらに続ける。


「私はアサド君から詳細を聞いてはいないけど、アサド君自身はどうしてシャナが心臓を奪ったのか理由は知ってるんでしょ。シャナにはシャナの事情があったんだって理解もしてる。でも、その上で心臓を返して貰いたいんだって」


 シャナの眉間に深い皺が刻まれる。


「……すぐに返せるものなら返してるさ。返す術が分からないんだ」


 自嘲気味に口許を歪め、シャナは右手でそのまま前髪をくしゃりと掴んだ。左手は雛菊が握ったままだが、キツく結んだ拳の手の平には爪が食い込んでいた。力の入った左手に雛菊は気付き、何も言わずシャナの左手を己の手でほぐして開放する。


「返す術が分からないなら探せばいいよ。シャナが私に“元の世界に帰す方法を探す”って言ってくれたみたいに、探せばいいと思う。アサド君もちゃんと待つ気でいると思うよ? 私と一緒、自分の願いを督促する理由でね。そしたら、居候が私とアサド君の二人になるからとっても賑やかだ」

「ーーアサドと住むのは、気分悪い」

「逃げて出会い頭に殴られるよりはマシでしょ。思うんだけど、シャナ、何も言わずに逃げ出したんじゃないの? だからアサド君は怒ってるんだと思うな」


 眉間にキツく刻まれる皺まで指でほぐして、雛菊はシャナの顔を覗き込む。真紅の双眸を雛菊の黒い瞳でじっと見詰めた。


「シャナは私を元の世界へ帰す研究と、アサド君に心臓を返す方法を研究するの。私とアサド君はそれを見守る。力が必要なら協力だってする。それで今は丸く収まらないかな。シャナとしては追手が一人減ったことにならない?」

「悪く言えば、取立て人が生まれたってことだろ」


 憎まれ口を忘れないシャナに雛菊は呆れて息を吐き出すが、もう普段の調子に戻っているのだと感じて安心もする。


「いいじゃない。アサド君がいれば、買い出しの荷物持ちをシャナに頼まなくてよくなるよ?」


 雛菊のフォローに、成程とシャナは頷いた。少しだけ口許に笑みが浮かぶ。


「ところで、結局あまり尋ねていないけど何か僕に聞きたい事はあるの?」


 シャナから質問を促す言葉が出た事に驚いて、雛菊は目を丸くした。


「ないの?」


 反応の薄い雛菊を訝しげにシャナが覗く。窺う赤い瞳にハッとさせられ、雛菊は慌てて首を横に振った。


「いっぱいある。シャナの歳とか、今までの暮し振りとか、あの大金とか、沢山」


 この世界に来た時から、この世界に来る前からシャナについて知りたいこと、聞きたいことは沢山あった。だけどいざその瞬間が来たとなると、上手く言葉に出来ないのは何故だろう。

 もどかしい。なのに不思議と胸が満たされているのは、シャナと向き合ってこんなに話したことがあまりなかったからかも知れない。

 怒って饒舌になったり、苦しそうに顔を歪めたり、安堵したように少しだけ微笑んだりと色々な感情や表情を見る事が出来たからかも知れない。


「じゃあ、今夜はあと一つだけ聞くけど、どうしてシャナが町にいたの?」

「は⁉︎ あ、いや、それは……」

「私の傘、差してたよね。それはなんでかな?」


 急に歯切れ悪く吃るシャナの顔を雛菊は意地悪く覗く。

 それをシャナは少し悔しそうに、笑う雛菊を一睨みし、ぼそぼそと漸く聞き取れるくらいの小さな声で理由を述べた。


「雨が降りそうだったから傘を届けようと思って……でも自分の分を持ってなかったから仕方なく君のを借りて……」


 シャナらしくない気遣いに雛菊は破顔する。悪い気分ではない。むしろ逆の気分だった。

 その答えを満足げに雛菊は掴まえていたシャナの手を漸く離し、汗ばんだ自分の手を特別な思いで握り締める。


「結局、シャナのお迎えは実現しなかったわけだから、次の雨の日に期待するね」

「何それ」


 次なんて嫌だよと言いたげなシャナだが、今の雛菊にはそのつれなさは通じない。


「さ、今夜はこれでお開きにしようかな。ホントはもっと聞きたいんだけどね、でも、アサド君を放っておけないでしょ?」


 凄く、凄く聞きたいけどねと、更に念を押して強く主張し雛菊は笑った。その時に赤い屋根の上を駆け上がるように風が吹く。


「さむっ」


 肩を竦め、身を縮め、冷えた己の体を抱き締めて温め、雛菊は同じように体を縮めるシャナを見やる。


「風も出て寒くなったし、中に入ろうか。シャナはアサド君の治療もあるんだしね」

「僕、一言もアサドの治療をするなんて言った覚えはないんだけどね」

「普段、取りもしない薬草を取りに行けば想像くらいつきます。シャナが怪我させたんだから、行くべきでしょ。ついでに謝って、心臓を返す方法を探す時間を貰いなさい」


 出て来た天窓からロフトへと追い払われたシャナが不愉快そうに零し、そんな不平も歯牙にかけず、雛菊はそそくさとその後に続く。


「シャナと私とアサド君の三人家族、考えたら楽しそうだと思わない?」


 明日からの新しい生活を描いて楽しそうに言う雛菊に、シャナは更に不愉快そうに軽く舌打ちをした。


「自分で撒いた種って言葉が身に染みて分かるよ」


 リビングに続く梯子を下りながらシャナはロフト上の雛菊を見上げる。雛菊はシャナの恨みがましい視線を相手にせず、ただ笑顔で返して見下ろした。


「シャナ、私達の世界ではね、流れ星に願い事を伝えると叶えてくれるって話があるの」


 突然何を言い出すのかとシャナが首を傾げるが、雛菊はそのまま言葉を紡ぐ。


「私がシャナとアサド君が仲直り出来るように願うから、安心して看病したらいいよ」


 だから心配しないでねと、まるで小さい子の背中を押すような語り口調で言った。確かにシャナは大人の姿に変わりもするが、普段が年下の男の子なのでどうにも姉さん風を吹かしたくなる。

 そんな雛菊を何を思ってかシャナが目を細めてじっと見ていた。どうしたのか訪ねようとしたところ、不意に悪戯めいた笑みを投げかけられた。


「ヒナギク、僕の年齢を教えようか」


 シャナからの申し出に、雛菊は薄い反応を見せる。驚いて表情すら作るのが遅れたのだ。それとシャナが何か企んでいるような気がして、その申し出を素直に喜んでいいのか迷う。


「聞きたくない?」

「聞きたいけど」


 質問事項の一つの項目である。興味はある。けれど、聞くのが怖いような気もする。


「これでもアサドよりもかなり年上なんだよって言ったら、君はどんな顔をするのかな?」

「ーーへ?」


 意地悪く微笑ったシャナに、笑顔を硬直させた雛菊の顔。それを見てシャナは満足そうに鼻を鳴らした。


「おやすみ。子供は早く寝なよ」


 普段されている子供扱いの意趣返しか、シャナは摘んだ薬草を手にすると奥の部屋へと引っ込んだ。残された雛菊はまだポカンと口を開けている。

 子供の見た目で年上と言われ、普通なら納得して頷く訳がない。

 ただ、シャナの普通じゃないのは既に知っていて、その一端も垣間見ている。なにより、普段から見せている表情は子供のそれとは全く異なるものだとは気付いていた。けれども本人の口から確証を得るのとでは認識はだいぶ変わるもの。


「ろくな生活すらまともに出来ない子が、そんなに年上だなんて詐欺だ……」


 意識すると途端に今までの行いが恥ずかしくなったのは何故だろう。

 茫然自失と腰を落とす雛菊の背後で、窓枠をまるで額縁のように一筋の流れ星が一枚の絵のように重なるが、今夜はそれを見ても胸が騒ぎそうになかった。

 相手が子供と思って恥ずかしい姿を見せなかっただろうか。

 今日までを振り返ってはじたばたもがいて、雛菊は初めて眠れない夜を過ごした。



 

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