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シャナと花のバラッド  作者: 藤和葵
第三章・玉響に咲く花
19/61

04.私は誰?

 

 十年空けていたというのに私室はそのまま綺麗に保たれていた。

 一国の第二王子の部屋を粗末に扱うわけもないかと納得して、思うままに寛いでいたらノックもなしに扉が開かれる。そんな無粋な事をする人はこの王宮では数少ない。

 突然の訪問者にアサドはあからさまに顔を歪め、相手に拒否反応を示した。


「随分な顔だな。歳を取らない羨ましい体質になったと聞いたが、不細工になったとは報告になかったぞ」


 目尻の黒子を下げて笑い、男は愉快にアサドの部屋の奥へとずかずかと足を運ぶ。

 襟足の短い柔らかな金色の髪がふわふわと踊り、男の軽やかな足取りと合間って実に優雅だ。

 男はそのままアサドが寛ぐカウチの傍に、イージーチェアを引き寄せてそれに足を組んで腰掛ける。


「何の用デスか~?」


 投げやりな態度で社交辞令的な文句に、男はわざとらしく声高らかに批判を込めて涙声で言った。


「へぇ、これが約十年ぶりのお兄様への態度? 傷付いちゃうなぁ~」

「ウザイ。何の用で来たんだよ、ウル」

「あれ、実兄が久しぶりに会う弟の顔を見に来てはいけない理由がいるの? これでも私はお前の心配をしていたのだがね」


 けろりと泣き真似をやめ、ウル――ウル・グルラは素知らぬ顔で和やかに答えた。その切り替えの早さにアサドも慣れたもので、敢えて口を出さずに言葉を挟む。


「……家名を汚さないかって?」

「その心配もあるが、私としては玉座に着くより裏方の方が性に合うんだ。お前が帰って来てくれないと必然的に私が跡目を継ぐハメになるからね、むしろ継承の心配が大きい。いやぁ無事で何よりだ、弟よ」

「白々しいんだよ」


 腰を上げ、抱擁を求めてくる兄に向かって蹴りを入れる真似を見せてアサドは懸命の牽制を行う。ウルは涼しい顔をしたもので、また元の椅子に着座した。


「だが、真面目な話、お前がこの場にいるのは国の為だぞ。兵の士気が上がる」

「――不死(シナズ)の特攻隊長がいるからってか?」

「隣国の侵略の危険性がある我が国にとって防衛の根幹である武力が物を言うからな」

 皮肉る訳でもない。当然のように答えるウルに、アサドは詰まらなさそうにそのまま寝入っても構わない勢いで大きく欠伸をする。

「俺ぁ化物だぜ? ヒトには余る力だ。俺自身制御が出来ないんだぜ」

「それならセラフィムが手綱を取れば良い」


 ウルの意見にアサドは顔をしかめた。


「父上から聞いたぞ。お前、セラフィムを連れて帰って来たそうじゃないか。此処最近ヨシュムの動向が怪しく、いつ戦が始まるやもしれん時期に幸先がいいと、大臣達は大喜びだ」

「ヒナを下らない争いに巻込むつもりはない。余計な事は言うなよ」


 一瞬殺気立つアサドに尻込みするウルだが、すぐに平常を保とうとわざとおどけて肩を竦める。弱さを晒しては為政者としての沽券に関わると躾けられた彼の癖だった。同じように教育されたアサドも分からなくはないが、元々身体能力の高かくチェリウフィーに剣を中心に仕込まれた為か性格か腹芸にはどうも差がある。


「私が言わずとも、その内何処からか遅かれ早かれ耳にする。お前が城に招いたからな」


 もっともな理由を即座に切り出して反撃するのも政治家の癖。痛い所を突かれたアサドは言い返す事が出来ず、苦々しく舌打ちをしてふて腐れるようにカウチにだらしなく寝転がる。


「……あまり自虐的に己を責めればいいものではないと思うぞ」


 まるで壁に向かって膝を抱えるいじけた子供のような背中に、不意にウルは兄らしい語調になった。

 少し説教めいた言葉にアサドは首を動かし視線だけウルを捕捉する。


「お前はお前なりにセラフィムの娘を守っていると、私は思うぞ。婚約を申し出たらしいじゃないか」

「何でそれを知ってんだっ⁉︎」


 誰にも話してはいない、あまりの情報の早さにアサドは勢いよく身を起こして息巻く。


「チェリゥがランフィーに零したのを、ランフィーが父上と私に報告したんだ」


 ウルはたちまち赤面する弟を物珍しそうに見て、得意気に答えた。


「ランフィーの野郎~」

「そう熱くなるな。確かにあれは昔からお前を慕ってはいたが、今や宮廷精霊師として私らの家臣なのだぞ。長い留守があったとてお前も王族。家臣としては主に次期主の動向を伝えるのも仕事の内なのだから仕方ない」

「それでも二、三日はそっとしておくもんだろうが……」


 ぶつぶつ不平を零すアサドに、ウルは小さく吹き出してなだめる。


「それでも、セラフィムの出現と婚約の話題が同時に広まれば手間が省けるじゃないか。社交界で最高位のお前がセラフィムを手中に収めたと思わせれば、野心抱く輩共が大幅に減る。お前はセラフィムの格好の盾と言う訳だ。そのつもりで婚約を申し出たんだろ?」


 得意気に唱えるウルの傍でアサドは口を真一に結んで押し黙る。図星を指摘された事が悔しかったのだ。


「――言っとくが、責任だけの婚約じゃないからな」


 再び赤くなったアサドの顔が拗ねたように唇を尖らせれば、ウルは分かっていると呟く。


「守る形が様々なのは分かってるつもりだよ。妻がやっと一子を身籠もってな、お前の気持、痛い程よく分かる」


 しみじみと吐露したウルの気持に、アサドは生まれて初めて王族という衣を脱いだ兄を見た気がして、ぼんやりと憂いた線の細い姿を眺めた。

 左目の泣き黒子が女性的な印象を与えるウルは、体も鍛えられたアサド自身の体とは違い、薄く細い。中性的な顔立も弱そうな体も、アサドは昔から頼りにならないと思っていた。

 だが実際はどうだろう。

 子供が出来たと語るウルの顔は親の顔で、父親の顔。昔の印象とは違う、頼もしさが伝わって来る。


「おめでとう」


 素直に出た言葉に、ウルはてらう事なく穏やかに微笑んだ。


「ありがとう。だからお前は私達家族の安寧の為、セラフィムと早く身を固めろよ。お前が入込むくらいこの世の者とは思えない相当な美人なのだろう?」


 ウルの問いにアサドは笑顔のまま言葉に詰まった。

 失礼な話、雛菊の事を可愛いとは常々思っていても、絶世の美女には喩えられなかったからだ。

 それでも大事に思う気持に偽りはない。


「――花の匂いがする、太陽みたいな奴だよ」


 答えられたセラフィム像にウルは想像を働かせられず、首を傾げて幸せそうに話す弟を見つめた。



 * * *


「此処……何処だろう」


 一方で、太陽のようと比喩された黒髪の少女は怒りのままに歩いて見知らぬ場所に辿り着いていた。

 おそらくルビは緑豊かな庭園を駆け回っているのだろうと踏み、窓のある廊下沿いを進んでいたのにT字路に突き当たってしまい、一向に外へと続く扉を見つけられずにいる。十六にもなって迷子になるなんて恥ずかしいと、迷い始めは思っていたが、使用人すら見当たらない今となっては、誰でもいいからこの迷宮から抜け出させて欲しい思いでいっぱいだ。


「ルビさぁん、いたら出て来て~」


 別に外に出れずともルビが見付かれば目的は達したも同然なのだが、果たして無事に部屋に戻れるかが問題である。


(いや、その問題は後で考えよう)


 実は言うと、まだ部屋には戻るのには抵抗があった。

 顔を合わせる可能性は低いとは言え、シャナの隣りの部屋へと戻るのは今はまだ気まずい。


「……ルビさぁん」


 先程の言合いを振り払うように雛菊は広い廊下をひたすら歩く。

 反響する声。斜めに差し込む陽の光。しかしそれは暮れ泥む空の残り火のような明りで何処か心細い。

 所々明りの灯った王宮の廊下は決して暗くはないが、しんとした誰もいない長い廊下は逆に不気味に感じた。

 壁も床も調度品も、華やかで綺麗なもので、決してお化け屋敷のおどろおどろしさは微塵もないのに、闇にぽっかり飲まれるような虚無感がある。それは、今の雛菊の心境が映す景色なのだろう。


「何でこんなに広いんの~」


 急に心細くなって、雛菊は立ち竦んで呟いた。鼻の奥がツンとするのは泣く前兆である。

 ルビがいなくなり、アサドが突然知らない男の人の顔になって、シャナと喧嘩して、右も左も分からない王宮でただ一人。

 世界にたった一人残された――そんな気分だった。


「おや、珍しい。この域に人がいたみたいですね」


 何処からか突然湧いて出た言葉に雛菊はビクリと肩を震わせた。

 驚いて辺りを見回すと、背後にいくつかある内の一つの扉が半分開き、中から金色の瞳が大きく瞬きをしながら雛菊を見ていた。


「しかも変わった装束のお嬢さんだ。何処かの国のお客様ですか?」


 中の部屋から出て来てにこにこと笑顔で身を乗り出して来たのは、金色の瞳と、長く緩やかに波打った髪をさらりと肩に流した青年だった。

 何処か物憂げに見える青年は顔色が悪く、肌が透けるように白い。立ち姿だけで儚く見える青年は、その雰囲気に合わない眼帯で右目を覆っている。

 男は突然現れた人物に萎縮する雛菊に構わず近付くと、無邪気な顔で両手で握手を求めて来た。


「あ、ワタシ、セイリオスと言います。気軽にシィリーとお呼び下さいね」

「はぁ……」


 気落ちしている所に屈託のなく名乗る青年に雛菊は少し気後れしながら、上目向きにチラリと窺う。セイリオスはにこりと笑みを浮かべて、首を左に傾けた。


「貴女、もしかせずとも迷子でしょう? どちらへ行かれたいですか? 宜しければワタシが案内差し上げますよ」

「え、いえ、大丈夫ですよ、そんなお気になさらずにっ」


 迷子で困っていたくせに反射的に遠慮をしたのは、泣きそうになって弱っていた場に介入されてばつが悪いからだ。

 きっとこれであっさりと折れられたら後で余計に困る事になると、言ってしまった後で内心どうしようと雛菊の不安に反して、セイリオスは明るいものだった。


「いえいえ、遠慮なさらずに。実はワタシも昔はよく迷子になりましてね、こういうの放ってはおけないのですよ。ほら、こちらですよ」


 半ば強引に雛菊の手を取り、セイリオスは早足で前へと突き進む。


「あの、ちょ……はやっ」


 セイリオスの広い歩幅に着いて行けない雛菊は、足をもつれさせながら何処をどう歩いているのかも分からずにただ緩やかに波打つ金の髪を早足で追い掛けた。

 ふわりと鼻に漂う甘い匂いはセイリオスの香水だろうか。

 身に纏った絹の上着から彼が単なる使用人ではないのを感じながらついて行くと、急に立ち止まったセイリオスの背中に強かに額を顔面をぶつけた。


「間に合ったかな」


 セイリオスの独り言が耳に入り、ぶつけた額を擦って雛菊が顔を上げると、隻眼の青年は薄く微笑んで目の前にある木戸を開く。

 木の板を組み合わせ星型を模した可愛らしい木戸。それだけでも胸をくすぐられるのにその先は更に雛菊の琴線に激しく触れた。


「――うっ……わぁ」


 思い切り息を溜め込んで吐き出したのは感嘆の言葉だ。

 緑の生垣に咲き誇る花々。

 その花々はどれも淡く緑を帯びた黄色い光を放ち、甘い芳香を漂わせる。風が吹くとまるで無数の蛍が飛び交うように揺れ、その度にちらちらと点滅するイルミネーションにも見えた。


「凄い……光る花なんて初めて見た」

「リリィローサと言うんです。この花は陽が落ちた僅かな時間に昼間浴びた陽の光を放出する性質があるのですよ」


 説明するセイリオスを見つめ、雛菊は頷く。


「リリィローサなら知ってます。確か貴族の人しか栽培が許されていない花なんですよね」


 あまりの美しさに独り占めしたい気持も分からなくもない雛菊は、ふらふらと誘われるままリリィローサの生垣へと歩んで行く。


「元気になりましたか?」


 静かに問い掛けたセイリオスに雛菊が不思議そうに振り返ると、隻眼の青年はおかしそうに吹き出して無言の雛菊の質問に答えた。


「気付きませんでした? ワタシと会った時の貴方、上手く誤魔化したつもりでも、凄く泣きそうな顔をしてたんですよ」

「そんな事ないですっ」


 恥ずかしい指摘に顔を赤らめて、雛菊は唇を突き出して頬を膨らませる。

 その仕草に余計にセイリオスは笑って、何も言わずに手折ったリリィローサの花を雛菊の頭に飾った。


「やっぱり女の子にはお花ですよね~」

「どうも、です」


 初対面の異性に慣れない気障な対応をされ、雛菊は複雑そうに赤くなって笑みを返す。

 年の頃はどれくらいだろうか。

 見た目からセイリオスの年齢を判断する事は難しく、いくつか年上にも見えるが笑うと雛菊と同じくらいにも感じる。

 そんな風にセイリオスをこっそり窺っていると、突然ふくらはぎにふさっとした衝撃が走った。


「――ルビさん!」


 足許にぶつかって来たのは主を見つけて体全体で喜びを表現する聖獣フラーメ。真紅の毛皮にあちこち枝や葉っぱを絡ませ、何処か穴でも掘って来たのか鼻の辺りも泥で汚したみすぼらしい己の姿など気にする様子もなく、泥だらけの足をペタペタと擦り寄せる可愛い生き物を雛菊は愛しく抱き上げた。


「ルビさんやっぱり外で遊んでたんだねぇ」


 雛菊の問いに答えるようにルビは雛菊の口を舐めて、甘えた声で一声鳴く。

 胸元に宿るほっこりとした温もりに、雛菊は気持が浮上した事に気付いた。深い意識はしていなかったが随分と落ち込んでいたらしい。思い返せばセイリオスにも少し素っ気ない失礼な態度を取ったかもしれないと慌てて雛菊は知り合ったばかりの青年を見やる。セイリオスは左目の金色の瞳を見開いてまじまじとルビを凝視していた。


「……それ、フラーメですよね?」


 指を差して確認されるのが気に触ったルビが鼻で鳴く。


「フラーメですよ? ルビさんって名前なんです」


 明るく答える雛菊にセイリオスが視線を移し、首を傾げて尋ねる。


「もしや貴女が噂のセラフィム? アサド兄様が連れて来た」

「そうらしいです。何も力はないですが――……って、兄様?」


 言われて雛菊もまじまじセイリオスを見つめる。

 確かに金の瞳に金の髪はアサドと同じだが顔は似ていない。線の細さがまず違うし、タイプで分けるとアサドは大型の猫科の獣のようで、セイリオスは爬虫類のような印象だ。ただしどちらも顔立ちが整っている。

 判断に困っていると雛菊が導き出す前にセイリオスがすかさず答えを出した。


「あ、兄様と言ってもワタシは従弟に当たるんですがね。前王の息子なんですよ、ワタシ。王位はワタシが病弱って事で、レオニス叔父様が継承したんでただの貴族やってるんですけどね」


 けらけらと何ともなさそうに笑って説明したセイリオスは、改まって右手を胸に翳して深々と頭を下げた。


「お目にかかれて光栄です。セラフィム」

「やっ! ちょっとそんなにかしこまらないで下さい。私、偉くも何ともないんだからっ」


 慌てふためき、両手をぶんぶん振っては大きく否定をする雛菊をセイリオスは不思議そうに見つめて言う。


「でも、セラフィムはアサド兄様と婚約するのでしょう? チェリウフィーから話が伝わり、叔父様が上機嫌でしたよ。セラフィムもジオンを受け取ったとも聞きましたし、近々にはお披露目の夜会を催すとかまで話が進んでます。セラフィムとの晴れ舞台だから、盛大にしたいとはしゃいでましたしね」

「その婚約はまだ正式じゃないの!」

「何故です? アサド兄様に何か不満でも? セラフィムはアサド兄様と数ヶ月共に暮らしてたのでしょう? それなのに受けないのですか? セラフィムはアサド兄様が嫌いなんですか?」


 子供みたいな遠慮のない目で幾つも尋ねるセイリオスに、雛菊は唇を噛んで俯いた。


「――嫌いじゃないから、悩むんだよ」


 拳を作ると、存在を気付かされる琥珀色の指輪。

 何故こんなに左手が重く感じるかなんて理由など知る由もなく、雛菊はリリィローサの消え入る最後の光を見送った。


「……セラフィム。また浮かない顔をしてますよ?」


 押し黙る雛菊を、訝しげにセイリオスが覗く。雛菊はにこりと笑って、ルビを抱き締めた。


「大丈夫。シィリーさんこそ、さっきより大人しくない?」


 自分でも分かり過ぎる程わざと明るく振る舞いながら、雛菊はセイリオスから目を逸らす。

 すっかり陽も落ちた中庭。

 外灯が仄かに辺りを照らすが足許は暗く、覚束ない足取りで中庭を抜けようと歩く。


「あ、今日はありがとうございますね。暗くなってしまったのでお先に部屋に戻りますね」


 逃げるようにセイリオスの横を擦り抜け、元来た道を辿ろうとして雛菊は腕を掴まえられて引き止められた。


「送ります。今の貴女を一人にするのは、紳士として見逃せませんよ。――また泣きそうな顔してるじゃないですか、セラフィム」


 そう言って無理矢理俯く顔を顎を掴んで上げさせると、それが引き金になり雛菊の瞳からボロボロと涙が溢れ出る。セイリオスの率直な指摘が雛菊の胸を突き刺し、気付けなかった事実に気付いてしまった衝撃の反動だった。

 雛菊は溢れる涙を拭う為にセイリオスの手を振り払い、情けない嗚咽混じりの声で切に願う。


「――セラフィム……って、呼ばないで……」


 懇願する必死さはセイリオスに伝わったのだろう。

 小さく謝ったセイリオスが「遅くなったけど、貴女の名前は?」と間抜けに聞いて来るので、雛菊は泣きながら吹き出して名前を伝えた。

 それから雛菊の名前が呼びにくいからと「ヒナ」と呼んだ時、やはりアサドの従弟なのだなぁと思ってしまい、つい笑ってしまった。

 その後で、渇いた涙の跡をルビが優しく舐められ、また少し胸が苦しくなった。

 自分の事なのに別人のように感じる。

 セラフィムとして求められ、セラフィムとして守られる。

 アサドの気持にも「セラフィム」として求められたような気がしたし、雛菊自身が放って置かれたような気がした。

 そんなつもりがアサドになかったとしても、気付かない内に「セラフィム」になろうとして「セラフィム」に飲まれているようで怖くなった。

 今になって自分が言い出した事に迷いが生じた。


 

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