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自分自身

物語の登場人物は、架空の人物です。このことを踏まえてから、楽しんでください。

 ――夢を見ていた。いや、本当に夢だったのかどうかは定かではないけど、私は此処に居るのに目の前に私が居たのだから、まず間違いなく夢だろうと思った。私と目の前の私以外の空間は真っ黒で、今私が何の上に立っているのか、どちらが上下なのかすらわからなかった。けど、それでも私は立って、もう一人の私と対峙していた。目の前の私は奇妙なほどに私に似ており、いや、同じ私だからそっくりなのはもちろんだけど…魂というか、心というかまで私だと思った。

 ふと真っ黒な空間に人影が現れた。現れたというのは表現として齟齬があるけど、恐らく現れたという言葉が適当だと思う。良く見るとその人影はさゆみんだった。遠目だったのに、何故かさゆみんだと分かってしまった。さゆみんはまっすぐに此方へ近づいてくると、もう一人の私に抱きついた。私の目の前で二人は抱き合い、情熱的なキスをする。憂いを帯びた瞳でさゆみんを見るもう一人の私と、熱を帯びた目で見つめ返すさゆみん。二人の雰囲気は、まるで恋人達のように、熱く甘美だった。

 興味深げにじーっと二人を観察していると、今度はもう一人の私の背後に抱きつく人影があった。さゆみんの時よろしく、私はその人が間違いなく明日香だと気付いたが、明日香は此方に全く興味を示さず、もう一人の私に微笑みを浮かべている。もう一人の私は明日香に気付くと、あろうことか明日香にも熱いキスを与えた。頬を朱に染めながらも喜んでキスを受け入れる明日香。どの表情も私の前では見た事も無いような、可愛らしいものだった。

 もう一人の私が二人に交互にキスをしている。さながらハーレムのように、自分の所有物だと言うように私にキスと抱擁を見せ付ける。正直に言えば、面白くない。二人が私を慕ってくれている図なのに、全く興奮しない。もし私があの私の立場なら、きっと嬉々としてキスをして、きっと暴走して二人が止めるまでセクハラをして、きっと二人が止めてもセクハラをするだろう。なのに、私はあの二人に触ることが出来無い。声をかけることもできない。 

 …ああ、そっか…。きっと私は欲張りなんだ。身体も、心まで私と同じ自分が彼女達を抱いているというのに、全然面白くない。きっと、私自身にすら彼女達を穢させたくないのだ。恋とか、そういう深い感情じゃない。きっと子供の頃の宝物のような、そんな幼稚な感情…。大事なものを、友達を手放したくないっていう、稚拙な独占欲。見えないけれど、自分は今不機嫌丸出しの、いつもの明日香のような表情をしているだろう。まぁ、夢だから、いいや。

 とにかくこの面白くない状況は何とかしなければ。そろそろ我慢の限界だし、調子に乗っているあの馬鹿野郎…私だけど…にきついお灸を据えねば。とはいえ何だか眼の前には見えない壁があるようで、そちら側に干渉することは出来無い。声を上げても全く聞こえていないようだ。というか夢の中では言葉を発せ無いらしい。私が何を言おうと、出てくるのは吐息だけだった。仕方なく眼の前の見えない壁を叩いてみる。無音。痛みも、壁に触れる感覚すらない。でも、私の身体は確実に何かに阻まれている。

 そんな私を知ってか知らずか、もう一人の私は明日香とさゆみんを両手に抱くと、やんわりと身体を愛撫し始める。二人の身体のラインを強調するように、優しく、でも何処か艶めかしい手つきで。そんなもう一人の私の手つきに、二人は嫌悪するどころか、抗うことなく身を委ねている。それどころか二人の表情は、何処か期待を込めた目つきであった。

 吐き気がする。こんな私は私じゃないし、こんな二人は私の友人の二人じゃない。これが夢だとしても、そうじゃなかったとしても、私の衝動は収まらないだろうと感じた。私は目の前の私を一発殴りたかった。こんなのは私じゃないって拒絶したかった。私は……そんな眼で二人を見た事無いって、否定したかった。

 不意に、もう一人の私が此方に顔を向ける。生まれてから何度も見てきた顔が、今はとても恨めしく見えた。もう一人の私は私を見ると、ゆっくり口を開いた。音の無い空間で、さながら口パクのように、もう一人の私の口が開閉する。それでも、読唇術の心得も無いのに、理解出来てしまった。「かのじょたちは、わたしのもの。」

 ぷちっと音が聞こえた。見えない壁にめり込むほどに身体を寄せて、力一杯に壁に拳を叩きつける。お前なんか私じゃない、お前は私の友達を穢した罪人だ、消してやる、消えろ消えろ消えろ……。





「―――……!―――ちゃん…!小百合ちゃん!」

 …ん…?さゆみんが私を呼ぶ声がする、何だか切羽詰まってるみたいだけど……遅刻かな?とにかくおきなきゃさゆみんに怒られる…。私が眼を開けると、目の前にはさゆみんと明日香の顔がドアップだった。うん、二人とも今日も美人だ。……明日香は出会ってからまだ一日経ってないんだけどね。とりあえずお約束を消化することにする。

「知らない天zy――」

「よかった、小百合ちゃん大丈夫?うなされてたみたいだけど?」

「……うん、だいじょうぶ」

 ごめん、お約束は消化できなかった。絶妙なタイミングで言葉を割り込ませたさゆみんには賞賛を送りたい。おめでとうさゆみん、てめぇがナンバーワンだ…!ん?私がうなされてた?

 とにかく寝ていても仕方ないので身体を起き上がらせる。此処は明日香の部屋、ファンシーなものが一杯で、今私は明日香のベッドの上。記憶も戻ってきた。剛速球のぬいぐるみを受けて、どうやら私はホントに気絶していたらしい。時計の針がもうおやつどきを知らせている。一時間くらい寝てたようだ。夢の内容は…思い出せない、何だか嫌な夢だったような…。

 とりあえず起き上がった私のすることは一つだと思う。二人に謝罪?違います。二人に抱きつく?まさか。答えは…これだ。

「はぁ、はぁ…プードルちゃんの匂い…くんかくんか…。」

「ちょ、何やってるのよこの変体!」

私は身にかけられていた毛布を手に取りゆっくりと鼻先に近づけると、ゆっくり堪能するように空気を吸う。一流の淑女たるもの、標的の匂いくらいはトレースしておかなきゃね。明日香の匂いは…甘い良い匂いだ、ミルクのような甘い濃い匂いがするぜ!やったね読者諸君!

 まあ、そんな匂いばかり嗅いでるから明日香からの飛び蹴りを直撃してしまう訳で、私の上半身は見事に吹き飛び、再度意識が飛ばない程度に隣の壁にぶち当たった。うっ…何だかこの感覚今日どこかで感じたような…。

「まぁ…何より無事で良かったわ…」

「さっきの蹴りが一番無事じゃなくなる要因だった気が…」

「何か言った?」

「いえ、何でもありません。」

 すぐにベッドの上で土下座になる私。卑屈だと言われようがこれが素の私だから仕方がない。土下座で謝っている私に、明日香は鼻を鳴らした後、不機嫌な表情を隠そうともせずそっぽを向いている。可愛いなあ…。ん?でもこの表情を見て安堵してしまうのは何でだろう?

「とにかく、今日は帰ろう小百合ちゃん。一応安静にしてたほうがいいよ…。」

 不安そうな表情で見つめてくるさゆみん。この表情を見ると庇護欲が沸いてきて仕方ないけど、今日は何故かまた安堵してしまう。どうやら予想以上に気絶と飛び蹴りが効いているようだ、名残惜しいが流石に二日目から学校を休みたくないし、さゆみんの支持に従い、明日香に頭を下げる。

「ん…、そうだね、長くまでごめんね、プードルちゃん。」

「プードル言うな。…まあ、今回は私も悪かったわ、ごめんなさい。」

「また…、遊びに来てもいいかな?」

「えぇ、勿論よ。佐弓もいつでもいらっしゃい。」

「ありがとう、明日香ちゃん。」

 それぞれに軽く挨拶をしながら、私達は立ち上がる。家主である明日香も見送りにきてくれるようで、玄関まで着いてきてくれた。私とさゆみんは口々に明日香に再度お礼を言いながら、久澄家を後にした。今日は本当にいろいろなことがあった。あ、そうだ、高校生にもなったんだし日記をつけておこう。決心した私は、さゆみんと別れた後、日記帳を買いに文房具店へ向かった。


遅くなって申し訳ありません……ってか眠い!最近になってやたらと忙しくなっている気がします。それに比例して内容のグダグダも強化されてるし……。本当にすみませんでした。

今回もお付き合い頂きありがとうございました。また次回もよろしくおねがいします。

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