写真撮影
この物語に登場する人物は、架空の人物です。実在する人物とは何の関係もありませんのであしからず。
「………つまり、この方がプードルちゃんのお姉さま…だと…?」
「だからプードルって言うなっ!」
「うふふ、ごめんなさいねぇ…ちょっと悪戯したかったの。」
…驚き過ぎて何もいえない。世には自分に似た人が三人は居るって聞くけど…絶対パッと見ただけじゃ分からない。お姉さんが私服じゃなくて学生服を着ていたら絶対混同してしまう自信がある。唯一の違いと言えば、お姉さんの表情は基本的にのほほんとしていて、久澄さんの方が若干釣り目なことだけだ。
久澄さんのお姉さん…一美さんは口元を片手で隠してくすくす笑っている。久澄さんを見慣れているせいか、若干の違和感を感じるけど、これはこれで…。あ、この紅茶美味しい…。
「とにかく、一美姉さんは出てって!私達はこれから勉強するんだから!」
「あらあら、もうちょっとお話したかったのに…。じゃあ、お邪魔虫は退散するわね。」
久澄が言うと、一美さんは困ったような笑みを浮かべながらも立ち上がり、部屋から出て行ってしまった。凄く勿体無い気がするけど、呼び止めるのも悪いのでそのまま見送る。
一美さんが出て行ったのを見てから、久澄さんに向き合う。これは…これだけは言っておかなければいけない。私は真面目な表情を浮かべる。私のその表情に気づいたのか、久澄さんも真剣なものになる。正座に座り直して、ゆっくり頭を深く下げていく。
「プードルちゃん…お姉さんを私にください。」
「却下。」
「小百合ちゃん…。」
……久澄さんの冷たい言葉と、さゆみんの呆れたような声が私に突き刺さる。結構本気で言ったんだけど…。私は土下座の状態で泣いた。ほんのちょっとだけど、泣いた。
「と、とにかく、明後日までに小説の題材を決めるんだよね。久澄さんの姉さんの原稿もあるし、早速始めようよ!」
「そ、そうね…。それじゃ…。」
私が土下座で泣いている状態から回復すると、さゆみんが両手をパンと叩きながら言ってくる。その声を聞いてやっと本来の目的を思い出した私と久澄さんはこくり頷き返し、久澄さんは脇に置いてあった大量のファイルを机の上にドンっと置く。私達は誰からともなくファイルを手に取り、内容を読み始める。
由紀さんのファイルの中は、何というか几帳面の塊だった。ファイルの端に仕切りが見えており、それぞれ完成、下書き、書き損じ、メモと三種類に書類が分類されていた。完成の分類を見ると、それは確かに添削も清書も終わらせた完成品で、下書きには赤字やペケ印が沢山見られた。書き損じには途中まで書かれた原稿用紙が何十枚も挟まれてあり、メモには様々な文字が羅列しており、おおよそ本人にしか意味を成さないものになっていた。没になった設定なんてものも書いてあって、少し面白かった。
他の二人のファイルも概ね同じようなものだったのだろう、二人の表情が唖然を通り越して呆然としていた。つまり私達の言いたい事は「こんなこと絶対出来無い。」だ。
「…………自分達だけで、考えよっか…。」
…………同感だよ、さゆりん。
という訳で三人で話し合いを始めて一時間、何とか題材が形が出来上がってきていた。一日かけても仕上がらないと思われていたこの作業は、何とさゆりんの力添えでここまで進展していた。プロットだとか企画だとか殆どチンプンカンプンだったけど、小説というものがいかに知的で、完成された作品なのかは理解できた。それにしても何でさゆみんがこんな事を知ってるのか、疑問になったので聞いてみる。さゆみんは困ったような表情を浮かべた後、「図書館の本で読んだ」と、答えてくれた。流石文学少女。
「はぁぁ…何とか終わりそうだね…。」
「小百合ちゃんよく頑張ったね、十分で辞めるかと心配してたのに…。」
「…十分で辞めるってどれだけ芯が貧弱なのよ…。」
笑顔で褒めてくれるさゆみんと、仏頂面でけなしてくる久澄さん、もとい明日香。プードルって連呼してたら「明日香って呼びなさい!」ってアッパーカットを食らってしまったので、明日香と呼ぶことにする。心の中では。さゆみんもれからは苗字じゃなくて名前で呼ぶそうだ。仲良きことは良きことかな。ちなみに明日香に「私も名前で呼んでいいよ!」というと「一生無いと思うわ。あ、佐弓…ここどうしたらいいかな…?」と返された。ちなみに後半はさゆみんを呼ぶ声で私に向けたものじゃない。しくしく。
とりあえず手を動かしながら明日香に返答することにする。自分の誇りのために。
「失敬な、ルービックキューブだったら全面揃えられるもん!一分で!」
「お、落ち着いて小百合ちゃん!芯の強さ関係ないよ!」
「何で無駄に凄いスキルを今暴露するのよ…。」
むぅ…無駄じゃないもん、器用さの訓練になるもん。
ふくれっ面の私と仏頂面の明日香がにらみ合う。さゆみんはその様子をおろおろしながら見ている。何という修羅場、私が当事者でなければポップコーンを片手に傍観したいところだ。
が、今回だけは明日香を許す訳にはいかない。こやつは今ルービックキューブを無駄だと申した。これは許せない。残念だが泣いてもらうしかあるまい。腰を上げて、四つん這いで明日香へ近づいていく。
「明日香…もう辛抱出来無い…」
「何訳の分からないこと…言っ…て…?」
どんどん接近して身体同士が密着するまで接近させる。お互いの胸と胸、腹とが接触するくらいにちかづいていく。必死に身体を離そうと身体を倒す明日香、それを追うように身体を寄せる私。いつしか明日香は床に背を付け倒れており、まるで私が明日香を押し倒したかのようだ。
「ねぇ、今どんな気持ち…?」
「っ…!な、あ、あんた…な、に…して…。」
私は上から明日香の顔をまじまじと見ながら、いつもより数段優しい口調で聞く。理解できずに困惑の表情を浮かべている明日香の頬は、羞恥からほんのり赤くなっている。あわあわと答えに戸惑っている明日香の唇に人差し指を軽く当てて黙らせ、ゆっくりと顔を近づけていく。さゆみんは私のすることに気付いたのか、ため息をつきながらも止めようとはしない。流石さゆみん、持つべき物は親友だね。
「眼、閉じて…。」
「っ、や、いやよ…。」
「大丈夫、痛くしないから…。」
「ん、んっ……。」
明日香に眼を閉じるように諭すと、戸惑いながらも拒否してきたため、片手の掌を相手の目元に当て、瞼を閉じさせる。ゆっくり手を離すと、明日香は素直に眼を閉じていた。閉ざされた視界に困惑する姿が何とも可愛らしい。
さて、今私の目の前には明日香の顔が大写しになっている。既に明日香は目を閉じて、羞恥に唇を震わせながら、さながら子猫、いやプードルだから子犬のようになっている。小刻みに震える肩に若干の罪悪感を感じながらも、行為を止めるつもりはない。悪いのは全て明日香のほうだからね。私はポケットから携帯を取り出し…明日香の顔を激写する。カシャッとシャッターの音が部屋に響きわたる。明日香のキス顔ゲット!
私は明日香の上から離れ、携帯を天にかかげながら高らかに笑う。当の明日香は上体を起こしているも、まだ状況が理解できていないようで困惑した表情を浮かべている。
「はっ…え…なん…?」
「いっやぁ~、さゆみんの時は表情に余裕あったから楽しくなかったけど、流石はプードルちゃん!久々にいいリアクションだったぁ~!」
「ちょ、小百合ちゃんはしゃぎすぎだよ…。」
苦笑を浮かべているさゆりんと、肩を震わせている明日香をよそに、はしゃぎ回る私。だって反応が可愛すぎるんだもん!今まで数回この方法は試してきたけど、こんなに良い反応だったのは今回が初めてだったかもしれない。いやはや、満足満足。おっと、明日香に謝っておかなきゃ。
「ごめんねプードルちゃん、でもルービックキューブはdisったら……」
「こんのブァカぁぁぁぁ!!」
剛速球で縫ぐるみが飛んできた。私の意識は吹っ飛んだ。
遅くなって申し訳ありません!後今回滅茶苦茶難産だったので大目に見て下さい!すみませんでした!
そ、それではまた次回にご期待ください!今回も読んで頂き、ありがとうございましたっ!