下校時間
この物語はフィクションです、実在する個人、団体とは一切関係ありません。このことを踏まえてから読んでください。
読者諸君、私は謝らなければならない。結局気絶して放課後まで居眠りしていた事を。桃源郷を、桃源郷を実況出来なかった事を!
あ、もう普通に読者って言ってるわ、私やっぱりおかしくなったかな。
そんな些細な事はともかく、どうやら私は保健室に居るらしい。真新しいベッドシーツと、無機質なほどに白い天井と壁、今私が寝ているベッドを覆うように張られたカーテン、十中八九保健室だと思う。これで病院とかだったら洒落にならないけど、気絶程度で病院には運ばれないだろう、多分。
「…知らない天井d」
「小百合、起きた?」
……この小説ではこのネタは流される運命らしい。うん、まあ一人で言っても寂しいだけだしね。
声の人物はカーテンを軽く翻して中に入ってくる。いつものように柔和な笑みでは無く、若干心配そうな表情で入ってきた聖母は、そのままゆっくりとベッドの端に腰を下ろした。相変わらず美しい。我が母ながら惚れ惚れする美しさだ。
「う、うん…大丈夫だよ、お母さん。」
「そう…良かった。心配したのよ?」
安心させるように笑顔で言うと、お母さんはやっといつもの表情で笑ってくれた。ううん、愛されてるなぁ…。
「あ、身体検査は…?」
「もう終わったわよ。小百合は予備の日に持ち越しになったわ。」
うん…分かっていたけど、仕方ないね。
不意に時刻が気になり、ポケットから出した携帯電話で時刻を確認すると、既に放課後の時刻をだいぶ過ぎていた。と言ってもまだ夕方五時だ。恐らくお母さんにも仕事は残っているだろう。そろそろ起き上がることにする。
「んっしょ…。もう大丈夫だよ、お母さん。私はいいから、お仕事行って?」
「保健室のカギを任せられてるから、先には行けないわ。仕事も雑務しか残ってないから安心しなさい。」
「んー…じゃあ、そろそろ保健室閉めたほうが良いんじゃ…?」
「スポーツ系の部活動生が来るかも知れないし、後三十分は開けてないといけないわ。小百合だけ先に帰ってなさい。」
三十分間お母さん独り占めですね、分かります!私はお母さんの言葉に首を横に振り、やんわり拒否することにした。
「三十分くらい待つよ。お母さんと一緒に居たいもん。」
「そう?無理して一緒に居なくていいのよ?それともまだ何処か痛む?」
また不安げな表情を浮かべているお母さん。そんな顔をされるから心が痛んでます、なんて言えない。言えないけど言いたい!
私の無言を何か問題があると勘違いしたのか、更に不安げな表情に変わる。そのままお母さんは手を伸ばし、優しく頬を擦ってくれた。
「何処か痛むところがあるなら、言いなさい。ちょっと頬が腫れてるんじゃない?」
「まぁ…。まだちょっと痛いかな?もう少しの間擦っててくれる?」
「え、いいけど…、湿布の方が良いんじゃない?」
不安な表情から困惑の表情へと変わるお母さん。少しレアな表情だ。思わず私もいつもらしくない行動をとって、ついつい甘えてしまう。
「湿布なんかより、お母さんの手が好きだから…駄目?」
「ん…、いいわよ、母さんの手で小百合が直るなら。」
「えへへ……ありがと。」
優しくて柔らかいお母さんの手が私の頬を撫でてくれる…。なんだか照れくさいけど、幸せな気分だ。まだこの学校に入って二日しか経ってないけど、お母さんが担任になってからというもの、何処と無くお母さんは私と距離を取っていたような気がしていた。だからだろうか…こんなにも今の、母親としてのお母さんが嬉しく感じる。いつもの「みんなの先生」じゃなくて、「私だけのお母さん」なのが、とてつもなく嬉しい。
そんな幸せが表情に出ていたのか、お母さんは不安げな表情を一変させ、いつもの優しい表情を取り戻していた。うん、やっぱりお母さんにはこっちの方が似合う。
「……小百合。」
「うん…?なぁにお母さん?」
「寂しかったでしょう…?」
「あはは…まだ学校二日目だよ?大袈裟だよ。」
「そう…なら良いけど…。」
…正直に言うと、担任まではならないで欲しかった。けど、お母さんの仕事の邪魔には為りたくないし、お母さんと四六時中一緒に居られるのは正直嬉しいから、言わないことにする。
「それに、私はお母さんに毎日学校で会えるの嬉しいよ?」
「…もぅ、調子の良いこと言って…。」
お母さんの照れ顔頂きました。正直萌え死にそうです。これが二児の母なんて考えられない。子供の私でもそう思ってしまう。
「…さ、そろそろ保健室を閉めましょうか。」
「うん…そだね。」
名残惜しいけど、まぁ別にいいか。
「あ…そうそう小百合。」
「んー?」
「文さん…自治会長からの伝言、今日は部活はいいから帰りなさい、だそうよ。」
あぁ…部活の事すっかり忘れてた。そっか、今日から部活なんだっけ…。まあ、いいや。部活無いみたいだし、帰ろう。…あ、そうだ。
「お母さん、一緒に帰らない?ちょっと位なら待つからさ。」
「ん?そうねぇ…雑務があるから、三十分くらいはかかるわよ?」
「うん、大丈夫だよ。それくらいなら全然待つよ。一緒に帰ろう?」
「分かったわ、とりあえず此処から出ましょうか。」
よっし、お母さんと一緒に下校権ゲット!
遅くなって申し訳ありません…。今回もやっぱり短いです。やはり敬愛する小説家様は凄いと日々感じております。自分が一日一話とか愚かでしたね。………頑張ります。
コメント等頂けると泣いて喜びます。リクエストとかあると書いたりするかもしれません。……露骨な催促ですよ?
とりあえず、次回にご期待下さい、今回も読んでいただいてありがとうございました。