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初ノルマ

この物 語はフィク   ショ ンで  す 。

 次の日の朝、私達は三人揃って部長の教室に行き、何事かとこちらを見ている先輩方の目の前で自分達のプロットを提出した。部長はすっっっごく嫌そうな表情を…する訳でもなくくすりと微笑を浮かべた後、じっくりと作品の構成を吟味し始めた。丁寧に、まるで芸術を見るかのように三人分確認した後、部長は『ま、及第点ね。早速今日から作品に着手して頂戴。最初はノルマは無いから、とりあえずキリのいい場所までプロローグを書くこと。まあそうね…原稿用紙に、五枚でいいわ』と、ケロッと言った。

 と、まぁそんな事があった訳で、作戦会議中イン1年Cクラス。私の席に私、明日香、さゆみんが円になって座っている。皆考えてることは同じであろう……いきなり書けと言われて書けるわけがない。しかも〆切は一週間後、間に合わない、一週間丸々を使っても間に合わない。いや、原稿用紙五枚を埋めるだけなら、一週間といわずに三日あれば可能だけど、小説のプロローグを五枚にまとめるなんて…。

「……はぁ…。」

 明日香が丁度よくため息をついてくれたので、便乗してため息をついておく、はぁー…。

「えっと……はぁ……。」

 するとさゆみんが、空気を読んでため息をついてくれた。持つべきものは友達だなと思った。私達三人はため息の合唱の後、全員で目を合わせた。私から見えた二人の表情には諦めの色が濃く移されており、虚ろな表情で此方を見ている。きっと私も同じ表情なのだろう。

「……とりあえず、放課後にしましょうか。」

「…そうだね、じゃ、教室に戻るね…。」

 一人教室の違うさゆみんが作戦会議から離脱し、教室から出ていく。ちなみに今は一時間目の前、部長に提出して直ぐの時間だ。一時限目まであと二分しかない。

 二人になった作戦会議で、明日香が話しかけてきた。答えない理由もないため、時間は無いにしても釣られて私も返答してしまう。

「…軽く書く内容は決めてたほうが良いかもしれないわね…。」

「そうだね…でも何書いたらいいかわかんないよ…。」

「何でも書いていれば、一つは良い作品ができるでしょ…。」

「うぇ…でも面倒じゃない…?」

「己の経験不足なんだから、それくらい普通にしなきゃ…部長の罰を受けたいの…?」

 二人でぐったりした表情のまま会話する。たしかに明日香の言う通りだろう、これからも書かなければならない私達には、経験値が必要である。書くための知識は、書かなければ蓄積されないだろう。私だって本当は分かってる。部長の罰は怖いし。

 しかし、しかしだ。私は聖人でもなければ神でもない。やはり面倒くさいものは面倒くさいし、嫌なものは嫌だといいたいのである。明日香が隣で見ている中私は自分の机に突っ伏して顔を隠すと、パタパタと掌で机の表面を軽く叩きながら、駄々っ子のように抵抗する。勿論本気じゃないけど。

「うぅーいやだぁー…おうちかえるぅー…」

「んー…帰りたいなら帰って良いけど、欠席扱いにしてもいいかしら?」

 ふと、明日香以外の声が頭上から聞こえてきた。その声が私に向けられたものかどうかは定かではないけど、言葉の流れから考えて恐らく私への言葉だろう。優しくて諭すような口調に、愛らしい声……いつもより棘っぽいけど、とても良く知った声だ。私が日頃で覚えている声など数えるほどしかない。学校ならなおさらな訳だ。さゆみんは教室に帰ったところ、ならばこの声の持ち主はあの人しか居ないだろう。

 恐る恐る突っ伏していた顔を上げる。そこには聖母が立っていた。いや、聖母の仮面をつけた般若が立っていた。温厚柔和な笑みを浮かべて、可愛らしく首を傾げながら。……ただし笑顔の裏には般若面が半分見えてたし、その可愛らしい仕草が霞むほどの殺気を帯びていたけど。

 身体が震える。冷や汗が止まらない。うぁ、とか、ぁ、とかそんな感じのことばが漏れ出る。無意識のうちに身体が恐怖しており、正常な思考などできないでいた。

 ふと聖母の口が開かれる。言葉を発することはなかったがその口元は、ハッキリと開閉し私にメッセージをのこした。かえったらおはなしね、私は教室から逃げ出そうとした。しかし回り込まれてしまった。

か  ゆ   う ま



ご愛読ありがとうございました、陸ノ鯨の次回作にご期待下さい。


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