銀鉄の破壊神
「てめえら、いい加減にしろ!」
店内に響き渡った声に続き、鋭く風を切る音とやたら鈍い音が響いた。
むしろ鈍い音というより破砕音。
「全く、客が楽しく飯を食ってるってのに相変わらずか!」
威勢のいい女の声に反し、店内は喧騒のけの字もどこへ消えうせたのかわからなくなるほど静まり返っていた。
そんな周りにも気が付く様子もなく女は胸元からタバコを取り出して火をつけた。傍らには喧嘩を粉砕……仲裁したと思われる銀鉄製のハンマーが置いてあった。
「あ……姉御……だから、ハンマー制裁はやめ……て、と」
「な、なぜオレまで……」
ピクピクとまるで生ける屍のように女の足元から男の腕がずるりと這い上がってきた。
しかし、それも蹴り飛ばすように一蹴するとタバコを咥えたまま床へとしゃがみこんだ。
「てめえらこそ、何度っ、言えば分かるんだぁ?」
上から見下ろされているはずなのに、下からも睨みつけられている奇妙な感覚。
後に店にいた者たちは語る……
悪魔の鍛冶師は確かにいた……、と。
そして、店の奥から店主らしき男が顔を覗かせた瞬間、その場に凍りつき倒れた。
散乱するテーブルに散らばった料理と沈黙する客たち……そこまでは店主は予想していた。
予想してはいたが外の風と見通しのよくなった店に凍りつき、その原因となった者たちを見て倒れこんだのだった。
「ったく、てめえらは人様へかける迷惑を考えた事はあんのか?
たかが肉の大きさで喧嘩するか、普通よ?」
「……人の魂、吹っ飛ばす勢いでド付く人間に言われたくねぇ……」
「黙ってろ。今は私が話してるんだ」
早々に復活した片方の男へ絶対零度の刺す視線で沈黙させると、ハンマーをその手に掴んだ。
「仲良くしろとは言わないが、人様の楽しいくつろぎの時間をフイにさせるなっていつも言ってるだろうが」
「最終的にフイにさせてるのは、姐さんだろう……」
ぽつっとこぼした言葉にハンマーを持つ手がかすかに震えた。
「………………反省の様子なし、か」
低い声のまま再びハンマーが一閃した。
「星の彼方で反省してこいやあぁぁっ!!!」
知る人は言う。銀鉄のハンマーの破壊神……
供の二人が寄る店はことごとく潰され、破壊神が立ち寄った後には平地が残る。
だから、喧嘩すんなって話。
お読みいただきありがとうございます。
コメディは好きですが書くのは、ちょと苦手。
特に続きません。(礼)