アンドリュー教会
一
「逃げるのならば、追いはしません。――もっとも、そこな八人は、終生、剣を握る事は出来ぬでしょう。これを機に改心し、まともな仕事を探さっしゃい」
嘴の構えを解かず、高科乙は再び、去るよう促した。
腰でも抜かしたか、敵達の反応は薄かった。やむなく、乙は威嚇に出た。
「では、是非無い仕儀だが、そなたらには、三途の川を渡って頂く!」
愛刀国広を上段に構え直して、
「ええいっ!」
と気合を一つ発すると、敵達は、はっきりとした恐怖をその面々に晒し、雲を霞と逃げていった。
乙は彼らの姿が完全に見えなくなってから、鍔鳴りも高く、刀を納めると、振り返った。
「さて――」
乙にとって、残る懸念は、若菜留伊によって気絶させられた四人であった。そちらに視線を投げる。
と、目の端に、デューク・ミレイリアが、敵の取り落とした剣を拾い上げ、なにやら思案げな表情を作っているのが映り込んだ。
「? デューク殿――何をなされておられる?」
しかしデュークは答えずに、剣を一振り、右手に提げたまま、シド・ミレイリアを呼んだ。
シドのみならず、留伊も近付いてきたが、デュークは意に介さず、
「これは、どこの紋章だ」
剣身の鍔元近くに彫られた、複雑な紋様をシドに見せた。
「えっと……確か……スピレイン卿の――」
そこまで言って、シドが顔を歪めた。
「まさか、全部に?」
無言で頷くデュークに、シドは溜息を一つ、吐くのみであった。
乙と留伊には、話が見えぬ。
「どうかされましたか?」
「これは、スピレイン伯爵の紋章です」
剣の身幅は二寸。身幅いっぱいに、複雑で、精緻な彫刻があった。
紋章の中央部には、エスカッシャンという楯がある。楯の上部をチーフ、下部をベース、左半分がデクスター、右半分をシニスターと呼ぶ。
チーフシニスターに、流れ星であろうか、五条がベースデクスターに向かって落ちている。チーフデクスターに、天狗のように、背中から羽の生えた女が、流れ星をその腕に受けようと、両のかいなを伸ばしていた。
ベースデクスターは頭から長い角を一本生やした馬が、馬首を弓なりにしならせ、後肢二本で立ち上がって、ベースシニスターには、鷲が飛んでいた。
そしてエスカッションの周囲には装飾がなされ、左右の獅子が楯を支えるようにしている。サポーターという。
僅か二寸の身幅ながら、それらが、はっきりと見て取れるほど、見事な彫刻であった。
「見事な彫りの腕ですね」
乙は素直な感想を口にした。
「見事過ぎる。到底、賊が持っていていいような物じゃない。俺の推測が正しければ、奴ら、スピレインの息のかかった者たち――という事になる」
それを聞いても、乙も留伊も、ピンと来なかった。
――ふむ。どういうのだろう?
「スピレイン伯爵は、このあたりナエニアの領主なのです」
一瞬の疑念は、この言葉ですぐに氷解した。
「つまり、この地の御領主は、御家中の者を使って、かような所業を重ねられておられる、という事ですね」
デュークは、一つ頷いた。
「だろうな。だが、すぐには腑に落ちん。この道が確かに昔は賑わっていたのは、道幅で判るが、今は人影もほとんど無い。シドが言ったように、急ぎの商人が護衛に守られて強行するぐらいだろう。はっきり言って、旨味は少ない。にもかかわらず、奴らが固執するのだとすれば、何かがあるな」
デュークは、顔を、いまだ気絶している四人に向けた。
「面倒は御免だが、既に巻き込まれたかもしれんし、火の粉は降りかかる前に、払っておくか」
多少の、酷薄で残忍な笑みが、デュークの口辺に刷かれたが、乙はそれを推し量りかねた。
「お前達は先に行って、益体も無い望みを果たして来るといい。俺は、あの四人に訊きたい事がある」
乙は多少、鼻白む感情が働いたが、気を落ち着かせて、当初の目的を果たすこととした。
二
四半刻を歩いただろう。もう、そろそろの筈であった。
「シド殿」
ずっと無言であった三人だが、ここで、乙が声を発した。
「何ですか?」
「シド殿と、デューク殿では、どちらがお強いのか、先ほどから、判りかねております。なるほど、単純に剣を取ればデューク殿がお強いでしょう。しかし、あなたには、また違う修練をお見受け致す。如何でしょう?」
先ほどの襲撃を受けた際、シドは確かに狼狽しているように、見えたが、それは、そのように見せている、というその直感が、乙に働いたのであった。慌てている中にも、落ち着きがあった。それを、乙は感じ取ったのである。
乙の指摘に、シドは、苦笑、としか呼べぬ事の出来ぬ、笑みを、浮かべたものであった。
「ええ。まあ、そうですね……。僕は、デュークほどの剣の腕はありませんが、彼に持ち合わせていない特技と言うものが、僕にはあるという事です。ただ、それだけです」
しかし、シドはそれ以上を話す事はせず、
「それより、あと、どれぐらい歩くんでしょう?」
と、露骨に話題を変えた。
「もうすぐの筈です。あと、四半里程でしょう」
それから、今の時間にして、およそ二十分。三人は、四つの物体と化した骸の前に立っていた。
およそ、想像の出来る事であったと、言っても良いだろうか。骸の生前、彼らが手にしていた得物の姿が、無くなっていた。
「ありませぬね」
「うん」
これは、屍体の身分所属を隠したと見てよい事であった。
「無いですか……」
シドは極力、屍体を見ないように、
「デュークの推察が、当たるかもしれませんね」
「獲物を持ち去っておいて、供養もしないとは……薄情な仲間たちだ」
乙はそうこぼして、留伊と共に、手を合わせた。
四つの屍体を、荷車に運び、筵を掛けた。
「わたくしが、牽きましょう」
留伊は、シドに言ったものだが、
「いえ、僕が牽きます。女性にこのような事をさせるのは、僕の沽券に関わります」
「左様でございますか? でも、相当な重さです。ご無理はなされないで下さいまし。お疲れになりましたら、いつでもお替わりいたしますから」
「いや、もう、そう言っていただけるだけで、元気イッパイです!」
シドはドンと、己の胸を一叩きして、二人へと微笑んだ。
「一つ、お訊きしたいのですが」
と、乙。
「ガイエル殿は、ご存知無かった事ですが、シド殿は、我らが日本へ帰る方法を、何かご存知でしょうか? または、存じていらっしゃる方を、ご存知ではありませんか?」
彼はちょっと困ったように、顎に手を当てた。
「うーん……。はっきり言って、お師匠の知らない事を、知ってらっしゃる方は、恐らく、皆無でしょう」
「しかし、ガイエル殿は、自分にも知らぬ事はあると、仰っておられました」
「その通りでしょう。ですが、お師匠以上に知識を持っている方はいません。そもそも、どうして日本の方が来るかも、解明されていませんし……。日本からいらした方が、日本に帰った、という話も、僕は聞いた事はありません。確かめようも無いですしね」
「……そう、ですか……」
思わず、乙の表情が沈む。
「すみません。お力になれなくて……」
「いえ、構いませぬ。こちらこそ、ご無理を言って、申し訳の無い次第です」
三人が、デュークの元へ戻った時、彼は一人であった。気絶していた四人は、逃げたか、逃がされたか、既に無い。
「どうでした? 何か、判りましたか?」
シドが問いかけると、デュークはかぶりを振った。
「いや、奴らは何も知らなかった。奴らの首領に言われるまま動いていただけらしい」
「そうですか。それで、逃がしたのですか?」
再び、シドが問い、肯定したデューク。
「どうせ、そいつが十三人からのあいつらを逃がしたんだ。殺して、文句を言われたくも無いしな」
シドは意外そうな表情を作って、言った。
「らしくないですね」
「そうだな……」
デュークの顔に苦笑が広がった。
「それにしても……スピレイン伯爵ですか……」
三
カディスの町を擁する、ナエニア地方は、その帰属がころころと変わった歴史がある。新大陸暦二三九年から四〇二年まで続いた、第二太平時代にはノールバック帝国領であった。
その後四一九年、隣国であったグラセル王国がノールバック帝国へ宣戦布告し、侵攻。グラセル国領となり、四三〇年には、領主であったレンブラント家が反乱を起こし、十年間のみ、独立国家となる。
四四〇年、再びグラセル領となり、六〇六年にグラセルが南北に分裂すると、北グラセルに組み込まれた。グラセルが再び統一されたのは六八〇年のことだ。
八〇一年、割譲されノールバック領へ戻るも、八一四年には新興のカンナエ王国により一時占領された。三年後、ノールバックへ戻る。その際に、スピレイン家が統治を任された。それからは、九六五年の今に至るまで、代々、スピレイン家が治めている。
現在の当主 コルネリウス・スピレインは、齢七十を数える老体ながら、精力的に活動しており、内政の手腕も高い。
「ただ、あまり大きな声では言えませんが、次期当主となるオドアケル卿には、あまりいい評判を聞きません」
「と、申されると?」
「一つは酒色ですね。贅沢を重ねて、借金まで作っているとか。非常に短気で、今までに十人もの使用人をつまらない理由で殺した、なんて噂も……」
シドは頭をふりふり、といった様子である。
「御公儀から、お叱りなどは無かったのでしょうか」
「? ごこうぎ?」
「……なんと申しましょうか。政を行う中心とでも申しましょうか」
「ああ、王家の事ですかね。そうですね、僕らのような人間も知っていることですし、中央も把握はしていると思いますよ」
「何ゆえ、お叱りにならぬのです?」
「叱り付けているとは、思いますよ。特に、御宰相は、厳格な方ですし」
「あくまで、わたしたちの常識ですが、その御子息は、切腹を召されるべきです」
大名の子息がそのような事をし、それが公儀に知られた場合は、まず間違いなく子息は切腹、当主は監督不行き届きとして、知行召し上げなり、改易となるはずである。そう、付け足すと、シドは目を丸くした。
「へえ……随分、厳しいんですね」
おそらく、何のことか、理解は出来ていないだろう。ただ、厳罰である、という事だけは理解したようである。
「当然です。領主は、領民の父母でなければなりません。十八史略という書物には、法の行われざるは、上よりこれを犯せばなり、とあります。また、論語には、其の身正しければ、令せずとも行なわれる。其の身正からざれば、令すといえども従われず、と。上に立つものが無法の振る舞いをしていては、領民も無法を選ぶ事に悩まなくなるでしょう。善悪を知らぬ親が、どうして子に善悪を教えられましょう。親とは、子を想うもの。子は、親を敬うもの。領主が親として民を想い、民が子として領主を敬う。こうでなくては、御政道は成り立ちません。ですから、処罰は自ずと厳しいものになるのです」
「そ……そうですか」
乙の言葉に、シドは困ったような顔で、相槌を打った。助け舟を出したのは、デュークであった。
「御高説、ありがとうよ。言って置くが、ここはお前らの勝手知った日本じゃ無い。向こうの常識なんぞさっさと忘れて、こっちの常識を早く身につけるべきだな」
しかし、侮蔑の色があった。
「デューク殿。確かにここは、わたくしどもの知る地ではありません。ですが、姫さまへの侮辱はわたくしが許しませぬぞ」
留伊が鋭く発した。
「よさぬか、留伊」
「え? 姫さま……って?」
首を捻るシド。乙は自嘲するよう言った。
「デューク殿の申されるとおり、当地に置いては、なんらの意味も無いのです……」
――留伊に、わたしへの呼び名を改めさせねば……。
浮かんできたのは、その呟きであった。
四
空が茜色に染まりつつあった。一旦、ガイエル邸に戻った後、改めて乙達四人は、シドが相変わらず四つの屍体を入れた荷車を牽いて、カディスの町の中央通りを歩いていた。
「しかし……教会が引き取ってくれるでしょうか……?」
さすがに、シドのその顔には疲労の色が表れていた。三人が何度も替わろうと口にしたが、取り合わず、結局ずっと牽いて来たのである。
人々が、奇異の目を向け、すれ違っていく。
「女二人ばかり眺めて、話を聞いていなかったな? 老師が話をつけると言っていただろう」
「おや、そうでしたか。なら、安心ですね」
乙は引っかかりを覚えた。留伊も同じであったらしく、問うたのは彼女であった。
「あの、お二人とも、それはどういう事なのでしょう?」
教会、というのが、彼女らの言う所の、寺社であろうとの想像は、間違ってはおらぬ。寺という所は、教義の違いから、対立する事頻々ではあるが、ゆくりなくも命を落とし、かつ、落命したその者の宗旨が判らぬ場合などは、特に問う事も無く引き取り、供養をしてくれるものだ。
「ええ。それは、解っています。王都にもお寺はありますから。……ただ、この町に、お寺は無く……。アンドリュー教会という、オルレイア教ウルミーヤ派の教会一つしか、無いんです」
「それが……?」
「これはウルミーヤ派に限った事では無いんですが、オルレイア教は、『あらゆる全ての万人の罪を許せ 愛と慈悲を与えよ』の教義が形骸化して、罪人や悪人の葬は断わります。神への冒涜だから、という理由で。そういう死人の受け皿が、お寺なんです」
「……ふざけた話ですね」
乙の呟きには、幽かながら怒気が含まれていた。
カディスの町のほぼ中央に、件のオルレイア教ウルミーヤ派のアンドリュー教会が建っている。総レンガ造りの、砦とも見える建物である。外の、入り口に立って眺めただけでは、明り取りの窓も少なく、中は薄暗いように思える。敷地はかなり広く取られ、ガイエル邸よりも大きいかと思われた。
「ガイエル様から、伺っております」
四人を迎えたのは、副司教という立場の、ベルヌーイという三十絡みの、陰気な男であった。質素な麻の黒衣の姿をしたベルヌーイの案内で四人は、礼拝堂に足を踏み入れた。薄暗いと思われた中は、意外にも明るかった。天井が、明り取りになっていたからで、地平に立って眺めては、確かに、分からぬ……。
天井はステンドグラスであった。腹ボテの、巨大なトカゲかヤモリの化け物のようなものに、錫杖を掲げ持った男が、八人の男女を対峙させている構図だと、乙は見て取れた。
「ええ。その通りです。旧暦一〇〇三年の第一次人竜戦役終結の模様です。この時、オルレイア様は、あの、八人の英雄達へ、さらなる勇気と、知恵と、そして力をお与えになられましたのです」
ベルヌーイの声は低いが、美声であった。
屍体の引き渡しは、滞りなく終わった。聞けば、教会の地下には、安置場があり、そこに、十日ほど、安置してから埋葬するのだという。
「神は仰られました。生きとし生けるものは全て私の子である、と。そして、こうも仰られました。いつか、私を訪ねて来なければならない、と」
――それでいて、ガイエル殿が申し付けねば、供養もせぬとは。言有る者は必ずしも徳あらず、とはよく言ったものだ。
乙は肚裡での嘲笑をおくびにも出さず、ベルヌーイへ丁寧な礼を述べたものであった。
五
五つ頃。アンドリュー教会の司教室――。
そこへ、ベルヌーイ副司教が、静かに入った。
五十絡み、でっぷりと肥えた、醜怪な顔をした男が、丁度、食事を採っていた。衣服は、ベルヌーイのそれと、あまり変わらないが、素材は絹である。アンドリュー教会のあるじ、ビシュケ司教であった。
ビシュケは、暫くの間、ベルヌーイを見向きもしなかった。ナエニア牛のステーキを頬張っては、葡萄酒で嚥下し、油で揚げた鶏のもも肉を素手で持ち上げて、口元に持っていく。
食事が済むまで、ベルヌーイはじっと、何も言わず、待った。
「捨ててきましたか?」
油で汚れた口元や手を、拭おうともせず、ビシュケが訊ねた。
「はい」
「全く……神聖な教会に、あのような輩の骸を安置させろなどと……」
「オドアケル様には、報告なされますか?」
「当然です。事が露見するような事があれば、オドアケル様にとって、困った事になりかねません。……だから、紋章の入った剣など、持たすべきでは無いと、申し上げたのに……」
「屍体はその剣を持っておりませんでした。おそらくは、仲間の者達が回収したと思われますが」
「ならば、安心ですが……」
ようやく、ビシュケはナプキンで指の油を拭った。
「ともかく、メルベ山の資源は、神の元へとお返ししなければなりません」
「ええ。そうですね」
ベルヌーイは短くそう答えたのみだ。
――神よ!
司教室を出たベルヌーイは肚裡で叫んだ。
もしも、領地に鉱山が発見された場合、ノールバック王家へ報告しなければならないのである。それを、オドアケルはビシュケの甘言により、王家には報告せず、自らの物にしたのであった。
もともと、死んだ四人、および、今日、乙らを襲った者たちは、ならず者と言って良い男達であった。ナエニア伯子オドアケルは現在四十歳だが、父親がいつまで経っても引退し無い事や、自身の生まれ付いての資質もあろうが、奢侈好きの放埓な人格である。メルベ山の賊達とは、彼が若い頃に知り合った連中であった。オドアケルの走駆する者達は、今となっては、教会の走駆でもあった。
メルベ山から流れる川に、砂金が出た事を知ったビシュケは、メルベ山が金山である事を確信し、オドアケルに注進した。
「コルネリウス様にも王家にも報告せず、神へ捧げましょう」
と。
ノールバック王国では、宗教の自由が認められている。だからか、個人がより良いと思う所へ改宗をしたり、あまつさえ、無神論者まで出る始末であった。そんな国の中での、教会の経営も楽では無い。カディスの町ではアンドリュー教会一つのみしか無いが、それでも、年々、収入が減っていた。
ナエニア伯子という立場でありながら、収入以上の奢侈を好むオドアケルと、利が一致したのである。
ベルヌーイは、心では反発していた。しかし彼は、あくまで彼の信ずる教義に従順であった。
ウルミーヤ派の、ヒエラルキーは、絶対のものであった。自分よりも高位の者の命ずる事には、逆らってはいけない。それは一国の王も例外では無い。逆らえば、神の足元にも行けない。この極端なまでの教えが、ウルミーヤ派の最大の特徴であった。
しかしそれは、酷く傲慢であるとも言える。
他にも、オルレイア教他派が寛容的な行為に対しては厳しく、しかも説得力のある言葉が、ウルミーヤ派に、ベルヌーイにとっては、あった。
最初こそ、ベルヌーイはその教義に触れて、涕泣するような衝撃を受けた。ウルミーヤ派こそが、己を導く最良最善の教えと信じた。
彼はまず、王都のウルミーヤ派の教会に師事した。しかし、ベルヌーイはそこで、信仰心が、上位司教達のそれと、はっきりとした温度差があるのを確信した。
だが、ベルヌーイは柔軟であった。温度差を巧く捕らえ、己の出世に利用した。彼の理想を求むるに、出世が、一番の近道であった。
神の言葉と称し、神が求めているからと偽って、欲望をギラつかせるウルミーヤ派の改革――この、狂瀾を既倒に回らさんとする意思と理想の為に、である。
しかし、それもここまでであった。アンドリュー教会に来て、ベルヌーイはこの悪事に加担させられた。彼の野望は葬り去られたのであった……。