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Journals of the Dead  作者: 数奇者星
第一部 学園監獄編
8/33

手記3

人がゲロをはくのは、防御行動なのだという。胃袋の中に入った異物ややばいものを取り込まないために、吐くという機能が人間には備わっているのだという。

そんな話を、今日聞いた。


ていうか、ゲロというのはなんだろう。日本語でいいのだろうか。語感としてはそのままなのだけれど、カタカナ?でいいのだろうか。お好み焼き?何かもっと別の言い回しがあった気がするけど、思い出せない。こういう風に紙に記す以上は、なるだけ丁寧な言葉で書きたいのだけど。

まあゲロってことで。とりあえず。


そんな話をわざわざするからには、誰かがゲロを吐いたという話をするわけで、私がその体験者だった。

今日私は吐いた。一生分吐いた。

あの光景を前に、匂いは吸いこんで、その後の作業も合わせて、滝のように吐いた。

食事もほとんどのどを通らなかった。飲んだ水さえ、一時間もしないうちに土の上にまき散らしてしまった。


今でも目を閉じて、視界が闇に覆われると思い出す。思い出してしまう。

まるで映画館のなかのように、記憶のなかから圧倒的な迫力と臨場感を持って、あの光景が。

瞼の裏に、まるで当たり前のように映し出される。

何度眠ろうとしても、そうなるのだ。何度も、何度も。繰り返し、まるでフィルムがそこで回ることが

決まっていたかのように。


今文章を吐き出す、というのがこういうものなのかと初めて知った。

現国の授業など、いつも退屈にしか思えなかった私だけど、今はちょっとまた見方が変わるのかもしれない。

この学園にきて、メールもろくに打てないというのは私にしてはわりとうれしかった。あんなちまちましたものをぴこぴ打つのが好きだなんて、みんなどうかしている。しかも女子高生が使うメールの言語は、ひたすらに装飾華美で通常の三倍の手間がかかる。父親なんてメールには数字と漢字しか打ってこなかったというのに!女子高生のいかに不便なことか。想像できるだろうか。たまに実家の近所のファストフードなんかで高速でメールを打ちまくる女子高生なんか見ると、腱鞘炎になるんじゃないかと心配になる。


そんなわたしが、こんなに必死になって文字を書いているんだから不思議だ。

ため込んで、人に話して、それでもそれでも止まらない何かが自分のなかからあふれてくる。

こうやって言葉にして、ノートの上に文字の形で吐き出している。不思議だ。

こうやって言葉を吐き出して、自分の心を防御しているのかもしれない。なにから?恐怖だろうか。


けれども正直な話、あの光景をどう表現すべきか、どういえばいいのかさっぱりわからない。

これまで散々関係のない話ばかり書き連ねてきたのは、そのせいだ。どれだけあの時のことを語ろうとしても、言葉が見つからない。

ゲロを上手くいうことさえできないんだから、当たり前なのだけど。

それでもわざわざこんなものを書いている以上、それを避けては通れない。


しいて言うなら、地獄だった。

陳腐で言い古されていて、言いたくもないけど、地獄なんだろう。けど。

そうなんだけれど、それだけで終わらせたくないだけの迫力があったし、もっと、そう、リアルだった。

人が死ぬということ。人が人を殺すということ。人間の体の中身。暴力。

思い出したくもないけれど、忘れられない記憶。

眼の前で見た人間にしか分からないリアルだったと思う。いや、私よりももっとひどい経験をした人はたくさんいるのはわかっている。その後にもいろいろあったし、私なんかが特別どうこうと言えた口ではない。

あの時の私はただ怯えて、怖がって、おろおろしているばかりだった。だから、みんなが知らないことを知っているということはない。

それでも、そう、こうして何か言葉にしようとしたことだけは確かだ。私にしかない言葉で、何とかしようとした。それが大事だと思う。開き直りか?



書きたいことがもっと有ったはずなのに、もっといろんなことを言いたかったはずなのに。なぜだか、すこしすっきりした気がする。私はもしかしたら、あのことを伝えたいんじゃなくて、あの光景をみた私自身のことを知ってほしかったのかもしれない。

誰かが言っていた気がする。会話の本質は会話の内容それ自体にはないと。

だからそんなわけで瞼も重くなってきた。そろそろペンを置くことにする。



どちらにせよ、あのバスから始まった地獄を、思い出したくはない。寝ゲロはごめんだ。








思いだした。吐しゃ物だ。すっきりした。


―――池田裕美

また手記でした。

というわけで、ようやく次回からゾンビ登場です。

やっとだ……。

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