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Journals of the Dead  作者: 数奇者星
第一部 学園監獄編
12/33

第二話 攻撃的な死と再生(4)

遅れてすいません。第三話の方との兼ね合いを考えていて……。

ようやくまともなアクションシーンがあります。お楽しみください。

「何が起こってるのか分からなくって、最初はぼんやり見てたんだけどね……」

聡子がとつとつと話しだす。

「立木が警備の人たちと格闘しているのを、見てたよ。組みふせて、噛みついて。まともに見てられなかっただわさ。あの人たちは、まちがいなく……死んでた」

眼下の光景は子供が見るにはショックに過ぎる。明里が連れてきた女生徒達も、声を震わせていた。

「あいつ等になるんだ……あいつ等に食われたら、仲間になるんだ……」

熱に浮かされたように、隣にいた少女がそうつぶやく。

思わず、聡子に向かって問いかける。

「錯乱しているのとは、別だと思うの?」

「さっき放送で、錯乱状態だなんて言ってたが、とてもそうは思えないね。さっきまでピクリともしなかった人が、突然理性をなくして歩き回る。ああいうのを、私なら別の表現を使うね。いわゆるゾンビってやつだわさ」

ゾンビ。普段は聞きなれない耳触りの悪い言葉。モンスターや吸血鬼と同じような、けれども幽霊やお化けよりは遠い言葉。

「あれは、死んでいるの?」

「人間が「生きている状態」を定義する条件はいくつある。心臓が動いているか脳が動いているか。意識を持っているか知性を持っているか。社会の中で居場所を持っているか、戸籍を持っているか」

「……聞きたいのはそんなことじゃない」

「同じだわさ。目の前にいるあれに対して私たちが考えるべきは、連中は容赦なく私たちを押し倒し、自分たちの仲間にしようとしてくるってこと。……あんな風に、なるかどうかってこと」

思わず、聡子の方へ鋭い視線を送るが、その顔が思ったよりも深刻なのをみて思いとどまった。

彼女もまた怒り、怯え、しかしそれでも立ち向かおうとしている。この不条理な現実に。

だからこそ明里には安易に怒りや恐れの中に逃げ込むことを許そうとはしていない。それが彼女にはわかった。

「原因は……どうすれば、対処できる?」

考えるべきは具体的な対処方法。

ようやく冷静になったか、と聡子は唇を曲げて答えてくれた。

「まあ、見ての通りだわさ。さっき、感染の話がでていたが……基本的には、連中に噛まれたりした人間がかかる、とみてもいいだわさ。最初、バスの中で暴れた二人の教師は生きてたんでしょう」

「ええ。それで、バスの中で容体が急変したらしくって……」

「到着と同時に、発病した、か。それからいったん仮死状態になり……まあ、動き出した、と」

仮死状態、と言ってから聡子が首をひねっているのは、今の状態の脈を測っていないからだろうか。

「それが、例の感染病だとして……あの状態の人間を、感染者、としておくよ。その感染者に人体の重要部位を、そこにいる警備の人間やあそこの生徒が、食いちぎられた。これは間違いなく、死んでただわさ。それが今ああやって、同じような状態で動き回っている」

「つまり……一旦、どちらも死んだような状態になった後、ああなる、と?」

「そう。連中は、一度死ぬ。それから、自分がやられたのと同じように、人を襲うようになる。それが……件の地上最悪の感染病の正体だわさ」

だとしたら。明里は生唾を飲み込んだ。事態は教師たちが思っている以上に、悪い方に進んでいる。


死者が生者を襲い、生者もまた死者となる。

そして襲われたものは自らの運命を恨むように、同じ末路を生者に求める。

そうしてやがて全ての人間は死者となり、永遠に地上をさまよう。


窓の外。歩き出した死者たちを見つめる杉村明里すぎむらあかりの頭の中に現れたのは、そんなイメージだった。

そんな場所を、普通の人間は何ていうか。

決まっている。

地獄だ。



「噛まれたら、アウトっていうこと?」

聡子は窓の外に一瞬視線を落としてから、うなずいた。

「過程に推測に予想に……今のところ安全なことなんて殆どないとしか言えないけど、とにかくかまれるのはマズイ。今は連中と接触しないこと。それしかないだわさ」

「まあ今のところは、安全なんじゃないの。籠城しさえすれば……」


だが、明里の目が気になるものを捉えた。


「ちょっとまって。あそこ、バスからはいだしてるのは……」

そこには確かに、窓からゆっくりとシロクマのようにけだるげにでてくる少女がいた。最初それこそ顔がきれい二見えたが、次第にその上半身が見えてくるに従って、その娘の腹部がごっそりとえぐりとられているのがわかった。

「待って。……あの子は、いつ、噛まれたの?」

「最初に暴れてのは、立木だけなのかさ?」

理科室にいる少女たちに二人続けて問いかける。その内の一人の少女が首を横に振った

「いえ。ちょうど悲鳴が上がった頃に、佐志場先生も暴れ出して……近くにいた生徒が、かまれてました」

「それで、バスの中もパニックになって、みんな窓から飛び降りてたんです」

そうだ、自分も見ていた。あれは入口のところで悲鳴が上がったから、急いで逃げ出したのかと思っていた。だが、違ったということか。

それはつまり、潜在的な感染者の存在をそのまま意味する。

「なんでそんな、大事なことを……!!!」

怒鳴り散らしそうになるのを明里は必死にこらえる。

くそ、なんだこの手際の悪さは。どいつもこいつも。

明里は一握りの酸素を怒りとともに肺の奥に送り込んでから、できるだけ平坦な声で言った

「ということは、車内で同じようにかまれた学生が、いるかもしれないってことなの?」

それこそ最悪の展開だった。噛まれたまま、校舎に逃げ込んでしまった人間。もしそんな人物がいるとしたら。ようやくそこまで想像が至ったのか、少女たちも目に見えてうろたえ始める。そうして顔を見合わせながら「そこまでは……」と、不安げに言葉を濁した。

「誰も、誰も噛まれてはいないわよね!」

誰ともなく声をあげる。皆おびえたような顔つきで、互いを見やりあう。

無理もない。もし感染していたのなら、それをどうすればいいのか。そこから先を考えるのは、苦痛が伴うだろうから。

しかしそのうちの一人に視線が自然と集まっていく。


少女は顔を蒼くしながら、俯いている。誰とも視線を合わせようとしない。他の女生徒は一歩距離をとる。


明里は少女の全身に視線を走らせる。手と靴に土がついている。ただし、外傷らしい物は見あたらない。

「心当たりが、あるのね」

明里がそういうと、ようやく唇をきつく結びながら、面を上げた。

「あ、あの……佐藤みよ、っていう子が、バスから降りる時に、腕を……」

「その子は、どこにいるの!?」

肩をつかむ。少女の口が、ひどくゆっくりと動いた。



階段を飛び降りて、廊下を駆ける。少女たちにその子の名前を聞きながら走ると、まもなく明里を呼びにきた少女とすれ違った。

「副会長……」

導かれるままに、人が集まっている一室へたどり着く。

少女たちは明里がかけてくるのを見て、道をあけた。


空き教室のため、机は後ろでそろえられている。そのため、教室はいつもより広く感じられる。

だが、その広い床には一面の血だまりができていた。

そこから血痕が累々と続き、教室の後部にまで続いている。


「ねえ……みよちゃん……」

その奥。机によって押し詰められた教室後部に、一人の少女の後ろ姿見えた。

明里が歩を進めて中にはいる。血の上を踏みつけないように、慎重に。

そして教室の奥まで行って、状況を把握した。

少女が机の足の間に逃げ込むようにして、倒れ込んでいた。

自分の状態を察して、この部屋まで逃げ込んだのだろう。今のところ、少女は完全に動きを止めている。

そうしてそれに寄り添うようにして、別の少女がいる。彼女には外傷は見当たらない。

少女の死を悼んでいるのか、悲しんでいるのか。どちらにせよそのかんばせが涙でぬれているのに違いはなかった。

だが聡子の推測が正しければ、それさえも危険なことに代わりはない。明里は教室のドアの片方が施錠されているのを確認してから、再び少女を見た。


「ち、違うんですこれは。みよちゃんは……」

一人の少女が、少女の遺体をかばうように手を広げる。

だが、周囲の眼差しは冷たく、乾いていた。

「これ、さっきの先生達と同じだ」

誰かがぼそりと呟いた。少女たちは半歩体を下げる。

動かないのは、みよと呼ばれた少女と、その眼前にいる女生徒だけだ。


「離れなさい。危ないから」


明里は出来るだけやさしい声色で少女に語りかける。だが緊張でこわばった舌でそれが成功したのかは、怪しかった。少なくとも死んだ少女の友人らしい女生徒は、動こうとはしなかった。

「違う、違うんです。みよちゃんは、みよちゃんは……」

「とにかく、ここからでて、話を聞かせて。彼女は……」

少女の遺体が、ピクリと動いた。

「……!!!」

机の下に入り込んでいた頭部が動き、机を揺らしながら起こされていく。

髪で顔は見えない。ただぽたぽたと顎先から伝わっていく血の滴が、ゆかに染みを作っていく。

机の足から抜け出し、少女は―――少女だったものは、へたり込んだような体勢になる。


時が止まったようだった。少なくとも明里の足は竦んで動けなくなっていたし、他の女生徒もそうだった。

「み、みよちゃん?」

ただ少女に寄り添っていた女生徒だけが、膝をついたままその顔に手を伸ばそうとする。



まるでそれが契機だったかのように、その女子生徒は―――死んでいるはずの彼女は、ゆっくりと顔をあげた。

そしてみよちゃんと呼ばれた少女がその口を開けて―――

「駄目!」

少女が体をひっぱられたのと、その手に向かって噛かれようとしたのは、ほぼのこと同時だった。



とっさの判断で少女を引き寄せたのは、結果としては最善だった。飛びかかってきた少女が、地面に芋虫のように這うのをみて、明里は思った。

無造作にたらされた前髪の間から覗いた視線には、理性の光は残っていなかった。虚ろで、意思の見えない眼。正常な人間が宿しようがない光が、その中に湛えられていた。


「いや……いやあぁぁアぁ!!!」

抱きかかえられた少女が、叫ぶ。


間違いない。


彼女は感染している。


「あ……ああ!?……」

恐怖で声が出ない。助けを求めようにも、周囲の人間も呆然としている。

その変貌を改めて目の当たりにして、驚かないはずがない。

「ひっ」

少女が必死に体をよじりながら、みよちゃんと呼ばれた少女から離れようとする。

「これが……感染……」

誰かの呟きが、脳の奥に届く。

自分は今、正体不明の感染者となった相手と対峙しているのだ。


だが、背後に下がろうとしたその足が、がくんとする。

血だまりでぬれた床に滑った。感染者と距離が一メートルもない状態で。

痛む尻を撫でる余裕もなく、必死にはいつくばったまま明里は下がろうとする。


その間にもゆらりと感染者は立ち上がり、どこか首が据わっていないかのような様子で、こちらを向いた。

少女が唸り声をあげながら、再び口を開けた。唾液と血液を垂らしながら、綺麗に生えそろった歯が血でぬめる。

咄嗟に近くにあった机の足をつかむ。そうして机を少女の体の上に倒れこませるようにして、間に挟む。

衝撃。

机に正面からぶつかってきた感染者は、しかし全くひるむことなく面を起こした。

自らぶつかってきた机への衝撃せいか、目玉が真っ赤になって陥没している。

「ああぁぁぁああ!!!」

明里の体からするりと抜け出し、少女は逃げ出そうとする。

駄目だ。背中を見せた少女めがけて、感染者は猛犬を思わせる勢いで飛びかかってきた。

思わず明里は前に出て、相手を押さえようとする。


だがそれは叶わなかった。


すさまじい腕力だった。

明里はそのまま押し倒される様にして、感染者に組みふせられる。

獲物を前にした野生そのままに、口元から明里の胸元へ、唾液と血液をまき散らしながら牙をむく。

血みどろになった歯を口からこぼしながらこちらを見据える。

それは逃れられない死のイメージそのままに、明里を捉えて離そうとしなかった。

明里の脳裏が、絶望で覆われる。


食われる。

喰われる。

クワレル。


徐々に迫ってくる牙が、明里の首筋につき立てられようとした瞬間。


「どけ」

少女達の壁が一瞬途切れて、一つの影が飛び出してきたのは、そんなときだった。



それが何なのか、明里が視認する前に、不意に体にのしかかっていた重圧が消えた。

過呼吸気味だった肺に必死に酸素を送り込みながら、明里は事態の把握に努める。

闖入者がのしかかってきた感染者を蹴りあげくれた。その綺麗に伸びた足から胸へと視線を走らせ、その少女の正体を見る。

「……」

少女―――橘夕たちばなゆうは明里に一瞥をくれると、手に持っていたそれを、腰だめに構えた。

槍。両手で構えられたそれは、モップの柄に包丁を括りつけただけのもの。

ちゃちなつくり。だが間違いなく、殺傷能力を有した簡易的な武器だった。

橘は、よろよろと立ちあがる少女に一気に駆け寄り、腹部にそれを突き刺した。

「うおおおおおお!!!」

容赦などない。烈火のごとく気迫を挙げながら、そのまま相手を窓際まで押しつける。そうして体が圧力から逃れられないようにしてから、再び柄に力を込めて、刃先をねじる上げる。

「―――!!!」

だくだくと飛び散る血流は、見ているものに激痛を想起させるのに十分だった。外野の少女達から、悲鳴のような声が挙がる。

だがやられた当人は身をよじりながらも、未だその動きを止める様子を見せはしなかった。臓器が傷つけられているのは間違いない。常人であれば意識を保つことさえ難しいであろう激痛が襲う状況で、それでも体をよじる。

血みどろの少女のそれは苦痛から逃れるためというよりは、むしろ動けない状態を解消するためといったように、どこか緩慢な動作で体の向きを変えていく。

そうして斜めに橘を捉えた状態で、彼女に向かって手を伸ばそうとする。

横腹に刺さっているせいで手は橘に届かない。だが橘が刃先の角度を細かく調整しているのを見ても、予断を許さないのは間違いない。

しかしそれよりも問題なのは、感染者がモップの柄をつかんだことだ。

果たしてどうするつもりかと思いきや、柄がミシリと嫌な音ををたてた。

柄にひびが入っていた。少女の細腕からは信じられない力で、へし折られる。

感染した人間の腕力は、尋常ではない。それを理解している明里は、事態が悪い方向に向かっていることを理解した。そして状況を打破する何かを探して、周囲を見回す。そしてそれを捉えた。

「そこの赤いの!渡して!」

声を挙げた先、傍観していた少女達もようやく硬直から解けて、あわあわと明里が指さしたそれを持ち上げる。

じれったい。明里は血だらけになった制服そのままに立ち上がり、少女に駆け寄る。そうして少女からその赤い円筒形の者をひったくるようにして、胸元に抱える。

「頭を下げて!」

安全ピンを抜きながら、二人の近くに明里は駆け戻った。

此方の動きを理解した橘が頭を下げ眼を閉じた瞬間、消火器のノズルから白い薬剤が発射される。

。だが顔面めがけて吐き出される圧力には流石に抗えないらしく、のけぞる様な形で窓にもたれかかった。

今のうちに離れて、と言おうとした杉村は、眼の前で何かが割れる音を聞いた。片目を開けて、感染者の方へ目を遣る。

「ああああ!!!」

橘が、相手の腰にしがみついていた。自殺行為だ!

だがそれは勘違いだった。噴射液の勢いが減ってきたのを見計らったかのように、橘は腰を浮かして、相手の体を持ち上げた。

まさか、と思う間もない。橘は少女の体を開いた窓枠にひっかける。そうして感染者の足が空めがけて伸ばされ、そのままその体重を逆さまに向かうようにした。


そうして、白い煙が飛び交う中で、感染者は、窓から落ちて行った。


時が止まったかのように、明里には思えた。


橘が息を荒くしながら、へたり込む。


少女達はおびえながら、体を寄せ合う。


ただ、目の前で起こったという光景と、耳に確かに飛び込んできた鈍い音が、その不在を明らかにしていた。


最初に動き出したのは、やはり明里だった。

一歩一歩を、確かめるように歩きだし、冬の風が飛び込む窓へと近づく。


地面に頭から打ちつけられれば、ただで済むはずがない

しかし、という不吉な枕詞をのどの奥に抱えながら、おそるおそる明かりは窓の外を見下ろした。


はたしてそこにあったのはーーー


脳天から大地にたたきつけられ、脳髄と血液をぶちまけながら地面を赤く染めた、少女の物言わぬ遺体だった。



死。


眼の前で繰り広げられた間違いのない事象に対し、明里の頭の中がぐるぐると回る。

今更なにを、と醒めた目で明かりは少女を見つめる。先ほどのしかかられて、蹴りを放ったのは誰だ。誰のおかげで、自分は命を取り留めた。

でも、殺した。だからなんだ。でも、人殺しだ。だからなんだってんだ。

この羊みたいな連中のように、黙ってみていりゃよかったのか。

そんな凶暴な思考が鎌首をもたげてくるのを、頭を回して振り払う。

落ち着け、私。

「怪我は?」

すでに立ち上がり、服装を直していた橘が、そう尋ねる。先ほどの取っ組み合いで見せた激情は嘘のように消え去り、冷静沈着な少女の顔がそこにあった。

なんでもなかったかのように。そんなはずはない。だが、それでも彼女はその顔でいられた。

一瞬明里は彼女の胸にすがりつき、泣き出したい感情に駆られた。だが、それを今するべきではないとい

う決断を、これまで作られてきた彼女自身はした。大丈夫、と手を挙げながら明里は答えるにとどめた。

彼女はあたりを見回しながら、何かを言おうとした。

おそらくはその場の空気を取り繕う何かを。


しかしその思考は、再び耳に飛び込んできた音に、かき消された。

「非常口から、誰かが!」

廊下の奥で、誰かが叫ぶ。


明里は思わず橘の方へ視線をやる。彼女は教室の後ろの掃除ロッカーへと向かっていた。そこからモップを取り出し、此方に放ってきた。明里がそれを受け取ったのを確認すると、物言わぬ羊の群れの方へ無機質な視線を送った。

「手を貸してくれる人、いますか」



三人のモップを構えた少女たちをつき添えて、明里は橘と廊下の端まで来た。

「杉ちゃん、無事だったか」

上の階から聡子と浜形も来てくれた。浜形はわざわざ抱えてきたのか、ロッカーから四本ほど橘のと同じ作りの槍を取り出した。

「ありがとう。貴方の……分は?」

武器を受け取った明里がそう尋ねると、浜形はそのまま抱えているロッカーの腹をバンバンと叩いた。

どうやら、これが彼女の武器らしい。

なんとも頼もしい人間がいてくれたものだ。明里は苦笑しながら、廊下の端まで向かった。


非常口の前に開けた空間を作りながら、少女たちが身を縮こまらせている。

見張っていてくれたのか、同じように箒を構えている少女が、震える声で云った。

「な、なにかどなり声も聞こえたん、気がしたんですけど」

ドアが激しく殴打されている。ノブが何度も荒々しく回され、ガチャガチャと悲鳴を上げる。


明里たちは息を殺し、橘と目配せする。彼女はスッと一歩を踏み出し、半身を引くようにしながら左手をドアノブに伸ばした。浜形はロッカーを、それ以外の少女が槍を構えているのを見て、橘は頷いた。そうしてドアノブを回し、開いた。


「待って!!」


中に飛び込んできた少女が、叫んだ。

前髪をヘアピンで留めた、幼くかわいらしい女生徒。

明里たちはため息をつきながら、武器を下ろす。

だが少女は安堵した風を見せなかった。

息も絶え絶えに、彼女は―――木仲絵美きなかえみは少女達を見上げて、声を上げた。


「助けて下さい!ひよちゃんを……友達を」



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