『再構築』
夫の長期間にわたる浮気が発覚したとき、彼女は、すべてが終わったと思った。
けれど、離婚するつもりはなかった。
もう一度やり直したかった。
夫が浮気相手と過ごしていた時間を知れば知るほど、胸の奥はズタズタになった。
それでも、結婚生活そのものを捨てる決心まではつかなかった。
「環境を変えれば、何か変わるかもしれない」
そう思った。
二人が新婚当時に買った家には、もう住み続けたくなかった。
そこに浮気の事実が染みついているような気がしたからだ。
夫がそこで浮気をしたわけではない。
それでも、夫が家に帰らず、別の女の家で半同棲のような生活をしていた。
その事実を知ってしまった今、幸せだったはずの家に戻るたび、自分だけが取り残されたような気持ちになった。
だから、引っ越すことにした。
新しい家。
新しい生活。
もう一度、夫婦としてやり直すために。
彼女は、まだ夫の心を取り戻せると思っていた。
いや、そう思いたかった。
ところが、人生はさらに彼女を追い詰めた。
引っ越しの準備を始めた頃、彼女の母親が倒れた。
突然だった。
家族の生活は一気に変わった。
母の代わりに実家のことをしなければならない。
そして、母が倒れたことで、何もできない父を一人にすることもできなくなった。
結局、父と同居することになった。
「今は仕方ない」
彼女は自分にそう言い聞かせた。
夫婦の再構築。
引っ越し。
母の介護。
父との同居。
全部を抱えながら、それでも彼女は夫婦を続けようとした。
けれど、夫の心は、彼女が思っていた場所には戻らなかった。
彼女は必死だった。
夫の心を取り戻そうとした。
家族を守ろうとした。
壊れたものを修復しようとした。
でも、夫の中では、もっと前から何かが終わっていたのかもしれない。
浮気が発覚したから夫の心が離れていったのではなかった。
浮気が発覚するずっと前から、夫の心は少しずつ家庭から離れていのだ。
彼女がそれに気づいたときには、もう追いつけないところまで行ってしまっていた。
そしてある日、夫は離婚を望むようになった。
彼女は思った。
「私は、何のためにここまで頑張ったんだろう」
浮気をされても、夫婦を続けようとした。
家を変えた。
家族の事情も背負った。
母が倒れれば支え、父との同居も受け入れた。
それでも、夫の心は私のもとには戻ってこなかった。
彼女は最後まで、失わないように両手を広げていた。
けれど、夫の心は、その手の隙間から、こぼれ落ちていった。
離婚の日。
彼女は、ようやく理解した。
再構築というのは、一人ではできない。
どれだけ自分が頑張っても、相手が同じ方向を向いていなければ、夫婦という形は残せない。
彼女は夫を取り戻せなかった。
家も、変わった。
家族の形も、変わった。
そして、自分自身も変わった。
ただ一つだけ、彼女には分かったことがある。
あの頃、夫の心を取り戻そうとして必死になっていた自分は、決して誰かに負けたわけではない。
最後まで、この家庭を守ろうとしたのだ。
だからもう、自分を責めるのはやめようと思った。
夫の心を取り戻せなかった女ではなく、
何が起きても、最後まで夫婦でいようとした女として。
彼女は、夫のいない新しい人生へゆっくりと歩き出した。




