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 あの後のことを、少しお話ししましょう。


 大勢の前でカーリー殿下を罵倒することになってしまいましたので、メルジール王国がどんな態度に出るか、わたくしは内心ひやひやしておりました。しかし特に何事もなく、関係は以前のまま。没交渉だった時代に戻っただけでございました。


「だって、何も正式な文書にしてないし。文句を言いたくたって、証拠がないよ。それに、あちらは立憲君主制の国だ。国王一家の一存でやらかしたのが広まれば、一番困るのは彼ら自身だよ」


 リュシアン様は、そうおっしゃいます。


 一方、ベイカ帝国との関係は、年を追うごとにますます強まっております。ベイカと共同で開発している鉄鉱山。それが軌道に乗り、ブールの発展に大きく寄与し始めているのです。


「もともと、ブールの山で鉄鉱脈が見つかったことが、はじまりだったんだ」


 鉄鉱石は、鉄の原料。とても重要で、どこでも採れるものではございません。当然ですが、鉱脈の発見は厳重に秘匿されました。


 問題は、当時のブールには精錬の技術や設備がないことでした。


「それで私たちが国の外に出て、知識を学ぶことになったんだ。ブールで仕事をしてくれそうな、専門家も探さなきゃならなかったし。あちこち旅しているうちに、どういうわけかベイカの第四皇子と仲良くなったんだ。彼が帝国が技術供与するから、一緒に鉱山を開発しようと提案してくれたんだよ」


 その当時、メルジールはベイカと縁組の交渉を進めておりました。ベイカの宮廷に出入りしている間に、メルジールは鉱山の話を知ったのでしょう。


 自分たちの好敵手ともいえるベイカが、新しい鉄鉱脈を手に入れる。それはメルジールからすれば、愉快な知らせでなかったことは想像できます。


「ベイカに新しい鉄の供給源を渡したくない。できれば自分たちが欲しい。そういう欲が出たんじゃないかな」


 でも、ベイカとことを構えるのも嫌だ。自分たちの手を汚さずに、この話を潰してしまえないだろうか。


「メルジールの前王は小利口な策士だと第四皇子が言っていた。ベイカは彼が画策したのだと思っているよ」

「ではカーリー殿下は、メルジール前王の意図に従って動いていただけですの?」

「たぶん彼女は何も知らないよ。自分勝手に夢想していて、それがちょうどよかったから利用されたんだ」


 大国との縁を結ぶチャンスがあったなら。小さく貧しい国は、この好機を絶対にものにしたいと考えるはず。メルジール前王は、きっとそのように考えたのでしょう。本当は別の縁談が進んでいるなんて、ブールは知らないのですから、カーリー殿下の本物の婚約者になるべく動きを見せるだろうと考えるのは、不自然ではありません。


 メルジールとしては、内心ではブールと本当に縁を結ぶつもりはなかったでしょう。でも、ブールが縁組に乗り気になれば、ベイカとの間に一石を投じる結果になったはずです。


「ベイカからすれば、恩恵を与えようとしている小さな国が、皇子の花嫁候補を奪い取ろうとしたことになる。面子が丸つぶれだ。ブールの印象は、確実に悪くなるよね。そうなったらベイカは鉱山開発から手を引くかもしれない。あるいは条件を厳しくして、ブールの反感を買うかもしれない。そうなれば、メルジールが介入する余地が生まれる。そこまでいかなくても、二国の間がぎくしゃくすればメルジールにとって当面は満足だ」

「カーリー殿下がもう少し違った性格の姫君でしたら、ブールはうまく手玉に取られていたかもしれませんね」


 カーリー殿下が一体何に固執し、夢見ておられたのかは分かりません。ただ、あの方は周囲などお構いなしで、本当に自分の思惑通りに世界が動くと、考えていらっしゃったように感じます。


 …だから、メルジール前王はカーリー殿下に計画を話すのをやめたのかもしれませんね。


 そのカーリー殿下が今どうしておられるのか。わたくしにはわかりません。しかしお輿入れの話も伝わってまいりませんから、きっとまだメルジールの王宮にいらっしゃるのでしょう。


 …まあ、ベイカ宮廷詩人作の()()詩。今でも巷で大人気らしいですからね。顔をお見せになりたくない気持ちも分かります。メルジール国王も、対応に苦慮していらっしゃるご様子ですし。


「第四皇子の恋人は、ちょっと身分が低い令嬢だったんだ。それで婚約を反対されてた。でもブールの鉄を優先的に入手できるようになったのは、彼の功績だ。それを引っ提げて、婚約を認めさせたんだよ。メルジール前王の失敗は、私と第四皇子が個人的に親しい友人だということを、見逃していたことだと思う」


 前王殿下も、どうしておられるのでしょうね。あの後も、あちこちの国にちょっかいを出されていたようですが、それが明るみに出てしまいました。議会の追及で、メルジール王家の皆様も大変なようです。


 ベイカの第四皇子殿下は、あのご令嬢とご結婚後に臣に下られました。いまはブールに近い領地を治めておられます。家族ぐるみでお付き合いのある、良き隣人です。


 いちど、あの夜会の日にカーリー殿下とお話しになっていたことの意味を、元皇子殿下にお伺いしたことがございます。すると元殿下は、とてもきれいな笑みを浮かべてこうおっしゃいました。


「気にすることはないよ。ちゃんと目の前の現実を認めて、地に足を付けて自分の人生を生きなさい、という話だ」


 結局のところ、そのお言葉からもあの会話の意味は分かりませんでした。でもそれはきっと、わたくしが知る必要がない。そういうことだからなのでしょう。わたくしはそう結論付けて、そのことは忘れることにいたしました。


 アルフォンス様が、わたくしの顔を見ておっしゃいます。


「ルー、明日は忙しくなるよ。今日はもう休もう」


 その通りでございます。明日はわたくしたちの可愛い息子の誕生日。きっと昨年のように、お祝いの使者が大勢いらっしゃることでしょう。


 寝室へ向かう途中で、アルフォンス様がふと私の顔を覗き込まれました。


「あの子にも、そろそろどこかから縁談が持ち込まれそうだね。おかしな話が舞い込まなければいいけれど」


 それなら心配ございません。わたくしは、えへんと胸を反らしました。


「大丈夫でございます。そんな使者が来やがりましたら、わたくしが悪役王妃としてしっかりお相手いたしますもの!」


これにて完結です。

お読みいただきありがとうございました。

誤字報告もありがとうございます!


このあと登場人物紹介を追加いたします。

もしよろしければ、そちらもご覧ください。

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