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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

『水止めの巫女』は、婚約破棄されたあげく国外追放されたので隣国で幸せに暮らします

掲載日:2025/08/03

咲江光寺 水音(さきえこうじ みずね)! お前との婚約は破棄する!」


大和神楽(やまとかぐら)の王太子、(まこと)様の声が謁見の間に響き渡った。

隣には、紫流院(しりゅういん)家の巫女、 阿久愛(あくあ)が勝ち誇ったように微笑んでいる。

私の心臓は、まるで滝の水が一斉に流れ落ちるように、激しく脈打った。


(まこと)様……?」


やっと絞り出した声は、ひどく震えていた。

誠様は私を見ようともせず、ただ冷たい言葉を続ける。


「根暗なそなたは、もはや必要ない。水止めの儀は、阿久愛でも事足りるからな」


阿久愛は誠様の腕にすがりつき、私を嘲笑うかのように顔を上げた。


「ええ、誠様のおっしゃる通りですわ。私の力でも、天水の滝なら問題なく止められますもの。あなたのように、半日も部屋の中に閉じこもって遊んでいる巫女とはわけが違いますのよ」

「それは……」

「なにをしているのか知りませんが、ぶつぶつと念仏を唱えて気持ち悪い。あなたのような怠け者はこの国にはもう不要なのです」


部屋に閉じこもって唱えているのは後輩の育成を兼ねた修練の一環なのだけれど……。

彼女の言葉に、私は何も言い返すことができなかった。

私は古より『水止めの巫女』として、代々聖職に勤めてきた。

この国には天から降り注ぐ百八つの滝があった。

雲の上から降り注ぐ天水の量を調整し、国を守るのが私たち巫女の役目だ。

一日で百八つもの滝の水量を調整できるのは、私しかいないと信じていたのに……。

誠様は、私に背を向けたまま言い放った。


「咲江光寺家は国外追放とする。この国は紫流院(しりゅういん)家の巫女がいれば事足りるのだ。よって、咲江光寺家は二度とこの大和神楽の地を踏むことは許さぬ」


あまりにも突然の出来事に、私の頭は真っ白になった。

こ、国外追放……?

生まれたときから、この大和神楽の国で生きてきたのに。

父と母は、ただ黙って頭を垂れている。

紫流院家は、古くからの名家だが、水止めの力としては私たちの家系に遠く及ばないはずだった。

私は気を持ち直して声を振り絞った。


「誠様。婚約破棄は受け入れます。ですが、国外追放されてはこの国の『水止めの儀』がままなりません」

「なにを言うのだ。ここにいる 阿久愛(あくあ)ならば水止めの儀は容易だ」


阿久愛(あくあ)は紫色の瞳を細めた。


「ふふふ。この国は紫流院家が守りますわ」


ふと、王太子が私に言っていた言葉を思い出す。


『水音……。そなたは美しい。心の底から湧いてくるこの熱情は真実の愛なのだ』


あの言葉はなんだったのだろうか……。

私の疑問を払拭するように、誠様は 阿久愛(あくあ)の頭を撫でた。


「私は気がついてしまったのだ。真実の愛にな」


もう、彼に私を想う気持ちはないのだろう。

しかし、私はこの国を愛している。

生まれ故郷。大和神楽の国を……。


「誠様。どうか、私を使ってください。 阿久愛(あくあ)様のお手伝いができれば、水止めの儀式は問題ないかと」

「しつこい女だな。私をたぶらかした罪は重いのだぞ。国外追放で済むのは(われ)の温情なのだ」

「た、たぶらかし……」


阿久愛(あくあ)はニンマリと笑う。


「さっさと国を去った方が身のためよ。でないと、あなたのような家柄の女を、誠様に薦めた『福の(きみ)』を斬首刑にするから」


福の君はとても優しい女性だ。

彼女を巻き込むわけにはいかない。きっと、両親もわかってくれるだろう。

その日のうちに、私たちは大和神楽の国を追われることとなった。



  *  *  *



大和神楽の国。

王政を担うその宮殿は高台にある。

阿久愛(あくあ)は誠によりかかった。


「天から降り注ぐ、百八つの滝……。いつ見ても美しいですわぁ」

「ふっ。そなたの方が美しいよ」

「まぁ……。誠様ったら……。うふふ」


二人は熱い抱擁を交わす。

阿久愛(あくあ)は美しい景観を眺めながらニヤリと微笑んだ。


「めざわりな 咲江光寺(さきえこうじ)家がいなくなって気分が晴れやかですわ。天使三部の分際で王太子様をたぶらかすとは不届き千万」


天使三部とは巫女の階級のことである。

階級は一部から五部まであり、 阿久愛(あくあ)は一部の巫女だった。


「王太子には公家である紫流院(しりゅういん)家の血が必要なのです。天使一部の巫女が、王太子の妃としてお似合いなのですわ。誠様もそう思いませんこと?」

「天水の量さえ調整ができれば巫女の階級などは関係ないさ」

「まぁ、現金なお人」

「それだけじゃないさ 阿久愛(あくあ)。君には美貌がある。私は真実の愛に気がついてしまったのだ」


二人は再び抱き合った。

そんな時だ。

ふくよかな体型をした中年の女性が二人の前に現れた。


「誠様! どうして水音様を!?」


彼女は王太子の蔵人(くろうど)(秘書)を務める福井丸 椿。愛称は『福の君』である。


「おまえはクビだ。この国を出ていけ。さもなくば首を斬る」

「ど、どうかお考えくださいまし!」

「ならん。天使三部の女など紹介しおって」

「私はこの国の未来を想って……」

「おまえのお節介には胸焼けがする。出ていけ」

「水音様が王太子妃になって、見習い巫女を育成すればこの国はよりよい発展が見込めるのでございます」

「それがお節介だというのだ! 水音がおらずとも 阿久愛(あくあ)でこと足りる。それにおまえもいらん。クビだ!」

「ま、誠様の蔵人(くろうど)は誰がお務めになるのですか!?」

阿久愛(あくあ)がやってくれるよ。彼女は私の妻になる女だからね」

「そんな……………」


福の君は、その日のうちに国を出ることとなる。



  *  *  *



私は父と母を連れて旅に出ることになった。

屋敷を売り払ったものの、馬車を用意し、従者に退職金を払うとお金は無くなってしまう。

従者を雇う資金がないので、馬車の御者を家族間で代わり番子に進めることになった。

数日後。父が高熱を出して倒れ、そのまた数日後に母も病に倒れた。

そんな時だ。


「河童が来るぞ!!」


河辺では、大勢の武士たちが数百匹の河童と戦っていた。

河童は水を操る邪悪な(あやかし)だ。

人を襲い、その魂を食う。

河童は天水の量が多いと川に湧いてしまう。

栄養のある大地に雑草が生えるように。滝の水量を調整できなければ、川に邪悪な河童が生まれるのだ。

天水の恵みは人間にだけ恩恵をもたらすものではない。

ゆえに、私たち『水止めの巫女』が必要とされていた。


武士たちは苦戦していた。

河童の吐く『水の矢』は硬い鎧も貫いてしまう。

大勢の武士が怪我をして倒れる。このままいけば負けてしまうだろう。

そんな時。一人だけ、勇猛果敢に戦っている武士が目についた。

部下に指示を出し、鼓舞する様子から、あの部隊を束ねる総大将だと思われる。

そんな彼も傷だらけで、河童の攻撃から部下を庇うのが精一杯の様子だった。

河童は川の水を操って大きな水流を発生させた。

あの波に飲まれればあの部隊は一溜りもないだろう。


「あぶない!」


と、私は手を前に出して、河童の出した大波を止めていた。

総大将は驚いて私を見つめる。


「水止めの力か……」


流浪の身で、出しゃばるのは気が引けますが捨ておけません。


「私が河童の水を止めますから」

「かたじけない!」


武士たちは総大将の雄叫びで再び活気を取り戻す。

劣勢だった戦況も次第に優勢に傾き出した。

私は全ての水攻撃を止めた。

数百という水の矢も、大きな水の波攻撃さえも。

すべてピタリと止めてしまう。


そうして、武士たちが河童を殲滅し、戦いに勝利するのだった。


総大将が私のところにやってくる。


「ありがとう。そなたのおかげで助かった」

「出しゃばったことをしてしまい。もうしわけありません」

「いやいや! 本当に助かった! そなたは命の恩人だ。私は 常和(とわ)の国の 常和ノ神(とわのかみ)  実火月(みかづき)。そなたの名を教えてくれぬか?」

咲江光寺 水音(さきえこうじ みずね)と申します。今は流浪の身」

「流浪?」


話すと長い。

私のことより彼の額から流れる血の方が気になってしまう。


「馬車に傷薬がありますゆえ。とってまいります」


私は総大将の傷を手当てした。

他の武士の傷の治療も手伝う。

一通り処置が終わると安心する。


「では、私はこれで……」

「待ってくれ水音殿。さきほど聞いた流浪の話。私が力になれるかもしれない」


実火月(みかづき)様が、どうしてもというので、恥ずかしながら身の上話をすることにした。


「なんと!? 国外追放されたのか!? それは酷い!」


実火月(みかづき)様は大層同情されて、馬車の籠に寝込む両親の心配までしてくれた。


「水音殿。どうか私の国に来てほしい」


彼は国王のご子息。 常和(とわ)の国の王太子だった。



  *  *  *



数日後、私たちは隣国の常和の国にたどり着いた。

ここも、大和神楽の国と同じように天からの滝の水によって国が成り立っている。

しかも、 実火月(みかづき)様の話では、二百八もの滝があるという。

高台から眺めれば、雲から落ちる二百八個もの滝が見える。

その美しい景観たるや、大和神楽と同等……。いやそれ以上の感動があった。


実火月(みかづき)様の計らいで、立派な屋敷を与えていただき、その上、数人の従者までつけていただいた。

しかも、両親の病気の面倒までみていただく。高価な薬をもらい、高明なお医者様に診ていただけることになった。

そんなこともあって、私の両親は日に日に元気になった。

こんな流浪の家族を暖かく迎え入れてくれるなんて、 実火月(みかづき)様は本当に慈悲深いお方だ。


常和の国では、滝の数が多いゆえに、水止めの巫女が複数人必要だという。

巫女不足ゆえに、天水の量が増え、川に河童が繁殖していた。

悩んでいた彼らにとって、私の能力はまさに渡りに船だったようだ。

私は、新たな生活に不安を抱きながらも、常和の国での巫女の務めを引き受けることにした。


常和の国でも巫女を天使階級で分けており、その基準は大和神楽と同じだった。


「天使三部ですか……」


と、巫女を束ねる女神官は目を細めた。

彼女は神殿の窓から見える二百八の滝に目をやった。


「ごらんのとおり、この国は滝の数が多いのです。しかも、水量も多い。天使一部でも十個の水止めが精一杯でしょう。三部となるとどれほどの仕事ができるのか……」


神官は巫女不足に悩んでいるようだ。

王室に嘆願書は出しているものの、河童の駆除に追われる情勢では巫女の補充に気が回らないらしい。

私がどれだけ力になれるかわかりませんが、精一杯やってみましょう。


私についた従者は 獣族(けものぞく)の二人だった。

一人は、狐の耳と尻尾を持った少女、狐子。

もう一人は、猫の耳と尻尾を持った少女、猫美だ。

二人とも十二歳で、私のことを『様付け』で継承してくれる。

私より年下なのだけれど、生まれも育ちもこの常和の国というので、私よりもこの国のことには詳しかった。

しかも、巫女の従者をするのは十歳の頃からやっているらしい。

荷物を持ったり、道案内をしたりと、大変に頼もしい存在である。


「かけまくも〜〜かしこき。天つ滝水を司りたまう〜〜。天雲の神々の大前に〜〜。かしこみかしこみ──」


これは儀式を始める前の祝詞。

一つの滝につき一回。水を止める前には必ずすることになっている。

お昼を食べて、しばらく経ってからのこと。


「すごいコン! もう二十個の滝を止めちゃったコン!」


と、狐子はフワフワの尻尾をピィインとおっ立てて飛び上がった。

うーーん……。この国は、滝と滝との距離がありすぎて時間がかかりますね。


「水音様すごいニャァ……。(あーし)はこんなにも滝の水を止めた巫女様を見たのは初めてニャァ」


お世辞がうまい子たちです。

大和神楽では一日に百八つの滝を止めたこともありましたからね。

今はたった二十個。

これでは、助けていただいた 実火月(みかづき)様に顔向けができません。


「よし。儀式を飛ばしましょう」


水止めの儀は神聖なので、必ず天雲の神々に感謝を捧げる祝詞を読むのですが、それだと数が熟せません。

国が滅べば天雲の神々に捧げる貢物もできなくなります。そうなれば悲しむのは神々でしょう。

少し失礼ではありますが、


「今後、祝詞は一回目だけの儀式のみとします」


私がそう決心すると、狐子は不思議そうに首を傾けた。


「祝詞なんてみんなあげてませんよ?」

「え……? そうなんですか?」

「この国の巫女にそんな余裕はないんですコン」


ああ……。みんな神事が忙しすぎて儀式を飛ばしていたんですね。

私たちは滝の前に立った。

ドババババーーーーッ! と凄まじい量の天水が流れている。


「では…………………。ハッ!」


ピタァアアアアア……。


よし。これで明日までは水が動かないでしょう。

こうやって国の水没を防ぐんですね。


「では、次の滝に参りましょう」

「早いコン!」

「は、早すぎるニャァアッ!!」


うん?


「なにか問題でもあるのですか?」

「びっくりしてるコン! 普通の巫女様が祝詞を飛ばしても数十分から数時間かかるコン!」

「それでは日が暮れてしまいますよ」


今日だけでも五十個は止めないと、水量が増えすぎて河童が湧いてしまいますからね。


四十七個の滝を止めたところで日は沈もうとしていた。

夕空を見上げて狐子は眉を寄せる。


「ああ、残り三個だけどもう無理ですコン」

「いえ。そんなことはありませんよ。あそこに三個の滝が並んで見えるではありませんか」

「あそこまで行くのに十五分はかかるコン。もう日が暮れちゃうコンよ」

「じゃあ、ここからやってみましょう」

「え……!? そ、そんなことできるわけ……」


私は精神を三つの滝に向けて集中した。


んーーーーーーーーーーーーーーーーー。



「ハッ!」



ピタァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……!


「できたコォオオオオオンッ!」

「三つの滝が一気に止まったニャァアアアッ!!」


うん。目標達成です。



  *  *  *



大和神楽では 阿久愛(あくあ)が水止めの儀式を行っていた。

彼女は額に汗を流し、七つの滝の水を止めたところで一息ついた。


「今日はこれくらいでいいわね」


すると、水量を計算していた従者が言う。


阿久愛(あくあ)様。もうそろそろ、水止めの水量を増やしませんと、河童が湧いてしまいますよ」

「わかったわ。じゃあ、あと一つくらい止めればいいわね」

「いえ……。あと、三十は必要かと」

「え……………?」

「日に日に天水の水量が増しております。今日だけでも三十は必要です」


阿久愛(あくあ)は全身から汗をかいた。


「む、無茶言わないでよ! 天使一部の巫女でも十個の滝が止めれれば十分なんだから!」

「そう言われましても……。外界に落ちる水量が増えているのは事実でございます」

「どうしてそうなるのよ!?」

「咲江光寺家の水音様が、この国を出る際に百八つの滝に術式を施しておられまして……」

「水音が? 余計なことを! 天使三部の分際で!」

「水音様が昇級されなかったのは公家の許可が出なかったからですよ。あの方の実力は間違いなく天使一部。ですが、一部になるには公家の推薦が必要ですからね」


天水の水量は田畑に大きく影響した。

土地の所有者にとっては利権につながる問題である。

よって、公家(貴族)たちは自分の土地に有利になるように巫女の昇級を操っていたのだ。


「咲江光寺 水音。どこまでも目障りな女……」

「目障りだなんてとんでもない! あのお方のお陰で 阿久愛(あくあ)様の仕事量が減っていたのですよ」

「なんですって!?」

「水音様は大和神楽を愛しておられました。彼女がこの国を出る時、多大なる力を使って水止めをしていただいていたのです。ですが、その術式が切れ初めました。よって、従来の水止めの状態に戻ろうとしているのでございます」


阿久愛(あくあ)は汗を飛散させる。


「じゅ、従来って……?」

「一日、四十個の滝の水を止めることです」

「四十ぅうううううううううううううううう!?」


その従者は以前に水音の下で働いていたことがあった。

ゆえに、数にいたっては平然と答える。


「それだけではありません。明日には五十の水止めが必要になります。しかも、来月からは雨季に入りますからね。そうなれば百八つ、全ての滝を水止めすることだって必要になってくるのです」

「あわわわわ……」

「では、次の滝にまいりましょう」


夕暮れ時。

十二個の滝の水を止めた 阿久愛(あくあ)は目を回して倒れていた。


「はぁ……はぁ……。む、無理よ……。もう無理……」


(限界を越えてしまった。一週間は力を使えないわ……)


翌日。

阿久愛(あくあ)は国内にいる全ての巫女を集めた。


「みんなで力を合わせるのよ!」


従者に言う。


「さぁ、日程表を作りなさい。みんなで代わりばんこで水止めをするのです」

「それは『福の君』がやっておりました。巫女たちの力を把握していたのは彼女です。私にはできません」

「じゃあ、『福の君』を呼んできなさいよ!」

「か、彼女は国外追放されましたよ……」

「う………!」


阿久愛(あくあ)は仕方なく巫女たちの日程表を作成することとなる。

しかし、巫女たちの力は厄介で、一日の水止めの儀を行うと数日間の休日が必要だった。

変則的な予定を組む難しさと、巫女の人数。天水の水量計算は複雑だった。

しかも、どう考えても、止める滝の数と巫女の人数が不足していたのだ。

阿久愛(あくあ)は仕方なく、見習いの巫女まで駆り出して日程表に組み込んだ。


数日後。

謁見の間に兵士の声が響く。


「河童が大量発生しております!」


王室は河童の対応に追われることとなる。


日々、数が増える河童に、王太子は疲弊していた。

阿久愛(あくあ)を謁見の間に呼び出して怒鳴りつける。


「どういうことなのだ!? 水止めはどうなっている!?」

「巫女の数が圧倒的に足らないのです!! 見習い巫女では使い物になりません!!」

「どうして後輩の育成をしなかったのだ!?」

「そ、それは水音が……」


と、言いかけて口を閉じる。

水音は後輩育成のために修練場を建てる計画をしていた。

部屋にこもって呪文を唱えていたかったのは後輩たちの育成である。


誠は頭を抱えた。

国内の水量は増え、水害による田畑の被害。

そして、河童の強襲である。

大和神楽は滅亡の危機に陥っていた。


「連れ戻せ」

「え……?」

「おまえが水音を探してこの国に戻してやるのだ!」

「で、できません! そんなみっともない! 王太子の名誉にも関わります!」

「私の名誉など関係ないさ。これは人助けだ」

「人助け?」

「流浪の巫女を招き入れる国がどこにある?」


阿久愛(あくあ)は「ふはっ!」と笑みを見せる。


「神聖な水止めの儀に、流浪の巫女を使うはずがありませんものね!」

「そういうことだ。大方、隣国の周辺で乞食か娼婦にでもなって飢えを凌いでいるだろうよ」


二人はニタニタと笑うのだった。



  *  *  *



ある日の午後。

水止めの儀を八十個済ませたところで、私は帰ることにした。

そんな時、王太子の宮殿に隣国の怪我人が運ばれたというので訪問する。

部屋の布団にはふくよかな中年の女性が寝ていた。


「ああ! 福の君! どうして!?」


福の君は私と目が合うなり涙を流して喜んだ。


「ああ、お嬢様! ご無事でしたか!!」


聞けば、河童に襲われているのを 実火月(みかづき)様が助けてくれたという。

彼女も国を追われたらしく、国境付近で生活していたようだ。

しかし、解せません。


「この国の水量は順調に調整されています。河童が湧くことはないと思うですが……」

「大和神楽の天水です。国内で溢れた水が国境付近に流れ込み、河童を増やしているのです」


水止めの儀……上手くいっていないのか……。

そこへ 実火月(みかづき)様が福の君の様子を見に来られる。

彼は、私たちが親しくしているのに目を瞬いた。


「二人は知り合いだったのか」

「彼女は福井丸 椿。大和神楽、王太子の蔵人(くろうど)をやっておりました」

「では、彼女も水音殿と同様に?」

「はい……。王太子の采配によって追放されたのでございます」


私は両手をついて頭を下げて感謝の念を述べた。


「福の君を助けていただき、誠にありがとうございます」

「ゆきずりの縁。気にしないでくれ」


実火月(みかづき)様は底なしに優しいお方だ。

素性の知れぬ福の君を助けてしまうなんて……。

周囲の部下たちも彼を慕っている。

私の存在が 実火月(みかづき)様の迷惑にならないか心配だ。


「水音殿。少し二人で歩かないか?」

「はい」


ちょうどいい。私も伝えたいことがあったのだ。


そこは真っ赤なツツジが満開の庭だった。

滝の水飛沫が霧状になって日差しを反射してキラキラと輝く。


「水音殿……。この国はどうだ?」

「とても美しく、素敵な場所です」

「なにか困っていることはないか?」

「皆様、とても親切にしてくれております」

「そうか……」


と、 実火月(みかづき)様はほっとしたように笑う。


「神官より水音殿の噂は聞いている。一日に八十もの滝の水を止めてしまうそうだな」

「天水の水量を調整せねば河童が湧いてしまいますゆえ……。ご迷惑でしたでしょうか?」

「とんでもない。とても助かっている。お陰でこの国に河童は湧かなくなった。田畑の水量や水産業も安定している。全て水音殿が水止めの儀を担ってくれているからだよ」


よかった……。迷惑じゃない……。

大和神楽では公家の利権で必ず問題になっていた。

『全ての民に最良なこと』は公家にとっては迷惑なのだ。

水害が出れば民が困る。公家の力の見せどころ。巫女の力を使って国を操る。

それが大和神楽だった。

福の君は、私に権力を持たせて国を平和にしようとしていたのだけれど……。

そんな彼女も追放されてしまった。

善良な行いはバカを見る。それが現実なのかもしれない。

常和の国にも公家がいる。利権は必ずあるだろう。

私がいると、実火月様にご迷惑をおかけするかもしれないのだ。


「最近……。父と母の具合がよくなりまして……」

「それはなによりだ」

「これも 実火月(みかづき)様のお陰でございます」

「気にするな。命を助けてもらったのは私なのだ。ご両親の面倒を見るのは当然のこと。そなたは気を遣いすぎる」


優しい人……。だからこそ、甘えてはいけない。


「そろそろ、この国を出ようと思います」

「なぜだ? どこか行く宛があるのか?」

「…………」


私が黙ると、 実火月(みかづき)様はツヅジの匂いを嗅いでから空を見上げた。


「水音殿……。私には夢がある」

「夢……ですか?」

「笑わないで聞いてほしい」


彼は少し頬を赤く染める。



「この国に住む、全ての民を幸せにするのが、私の夢なのだ」



私にはわかる。

彼がなぜ照れているのか。

崇高な理想は公家に笑われる。

大和神楽の会議を思い出す──。


『そんなに水を止めては漁師と農民の生活が潤ってしまうではないか』

『いいではありませんか。それが私の望みです』

『ハハハ! なにを甘いことを。北の滝の水止めは一週間放っておいていただこう』

『そ、そんなことをすれば川には水が溢れ、船は出せず不漁になり、田畑は水害で農作物がダメになってしまいます!』

『ハハハハ! それでいいのさ。領民を上手く飼い慣らすのも公家の役目よ』

『か、飼い慣らす……』

『ハハハハハ!』


会議室には公家たちの笑いがこだました。

──嫌な記憶。

きっと、 実火月(みかづき)様も私と同じ経験を経てきた人間なのだろう。

だから、そこに照れがあるのだ。


深く共感することはできない。

私は、福の君と共に何度も苦い経験をしてきた。

民の幸せを願えば、必ず公家が動く。

水止めの儀には必ず利権が絡むのだ。

だから……共感はできない。

でも……。


「素敵な夢ですね……。甘い夢」


実火月(みかづき)様は優しく微笑んだ。


「水音殿……。君はどうだ?」


私は少しだけ笑った。


「はい。甘い夢は好きです」


そう言うと、彼は満面の笑みを見せた。

同時に私の手を握る。


「水音殿。この国にいてくれ。どうか、私の力になってほしい」

「…………………ご迷惑では?」


彼の握る力は少し増した。


「そなたは気を遣いすぎだ。もっと、私に甘えてくれ」


本当に優しい人。

心の透き通った純粋な方だ。

でも、その分……なんだか危なっかしい。

善良な想いは必ず利用される。

彼のそばにいて、彼を守ることが恩返しになるのかもしれない。


私はこの国に残ることにした。


常和の国での生活は、大和神楽の国とはまるで違った。

神官をはじめ、宮殿の従者たちは私を『様付け』で敬称し労ってくれる。


「水音様、お疲れさまでございます!」

「水音様のおかげで、今日も水害から免れました!  ありがとうございます!」

「水音様のおかげで河童が湧かなくなり申した!」


ここでは、誰もが私を温かく迎え入れてくれた。

私の力は心から感謝され、尊敬されている。

大和神楽では「根暗」と蔑まれてきた私だが、ここでは「聡明」だと褒められた。


実火月様は、ことあるごとに私に会いにきた。

彼とは会話がなくても居心地がいい。

ただ、ツツジの咲く庭を歩くだけという日もあった。

目と目があえば、自然と笑みがこぼれる。

友達、とはこういうものなのだろうか?

私たちはそんな関係になっていた。


常和の国はいい。今や、本当の生まれ故郷のような、そんな不思議な感覚にさえなっている。

滝の水の量を調整する仕事は、大和神楽よりも大変だったが、私の力はここでは十分に通用した。

たった一人で百もの滝の水を止めてしまう私を、常和の国の人々は「奇跡の巫女」と呼んでくれた。



  *  *  *



ある日、私宛に手紙が届いた。

それは私の身を案じて戻ってくるようにと、温情が書かれたものだった。

私は何不自由なく幸せに暮らしているので、丁寧にお断りの手紙を書くこととする。

最近、大和神楽の近隣に河童が沸いているのが気になっていた。

そのことも書いておこう。

国の情勢を案じております、と丁寧に末尾に書いた。



  *  *  *



数日後。

水音の書いた手紙は 阿久愛(あくあ)に届く。

彼女はプルプルと震えた。


「な、なんですってぇえええええええええ!? この恩知らずがぁあああ!」


阿久愛(あくあ)は手紙をクシャクシャにして何度も踏みつける。


「恩知らず! 恩知らず!!」


と、そんなところに従者がやってくる。


阿久愛(あくあ)様! 国内の水が溢れかえっております! 水止めをやっていただきませんと国が滅びます!」

「わ、私は昨日にやりましたわ! 数日休みませんと力が出ないのよ! 水止めは他の巫女にやらせなさい!」

「他の巫女も力が尽きて動けません!」

「み、巫女見習いを駆り出しなさい!」

「見習いでは、とても実力が足りません! 見習いの育成に尽力していた水音様がいなくなって満足に育っていないのです!!」


阿久愛(あくあ)は全身から汗を流した。


「ば、馬車を出しなさい!!」

「どこに行かれるのですか!?」

「隣国の常和よ!」


(こうなったら無理やりにでも連れ帰ってやるわ! 彼女は大和神楽に育てられた温情があるのよ! 国の一大事に力を貸さないなんて、そんなバチ当たりなことがある!?)


馬車は籠付きの豪華な物を選んだ。

隣国までは数日かかる。その準備は必要なのだ。

彼女が馬車に乗り込もうとすると、そこに誠がやってきた。


阿久愛(あくあ)! どこに行くのだ!?」

「水音を連れ戻しに参るのです!」

「そんなことは後回しだ! おまえは河童の駆除を手伝え!」

「なにを言って──」


阿久愛(あくあ)は全身の血の気が引く。

誠の後ろには河童の大群が押し寄せていたのだ。


「河童の攻撃を止めろぉおお!」


誠が叫んだ時には遅かった。

彼の腹には青い矢が突き刺さる。それは河童が吐いた水の矢だった。


「ぐふぅうう!! あ、 阿久愛(あくあ)ぁあああッ!!」

「で、できませんわ! 連日の水止めの儀式で力が出ませんもの!!」


誠は吐血しながらも 阿久愛(あくあ)にしがみついた。


「貴様ぁああ! 話が違うぞぉおおお!!」

「わ、私は精一杯やりましたわ! あとはあなたの手腕でしょう!」

「ふざけるな! 貴様ができるというから信じたのだ! 水を止めろぉおおお!!」

「で、できないと言っているのです!」

「公家の誇りはどうしたぁああああ!? 貴様は天使一部だろうがぁああああ!!」

「できないものはできません! お、お離しください! 河童が来ます!」


誠の背中に水の矢が刺さる。


「ぐはっ!」

「きゃぁあッ!!」

「あ、 阿久愛(あくあ)……。た、助けてくれ……」

「む、無理です! 私にはできません!!」

「ば、馬車に乗せてくれ……」


阿久愛(あくあ)は考えた。


(こんな重い体を引きずって馬車に乗せている間に河童に襲われてしまうわ)


「ごめんなさい!!」


阿久愛(あくあ)は誠を突き飛ばした。

すかさず馬車籠に乗り込み御者に言う。


「出して!」

「い、いいんですかい!?」

「い、いいから!! 早く!!」


馬車から背後を振り返ると、誠の体に群がる河童の山が見える。

河童たちの隙間からわずかに見えるのは誠の手だった。


「た、助け……て……」


それが最期の言葉であった。


馬車の中では 阿久愛(あくあ)がブルブルと震えていた。


「ああ、誠様……。私たちの愛は永遠ですわ。あなたが私を助けてくれたことは一生涯忘れません」


そして、混乱する思考を整理した。


(この国はおしまいよ。もう、水音を連れ戻すのはやめだわ。亡命しなくちゃ。隣国の常和なら温かく迎えてくれるはず! 身分の低い家柄の水音を受け入れたのだから、公家の出である私なら好待遇で迎え入れてくれるわね。ふふふ。もしかしたら、好機かもね。災い転じて福となす。なんてね)


などとほくそ笑む 阿久愛(あくあ)

ふと、馬車が止まっていることに気が付いた。


「ちょっと! 馬車が止まってるじゃない! なにをしているのよ!」


と、馬車籠の中から顔を覗かせて叱咤する。

しかし、御者の様子がおかしい。

その肌は緑色をしており、じっとりと湿っていたのだ。


「え……!? ちょ、ちょっと……。馬車……。だ、出しなさいよ……」


御者が振り返ると、河童だった。

亀のようなくちばしをクワァっと開けると鋭い牙が無数に生えていた。

彼女が驚いて身を引いた瞬間。大勢の河童が馬車籠の中に入ってくる。

阿久愛(あくあ)の四肢は河童にかじられて流血した。



「ぎゃあああああああああああああああッ!!」




  *  *  *



私が 実火月(みかづき)様と散歩をしている時。

常和の国の国境警備隊から、緊急の知らせが入った。


「大変です! 大和神楽の国で、河童が大量発生しております!!」


私は息をのむ。

やはり、水止めが上手くいってなかったんだ……。

私は気がかりでならなかった。


「水音殿……。大和神楽が心配か?」

「はい……」

「王太子は君との婚約を破棄し、国外追放にまで追いやった男だ。そんな者を助ける義理がどこにある?」

「ですが……。あの国には大勢の民が暮らしているのです」


私は走り出した。

誠様には迷惑をかけられない。

私が行こう。少しでもなにかの役に立つのなら……。


そんな時だ。

背後から高らかなヒヅメの音がする。

その馬は私の横につく。

乗っていたのは 実火月(みかづき)様だった。

彼は私の方へ手を差し出した。


「水音殿。私も協力しよう」

「ありがとうございます!」


私は彼の手を取った。

すると、片手だけで簡単に私を持ち上げて、ひょいっと自分の前に乗せてしまう。

私は少し嬉しくなった。


実火月(みかづき)様も大和神楽の民が心配なのですね」


彼は以前に夢を語っていた。

大勢の人間を幸せにしたいと。

だから、私の気持ちに賛同してくれたのだ。

そう思っていたのだけれど……。



「私は……。そなたの手伝いをしたいだけさ」



どういう意味なのだろう?

意味はわからなかったけれど、彼の体は屈強で、そんな体に包み込まれていることが、なんだかとても頼もしかった。


実火月(みかづき)様は国内の全兵力を大和神楽に向かわせた。

大和神楽は水没状態。河童で溢れかえっている。

実火月(みかづき)様は河童の討伐。

私は滝の水止めをする。

時には、水止めの能力を使って河童の水攻撃を止めることもした。


戦いは日をまたぐ。

三日目の日が登った頃。河童の討伐は完了した。

国内の水は引き、異常事態は去った。

実火月(みかづき)様は部下の報告を受けて難しい表情を見せる。


「宮殿は壊滅状態だ。天帝を含め、王太子……。公家たちも河童に食われてしまった」


上級の巫女たちは宮殿に通っていたから、 阿久愛(あくあ)も……。

実火月(みかづき)様の兵たちによって避難していた大和神楽の民は数十万人におよぶ。

私は傷の手当てに顔を出した。


「あんれ!? 水音様でねーーか!」

「国外追放されたって聞いたべよ」

「どして水音様がこげなところにいんだ?」

「わぁあ! 水音様だぁあああ!!」


民はわらわらと、私の周囲に集まった。

その中には巫女見習いたちがいて、私を見るなり抱きついてくる。


「水音様ぁあああ! 来てくれたのですね!」

「すみません。もっと早く気がつけばよかったのですが……」

「いいえ! すべて王太子が悪いのです!! ああ、でも戻って来てくれてよかったぁ……」


巫女見習いたちは口をそろえて民たちに呼びかける。


「水音様がこの国を救ってくださったのです! あれだけの天水を止めるのは水音様しかできません!!」


いや……。河童を討伐したのは 実火月(みかづき)様なのですが……。


「あ、あの……、ち、違いますよ」


私が誤解を解こうとするも時すでに遅し。

民たちは私を絶賛して胴上げを始める。


「水音様、ありがとう!」

「めでてぇな! めでてぇな! 水音様のお帰りだ!」

「ありがてぇ! 水音様万歳だ!」

「わーーっしょい! わーーっしょい!!」


神輿と勘違いされてます!

私が困った顔をしていると 実火月(みかづき)様はニヤニヤしながらこちらを眺めていた。

止めてくれたっていいのに。

んもぅ……意地悪!



  *  *  *



大和神楽の復興は常和の国が援助することになった。

常和の国が吸収してしまっても良さそうなものだけれど、わずかに残っている公家や、民の母国を想う気持ちを尊重したという。

本当に 実火月(みかづき)様は優しいお方だ。


私と 実火月(みかづき)様は紫陽花が咲く庭を散歩していた。

滝が水飛沫を舞う。それは紫陽花の花をキラキラと照らした。


「お嬢様ぁああ!」


と、大声を出して走ってくるのは福の君だった。


「驚きましたよ。修練道場の建設が決まって、その管理責任者に私が選ばれたのですよ」

「それは良かったですね。福の君の念願が叶いました」

「もちろん、指導者にはお嬢様も入っていただきますからね」


私は、以前から見習い巫女たちを育成する修練道場を作りたいと思っていたのだけれど、その願いを聞き入れてくれたのはここにいる 実火月(みかづき)様だ。

彼は国外追放された福の君を引き取り、色々と面倒を見てくれている。彼女が管理責任者になれたのも 実火月(みかづき)様の計らいだろう。


「水音殿……。ふと不思議に思ったのだが。福の君が、君のことを『お嬢様』と呼ぶのはなぜなんだい?」

「そういえば私も知りません。私の家系は 半家(はんけ)の家柄で、福の君よりずいぶんと下の身分なのですが……」


ちょうどいいから聞いてみましょう。


「福の君。どうして私をお嬢様と呼ぶのですか?」

「そんなのは決まっております。お嬢様の力が、国を救うことになるからですよ。家柄もあって、『姫様』と呼ぶわけにはまいりませんから、『お嬢様』と呼んでいるのですよ」


そう言うと、そのふくよかな女性は、まるで子供のように無邪気に片目をつぶった。


「事実。救ったでしょ?」


福の君は深々と頭を下げて去っていく。

私たちがあっけにとられていると、 実火月(みかづき)様は笑った。


「ははは! 彼女は慧眼の持ち主だな」

「け、慧眼とは大袈裟な……」

「公家の家柄は身分で人を測るが、福の君は水音様の『力』と『心』こそが真の(たか)さだと知っていた。だから、身分を超越した敬意を込めて『お嬢様』と呼んでいたのだな」


なんだか恥ずかしい。


「私は……。そんな大それた人物ではありません」

「そなたは謙遜しすぎだ」

「謙遜ではありません。事実の提示です。そもそも、大和神楽の河童の討伐は 実火月(みかづき)様がやったわけで……」

「なにをブツブツと言うておる」


彼は私の手を握った。


「あっちにクサイチゴがなっているのだ。食べに行こう」


と、ぐいぐいと引っ張る。


「あ、ちょっと……」


実火月(みかづき)様。あなたは少し子供っぽい。


宮殿の高台から見える二百八個の滝は、今日も美しく水飛沫をあげていた。





おしまい。




読んでくださりありがとうございました。

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>「めざわりな 咲江光寺さきえこうじ家がいなくなって気分が晴れやかですわ。天使三部の分際で王太子様をかどわかすとは不届き千万」 かどわかすじゃなくてたぶらかすではないでしょうか? いつ誘拐したのかと…
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