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第7章 裏社会の女帝

 あの「幸運のL」ことラッキーを異世界から追い出して数日後。

 俺は自由都市トレイドの安宿の一室で、次なるターゲットについてミーアから情報を受けていた。


「それで、次のDランク能力者はどんな奴なんだ?  今度もトレイドにいるのか?」

 

 俺がベッドに腰掛けながら尋ねると、ミーアはいつものように俺の近くで、小さな巻物を広げながら真剣な顔つきで答えた。


「はいです!  わたしの『天眼』によりますと、次なる要注意人物は、このトレイドの裏社会に巣食う情報屋……通称『全てお見通しのマダム』と呼ばれる女性です!」

「全てお見通しのマダム、ね。大層な名前だが、能力は?」


 ミーアはゴクリと唾を飲み込み、少し声を潜めて続ける。

 

「彼女のチート能力は『透視』……。物理的な遮蔽物をほとんど無視して、隠された物品はもちろん、人の秘密すら見抜いてしまうと言われています。その力で黒市場の情報を牛耳り、逆らう者は秘密を暴かれて破滅させられる……まさに裏社会の女帝ですね!」

 

「透視、か。厄介な能力だな。物理的な罠や隠密行動は、ほとんど意味をなさない可能性が高い」

 

 俺は腕を組み、思考を巡らせる。


「わたしの『天眼』でも、彼女の住処の内部を詳しく見るのは難しいみたいでして……。強い魔力による結界か、あるいは彼女自身の透視能力が干渉してくるのか……とにかく、情報が霞んでしまって、正確な位置や弱点までは……」


 しょんぼりと肩を落とすミーア。

 どうやら、女神様の「天眼」も万能ではないらしい。

 まあ、それくらいでないと、俺の出番がなくなっちまうがな。


「まあ、いい。大まかな情報と居場所が分かれば十分だ。あとは俺のやり方でいく」

 

 俺は立ち上がり、黒市場へと向かう準備を始めた。

 まずは、その「全てお見通しのマダム」とやらがどれほどのものか、この目で確かめる必要がある。


 ◇

 

 トレイドの表通りから一歩裏路地に入ると、そこは昼間だというのに薄暗く、湿った空気が漂っていた。

 怪しげな露店が軒を連ね、見るからにカタギじゃない連中が、鋭い目つきで俺のような新顔を品定めするように睨んでくる。


 鉄と血の匂いが混じったような、独特の空気が鼻をついた。


(なるほどな。表の華やかさとは大違いだ。こういう場所で生き抜くには、情報と力、そして何より『秘密』が重要になるわけか)


 すれ違う人々は皆、何かに怯えるように周囲を警戒し、早足で目的の店へと消えていく。

 俺がそれとなく、近くの酒場で一杯ひっかけながら聞き込みをしてみると、マダムに関する噂は出るわ出るわ。

 

「マダムに目をつけられたら終わりだ。どんな隠し事も白日の下に晒され、社会的に抹殺される」

「この黒市場でマダムの『眼』から逃れられる者はいない。彼女は全てを知っている」

「一度マダムに弱みを握られたら、一生奴隷同然さ」

 

 恐怖と諦めが入り混じった、そんな声ばかりだった。


(どんな能力にも、必ず穴はあるはずだ)

 

 俺は、マダムの情報屋の店と思しき、黒市場の中でもひときわ厳重に警備され、いかにも「秘密の匂い」がプンプンする黒塗りの建物を遠巻きに観察する。

 その二階の窓には、常にカーテンが引かれ、中の様子を窺い知ることはできない。

 だが、見えないはずのその窓から、逆にこちらが見られているような、そんな気配すら感じた。


「まずは、マダムがどれだけのものか、少し試させてもらうとしようか」


 俺の口元に、不敵な笑みが浮かぶ。

 さて、どうやってあの「全てお見通しの眼」を欺き、懐に飛び込むか。

 

 まずは、彼女の注意を引くための、とびっきりの「餌」の準備から始めるか。

 それも、ただのガラクタじゃない、本物の「情報」でな。


 ミーアが俺の決意を感じ取ったのか、肩の上で小さなため息をついた。

 

「か、影時様……くれぐれもご無理はなさらないでください……! あのマダム、本当に危険な香りがします……!」

「ああ、分かってるさ。無理はしない。ただ、少しばかり『仕事』がやり辛そうなんでな。きっちり準備運動と洒落込むだけだ」


 俺は闇に紛れ、一度宿へと戻ることにした。

 次なる「仕事」は、一筋縄ではいきそうにない。


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