第5章 電撃戦
ラッキーが新たな「秘宝」を取り巻きに見せびらかし、連中がそれに気を取られて馬鹿騒ぎを始めた、まさにその瞬間――俺は動いた。
事前にチェックしておいた、部屋の天井を飾る巨大なシャンデリア。
その一番太い鎖の一つに、目立たないように極細ワイヤーを引っ掛けておく。
準備は万端だ。
(ショータイムと行こうか)
通気孔から音もなく飛び降り、シャンデリアのワイヤーを掴んで大きくスイングする。
まるでターザンみたいだが、こっちの方がよっぽどスマートで静かだ。
部屋を横断する間、高価そうな壺だの、誰が描いたかも知れない肖像画だのをスレスレでかわしていく。
このスリルがたまらない。
取り巻きの一人が「ん? 何か風が……」なんて間の抜けたことを言っているが、俺の姿はもうそこにはない。
次の瞬間には、ヤツの視界から完全に消え去っている。
ラッキーは、ガラスケースに厳重に収められた先ほどの「月影の鍵」を指さしながら、さらに観衆の注目を集めようと、再びあの派手な「ガチャを回す動き」を始めた。
その大きな身振り手振りが、俺にとっては絶好の的だ。
「さあ、お次はどんなお宝が飛び出すか、刮目して見やがれ!」
ラッキーがそう叫び、派手なエフェクトと共に、今度はヤツの頭上に小さな「天使の輪っか(偽物)」がぽわんと出現し、数秒でシュンと消えた。
「ちっ、またハズレか……だが、次こそ本命だ! 幸運の女神は、俺様に微笑むに決まってる!」
ラッキーがそう言って、さらに集中力を高め、腕を大きく振り上げた、まさにその瞬間――。
俺は、ラッキーがガチャに全集中し、その意識が完全に内側に向いたのを見計らい、隠れていた彫像の影から音もなく飛び出した。
ラッキーが「幸運よ、我に!」と叫びながら、新たなアイテムを出現させるべく、いつものように大きく腕を振り上げた。
その腕が振り下ろされる頂点で、彼の手のひらから眩い光が放たれ、新たな「何か」が実体化しようとしている――その瞬間を、俺は見逃さなかった。
あたりはラッキーの手から放たれた光で満たされており、俺の姿は見えないはずだ。
俺は、ラッキーが腕を振り下ろす軌道を正確に予測。
彼がガチャで何かを「掴み取る」かのように手を空間に突き出す、その一連の動きの終着点を読んでいた。
ラッキーの正面、虚空からまばゆい光と共に、手のひらサイズの「古びた羊皮紙の巻物」がぽとりと出現した。
彼が「おおっ!これはもしや…!」と目を輝かせ、その巻物を掴み取ろうと無防備に手を伸ばした、まさにその瞬間!
もらった!
俺は、まるで床を滑るような低い姿勢から一気に加速。
ラッキーが巻物に気を取られ、完全に油断しきっているその懐へ、影のように忍び寄る。
伸ばした俺の指先が、ラッキーが巻物を掴もうとしているその手首の内側に、まるで蛇が獲物に噛みつくように、しかし羽根が触れるよりも軽いタッチで、確実に触れた。
俺のチート能力『チートスティール』は相手に触れることで、触れた相手のチート能力を奪う!
(お前の『運命の糸』、確かに手繰らせてもらったぜ)
脳内に、チート能力『ガチャマスター』の獲得を告げるシステム音声が響き渡る。
彼が自分の能力に致命的な異常が起きたことに気づくより早く、俺は奪った巻物を懐に滑り込ませると同時に、部屋の反対側にあった大きな窓ガラスを、強化された肘鉄で派手に蹴破る!
バリインッ! というけたたましい破壊音と共に、夜風が部屋に吹き込んでくる。
「な、何奴だ!?」
「曲者だ! 捕まえろ!」
取り巻きや支配人がようやく状況を理解し、騒ぎ始めたが、もう遅い。
俺は窓枠に足をかけ、振り返りもせずに夜の闇へと飛び降りた。
直後に、オークションハウス全体にけたたましい警報の音が鳴り響き始める。
上等だ、もっと派手に騒いでくれ。
その方が、俺にとっては好都合だ。
「さて、最初の仕事は上出来だ」
屋根から屋根へと飛び移りながら、俺は満足げに呟いた。