勇者を目指して
久しぶりの投稿になります。
トップガンマーベリック見てから温めてたやつ
勇者クルズ、魔王討伐!!!!
人類の悲願!成る!
この一大ニュースは瞬く間に国中に広まった。
国中が勇者の偉業で持ちきりだ。
自分の手に渡るまで何度も読み回され手垢が付きまくった新聞は全てが勇者一色。
表紙には王女様を侍らせおねーちゃんの黄色い声援に包まれて凱旋する勇者のイラスト。
俺は決めた。
「王都行ってくる」
「出航までに戻れよ!」
田舎でくすぶってる場合じゃねえ!
俺もビッグになっておねーちゃんを侍らせるんだ!
「つーわけで俺を冒険者にしてくれよ!な!」
家を飛び出した俺は三日走って王都にたどり着いた。
駅馬車を使わなかったのは財布を忘れたからだ。
ついでに通行手形も忘れてたから衛兵に捕まっちまって振り切るのに大分苦労した。
さすが王都の衛兵だ。鍛えてるな。
「おい小僧」
たどり着いた冒険者ギルドの頭、モンシャは鼻の下に生えた筆みたいな髭を撫でながらぎょろりとした目で俺を見た。
「冒険者になるってのがどういうことか分かってんのか?」
「知らん!!!!!」
でも手柄を立てたらおねーちゃんにモテるんだろ?
それだけ知ってれば十分だ。
俺は勇者クルズの記事で埋め尽くされた新聞を見せる。
俺みたいな田舎者が知ってるんだ。
王都の人間がこのことを知らないはずがない。
そして田舎にはおねーちゃんはいない!
「あのな!冒険者ってのは命を張る仕事なんだよ!生きていい目見てるやつなんざほんの一握りだ!大半はどっかの山奥で骨になってるぜ!畑で土いじりするのとは訳が違うんだ!」
「俺の実家は漁師だぜ!船が沈んだら骨も残らねーぜ!」
「え、うん」
「それに駄目だって言われても困るんだ。財布忘れたから帰りの交通費がないし身分証がないから外に出たら衛兵に捕まっちまう」
冒険者になればギルドカードを発行してもらえて身分証として使える、というのは受付のぼろいパンフに書かれてた。
モンシャは困ったように唸ること数秒。
「えー、うーん・・・じゃあ適性検査やるか」
適性検査と言ってもたいしたことはなかった。
凄く簡単な体力測定、走り込みに腕立て腹筋、ちょっとした模擬戦、筆記は何書いてるか分からんかったが全部書いたし何とかなるだろ。
「実家の家業より楽だな」
ギルドの冒険者はみんな目を見開いて無言で俺を見てる。
きっと厳正に審査してくれてるんだろう。
「えー、うん、合格」
適性検査はあっさり合格した。
「よーし小僧!今日はおごりだ!飲みに行くぞ!」
「え!?まじ!?ごちになります!」
「よーし新兵!どんどん食え!」
「うめえ!肉がうめえ!」
「麦酒もあるぞ!」
「苦い!のどごしサイコー!」
「海鮮もどうだ!」
「まずい!」
冒険者御用達酒場『どらねこ亭』で俺は破格のもてなしを受けていた。
ギルド長モンシャと古参冒険者数名のおごりで王都のめちゃうまい肉料理とのどごしがいい酒を飲む。
魚はまずい。
我が世の春だ。
明日にはお客様の時間は終わりなんだろうけど今はこの時間を大切にしよう。
酒に酔った頭に浮かんできたのは昼間俺を追い回していた衛兵だ。
ギルドカードを見せて身分を証明したらすっげー悔しそうに頭をかきむしってた。
「それにしてもこの酒うめーな!おねーちゃんおかわり!」
呼ばれてやってきた店員は浅黒い肌の大柄なおねーちゃんだ。王都では珍しい。俺と同じ出稼ぎ組かな?
「モイラ!麦酒5つ!」
モンシャが注文。
なるほど、モイラか、覚えておこう。
モイラは飲み終わった酒瓶と皿を手際よく下げるとすぐに次の酒を持ってくる。
「あら?モンシャさん、その若い子はどうしたの?」
モイラが俺に気づいた。
「実は今日から冒険者になったんだ!よろしくな!」
俺はモンシャが答える前にモイラに答える。
モイラはしばし不思議そうに目を開閉する。
俺なんかおかしいこと言ったか?
モイラは俺に返事せずモンシャの方を向く。
「あら、モンシャさん良かったじゃない」
「ま、まあな」
なんかモンシャの目が泳いでるな。なんかあったのか?
「最近勇者クルズが有名になって若い子達みんな傭兵団に流れちゃってたものね!」
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「傭兵団?」
なんだそれ。
「そうよ?冒険者ギルドの向かいに大きな屋敷が建ってたでしょ?あそこが傭兵団の本営。勇者クルズが大手柄立てたから国から報奨金出て凄く潤ってるのよ」
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「勇者クルズが手柄立てたらなんで傭兵団が潤うんだ?」
俺の疑問にモイラはすらすらと答える。
「だってクルズ君、傭兵団出身だもの」
直後、俺の後頭部に衝撃が走り俺の意識は闇に落ちていった。
「ったく、潰れるまで飲むとは・・・邪魔したな」
モンシャ以下冒険者ギルドのメンバーは割れた酒瓶の代金を余分に支払うと、衝撃で伸びている新兵を引きずって逃げるように『どらねこ亭』を出た。
モイラが口を滑らせたせいであやうく貴重な人員を失うところだった。
勇者クルズが手柄を立てたせいで今は史上空前の傭兵団ブーム、直前まで花形だった冒険者は日陰者だ。
クルズの野郎、新兵時代にかわいがってやったのに逆恨みして傭兵団に逃げたあげく、手柄を立てるやいなや当てこすりのように本部の対面に傭兵団の拠点を立てやがって。
あいつが余計なことしなければこんな苦労はしなくて済んだんだ。
この新兵は田舎者で冒険者と傭兵の区別が付かないアホだから気づく前に捕まえておく必要があった。
「まあでも、冒険者にはこういうアホでも必要だよな」
古参冒険者の一人が寝ぼけている新兵を引きずりながら笑う。
「頭は悪いが、思い切りがいいし根性もある」
「そうそう」
適性検査はやるまでもなかった。
三日三晩走り続けられる体力、訓練され武装した衛兵を振り切れる胆力。
これだけ取ってみても相当な逸材だ。
筆記が壊滅してたのも気にならないレベルで。
「よーしお前ら、この新兵を逃がすなよ」
end