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しゅんと肩を落としている修平はとりあえず放っておいて(なぜなら傷ついたのは俺の方なはずだから)、確かに腹減ってきたな……と鞄をあさって見つけたのど飴を口の中に放り込む。
糖分とっときゃ、もつだろ。帰りまでには。
もぐもぐと飴をなめてたら、慶太が修平を見上げて手のひらを下に向けて振る。
「ちょいちょい、修平」
怒られたと思っていた修平は、見る間に笑顔になって机の横にしゃがんだ。
「なになに」
うーん、単純。
二人の姿をぼーっと見ていたら、慶太の口から信じられない言葉が飛び出した。
「莉子さん、明日十一時に正門前だって」
「あ、ホント?」
――
思考停止
固まっている俺の目の前で、二人の会話は進んでいく。
「土曜だから学生も少ないし、時間取れるみたい」
「へー、じゃあ学食で昼食べてみたいなぁ」
――え? 莉子?
目を見開いて二人を見ていた俺に、慶太が気付く。
「涼介もいく? 莉子さんの職場」
「は?」
驚いて、それしか答えられなかった。
「涼介帰ってから結構話してさ、メアド交換したんだよね。だいぶ強要したけど。さっきメールしたら、返事くれたんだ」
「……お前等、ナンパしたんか」
「だって、ステキなんだもん。莉子さん」
そのステキは、恋愛感情抜きの腹黒いステキだろう。
思い出し笑いを浮かべながら、どうする? と、首を少し傾げる。
「――行く」
にやりと、慶太に笑いかける。
「人のプライドぎたぎたにしやがって……。あの女、落として振ってやる」
「うーわー、自己中降臨だよ。さいってーね、涼介ってば。悪だ悪」
「いいながら、すげぇ楽しそうなんですけど?」
ぜってぇこいつ、俺がこういうと思ってメアド交換しやがったな。
なんとなく手のひらで転がされている気もしないが、それ以上に俺は自分のプライドを修復する気満々だ!
「涼介、莉子さん苛めたらかわいそうだよ。やめなよー」
机にあごをのせて心配そうに俺を見上げる修平を、目を細めて見る。
「うるせぇよ、修平。俺は俺のプライドの方が大事」
修平は眉をハの字にまげて、納得いかないような表情で俺を見返す。
慶太はそんな修平の頭を軽く叩きながら、仕方ないよ、と溜息をついた。
「顔しか取り柄がないのに、その顔を見てもらえずに制服にしか興味もたれなかったんだから。ホント顔だけなのに、それを凌駕した制服」
あ、眼鏡もね、と呟くと笑いがよみがえってきたのか、おかしそうに肩を震わせてる。
「ま、向こうを落とす前に涼介が落ちないようにね。あー、受験ストレス解消の楽しみができた」
「落ちるか! あんな小動物に!」
かみつかんばかりに慶太を睨み付けたら、修平の言葉が、一気に緊張感をぶった切ってくれました。
「じゃぁ、涼介は小動物にプライドをぎたぎたにされたんだね」
――座っているのをいいことに、かかと落としをかましていいですか?