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女は俺の不穏な空気を悟ったのか、少し慌てたように両手を振った。
「いやいや。三人の中で、一番制服姿が格好良いよ。それだけ着こなせるのは、さすがだよ!」
「そこかよっ! フォローになってねぇっ」
制服限定か!!
俺の突っ込みに、二人+通行人の笑いがヒートアップ(涙
なんだこれ、羞恥プレイか、何かの罰ゲームか!?
それとも、昨日別れた女の呪いか!?
「いいっ! おねーさん、もうホント、ステキすぎ……」
やっと笑いが治まってきたのか、慶太と修平が深呼吸を繰り返しながら立ち直ってきた。
「俺は、慶太くんです。おねーさんは?」
慶太があいていた女の横に腰を降ろして、まだ涙目の顔でにこりと笑う。
女は首を傾げながら、少し考えて口を開いた。
「莉子」
「りこ?」
反対隣に腰を降ろした修平が、ニコニコ笑いながらしゃべりかける。
さながらじゃれ付く、大型犬――
「莉子さん! 俺、修平くん! 莉子さんて学生?」
少し面食らったように修平の方に向くと、首を振った。
「ううん、社会人」
「え? でも、平日の昼間ですよ? どんな会社にお勤めなんです?」
慶太の言葉に莉子は軽く握った右手を口元に当てて、考え込む。
「うーんと、簡単に言うと――大学院で教授の助手をしてる……って感じかな」
「うわっ、頭いいんだ!」
修平の驚く声が、俺の頭を直撃する。
「頭いいくせに、イタイ女かよ」
「涼介、お前もちょっとイタイ奴になってるけど」
くすくすと手で口を隠して笑いを堪える慶太を、睨み付ける。
腕を前で組んでそっぽ向いている俺は、イタイ奴というよりは子供っぽいかもしれない。
――自分の状況を把握したら、余計に恥ずかしさが倍増していたたまれない
「莉子さん、制服好きなんだ」
「うん、制服姿がね。高校生に戻りたいわ~」
両手を胸の前で組んで目をキラキラさせている莉子を、楽しそうに二人は見ていて。
「じゃぁ、俺達もカッコよさ三割り増し中?」
なんで嬉しそうに聞く、修平!
「普段を知らないからあれだけど、格好いいわよ。修平くん」
「ホント?」
だから、嬉しそうに尻尾振るな!
修平の後ろに、でかい尻尾が見える――
そっぽ向いてる俺の前で、楽しそうに談笑してるこいつ等が一纏めにムカついてきた。
「俺、先行くからな」
それだけ言い捨てると、踵を返して歩き出す。
「涼介?」
後ろで、慶太が怪訝そうな声を上げたのが聞こえたけれど、無視。
そのまま歩き去ろうとしていた俺の背に、慶太の声を追うように莉子の声が響く。
「あっ、あの! ホント格好いいと思うから!」
一瞬立ち止まりかけた俺に、追い打ちな言葉。
「制服姿!」
「だから、そこかよ!」
思わず振り返って突っ込みを入れる自分に、呆れた拍手を送りたい(涙
そして続く、宇宙の果てまで走り去りたい、莉子の言葉。
「だから、落ち込んじゃダメよ?」
落ち込む? 何に!?
開いた口がふさがらないというか、あけてみたものの言葉が出てこないというか。
視界に入った慶太と修平の、爆笑寸前の顔が感情を助長する。
「落ち込んでねぇよ!!」
それだけ怒鳴ると、大爆笑が響くその場を駆け足で去った。